田所あずさ
田所あずさの新曲「ドラム式探査機」が2023年1月9日にリリースされた。「箱庭の幸福」のリリースから約一年を経てリリースされた本楽曲は、自身が主人公、リョウマを演じるアニメ『神達に拾われた男2』エンディングテーマとなっている。果たして今回の楽曲はどのように制作されたのだろうか? 話を聞いていく中で、そこには田所あずさ自身が今、目指そうとしている音楽の形が見えてきた。彼女が見据える先に何があるのかを探るインタビュー。
■低いキーのレンジが広がった結果、勇ましい女性を演じる機会が増えた
――SPICEとしては前作、「箱庭の幸福」のリリース以来のインタビューとなります。まずは2022年を振り返ってのお話から伺えればと思うのですが。
2022年……。
――2022年もかなりいろいろなことがあったと思うのですが。
いろいろなことに挑戦させていただいた一年ではあったんですけど、もうどこからどこまでが2022年か分からなくなってしまっています(笑)。音楽面だと、キャラクターソングをたくさん歌わせていただいて、ほぼ毎週何かのレコーディングをしていた感じでした。
――演じているキャラクターも多いですからね。あれだけのキャラクターの演じ分け、そして歌い分けるのは大変だったのではないでしょうか?
大変でした、キャラクターによってキーも全然違いますし、演じるキャラクターによってはキーが高くて、声が出ないなんてこともありますから。
――田所さん的には低いキーの方が歌いやすい?
ここ最近は特に低い声のレンジが広がっている感じがして、そっちの方が歌いやすいんです。その影響か、低い声の勇ましい女性キャラクターを演じる機会が増えているように思うんです。もう演じながら「彼女たちを見習って強い女にならなければ!」と思わされてます(笑)。
――田所さん自身、あまり自分が勇ましいとは思ってはいない?
頑固なところはあるので、全く勇ましくないとは言えないんですけどね(笑)。でも、すぐ落ち込んでしまう辺りとか、勇ましさからは遠い。今ひとつ強くなりきれていないな、そう思っています。
――なるほど。勇ましいというところから離れてしまいますが、低いキーのキャラクターでいうと、2022年には『swing, sing』風祭瑠璃役としてJAZZも歌われましたね。歌ってみていかがでしたか?
田所あずさソロとして、最近はJAZZテイストの楽曲も歌ってきていたので、ここにきて本格的なJAZZに挑戦できたのは本当に嬉しかったです。すごく楽しんで歌うことができました。
――確かに、近年の田所さんのソロ楽曲にはJAZZの流れは強く感じます。
『swing, sing』は逆に、意識してクセのある歌い方を出すようにしました。歌声の中に “味”みたいなものを感じてくれたら嬉しいです。
「ドラム式探査機」ジャケット写真
■本当に疲れている時に聴きたい音楽、それがLo-fi Hip Hopだった
――改めて今回リリースされる新曲「ドラム式探査機」についても聞かせてください。制作はどのようなところからスタートしたのでしょうか?
『神達に拾われた男2』のエンディングを担当させていただくことがまず決まって、そこから前作「箱庭の幸福」でお世話になった大木貢祐さん、神田ジョンさんと打ち合わせがあり、どんな曲にしていくかをゼロから話し合いました。
――なるほど、そんな最初の打ち合わせではどのようなお話をされたんでしょう?
本当にいろんなことを話しました。『神達に拾われた男』という作品の話、そこから派生して、異世界転生というジャンルが愛されている理由も。あとは、最近私が聴いている音楽の話なんかもしたり。もう覚えきれないぐらいたくさんの話題が出ましたね。
――最近聴いている音楽の話もされたんですね。すごく興味があります。
その打ち合わせの時はLo-fi Hip Hopをすごく聴いていた時期だったんです。なのでその話をしました。私もすごく疲れて帰ってきた日はもう何も刺激が欲しくない、笑うのもしんどいみたいな気持ちになる時があったんです。そういう時にLo-fi Hip Hopってすごく心地いい、聴いていて癒される曲だと思いました。
――すると「ドラム式探査機」がLo-fi Hip Hop調になっているのも、その当時の田所さんの嗜好が表れていると。
そうなんですよ。『神達に拾われた男』のエンディングにLo-fi Hip Hopがすごくハマると思ったんです。
――今回の楽曲「ドラム式探査機」というタイトルもすごく印象的でした。これはどの様に決まったのでしょうか?
