大原ゆい子
2022.12.17(Sat)大原ゆい子ワンマンライブ「あいうぉんとびーサンタ」@浅草花劇場
『リトルウィッチアカデミア』に『からかい上手の高木さん』、そして『無職転生~異世界行ったら本気だす~』など、さまざまなアニメのタイアップソングを歌ってきた“アニソン界のシンガーソングライター”大原ゆい子。そのワンマンライブ「あいうぉんとびーサンタ」が、2022年12月17日に東京・浅草花劇場にて開催された。
街中がクリスマスムード一色の師走の半ばに開催された今回のライブ。数々の名曲はもちろん、彼女の人柄がにじみ出るような癒し系トークも入り混じったアットホームなステージの模様をレポートしていく。
舞台にはまずバンドメンバーが登場。ベース・蛇石徹、キーボード・あいあい、ドラム・横瀬卓哉、コーラス・逆井寛子、ヴァイオリン・多ヶ谷樹の面々だ。そこへ大原ゆい子が加わり、アコギを肩から下げて、1曲目に「まっすぐ」(TVアニメ『からかい上手の高木さん3』OP)を弾き語りで披露した。観客席とステージの距離も近く、バンドメンバーの楽し気な表情まで目に入ってくる。続けて2曲目には「透明な翼」( TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』2クールED)を歌い、観客のハートをグッとつかんでいく。
2曲を終え、「こんばんはー」とMCが始まる。今回は「あいうぉんとびーサンタ」というライブタイトルだが、開催までの1、2週間の間は“サンタになりたいライブ”と名称を勘違いしていたそう。
3曲目には「はじまりの夏」(劇場版『からかい上手の高木さん』OP)を披露。イントロで波の音も聞こえ、一気に会場を夏の雰囲気へといざなっていく。季節外れにも思えるが、後半の歌詞に「この夏が終わる頃に 思い出はどれほど」とあるように、夏の始まりの曲であると同時に、終わりの曲でもあることも感じさせられた。4曲目にはギターを下ろし、椅子に座って「ハマボウの花」(劇場版『からかい上手の高木さん』挿入歌)を歌い出す。こちらもこの寒い時期に聴くと、過ぎ去った夏を思い出させてくれるようで、また違った趣があった。そして5曲目には雰囲気を変え、「継承の唄」(TVアニメ『無職転生~異世界行ったら本気だす~』第14、15話OP)を歌う。日常からファンタジーの世界へガラッと転換し、ワクワク感が高まっていく。
演奏終わりのMCでは、2022年の振り返りトークを展開。1月からは主題歌を務めたTVアニメ『からかい上手の高木さん3』が公開され、6月には映画の舞台挨拶に登壇、さらには8月に小豆島でコンサートと、思い出を語っていく。しかし「お仕事の楽しい思い出はすぐに思い出せるのに、自分のこと(プライベート)で何があったっけなぁ……」と苦笑し、会場を和ませた。
6曲目には、再び幻想的な楽曲「旅人の唄」(TVアニメ『無職転生~異世界行ったら本気だす~』第3~9話OP)を披露。ケルト音楽を思わせる曲調に合わせてキィ高く歌声を響かせれば、まるで長耳族が歌っているかのようだ。続く7曲目では椅子から立ち上がり、「オンリー」(TVアニメ『無職転生~異世界行ったら本気だす~』第1クールED)を熱唱。こちらもまた同アニメの楽曲で「壊したい 壊してしまいたい 貴方のためなら」など素直な感情を発露するような歌詞には胸が熱くなってくる。そして8曲目には「風と行く道」(TVアニメ『無職転生~異世界行ったら本気だす~』第2クールED)を、遅めのテンポだからこそ力強く伸びやかな歌声で歌い上げて、一連のシリーズ楽曲の締めくくりとした。
続くMCでは、今回は諸事情によりバンマス&ギターの吉田穣が出演できなかったことについて触れ、寂しがる大原。するとベースの蛇石徹がタブレット画面に吉田本人の顔写真を出して見せ、「いました、いた!」と喜ぶ彼女に会場中から拍手が湧く。また浅草の思い出トークとして、大原は21歳のときに「神谷バー」で「デンキブラン」を嗜んだという話も。当時はまさに電気が走るような衝撃を受け「今なら美味しく嗜める気がしなくもない」と言えば、キーボード・あいあいから「(アルコール度数)30°と40°があるから。チェイサーはビールで」とハイレベルな楽しみ方が語られ、それには大原も「チェイサーって水じゃないんですね!」と驚いていた。
ちょうどお酒のトークが披露されたところで、9曲目には「星が眠るまで踊ろうよ」を歌った。「ゆったりまったり」とほろ酔い気分の気持ちいい歌詞。「冷たい水を」の歌詞の箇所では、実際に水のボトルを手にして振ってみせるなどの遊び心も見せてくれた。続く10曲目では「セイセイー!せんべいー!」と叫び、「セイセイせんべい!」(岩塚製菓オフィシャルタイアップソング)を披露。両手に持った岩塚製菓のおかきを大きく振ったり、ぴょんぴょん跳ねたりとかわいらしくダンスすれば、観客も手拍子でそれに応える。間奏ではアコギを肩から下げ、お菓子をピックのように持ってエアギターを披露するというお茶目な仕草も魅力的だった。そして11曲目は「えがおのまほう」(TVアニメ『はなかっぱ』OP)をギター弾き語りで披露。観客も手拍子を続け、本当に「魔法」にかけられたかのように会場中がひとつになっていく。
