『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』
『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』2023.1.15(SUN)大阪・心斎橋BIGCAT
1月15日(日)、心斎橋BIGCATにて『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』が開催された。本イベントは、大阪音楽大学に2022年4月に新設された「ミュージックビジネス専攻」の学生が主催・企画して行う初めてのイベント。「“新しい”一歩を踏み出したアーティストをあなたと一緒に“新しい”を共有できる空間を作りたい」というコンセプトのもと、学生によるプロモーション、プロのイベンターやプレイガイド、メディアがともに企画・運営を行い開催した。yutori、黒子首、Mega Shinnosukeという、彼らと同世代のアーティスト3組が出演し、若さと青春を音楽に乗せて学生の背中を後押しした。SPICEでは、そんな記念すべき日の模様をレポートする。
学生約40名が主体となり、事前準備から当日の運営までを担当
『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』
「ミュージックビジネス専攻(以下、MB専攻)」は、100年以上の歴史を持つ大阪音楽大学に新設されたばかりのコース。「音楽×テクノロジー×ビジネス」をテーマに、音楽・エンタメ業界のプロフェッショナルや起業家を育成する。歴史ある音楽大学が、近年のデジタル化した音楽ビジネスに対応できる人材を本格的に輩出することは、とても大きな意義がある。アカデミックな環境の中で最先端のテクノロジースキルを身につけられる、音大だからこその新しいカリキュラムだ。
そんなMB専攻で学び始めた1年生にとって、今回のイベントは1年間の集大成となる。ポスターやフライヤー制作、SNS運用といったプロモーションから、設営や当日の運営まで、学生が総出で動いている様子がSNSでアップされていた。
なお、ブッキングは関西のプロモーター・夢番地やラジオ局・FM802の協力のもと、学生が出演してほしいアーティストをリクエストして実現。FM802の『ROCK KIDS 802 -OCHIKEN Goes ON !!-』(毎週月曜~木曜/21:00〜23:48放送)が、学生のPR活動をバックアップした。
『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』
当日、学生の誘導で会場に入ると、壁に張られたフラッグにコメントを書いてアーティストにメッセージを届けようという来場者参加型の企画も実施されており、マジックを持った学生が参加を呼びかけていた。会場内をあちらこちらに動き回っている人もいれば、少し緊張した面持ちで対応する人もいて、それぞれの持ち場でイベントの成功に向けて一丸となって行動する学生の姿は、初々しくて眩しかった。
『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』
開演の時が近づくと、満席になった客席の後方に学生たちが集まりステージを見守っていた。定刻になり、オリジナルのジングル(こちらも学生作!)が鳴り響くと、ステージにMC担当のMB専攻生の2人が明るく登場。プロ顔負けの掛け合いも交えつつ、開催概要と注意事項を述べる。満員の客席を前にして、「うずうず、ドキドキが止まりません!」と興奮した様子の2人。声出しもOKとのことで、スタッフも巻き込んでクラップやウェーブ、ジャンプの練習を行い、ライブ前に会場を温めた。そしていよいよ、「今。ここから、スタート!」との宣言でイベントの幕が開けた。
■yutori
yutori
トップバッターは東京発の4人組バンド・yutori。メンバー全員が2001~2004年生まれで、まさにMB専攻生とはドンピシャの同世代だ。メンバーが登場すると客席は総立ちに。佐藤古都子(Vo.Gt)が「yutoriです。よろしくどうぞ」と呟き、「君と癖」で勢いよくライブをスタート。一気にステージから放たれるサウンドがビリビリと空気を震わせる。続けざまに「音信不通」をドロップ。クリアで張りのある佐藤の歌声に内田郁也(Gt.Cho)のギターリフが絡みつき、豊田太一(Ba)と浦山蓮(Dr.Cho)のビートがどっしりと支える。緩急をつけたボーカルの表現力と演奏力の高さは、昨年3月に初めて来阪した時よりも確実にパワーアップしていた。客席も高まったように拳を突き上げて、喜びを体現する。
