『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』 写真=オフィシャル提供(photo by 桃子)
『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』2022.12.13(TUE)心斎橋・LiveHouse ANIMA
12月13日(火)心斎橋・LiveHouse ANIMAにて『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』(以下、『SSR』)が開催された。音楽やカルチャーの前線で活躍するキュレーターが厳選した音楽を配信するディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」が、大阪のラジオ局・FM802とタッグを組んで行う本イベント。第2回となる今回は、BROTHER SUN SISTER MOON、bed、She Her Her Hersの3組。MCは前回に引き続き、FM802 DJの土井コマキと板東さえかが担当。最高の音楽の魔法にかけられた一夜の様子をレポートする。
『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』
12月も半ばを迎え、寒さも厳しくなってきたこの日。開場前のANIMAには入場を待つ観客の行列ができていて、イベントの注目度の高さを感じずにはいられない。
『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』
定刻になるとMCの土井と板東が登場。「前回も来てくれたって人いますか?」と土井が問いかけるとフロアから続々と手が挙がり、板東は「みんな『SSR』仲間!」と喜ぶ。2人は毎週、『MIDNIGHT GARAGE(毎週月曜24:00〜27:00)』と『Poppin’FLAG!!!(毎週火曜24:00〜27:00)』を担当。『MIDNIGHT GARAGE 』では「FRIENDSHIP.」のコーナーを展開し、それぞれの番組で楽曲を届けている。
FM802 DJ 板東さえか、土井コマキ
2人とも「FRIENDSHIP.」の新曲を選曲するのが楽しいと笑顔で話していた。そしてトップバッターのBROTHER SUN SISTER MOONを紹介。フロアの様子を見て板東が「楽しむ準備はできてそうなので、早速スタートしていきたいと思います!」とバトンを渡した。
BROTHER SUN SISTER MOON
BROTHER SUN SISTER MOON
2017年8月に大阪で結成されたインディペンデントポップバンド・BROTHER SUN SISTER MOONは、惠翔兵(Gt.Vo)と惠愛由(Ba.Vo) のボーカルの2人が実の兄妹だ。この日はサポートキーボードを迎えた編成で登場。SEで流れたクリスマスソングの定番「Silent night(邦題:きよしこの夜)」は低音ボーカル&重ためのスローテンポアレンジで、どこかサイケデリックな雰囲気を醸し出す。この時点から彼らの世界観に誘われていくようだ。
BROTHER SUN SISTER MOON
翔兵のリバーブのかかったギターが静かに鳴り響き、ライブは「I Said」からスタート。岡田優佑(Dr)の放つ柔らかなビートと、愛由の瑞々しさも感じるウィスパーボイスが空間にすうっと溶けていく。丸く包み込むゆらぎサウンドが心地良くうっとりしていると、後半は躍動感を増していった。続いてループするギターリフが印象的な「(Intro)」でたっぷりと雰囲気を作り「Try」へ。手にした楽器とツインボーカルを駆使し、鋭さと柔らかさが同居した唯一無二のサウンドを作り出す。音が細かく作り込まれていることが、演奏から容易に感じ取れた。ドリーミーで浮遊感のあるインディポップナンバー「A Whale Song」では会場全体をふわふわと酔わせる。MCでは愛由が挨拶。春に引っ越して現在は東京に住んでいると話し、「昨日東京での(年内)最後のライブ……自分たちの企画を終えてビュッと戻ってきました」と笑顔を見せた。
BROTHER SUN SISTER MOON
11月末にリリースされたばかりの「Fake My Heart」では翔兵がメインボーカルを取り、1音1音を丁寧に紡いでゆく。高音と低音の重なり合い、溶けてしまいそうに伸びやかなギターと反響してこぼれる音があまりに気持ち良い。翔兵と愛由のハーモニーが夢見心地な「In Front of Me」に続いて披露された「Birthday」では、穏やかさと共に切なさや力強さも感じられるゆらぎサウンドに思わず恍惚としてしまう。
BROTHER SUN SISTER MOON
ラストソングは「Cactus」。ボトムを支えるシンセとドラム、高音のギター、囁くように歌う愛由のかすれた歌声が最上の空間を作り出す。まるで神話か映画を思わせる壮大さ。「音そのもの」がとにかく美しく、どっぷりと別世界にトリップさせられた。最後の1音まで丁寧に響かせてステージを終えた彼らにフロアからは拍手喝采が送られたが、あまりの余韻に動けなくなってしまった観客もいたのではないだろうか。実に圧倒的なパフォーマンスだった。
BROTHER SUN SISTER MOON
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2番手はbed。2022年に東京で活動を開始したばかりの彼らは、大阪でのステージは10月に開催した自主企画以来の2回目。
ライブを観るのが初めてだという板東は、「生のライブの衝撃が一番グッと刺さるんじゃないかなと思いますので、皆さんと目撃できるのを楽しみにしてきました」と期待を滲ませた。
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ステージが暗転して、しばらく無音の状態が続く。やがてベース、ドラム、ギターが登場。歪んだギターの轟音が鳴り響き、ドラムがダイナミックなビートを叩き込む。時間差でボーカルが現れ、1曲目をドロップ。クラウトロック的なビートから曲の後半にかけて徐々に加速し、四つの楽器が塊となって一気に爆発する展開。その放たれる音圧とパワーでオーディエンスの心を鷲掴みに。雪崩れ込むようにハードなベースラインとビートから「APOLOGIZE」 へ。
