藤巻亮太 撮影=菊池貴裕
待つこと5年4ヵ月、藤巻亮太のオリジナルアルバムがついに出る。タイトルは『Sunshine』。5年の間に主催フェス『Mt.FUJIMAKI』を立ち上げ、ライブや楽曲提供を精力的に行う一方で、世界をめぐる旅や登山、様々な社会的活動にも取り組むことで、彼は表現の幅を大きく広げてきた。『Sunshine』には、彼が5年間で得た思考や哲学がまっすぐに歌われている。シンプルなバンドサウンドの中に、これまでにない明るさがある。「僕らの街」「Heroes」「まほろば」から「この道どんな道」まで数多くのタイアップヒットと、力強い新曲がある。ソロ10周年のアニバーサリーを経て次のステップへ踏み出した藤巻亮太に、今の思いを訊いてみた。
――アルバムのタイトル曲「Sunshine」は、10月2日、『Mt.FUJIMAKI 2022』の二日目にバンドセットで歌ったのを生で聴きました。あれが初披露ですよね。
そうです。そうでした。
――あの時、まるで『Mt.FUJIMAKI』のテーマ曲のように聴こえたんですよね。明るく開放的な曲調といい、《僕たちは友達さ》《いつの日かまた会おう》という歌詞といい。
ああ、確かに。「Sunshine」という曲は……僕も40代になって、年を重ねながら、いろんな人と出会いながら多くの価値観に出会ってきたんです。出会って影響を受けて、それがまた自分という人間を揺さぶって、いろんな価値観に触れながら自分の価値観も変わっていって、ある部分は成熟していくだろうし、でもある部分は、もしかしたら初期衝動みたいなもの、最初にあったピュアなものを曇らすものもあるかもしれないなと。つまりは両方ともあると思うんです。自分らしさを磨きながら生きていくことと、自分らしさというものにとらわれながら生きていくことと、両方の側面があるんじゃないか?と。
――変わってゆくものと、変わらないものと、ということですかね。
そうかもしれないです。その“変わらないもの”というのは、きっとあるんじゃないかな?ということを信じたいし、信じられるというものが、今回のアルバムの中にはある気がしているんです。「Sunshine」という曲にしても、自分を形成している価値観は、周りから影響を受けて作られてきたもので、それを1枚1枚めくっていったら、最後には“僕たち、友達だよね”とか、“音楽って最高だよね”とか、本当に最初の思いがある気がして。それはきっと消えないだろうし、必ず自分の大事なものとしてしっかりと息づいているということを、信じられた時にできた曲なんです。
――はい。はるほど。
自分という人間を保つために、自分らしい価値観をきちんと確立しないと、人間生きていくのは大変だと思うんです。ただ、そういう一つの価値観にとらわれていくのも、また人間が陥ってしまう部分なのかな?と思った時に、そういうものが自分らしさを担保してくれる半面、自分自身を曇らすということがきっとあるんじゃないかな?と。自分にとって曲を作るということは、19歳の時に初めて作った時からいつも、曇らすものも向こうにしっかりと陽の光を当てて、そこに大事な価値観や新しい発見があるようなことだった気がしているんです。
――それは、すごくわかる気がします。
そういう意味では、曲作りに対して“今も変わらないな”と思えているし、そうやって自分がよすがにしている一つの価値観に、“そうじゃなくてもいいんじゃないの?”という、新しいSunshine=太陽の光を当ててくれて。自分を縛っていた価値観が揺さぶられたり、変形したり、あるいは壊れたり、新しいものの見方ができていくということの繰り返しがすごく大事なのかな?と思っていて。この曲は、とてもピュアな部分を歌えた曲なんじゃないかなと思ってますね。
『Sunshine』というタイトルの通り明るいものではあるけど、ある意味“曇っちゃうこともあるよね”というところから始まっている部分がある。
――その「Sunshine」を筆頭に、今回のアルバムは非常に開放的な、明るいエネルギーを感じさせてくれるアルバムだなと思っていて。もちろん、一枚のアルバムに注ぐ情熱は今までと変わらないと思いますけど、全体の印象が陽性だと感じるんです。
そういうふうに言ってくださる方が、すごく多いんです。それはある種、1曲目「この道どんな道」に象徴されているかもしれないですけど。自分自身、迷うこともたくさんあるし、不安になることもあるし、さっき言ったみたいに、自分自身を曇らすものがあるということもわかっているし。だけどそんな中でも、自分を励ましながらみんな生きているわけですよね。それはまず自分が一番そうだなと思ったんです。だからまず自分を鼓舞するように、安心させるように、“大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫”と言ってみたり、“やれるはずだ”と言ってみたり。本当に言葉は言霊ですし、自分の不安や迷いを受け止めた上で、ちょっとでも先に進んで行けたら素敵だなと思って歌ったんです。だから“前向きな”と言ってくださるのは、そういう意味では裏返しかもしれないです。
