写真:大庭元
緒方恵美30周年記念Live「禊2022-NEXT STAGE!-」が12月17日(土)、神田明神ホールにて開催。スペシャルフルコース・ライブと銘打ったライブで緒方は、デビュー以降、全アルバムの中から1曲以上をセレクトした楽曲を30年分の魂と感謝の気持ちを込めて披露。MCではアルバム発売当時の思い出を語り、ハートウォーミングなトークで観客を楽しませた。
冒頭、「時間旅行」「FAR AWAY ~みずいろの鳥~」「HIKIGANEをひけ!」「can’t go back my mission」をノンストップで歌い上げた後に「こんばんは〜!」と客席のファンに呼びかけた緒方は「まだ、(観客のみなさんは)声が出せない状態なので大変ですが、心の悲鳴がいっぱい聞こえてきています!」とニッコリ。
配信で視聴のファンにもカメラ越しに「みんなもありがとう!」と挨拶するとまずは衣装についてコメント。普段はあまり着ないタイプの服としながらも、30周年記念パーティーということで「今日は特別に」とちょっぴり照れた様子。ライブ後にはファンから「王子様みたいだった!」との声が漏れ聞こえていた衣装はシンガーの川村ゆみが手がけたものだと明かし、「ゆみちゃんの愛と、愛を発生する方々の愛に包まれつつお送りします。ここは愛のるつぼだな!」とうれしそうに叫んだ。
写真:大庭元
緒方は、古(いにしえ)、出戻りそして新しいファンの方にも楽しんでもらえるよう、お試し版サイズでメドレーのような構成を挟みつつライブを進行していくと説明。「いろいろな曲に触れてもらいたいです。フルで聴きたくなったら、別の機会にまた足を運んでください(笑)」と茶目っ気たっぷりに語り、1曲目「時間旅行」でステージに姿を見せずにパフォーマンスした理由を「みなさんと私は最初声だけで出会ったんでしょ? そのときの気持ちを思い出していただけるように」と話し、会場は大きな拍手に包まれた。ライブはそれぞれの楽曲について“解説つき”で進めていくとし、「楽しい思い出とともに反芻してもらえれば!」と呼びかけた。
旅を楽しんでほしいという思いを込めて披露されたのは「タイム・リープ」。そして子供の声で歌う「たんぽぽ」、少年声の「正直さの内側」、青年声の「青い宝石の君」と続くこの4曲は、恋愛が育っていく過程が分かるような並べ方をしたとのこと。「正直さの内側」は、「商業ベースで初の作詞作曲。めっちゃ90年代だよね?」としみじみ。
元々作詞作曲は趣味だったというが、当時の緒方は「声優だからCDデビューできた。だから『声優っぽい感じの楽曲に』って思っていた時代で、歌の中でも演技していた。それに疲れちゃったんだよね」と振り返り、「中でも、ひときわ変な曲があります」とゲイの青年を描いた「カミング・アウト」を披露。その後のMCではタイトルにちなみバンドメンバーに一人一つカミングアウトを求める場面も。ちなみに緒方のカミングアウトは「老若男女すべての人を愛せます」であることを満面の笑顔で明かしていた。
写真:大庭元
軽快なトークで盛り上げる緒方に会場が笑顔に包まれる中、次に披露する「建設途中のビルの上から」「”sunrise,sunset”」「ENDLESS LOVE」の楽曲の中から「ENDRESS LOVE」について言及。「自分にとって鎮魂歌のような曲」だとし、この楽曲を披露しているときには、亡くなってしまったファンや仕事仲間がここに集まっているように感じられればと話していた。
2000年代に入り、声優っぽい曲ではなく、自分の本音を注いだ曲を作り始めたという緒方。30代の女性には厄が2回来ることに触れ「厄と関係あるかは分からないけれど、『うえーーっ』と思うことはたくさんありました」と自身の30代を振り返った緒方。そんな気分のときに捻り出した楽曲は「痛い感じのロックが多かったなあ」とニヤニヤ。「緒方さんの痛ロック歴史を味わって!」と呼びかけ、「痛いだけじゃなく、それを乗り越えようとした言葉も歌詞に入れているので、今、なにか『うえーーっ』って思っていることがある人は、励みにして」と“痛ロック”の最たるものと紹介した「砂の城」からスタートし「悪魔のkiss」「hit man」「鏡の国のアリス」までを痛ロックコーナーとしてパフォーマンスした。
写真:大庭元
