moonriders、1982年発表の名盤「マニア・マニエラ」「青空百景」を再現するライブを開催
moonrideresが「アンコールLIVE マニア・マニエラ+青空百景」を12月25日に東京・恵比寿ガーデンホールで開催した。このライブは7月16日にビルボードライブ東京で行われたアルバム「マニア・マニエラ」を再現するライブのアンコール公演。今回は同年に発表されたアルバム「青空百景」の再現も加えた二本立て。
「マニア・マニエラ」は1982年12月15日にLPやカセットではなく、まだ珍しいCDで発売された。これは当時のレコード会社が作品を”難解!”と断じ発売中止を求めたのに対し、一般的ではなかったCDという形で発売に踏み切った。とはいえ殆ど流通されることなく、後にカセットブック(冬樹社/1984年)やポニーキャニオンで再発(1986年)される事で一般に知られるようになった作品。もう1枚は同年9月25日に発表された「青空百景」。発売日は「マニア・マニエラ」より先になるが、制作されたのは「青空百景」より先。これに沿って、この夜はまず「マニア・マニエラ」から演奏が始まった。
冒頭、コンサートにおける表示ボードの説明影アナが入る。場内が暗転すると客席中央に鈴木慶一がギターを抱えて登場。その場で「鬼火(1979)」の一節を歌うと、ステージ上で自作の変態楽器、ギタギドラを操る白井良明とこの日のゲストのOpen Reel Ensembleの3人にスポットライトが当たる。白井は「×」と書かれたボードを掲げる。これはクラッピングの合図だ。観客もこれに倣って拍手する。2組が繰り出すアブストラクトなサウンドが流れる中、真っ白な衣装に身を包んだムーンライダーズのメンバーが登場。ステージ上段の上手(右側)から鈴木慶一、武川雅寛、白井良明、夏秋文尚にキーボードの佐藤優介(カメラ=万年筆)。下段下手(左側)から岡田徹、澤部渡(Skirt)、鈴木博文にゲストのOpen Reel Ensembleと矢口博康(Sax)が並ぶ。
第1部/マニア・マニエラ編
ドラムのカウントが入り、おもむろにアルバム1曲目「Kのトランク」が始まる。2曲目の「花咲く乙女よ穴を掘れ」では、もう1組のゲストであるチェロの四家卯大とヴィオラの志賀恵子が入る。
アルバム「マニア・マニエラ」はTR-808、MC-4やプロフェット5といった当時の最新電子機器と、人力の楽器演奏を組み合わせて録音された作品。使用楽器が最先端過ぎて難解といわれた所以だが、7月の再現ライブではシーケンサーを使わずに人力の演奏にこだわった。今回のアンコール・ライブでは”ライダーズがさらに攻めた”。前回と同じ手法を使わず、元のサウンドを解体し再構築。さらに今回ゲストに加わったOpen Reel EnsembleがノイズやSEにストレンジな音全般を請け負った。もはや残ってるのはボーカル・メロディぐらいで、想像の斜め上をいくリビルド・ライブだ。これほど解体されると、オーディエンスにとってはむしろ清々しい。発表から40年を経た現在のムーンライダーズからの解釈にリスナーも興奮を隠し得ない。
「気球と通信」や「ばらと廃物」では観客のスマホライト点灯の合図である「□」ボードが掲げられると、ステージの照明が落とされると客席はホタルの海となり幻想的な光景に転じる。「バースディ」では、故かしぶち哲郎が、ガラス板を叩いてサンプリングしたシーケンサー音源を使用。かしぶちと現メンバーの時空を超えた共演が実現。ここまで来るとアルバム・ラストの「スカーレットの誓い」ではどんなアレンジの演奏で驚かせてくれるのか?と想像と期待を膨らませるファンを”いい意味”で裏切り、あえての”普通”のバンド・アレンジで演奏し第1部「マニア・マニエラ」編を締めた。
第2部/青空百景編
蝿の飛び交う音がループで流れるインタールードの中、メンバーは真っ白な衣装から各々が思うファッションに着替えて再登場。前回のライブ(9月24日@人見記念講堂)に参加できなかった岡田徹の弾くピアノで始まったのはアルバムのSIDE-1/1曲目の「僕はスーパーフライ」。「青空百景」は先進過ぎた前作「マニア・マニエラ(発売はこちらが後)」の反省(?!)を踏まえて制作された。コンサートでも第1部で見せたアブストラクト性は影を潜め、メンバーを中心とした”バンド”での演奏に徹する。もちろん、各曲はオリジナル盤とは違ったアレンジは施されているのだが。
象徴的なのは第1部の「マニア・マニエラ」編で縦横無尽に飛び回ったOpen Reel Ensembleが、第2部では17曲目の「アケガラス」に参加したのみ。本アルバムには、白井良明が書いた人気鉄板ナンバー「トンピクレンッ子」が収められている。アルバム曲順通りに演奏されているから、観客も前の曲から準備。演奏されるや場内は大爆発。声こそ出せないがサビでは右腕を掲げて身体で応援。この日いちばんの盛り上がりを見せた。「青空百景」ラスト・ナンバーは、こちらもファンの間で人気の高い「くれない埠頭」。白井良明が「□」ボードを上げると、オーディエンスもメンバーもスマホライトを一斉点灯し、左右に振りながら曲を彩った。最後は鈴木博文がマイクから離れてアカペラで歌ってステージを降りた。
アンコール&新アルバム発表
本編でアルバム2枚全曲を演奏したので、エンディングは冒頭、鈴木慶一が歌った「鬼火」の続き。1979年5月に発表した5枚目のアルバム「MODERN MUSIC」に収められたムーンライダーズ屈指の名曲だ。曲の後半は3分以上に及ぶ各メンバーのインプロビゼーションを披露。
鈴木慶一によると、3月15日にリリース予定の新アルバムは、この”インプロビゼーション”。今年6月、スタジオに2日間籠もって10時間超に及んだ”インプロビゼーション”を録音&編集したものになるという。「9ヶ月前のハプニング!」というタイトルも、なんともムーンライダーズらしい。また「皆さんの要望ありましたら、来年、この2枚をアンコールでまたやるかも」と話すと客席が沸く。もっとも「同じことはやりませんが…」と付け加えてはいたが。
文:石角隆行