yutori
yutori
MCでは古都子が「このイベントは私たちと同じ学生の皆さんが作られているということで、そんな素敵なイベントに呼んでくださってめちゃくちゃ嬉しいです。皆さんに負けないくらい素敵なライブをするので、最後までよろしくお願いします」と挨拶し、「モラトリアム」へ。疾走感のあるロックサウンドで加速した後は、ものすごい声量でイントロから圧倒した「ワンルーム」でヒリつかせる。さらに、これまでの低めの歌声とは全く違う、天井まで届くような高音ボーカルを生々しく響かせて「午前零時」を披露。危うさを感じさせる詞世界と圧倒的にパワフルな歌声、感情の起伏が入り混じる演奏は圧巻だった。
yutori
そして古都子が「私はこれからもこの4人でずっと音楽を続けて、聞いてくれるのは今ここにいるあなたたちじゃないとすごく嫌です。だからずっとずっと傍で私たちを見ててください」と強い眼差しで伝え、「煙より」でライブを締め括った。鋭いサウンドの中に見え隠れする情緒と切なさ、幅広い表現力、引き込むライブでがっちり爪痕を残したyutori。同い年の学生は大いに刺激をもらったのではないだろうか。
yutori
yutori
■黒子首
黒子首
2番手は3ピースバンドの黒子首。サポートに曽根巧(Gt)と秦千香子(Key)を迎えた5人編成で登場した。1曲目は堀胃あげは(Vo.Gt)の弾き語りから、田中そい光(Dr)のコーラスが柔らかく重なり「クールに戦え」を演奏。温かく美しいサウンドと、強固な意志を感じる歌詞のバランスが絶妙だ。楽曲の余韻に入り込んでいると、間髪入れずに田中のカウントからステージがライトアップして「あいあい」へ。ホーンサウンドも入り、あっという間に多幸感に包まれた。堀胃は1曲目よりも明るい歌声をパワフルに響かせる。みと(Ba)も、手が上がった客席を見て嬉しそうに笑顔を浮かべていた。続く「やさしい怪物」では、堀胃の歌声のバリエーションの豊富さが際立った。時に囁くように、時にハスキーに、時に柔らかく、時にパワフルで、時に伸びやかだ。声そのものが楽器のようで、聞いているこちらもワクワクする。田中もボーカルに参加し、表現の幅をさらに広げていた。
黒子首
黒子首
MCではみとが物販紹介を任され、黄色のタオルを紹介する。「何ていう黄色でしょう」と堀胃が尋ねると客席から「山吹色ー!」とアンサーが飛び、みとは「声が出せるっていいですね」とほっこりさせる場面も。そして堀胃は「今日は学生さん主催のイベントということで、とても楽しいです。私は学生の頃、色んな人の反対を押し切ってこの音楽業界に飛び込んだんですけど、結果的に言うとその選択をしてすごく良かったなと思っていて。人の選択に身を委ねると、失敗した時に人を恨む人生になっちゃうけど、人を恨む人生はすごく楽じゃないですか。それよりも、自分で決めたことでもがき苦しんで、下手なことをしてる人生の方が、私はとても好きだし愛せるなと思うので、ぜひ皆さんもお好きに選択して、お好きに生きていきましょう」とメッセージを送った。
黒子首
後半は「おぼえたて」「青鬼ごっこ」「Driver」と捻りのある楽曲を連続で演奏。どこか懐古的な感情を抱かせる独自のサウンドスケープを描き出し、会場を黒子首ワールドに導いた。ラストソングの前には客席のクラップをバックになぜか縄跳びを始める田中。「目的は何?」と堀胃に突っ込まれつつ、「トビウオ愛記」で盛り上げた。クセになるメロディに体が自然に揺らされる。客席は一斉に手を左右に振り、最高の一体感を生み出して、会場の熱をまたひとつ引き上げた。
黒子首
黒子首
■Mega Shinnosuke
Mega Shinnosuke
