LOW IQ 01 撮影=森好弘
2019年の前作『TWENTY ONE』から3年余。ちょうどコロナ禍の苦境を挟んで久々にリリースされるLOW IQ 01のニューアルバム『Adjusted』が凄い。人々の生活を脅かす事柄が次々に巻き起こるこんな時代に、本作は確かな説得力を誇るメッセージと絶大なエネルギーを注ぎ込むだろう。彼は、このアルバムに込められた特別な味わいを「コク」と表現した。長期に及んだ奮闘の時期を潜り抜け、LOW IQ 01はいかにして「コク」を掴み取ったのか。たっぷりと語ってもらった。
──今回のアルバムはコロナ禍を通して、期限を設けずに製作したということなんですが、そこにはどんな意図があったんですか。
ミュージシャンに限らず、仕事としてモノづくりをする人はみんなそうだと思うんですけど、納期というものがあるじゃないですか。今までは、納期を目指して作ってきた音楽人生というのがあったわけです。じゃあ次のアルバムを作って、ツアーをやりましょうか、というふうにだんだん流れが出来上がっていくんですよ。それが、2020年になって世の中がコロナ禍を迎えてしまい、僕は無職になってしまい。
──「無職」なんですね。
そうですよ。僕は事務所に所属していないから、個人でやっているわけで、動いたら動いた、休んだら休みなんですよ。完全歩合制で。だからこれはもう無職だし、休みもいっぱいあるぞ、と思って。今までだったら、ツアーを回ってその間に曲を作ればいいな、と思っていたんだけど、なんかこの空いてしまった時間にいろんなことを整理してみようかな、って。この時間を無駄にしてはいけないな、と思ったんです。ライブができないんだったら、制作期間にしちゃえばいいやって。なぜ期限を設けずに作っていたかというと、自分の中で今までと違う感情、今までと違う音の作品になっていたからなんですよ。
──そのあたりを具体的に教えてください。
これは何かが爆発するんじゃないかな、という予感があったんです。音源を出すってことは、ツアーに出るってことでしょ? 作っていてだんだん手応えを得たときに、ツアーに行けなかったら自分もリスナーもおもしろくないなって。今回のアルバムは、今年の4月ぐらいには出来ていたんだけど、出来た瞬間にリリースするというのが一番フレッシュじゃないですか。でも今回はそういう焦りのような気持ちがなくて、これは大丈夫、逆にちょっと置いて熟成したぐらいの方が丁度いい、みたいな。僕は誕生日が12月なので、ああちょうどいい、ここが一番綺麗だわ、と思って、今に至るわけですけど。
──コロナ禍に入ってから、イチさんはわりと早い時期に配信ライブとかも行っていたじゃないですか。だから、リスナーに音楽を届ける姿勢というのは一貫して持っていたと思うんですけど。
うん。いろんなアーティスト、いろんなバンドがいて、いろんな考え方があるから、できれば配信とかはやりたくないという人もいるんですよ。どっちかと言うと自分もそっちの考え方だし、演奏の粗さとかを画面越しに冷静に観られちゃうんじゃないかという怖さがあったり。そんなふうに思っていたんですけど、ライブが中止になり過ぎちゃって、生存確認だけはしておこうかなって思って(笑)。
──でも、今回のアルバムを聴いて、相当に溜め込んできたものがあるんだな、というのを感じたんですよ。
まあ実際3年かかったし、コロナ禍に入る前に作った曲もあるわけですよ。そういうバランスの中で、積もり積もった思いが出せたと思います。3年って、でかいですよね。2019年に『TWENTY ONE』というアルバムを出したのは、20周年で立ち止まるのが嫌だったからなんだけど、その後に新曲が2曲できて会場限定シングルをリリースした矢先にコロナ禍になってしまって。最終的には通販という形になったんですけど。
──それが「Big Little Lies」と「WHO U R」ですよね。
そう。そんなふうに20周年を越えて21年目を頑張ろうという気持ちだったんですけど、いろんなものが中止になってしまって。金銭的な打撃をくらったりもするわけですよね。気持ちのやり場もなくなったときに、時間はたっぷりあるんだと思って曲を作ったり、楽器を弾いて今までにやったことのない練習をしてみたり。中学生のときにできなかった速弾きをしてみるうちに、ああ、この時間は無駄じゃないな、と思うようになって。そういうサラッとしたプレッシャーのなさが今回のアルバムの良さだと思うし、サラッとしているんだけど深さがあるというか。
──はい。イチさんの音楽のおもしろいところだと思うんですけど、キャッチーな風通しの良さというのは常に持っているじゃないですか。でも、制作段階ではバンドではないから、常に自分と向き合って、自分の中で歌詞やフレーズやサウンドのビジョンを固めていかないといけないわけですよね。
これねえ、自分で言うのも何なんですけど、ちょっと過小評価されすぎなんですよね!