――そうかもしれないですね。
それがどんどん前向きなエネルギーに変わっていって、最初は自分のために歌った曲かもしれないけれど、聴いてくださった方が“<大丈夫>と4回繰り返しているところにすごく救われます”とか、“今の時代、誰も大丈夫と言ってくれないので”とか、完成して人前で歌った時は、聴いてくれる方一人ひとりに向けて歌う言葉になってくるし、それが歌詞のすごくいいところなのかなと思っています。自分に誠実に向き合って書いた言葉だったので、そこにある種の普遍性があったというか。今は不安な時代ですから、こういう言葉を求めている方も多いでしょうし、未来に向けて頑張りたいのは、みんなそうだと思うので。そういう意味でこのアルバムは、『Sunshine』というタイトルの通り、明るいものではあるんですけど、ある意味“曇っちゃうこともあるよね”というところから始まっている部分があって。そうだとしても、いつか道が見つかるんじゃないかな?という希望を持って作ったアルバムだと思います。
5年かかっちゃいましたけどね。
――通算では4枚目になるわけですけど、前の3枚と比べると、どんな顔をしたアルバムになったと、自身では思っていますか。
そうだなあ……曲を書いていたスパンも長いですし、正直ここに入りきらないくらい作っていたので。どう収めるか?ということは、悩んだと言えば悩みました。たとえばバンドの頃というのは、メンバーのためにというか、バンドのためにというか、自分じゃなくてバンドのために頑張れる、みたいなモチベーションで曲ができたんです。自分からちょっと離れてるから、というか、あるもののためにフォーカスできるから。でも本当に自分のためにフォーカスして曲を作るのは、すごく難しいと感じていて。誰かのために頑張れる頑張りと、自分のために頑張れる頑張りとがあるとすると、自分のために頑張ることは、僕が本当に強欲で、欲が深ければ頑張れたのかもしれないですけど、そこの部分よりも“誰かのために”と思った時のほうが、自分の力を発揮できたんだなということを、ソロになってから気づいた部分があって。
――ああ……なるほど。
僕だけじゃなくて多くの方も、そういうことってあると思うんです。だからソロになってから大事にしようと思ったのは、社会との接点ということで。“この人のためにいい曲を作りたい”とか、そういうお仕事をいただいた時もそうですし、『Mt.FUJIMAKI』もそうですし。そういう意味で、バンドを離れてソロになったといっても、社会の一員であることに変わりはないわけで。社会との接点の中で、自分の価値観が揺さぶられたりとか、そこと向き合った時に見えるものを追い求めていくと、社会の見え方と自分の価値観とがどんどんチューニングされていって。曲が1曲1曲できていって、つまり曲を作ることによって自分自身が社会のことを少しずつ理解する、自分なりに自分の世界観の中に落とし込むことができる。一人ひとりとの関係性をより大事にして、その中で曲を作っていこうと思っていて、それが12曲分できたアルバムです。このアルバムで取り戻したのは、年を重ねていけば世界がどんどんクリアに見えてくると思っていたけど、一方で自分を曇らせるものもたくさんあるということ。そういうものとも向き合っていけるならば、音楽というものをどこまでも作れるだろうし、自分自身も変わっていける。ピュアな部分を残しながらも変わっていけるだろうし、そういう新鮮な気持ちで音楽ができるんじゃないか?と。自分にとっては希望のアルバムなんです。
>>次のページでは、曲作りに向き合う心情と、アルバム『Sunshine』に込めた思いを深掘りしています。
いろんな価値観の中で生きている自分が、最後はどう生きるか?ということがとても大事だと思っていて。そこは自分にしか決められない。
――今言われた、人との関係性ということで言うと、アルバムで初めて聴ける新曲「ゆけ」の歌詞にある、世界で鳴ってるいろんな音、調和だったり不協和だったり、それを僕なりに引き受けていく、というようなフレーズにも重なると思うんですね。
僕の同世代の多くは、家庭を持ったり、いろんな意味で自分の価値観だけじゃ生きていけないし、周りの価値観に揺さぶられながらみんな生きていると思うんです。シンプルに生きたいなと思っても、人と関わっている以上、その価値観の中で自分も揺れるし、その価値観をどうにか自分の中に織り込んで生きていこうとする。だけど、自分も変化するし、相手も変化するし、社会も変化するし、これで決まったと思ったらまた変わっていく。その時その時でいろんな価値観を織り込みながら、でもシンプルに生きれたらなという願いを持ちながら生きていると思うんです。最大限、そういうふうに戦ってらっしゃる方々の応援歌になったらいいなと思って。
――そうですね。