次のMCでは、アニメの曲を歌っていることについて改めて、「ずっとこういうことしたかったんだなぁ。それができてるって、すごいありがたいことだなぁっていう風に思いました」と感謝を述べる大原。シンガーソングライターを志した高校生の時も、見ているドラマなどの劇中に自分の曲がかかることを想像していたという。実際、アニメの作品に関わるようになり、今年もいろんな場所でタイアップ曲を歌うたびにお客さんから反応がもらえ、そのことのありがたさを感じた1年だったと語った。
そんな話をしつつも、「『はなかっぱ』と『セイセイせんべい!』は、私の(体力)ゲージの半分ぐらいを使い果たす」とぶっちゃけながら呼吸を整える大原。会場中からも再び笑いが漏れる中、12曲目にはまたガラッと雰囲気を変え、「時のミラージュ」(PS4ゲーム「リトルウィッチアカデミア時の魔法と七不思議」主題歌)をギター弾き語りで披露した。「夢は語るだけじゃそこに届かないから 閉じ込めてた心も全部 力に変えて」と、先ほどのMCで語った話にもつながるような気持ちを力強く歌い上げる。
この後はしばらくMCを挟まず、曲のタイトルだけ告げて一曲一曲に思いを込めて届けるような時間が続いていく。13曲目に「言わないけどね」(TVアニメ「からかい上手の高木さん」OP)、14曲目に「ゼロセンチメートル」(TVアニメ「からかい上手の高木さん2」OP)と人気アニメの楽曲を2曲歌った後、15曲目ではギターを置き、「さよならの行方」をマイクに向かってまっすぐ歌う。終盤は夕日のように照らす1本のライトを背中に浴びながら、ただ別れの哀しみだけではなく、前に進んでいく強い気持ちを歌に込めて届ける。
最後のフレーズを歌い終え、バンドの演奏が続く中でステージを離れる大原。演奏が終わって拍手が起こるとステージは暗転し、次に明るくなったときには、サンタの赤い帽子とケープを付けて再登場する彼女の姿があった。12月の季節感たっぷりの楽しげな演奏に乗せ、16曲目として「サンタになりたい」(TVアニメ「からかい上手の高木さん3」挿入歌)を披露。ライブのタイトルにつながる一曲を歌い終え、続くMCでは「いつか自分のクリスマスソングをクリスマスシーズンにライブで歌いたい、っていう夢が1つ今日叶いました。ありがとうございます」と感謝した。
バンドメンバーの紹介を挟んだ後は、17曲目に「風見鶏を見つけて」(TVアニメ「からかい上手の高木さん3」挿入歌)を歌う。まだまだ楽しい時間は続いていくようで、いつの間にかライブはクライマックスに突入していたようだ。演奏後には「次で最後から2番目の曲です」と予告も入れつつ、そんな寂しい気持ちや帰りの天候も晴れるようにと、18曲目に「Magic Parade」(映画「リトルウィッチアカデミア魔法仕掛けのパレード」ED)を歌った。間奏では観客の手拍子さえ演奏の一部となったように、会場全体を明るく爽やかな音楽で包み込んでいく。
19曲目には「ノスタルジア」を披露。歌詞の「オレンジの空」の箇所では、背景のライトも連動してオレンジ色に。「明日へ繋がる空の下で 私はいつも見ているよ」と、ラストを飾るのに相応しい歌で舞台を締めくくった。「ありがとうございました、大原ゆい子でした」と演奏後の挨拶に会場中から大きな拍手が巻き起こると、それはステージから誰もいなくなった後もずっとやまず、アンコールの手拍子へと変わっていく。
アンコールに応え、ライブグッズのTシャツに着替えた大原が再び舞台へ登場。グッズ紹介を挟んでバンドメンバーを呼び込む際には、コーラス・逆井寛子を呼べばなぜかベース・蛇石徹が登場し、キーボード・あいあいを呼べばヴァイオリン・多ヶ谷樹が現れ、ドラム・横瀬卓哉を呼べばキーボード・あいあいが……といった具合に一人ひとりがランダムに登場して会場を和ませる。また、もともと舞台上には出ないマニピュレーター・須賀勇介と、今回は欠席して写真だけの登場となったギター・吉田穣の名も呼ばれ、大原ゆい子バックバンドの再集結となった。
そこでアンコール曲には「星を辿れば」(TVアニメ「リトルウィッチアカデミア」ED)を披露。「側にいてくれてありがとう また明日ね」と、この日会場に足を運んだファン一人ひとりとの再会を願う気持ちが込められたような歌で、本当のライブの締めくくりを迎えた。
これだけたくさんの名曲が楽しめながら、まったりとした時間が流れた今回のワンマンライブ。贅沢なのは言うまでもないが、12月というこの慌ただしい時期にあって、ホッと心が安らぐような特別な時間だったように感じる。何より「サンタになりたい」大原が、ファンの一人ひとりの心に音楽という形で思いを届けてくれた、暖かく優しいステージとなった。
2023年は、彼女のどんな曲が聴ける年になるのだろうか。そしてまた、彼女のどんな願いが叶う年になるのだろうか。「待ち切れない物語の続き」を探すように、新しい年へと向かっていきたい。
取材・文=平原学
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