叫びたいのに叫べない観客の姿に「声出せないのは本当にストレスだね」と話しかけた緒方は「もうちょっとだから、それまでの間(みんなで一緒に)乗り切ろう!」という意味で今だけのコールアンドレスポンスの方法を伝授。地団駄や拍手、サイリウムを使ったリアクションを確認し、「いろいろ使って楽しんで! 動く方が足も楽だよ」と微笑み、「次は跳ばざるを得ない曲」と「Byo-doでいきましょう」を紹介。この楽曲はもともと、その時代の出来事に突っ込む8ビートのパンクロックだったが、時代に応じて歌詞を変えてきたと話し、さらにパーマネントなサポートメンバー・青山英樹のおかげでドラムの音も変わってきたと前置きし、この日は「2022年春ver.」を披露。バンドメンバーも遊び心たっぷりに演奏し、観客と一緒に楽曲を作り上げる楽しさが感じられた。
続いて披露されたのは「silver rain -piano ver.-」「花」「ハッピーの誕生」「My dream=My will.」の4曲。ライブはすべてのアルバムから1曲以上演奏することを公約としていたことが「結構大変だった…」と苦笑いした緒方は、「silver rain -piano ver.-」の思い出としてランティス設立者・井上俊次との出会いに触れる。「井上さんは私にとってのsilver rainです」と話し、(アーティストとして)この場に立っていること、声優を続けられたこと、今の自分があるのは井上のおかげであると感謝の言葉を並べた。また、ライブでは「My dream=My will.」のように歌詞を「僕」から「君」に置き換えて歌う楽曲があるが、すべて作詞家の許可をとった上だと説明。置き換えの理由については、自分に言い含めるのではなく、お客さんに「あなたの夢はあなたが作る」というメッセージをよりダイレクトに伝えるためといい、言葉通り直接響く歌声で熱唱。
この後、「次が最後の曲です」という言葉にファンが地団駄を踏むという、お約束の流れに。一時音楽をやめかけていた自分に声をかけてくれた仲間と作った「silent decide」から、本格的に音楽の世界へ戻してくれた今のバンドメンバーと出会って、共に作り、タイアップ(ダンガンロンパ)にもなったという始まりの曲「再生-rebuild-」から強いメッセージソング「断鎖-break-」を畳み掛けるように歌い上げ、ステージを後にした。
アンコールではライブグッズの「禊2022 ビッグTシャツ」と「禊2022 スリムバスタオル」をあわせてステージに登場。ギター弾き語りで「サンタクロースになりたい」を届け、美声で「Merry Christmas」と囁くという一足早いクリスマスプレゼントにファンはうっとり。ライブのリハは「トライアスロンのようだった」と例えた緒方。「MCなしに続けたら、かなりヘビーで。周年ライブは(いつも)これくらいの尺でやってきたけれど、次は(この尺では)できないかもって思ったけれど…、みんなの顔を見たら完走できました!」と感謝。また自身の30年の活動を振り返り「声優業はやらなきゃいけないことがすごく多い。ビジュアルの仕事も自分の時代が分岐点で、昔ながらの声優の仕事からの大転換で戸惑ったし、大変だった。だから今の若手のみんなの苦しみもわかる。得意でない仕事もしなくてはならないし、本業のアニメだって、3ヶ月ごとに就職活動をする業界でいつも不安定。病む仕事だと思います。自分と戦って勝ち続けられる人間じゃないと残れない」とコメント。そんな業界で自分が30年間続けられてきたのは音楽があったからだと強調し、「音楽の存在に感謝。そして、ファンのみなさんの、全ての仕事仲間のおかげでここに立てています。仕事をいただけるうち、体力の続く限りは続けていきたい」と宣言。配信もひとつの交流の場としながらも、会場でのライブは特別だとし「ライブはエネルギーが交流する場所。空間共有ってすごく大事。アフレコもそう。今はバラバラの収録が当たり前になっているけれど、やっぱりみんなで一緒にアフレコした作品は空気が違うと実感しています」と、一期一会の場での空間共有の大切さを訴えた。
写真:大庭元
さらに、2023年にはソロリーディングプロジェクトや、アニソンカバーのアルバムが発売されることも発表。「30周年は10月まで続くので、まだなんかやりますよ?」と他の周年イベント開催をほのめかしつつ、「freedom」「Try Out,Go On!」「僕を放て」という緒方流「エールロック」の代表曲を力強く熱唱。ボルテージ最高潮の客席にラストで「NEXT STAGE」を届け、「生きて、また笑顔で会いましょう! 次のステージで!」と叫び、スペシャルライブを締めくくった。
取材・文:タナカシノブ 写真:大庭元
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