トリは1月1日に2nd ロックアルバム『2100年』をリリースしたばかりのMega Shinnosuke。サポートを迎えたロックな6人編成。ジングルが流れると勢いよくクラップが発生し、期待値の高さを感じさせた。Mega Shinnosukeのライブでは定番の「Thinking Boyz!!!」でゆらゆらとライブスタート。のっけからフロアに手が挙がる。さらにギターロックチューン「Sports」でヒートアップ。
Mega Shinnosuke
新作アルバムからは「サラバ宇宙、彼方未来」と「SONiC」を連続でドロップ。ドラムの凄まじい音圧や激しいギタープレイに牽引されて、客席の躍動感も増していく。ロックバンドの精神性をこれでもかとぶつけるパワフルなサウンドが、最高に気持ち良い。そんな客席を見て「結構ついてきてんね! まだまだいけそうだね」と嬉しそうに笑顔を見せ、「こっからもう一段階いけますか大阪」とさらに客席を煽る。
Mega Shinnosuke
「一緒に踊ってください!」と投下されたファンクチューン「O.W.A.」では、ダイナミックなグルーヴに体が揺れる。しかし物足りないとばかりに「恥ずかしがってる奴いるだろ。見てるからな! その先に行こうぜ!」と叫ぶと、これまでにない勢いで会場全体がジャンプ! ラストは「ロックンロールをぶちかましたいと思います」と、自らもギターを持ち「明日もこの世は回るから」で勢いよく駆け抜けた。ギターが3本になったことでさらにサウンドの厚みが増す。サングラスを吹っ飛ばすほど頭を振って演奏する姿からは気合いが伝わる。ギタリスト3人が前で並んでプレイする様子は圧巻だった。華やかな照明も後押しし、堂々たるパフォーマンスで本編を終えた。
Mega Shinnosuke
アンコールに応えて再び登場したMega Shinnosuke。「今日は学生主催のイベントらしいっすね。音楽の学校なの?じゃあまたどっかで会いましょう、必ず」との言葉には学生から歓喜の声が湧き起こった。そして「客層がわかんなかったんだけど、「O.W.A.」あたりで耳を抑えてたおじちゃんが手を挙げだして、イケんなと思ったから、アンコールもう1曲、ダンスチューンで飛ばしていいですか? 特にさ、学生踊れよ! 元気がないとやっていけないからさ、この業界。元気出してこーぜ! 同い年くらいでしょ?」とMB専攻生に向けてエールを送る。この言葉で学生の熱がさらに急上昇。彼らの心に火を点けた瞬間だった。
Mega Shinnosuke
アンコールは「Sweet Dream feat.Jinmenusagi」でダンサブルに会場を染め上げた。これも生のライブならでは。サビではこれまで遠慮がちに見ていた学生が大きくジャンプ! 文字通り会場全体が一体となり、段違いの盛り上がりを見せた。見事にBIGCATを揺らして最高のハイライトを作り上げたMega Shinnosuke。彼の言葉はきっと、MB専攻生にとって大きな勇気になったに違いない。30分のステージで、一言のMCで、人生や感情が動かされることがある。そんな瞬間を作り出せる素晴らしい体験をしたMB専攻生は、残りの学校生活をどのように過ごしていくだろうか。4年間という、輝かしく貴重な時間。どうか覚悟をもって、全てを自分事にして、なりふり構わず飛び込んでいってほしい。嬉しそうにステージを見つめている学生を見て、素直に応援したいと思えた、素敵なイベントだった。
Mega Shinnosuke
Mega Shinnosuke
こうしてMB専攻による初のイベント『今。ここから、』は大成功で幕を閉じた。しかし、学生にとっても学校にとっても、きっとスタートは「今。ここから、」。
大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻は今後、音楽業界関係者の協力を得て「音楽に就職する人、音楽で起業する人」の育成に力を注いでいく。プロによる強力なバックアップが得られるため、音楽業界でビジネスをやっていきたい、起業したい、プロの技術に触れたい、という音楽好きの若者には最高の環境になっていると思う。気になる高校生はオープンキャンパスに行ってみると良いだろう。そして、彼ら主催の次回のイベントを楽しみにしておこう。
『大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻 presents 今。ここから、』
取材・文=ERI KUBOTA 写真=オフィシャル提供(撮影:ヨシモリユウナ)