──(笑)。
フレーズの土台は全部自分で作るし、歌詞も書くしボーカルラインも書くし、そこまでやってるのに当たり前のように扱われるんですよね。ベースも入れてギターも入れて、ってやっているわりには、意外とそこに目が向けられていないっていうね。分かる人には分かってもらえるんだけど。でもこれって、好きでやっていることだから。自分のものだから自分でしっかり届けたいし、ライブでは最強のメンバーでやってもらってる。でも実は今回、THE RHYTHM MAKERS+のみんなもそれぞれ違う形で関わってくれてるんですよ。ドラムはDAZE(山﨑聖之)が全部やってくれて、最高のグルーヴを出してくれているし。
──今回のイチさんのテンションにきっちり食らいついていくDAZEさんも、凄いなと思いました。
いやあ、DAZEくんはセンスの塊ですもん。で、ASPARAGUSの変態/天才だと思っている渡邊忍さんは、やっぱり一緒にいると勉強になるんですよね。
──ギターの音作りもすごくカッコいいと思ったんですけど、この辺りはしのっぴさんの活躍ですか?
ああ、そうなんですよ。あと、レコーディングのスタジオやチームも変えてみて、そういうのもあって前とは違って聴こえるかもしれない。制作の最初の段階では、フルカワユタカに宅録でやってもらっていて。そんなふうに、LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS+の4人みんなが関わったアルバムなんです。
──なるほど。『Adjusted』というアルバムタイトルには、今回のイチさんのメッセージの柱になるものが詰まっていると思ったんですけど、このタイトルの意図を教えてもらえますか。
まだコロナ禍は続いていて、足元もぬかるんで完璧な状態ではないじゃないですか。徐々に良い方に向かってきてはいるけど、向かってきているわりに戦争が起きたりとか、負の連鎖が続いていて。ひとつ解決したら今度はこっちかよ、みたいな。ジャケットのアートワークを見てもらうと、森の中に迷い込んじゃってるんですよね。だから、何も解決していないし終わっていないんだけど、こっちはいつでも準備オッケーよ、って。整ってますよこっちは、っていう。特に、歌を歌う人なんてライブがないと劣化しちゃうから、いつでも準備はしておこうかなと思って。
──はい。だから、アジャストしたぞっていうことを言うための3年間だったことが、『Adjusted』という単語ひとつに詰まっていると思ったんです。今、一番言ってもらいたい言葉を的確に表しているというか。
おお……ありがとうございます。
>>次ページ「怒りというか、もう呆れちゃってるんですよね。世の中のいろんなことに」
──一番新しい曲はどれですか。
「Out in Bloom」です。あの曲ができていなかったら、たぶんまだリリースにも至っていないと思います。あれができて、よし行こう!って思ったんですよ。あれがあると無いとでは、大違いでした。
──ですよね。なんか決定的な、反撃の狼煙みたいだなって思いました。
ははははは! 先陣切ってくれますよね。あれが生まれたことによって、納期が決まった(笑)。決意表明ってわけじゃないんですけど、それが音に出たかなって気がします。
──で、こちらも先行配信された「Starting Over feat. the LOW-ATUS」は盟友のお二方を招いた楽曲になりましたが。
コロナ禍でライブが出来なくなって、ミュージシャンはみんな同じスタートラインに立たされたんですよね。そんな中でみんなはどんな動きをしていくか、というところが気になったんですけど、周りのミュージシャンは誰一人として文句を言わなかったんですよ。みんな損害もあったと思うし、痛い思いをしたのに、ネガティブな発言をひとつもしなくて、カッコいいなあって思ったんですよね。で、the LOW-ATUSがまさかのアルバム(2021年の『旅鳥小唄 -SONGBIRDS OF PASSAGE-』)を出すと。しかも、世の中がこうなっている中で、あんなふうに明るい、コミカルなことをやるっていうのがおもしろいなと思って、フィーチャリングをお願いしたんですけど。そうしたら、(細美武士の所属する)ELLEGARDENがレコーディングで忙しくなるなんて俺は知らなくて、そうだったらそうだって言ってよ!って思ったんですけど(笑)。みんな忙しい中によくやってくれたなあ、って。
──そんなお二方と綺麗にハモるっていう、猛獣使い感もおもしろい曲なんですけど、ボーカル録音の現場はどんなムードでしたか。