いろんな価値観の中で生きている自分が、最後はどう生きるか?ということがとても大事だと思っていて。そこは自分にしか決められないので、その部分を応援したい気持ちが、この曲にはあると思います。
――リスナーとしては、あえて言うならば、かつてのように自分の中にたまったものを吐き出す時期は過ぎて、他者との関係性の中で、藤巻亮太が新しいフェーズに入ったというフレッシュな感じがすごくしています。
そうですね、そういう(吐き出すような)要素は『オオカミ青年』(2012年10月発売/ソロ1stアルバム)の中にはけっこうありましたし、2枚目、3枚目も、迷いの中から立ち上がって来るみたいな感じがちょっとあったので。人間ってやっぱり、自分を支える大事な価値観がないと、こういう変化する時代の中では生きていけないので。自分の価値観をすごく大事にしてほしいし、大きな流れの中で自分を守っていってほしいんですけど。でもやっぱり同時に、そうやって価値観が固定されていってしまうのも人間だと思うので。そこが固定されていることで社会のリアリティとずれていってしまうことは、すごく怖い部分でもあると思うんです。そこで、よすがにする部分と、時代の流れを見極めて自分を変えていける元気みたいなものも、両方大事なのかなと思っていて。時には自分の採用している価値観を壊して前に進めるぐらい、あなたはすごい存在なんだよということを、この『Sunshine』というアルバムで言えたらうれしいなと。光を見つけて進んでいってほしいなというアルバムです。
――そういう、いろんなものを背負いながら前に進むんだというメッセージ性の強い歌詞が多い中で、サウンドもそれに合わせるように、シンプルで力強いロックバンドのアレンジが多いですよね。ここ数年間はアコースティックライブの数も多かったので、そっちの方向に行くのかな?という予想もあったんですけど、結果的にガツンとロックなバンドサウンド中心になった。それは自然にそうなったわけですか。
自分がアレンジした曲ももちろんあるんですけど、そうじゃなくて、セッションでアレンジしたいと思ったので。そうなるとやっぱり、ドラムがいてベースがいてという、自分が一番わかりやすい形になって。主に、ドラムが片山タカズミくん、ベースは御供(信弘)くんか、宮田‘レフティ’(リョウ)くんが弾いてくれて、その中でセッションして、アレンジの方向性が見えていきました。確かに、(アコースティックにも)いこうと思えばいけたんでしょうけど、サウンド面は、わりと自分の原点に返って来た感じがあります。やっぱり、結局バンドサウンドが好きなんですよね。
――「千変万化」のように、珍しくファンキーでグルーヴィーな曲もありますし。
「千変万化」は16ビートっぽいリズムを取り入れて、あんまり今までにないようなサウンド感から入っていって。そこを面白がって言葉を突っ込んでいった、みたいな曲です。Aメロ、Bメロ、サビという構成なんだけど、Dメロ部分が書けたのがこの曲は面白くて、そこがすごくフックになってる曲じゃないかな?と思っています。この曲もレフティくんとタカズミくんのベースとドラムがすごくかっこよく響いてるので、そこで“もらった”という感じでしたね。
――いいアルバムです。老若男女、いろんな方にぜひ。
聴いていただけたらと思います。「この道どんな道」のように、“大丈夫と言ってもらえてうれしい”みたいな声を聞くことが、今はすごくうれしいんです。この世の中にあって不安になったり迷ったり、たくさんある時代じゃないですか。だからこそ、ポジティブなアルバムを作りたいなと思っていたし。音楽だけは元気があって、曇りの中に差し込む光のように届いてほしいなという願いも込めて、『Sunshine』というタイトルを付けたんです。
――ちなみにこのジャケット、この光はどんなイメージで?
これはね、プリズムを持っているんです。光をプリズムにかけると、いろんなグラデーションの光があって。12色(曲)の光が1つの光=『Sunshine』として届いてほしいなという意味で。
――リリースツアーもありますね。2月から3月にかけて、全部で9本。どんなライブになりそうですか。
4ピースバンドで回ります。久々に思い切りバンドサウンドを楽しんでいただけるツアーです。アルバムの世界観のように、ギターサウンドでゴリッといく部分も楽しんでもらえたらうれしいです。ものすごく前向きな曲が多いアルバムなので、そういうパワーを伝えるツアーにもしたいと思います。もちろん新曲以外にもいろんな曲をやりたいと思うので、遊びに来てほしいなと思います。
――そして2023年も、バリバリ活動してくれますか。
ライブもやろうと思ってますし、また『Mt.FUJIMAKI』に向けて準備していきたいとも思ってますので、精力的に活動できたらと思ってます。まずはツアーで、全国の方に会いに来てほしいなと思います。
取材・文=宮本英夫 撮影=菊池貴裕
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