ayutthaya
ayutthaya 1st Full Album「Lighthouse」Release ONE-MAN LIVE
2022.12.14 渋谷WWW
結成7年、ついに1stフルアルバム『Lighthouse』をリリースしたayutthaya(アユタヤ)が、渋谷WWWでリリースライブを開催した。知る人ぞ知るというと語弊があるが、インディーロック界でそれぞれ長く濃いキャリアを持つ太田美音(Vo&Gt)と右田眞(Ba)のコンビだけに、“わかってらっしゃる”といった雰囲気をまとう人々で会場はしっかり埋まった。音楽関係者というよりも友達、というよりも応援団のようなにぎやかな人もいる。愛されているバンドだということがすぐにわかるいい雰囲気だ。
太田 美音(Vo&Gt)
ウェルカムソングは「ドラマ」。サポートの藤谷真吾(Gt)、吉木諒祐(Dr)、KUDO AIKO(Cho)を加えた5人のバンドが、シンプルなコード進行に乗せてガツンと骨太なロックを奏でる。リズムの緩急をつけながら「そうでもない」「1989」と、人懐っこいきれいなメロディを響かせる。演奏はキャッチーなリフ中心、ループ感あるリズムが踊れるグルーヴを生む。音は相当にラウドでタイトだが、メジャーコードの曲が多いので独特の明るさとほっこり感がある。その中心にいるのがボーカルの太田で、ハスキーでブルージー、パワフルな歌声がラウドなバンドサウンドを突き抜けてまっすぐに届く。ジーンズと黒T、長めの黒髪おかっぱの小柄な体のどこからこんな声が出るのか。ボーカルだけにスポットライトを当てない照明がバンドの一体感を強調する。三拍子の執拗な繰り返しが不思議な高揚感を生む「ランドマーク」がかっこいい。
右田 眞(Ba)
「いっぱい来てくれてありがとうございます。WWWって、こっち側から見ると顔の壁ができるんです。誰がいるか全部わかります。ありがとう、うれしいです」
パワフルな歌とは真逆のギャップが楽しい、太田のゆるいMCと満面の笑顔から、今日のライブをどれだけ楽しみにしていたかがわかる。サポートの馬場庫太郎(Gt)が加わった6人編成で奏でる「月とカラス」「カウントダウン」は、メランコリックなミドルテンポに乗せてミラーボールが美しい光を投げかけ、ゆっくりと明滅するライトが幻想的なムードをさらに高める。一転して「stay」では3本のエレクトリックギターがうなりをあげ、ゴリゴリのシューゲイズサウンドでサイケデリックな非現実感を演出する。いつもニコニコいい人が、だんだんと心の内に秘めた棘や歪みを見せてきたようなドキドキ感。
藤谷真吾
馬場庫太郎
大変だったけど楽しかったよね。MCでは誰もそれしか言ってないざっくりとしたレコーディングエピソードを経て、ミュージックビデオが作られた「I’ll be there」へ。アルバムの中でも出色の明るく伸びやかなメロディを持つパワーポップチューンで、「サビはみんなで歌えたらいいなと思って作った」らしいが、今は声を出せないのがもったいない。それほどライブでの一体感が期待できる曲。「devil」もポップな曲だが、藤谷が派手なアクションでソロを弾いたり、太田がかっこいいギター振り上げポーズをばっちり決めたり、佇まいが実にロック。
吉木諒祐
KUDO AIKO
ライブが折り返し地点を超え、ここから3曲続くスロー/ミドルチューンが実に味わい深い。太田がギターを置いてハンドマイクを握り、6人で奏でる「LIFETIME」「hakka」は、仄暗い照明とダークな質感のバンドサウンドで、ゆらゆらとたゆたうように。右田の弾く強靭なベースラインが肝となり、哀愁を誘うメロディが耳に残る「sweet honey」は、音圧はばりばり出ているのになぜかふんわりと柔らかな聴き心地。そこに太田の凛とした、シュガーレスな歌声が加わって味わいが深まる。なんとも絶妙な音のレシピ。
「WWWでワンマンを予約して、うわー、やべぇ、決めちゃったよ、と思ったけど。やってよかったです。みなさまのおかげです。また来年もよろしくお願いします」
右田の真面目な挨拶が終わると、残すは4曲。リズムギタリストとしても秀逸な太田がガシガシ弾きまくる、明るいグランジチューンといった風情の「BACK」。変則的な五拍子と三拍子の進行がとんでもなくかっこいい「my bad」。どことなくニューウェーブの香りがするリズミックな「GUM」。そして強烈なストロボ光の下で、爆音シューゲイズサウンドが炸裂する「fog」。この日だけのリリースライブならではの特別編成、トリプルギターの6人編成で叩き出す音が空気をビリビリ震わせる。
オルタナティブ、グランジ、パワーポップ、シューゲイズ、ギターロック。纏う衣装は様々だが、ループ感の強い踊れるリズムと美麗なメロディ、何より太田の圧巻ボーカルが全編をたくましく貫く。あとで音源を聴き直す人は、太田が書く歌詞に込めた等身大の恋愛や人生の物語、繊細な散文詩のような描写、後味に残るポジティブなあたたかさなどにもきっと気づくだろう。ayutthayaらしさを見せ切った、充実感あふれるライブ。
メンバーが着ている新しいバンドTがとてもかわいい。そしてせっかくのリリースライブだからと、アンコールはやらないというこれまでの不文律を破って、2曲もやってくれたアンコールがうれしい。あっけらかんと明るいシャッフルビートの「Park」と、がっつり骨太なグルーヴの「ハイブリッド」で、後味は微炭酸のようにすっきり爽やか。「ありがとうございました。またね」。笑顔でステージを去るメンバーに拍手と指笛が鳴りやまない。愛されているバンドだという第一印象が、聴けば聴くほど確信に変わった90分。ayutthaya、とてもいいバンドだ。
取材・文=宮本英夫 撮影=町田千秋
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