(笑)。いやあ、ふたりとも流石ですよ。あっという間にレコーディングが済んで、あんまり早く終わっちゃったから酒飲みはじめちゃったし。そこからの方が猛獣だった。
──アルバム全体としては、イチさんらしいミクスチャー感覚も発揮されてバラエティ性豊かな作品になっていますけど、とりわけ冒頭4曲はロックなアタック感が凝縮されていると思いました。そこには何か意図があったんですか。
3年8ヶ月ぶりのアルバムで、今までとはちょっと違う事情があるので、驚いてくれたらいいな、と思いました。何なら、あれ、CD間違えちゃったかな、くらいの。でも期待は裏切らないみたいな。たぶん、曲順を変えただけでアルバムのイメージは変わると思いますよ。これが、僕の中ではベストの曲順です。
──絶妙な並びになってますよね。あと、人懐っこい曲が並んではいるんだけど、実はお気楽な曲がひとつもないな、と思って。
はいはい。コロナ前だったら、LOW IQ 01はそういうイメージがあっても良かったんですよ。なんか陽気なおじさんだね、パーティ野郎だねって思ってくれれば良かったんだけど、なんかこうなってしまった以上、呑気にイェイとは言ってられないなあって。かといって、怒りをどこにぶつけていいのか分からないし、誰かがどうにかしてくれるわけでもない。日本のお偉いさんに言っても、ああ、何もしてくれないんだな、というのが分かったし。ただ待っているだけでは、何も良い方には向かっていかないんだな、って。
──ただ怒りや悲しみを投げかける作品にもなっていないし。やっぱり、イチさんがじっくり自分と向き合って対話している感じがします。
テレビを見ながら、いつも「やめちまえ!」って言ってるんですけどね(笑)。やっぱり、音楽には音楽の力があるし、怒りとかももしかしたら一瞬だけなのかな、と思っちゃう……怒りというか、もう呆れちゃってるんですよね。世の中のいろんなことに。怒ることにも疲れちゃうっていうかさ。そうなっちゃうともう、楽しいことを探す前に生き抜く方法を探さなきゃ、ってなるんですよね。だから、少しでも可能性がある方に進みたいし、この時間は無駄じゃないんだって、ポジティブに考えるようになるんですよね。
──「Ring of Love」という曲にしても、いろいろ諍いが絶えない時代に投げかけるメッセージとして、なんかすごい悩み抜いて出した形跡があります。
なるほど(笑)。言ったらピースだし、そこに辿り着きたい気持ちはあるよね。シンプルに楽しい、ライブでは大盛り上がりしそうな曲なんだけど。いいですね、悩んだ形跡っていうのは。悩んで当たり前だし、弱って当たり前。なかなか会えない時期もありましたけど、みんなと気持ちでスクラムを組めたらいいな、という曲ですね。「Let There Be Music」という曲は政治に対する皮肉でもあって、ここはパンクとして捉えてほしいんですけど、コロナ禍の中でエンターテインメントが雑に扱われる感じがあったんです。あなたたち、音楽に救われたことはないんですか? 俺は音楽に救われてるんだよ、っていう歌なのよ。
──さっき仰っていたように、軽やかでキャッチーだけど深みがある、時間をかけて響くアルバムになったと思います。このしんどい時期を潜り抜けてきた人にこそ刺さるというか。
うん。「コク」っていう言葉をよく使うじゃないですか。コクって、説明が難しいんだけど、意外とその中には苦味が含まれているんじゃないかな。実は苦味があるからコクって生まれるのかな、と思ったりもして。これまで、僕の音楽に苦味はなかったんですよ。苦味って悪いもののように思えるかもしれないけど、ちょっとしたバランスで他が引き立つんだよ、って。この苦味が、コロナ禍の時代を表しているのかな。避けては通れない道なんですよね。綺麗事だけは言ってられないっていう。
──なるほど、まさに。自分で作ったアルバムを、バンドで、ライブで育てていく感覚があると思うんですけど、『Adjusted』は現時点でどんな手応えですか。年明け2月からは全国ツアーも始まります。
7月のワンマンで何曲かはやったんだけど、手応えが凄すぎて。メンバーのグルーヴ感がね。これはもう、今までにない厚みと、パワーと、笑いがあるかなと思いますね。やっぱりTHE RHYTHM MAKERS+のメンバーは凄いんですよ。ツワモノの集まりですね。ぜひ皆さん、一緒に楽しみましょう。
取材・文=小池宏和 撮影=森好弘
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