生活に即したものをタイトルに入れたいと大木さんが考えてくれて。それと『神達に拾われた男』のリョウマくんが経営している洗濯屋さんを合わせて考えたら“洗濯機”というテーマが出てきたんです。
――それで決まったのがタイトルの“ドラム式”の部分だということですね。
そうなんです。ちなみに、サビ前で洗濯機の音が入る部分があるんですけど、そこは私の家の洗濯機の音を録音して使っているんですよ。
――そんな仕掛けをしていたとは!
実はそうなんです(笑)。ジョンさんの提案で、洗濯機をテーマに曲を作るなら実際の洗濯機の音は使いたいよね、って話になりまして。そこは耳をすませて聴いてもらえればと思います。
――ちなみにですが、田所さんのお宅の洗濯機は……。
もちろんドラム式です(笑)!
■デモ音源を日常の中で聴きたくなる、それぐらい気に入る楽曲ができた
――打ち合わせの内容から実際に大木さん、神田さんによって楽曲が制作されたと思います。出来上がったものを聴いた時の印象はいかがでしたか?
最高! その一言に尽きますね。すごく気に入ってしまって、デモ音源を日常の中で聴いたりしてました(笑)。
――そこまでだったとは! 曲に加えて今回歌詞もすごく印象的ですよね。
今回、大木さんが耳心地や歌い心地も重視して作ってくれているんです。なので歌っても楽しい、気持ち良くなる楽曲になっているんです。結構歌詞の中で変わった言い回しも多いんですが、一つ一つにしっかりと意味があるのでそこの紐解きも楽しんでもらいたいです。
――変わった言い回しでいうと、歌詞に出てくる「フィグジャム」というのはあまり耳馴染みのない言葉ですよね。
フィグジャムってイチジクのジャムのことなんですよ。実はここ、最初は別の言葉だったんです。
――変更になったのはどういった理由だったのでしょうか?
大木さんが「田所さんの好きなモノに変えよう」と提案してくれて、それで私の好きなイチジクのジャムに変更になったんです。
――田所さんが実感を込めやすい言葉に置き換わったと。「フィグジャム」の前に出てくる「#(ハッシュタグ)」という言葉の意味も気になったのですが。
ここ、「#」をワッフルに見立てているんです。なのでワッフルにイチジクジャムを塗るって歌詞になっています。他の意味もあるんですけどね!
――なるほど。改めて解説いただくと歌詞も一層味わい深くなりますね。
他の箇所にもこだわりが詰まった歌詞が歌い込まれているので、是非とも皆さんで考察してもらえると嬉しいです。
『ドラム式探査機』MusicVideo
■田所あずさの2023年の目標は!?
――ここまで完成した楽曲の印象を伺ってきましたが、歌った印象についても伺ってみたいです。
もうとにかく楽しかったですね。レコーディングも身体をゆらしながらノリノリで歌わせてもらいました。
――苦労した点や難しかった点はありましたか?
ブルーノートという歌唱に挑戦しているんですが、それが難しかったですね。ブルーノートというのは、簡単に言うと本来の音階から少し音を下げて歌う手法なんですが、それがとにかく難しいんですよ。意識していないと元の音階に戻ってしまう、何度も家で練習してからレコーディングに臨みました。
――今回の楽曲、田所さんのこれまでの曲の中でも特に発声に強弱がある曲だと感じました。そちらも意識したのではないでしょうか?
そこもかなり意識しましたね。どの程度抑揚をつけていいのかも結構迷って、レコーディングの中でいろいろと試したりして……。ちょっとやりすぎかなとも思ったところがOKになったりして、それぐらいオーバーにやっていいんだと。そこも一つ学んだところです。
――ここまで「ドラム式探査機」のお話を訊いてきましたが、ここから先は2023年の田所さんの音楽活動についてもお聞きしたいです。何か目標はありますか?
まずは、ファンの方からワンマンライブをやってほしいという声をいただいているのでそれに応えたいというのが一つ目標かなと思っています。あと、できればアコースティックライブもやってみたいですね。
――どちらも、是非とも叶えてほしいですね!
なんとか頑張りたいです! あと、今回新たな歌唱法に挑戦したので、そこはさらにブラッシュアップしていきたいと思っているんですよ。今回勉強したブルーノートもすごく歌っていて楽しかったですから。
――田所さんの次回作が一層楽しみになります。最後に、ファンの方々へメッセージをお願いします。
本当にいい曲ができた、そう自信を持って言える一曲です。いつかこの楽曲含めて、生で歌声を披露できる日をもうけられればと思っていますので、その時は会場まで足を運んでもらえたら嬉しいです!
インタビュー・文=一野大悟