既にリリースされているストレートエッジなポストパンクサウンドの一曲は、ライプパフォーマンスにおいてはより重量と熱量を増してフロアに投げつけられる。
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深海のような照明の中、スタートした3曲目「Michael Mann」。土井が「煽っているわけではないのに、煽られてるみたい」と感想を述べていたが、本能を刺激されて自然と体が動いてしまう。
さらに間髪入れず「Kare Wa」を投下。 ハードテクノ〜サイケトランスなどをフィジカルなグルーヴで展開するこの2曲で、このバンド固有のムード を強く印象付けた。
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メタルな要素も感じさせるグランジ〜ストーナーな5曲目でギアチェンジ。 6曲目はThe Weekndのカバー「Sacrifice」。 間髪入れずに現行の南ロンドンシーンや、その源流を辿るポストパンクの響きを持つ7曲目へと展開。鋭い切れ味のグルーヴからシームレスに繋ぎ、光の洪水のようなラストの8曲目へ。すごいものを目撃した。正直にそんな言葉が出てくるくらい(そんな言葉しか出てこないくらい)、圧巻のステージだった。
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She Her Her Hers
She Her Her Hers
トリはShe Her Her Hers。2019年に中国のレーベルとの契約を交わし、アジア進出を果たした彼ら。そのこともあってか、この日は海外からのオーディエンスが多く来場しており、彼らの音楽が国境を超えて広がっていることが実感できた。サポートには村上大輔(Sax.Cho.)、田口恵人(Ba) 、石崎省吾(Samp.)、を迎えた編成。サウンドチェックをしたままの板付状態でライブはスタート。2組の演奏でしっかり温まったフロアからは高まる熱気が感じられた。1曲目は「Diagram X」。髙橋啓泰(Vo.Gt.)の優しい歌声が会場を満たす。それを支え、引き立てる音の重なりが特別な空間へと誘う。続く「s」では、ひとことずつ言葉を届けるようにはっきりと歌う。とまそん(Key&Cho)のコーラスワークもばっちり決まり、サックスの醸し出す官能的な色気と深みのあるグルーヴに、オーディエンスからは大きな歓声が上がった。
She Her Her Hers
松浦大樹(Dr.Cho)のカウントから始まった「Arrows」では、風が流れるような美しい情景を浮かび上がらせる。松浦の緩急ついたドラミングや村上のサックスの表現力、髙橋の柔らかい歌声にオーディエンスは心地良く体を揺らす。ラストに向けて高まる展開に、またしても意識が連れていかれる。曲が終わり余韻を感じていると、松浦から「姉ちゃんの子どもが産まれる前に書いた曲なんだけど無事に産まれました」と報告があり、フロアからは祝福の拍手が送られた。そして「Wolves」ではジャジーな雰囲気も漂わせつつ、豊穣なサウンドでゆらりゆらりと会場をのせてゆく。何も考えずただ身を任せて聞き入ってしまう、この時間がどれだけ幸せかを教えてくれるほどの充足感を得た。
She Her Her Hers
MCでは久しぶりのライブだという話から、来場した海外のオーディエンスとコミュニケーションをとる。松浦は「アルゴリズムが可視化されてる時代に、聞かれてるところにいきたいのはアーティストの冥利なんですよ。信念とかは後でよくて、とりあえず作った芸術を聞いてほしいなと思って。来年2月に台湾に行ったりするしね。日本でもどんどん良い音楽を届けていこうと、真っ直ぐに活動していくので、好きに遊びに来て欲しいです」と、音楽が届く喜びと矜持を感慨深げに語った。秋にコロナに罹患した髙橋は「スマホの歩数計が20歩とか、1週間100歩もいかない生活を送っていたので、コロナ以降は喋ることと動くことを増やしていこうとよく歩いてます。制作はずっと続いているので、楽しみにしてください」と、今後の活動への期待も予感させた。
She Her Her Hers
「あと2曲やって帰ります。幸せでした、ありがとうございました」との松浦の言葉から「Imaginary line」へ。上昇感のある電子音が美しく楽曲を彩り、充実したコーラスワークが耳を喜ばせる。ラストは「Day Tripper」。ひときわ大きくなった音の波に全身が呑み込まれる。髙橋の歌声も楽器のひとつとなり、大音量で満たしてゆく。メンバーが楽器を一心不乱にかき鳴らし、エモーショナルな演奏から最後は轟音に変化。ものすごい迫力を持って完全に没入空間を作り出した彼ら。イベントを締め括るにふさわしいステージングで、客席からは惜しみない拍手が送られた。
『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』
ライブ後ステージに登場した土井と板東は「めちゃめちゃ気持ち良い(笑)」「天井抜けたかと思った!」「フロアも自由に踊ってくれて、最高の景色でした!」と興奮した様子で話していた。3バンドまさに三者三様で、それぞれがそれぞれのサウンドスケープを見事に描き出したライブパフォーマンスだった。どの瞬間を切り取っても、心を揺さぶるサウンドマジックにかかっているように感じたし、言葉も国境も関係なく、あらゆる人の琴線に触れることのできる3バンドだと思った。このラインナップだったからこその至福の時間だったと言えよう。
そして早くも『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.3』の開催が決定! 3月4日(土)会場はLive House ANIMAとPangeaの2会場で行われることがMCの2人からアナウンスされた。毎回新しいアーティストと上質なサウンドに出会わせてくれる『SSR』。次回はどんな音楽体験ができるだろう。今から楽しみだ。
『FRIENDSHIP. Presents SHINSAIBASHI SOUND RIVERSE vol.2』
取材・文=ERI KUBOTA 写真=オフィシャル提供(photo by 桃子)