長渕剛、2022年の全国ツアーから地元・鹿児島公演のライヴレポートが到着
長渕剛が屈強のバンドを引き連れて2022年に開催した全国ツアーの中から地元・鹿児島公演の模様を、2月5日にWOWOWで独占放送・配信する。このオンエアに先駆け、ライヴレポートが到着した。
疲弊した人々の心に、自らの歌で再生の灯をともすために―。長渕剛が屈強のバンドを引き連れて開催した全国ツアーで紡いだ“絆”
デビュー以来40年以上にわたり、コンサート活動を通じて聴き手との連帯を築いてきた長渕剛。だが、2020年。突如襲ったCOVID-19の脅威。世界は不安と恐怖におののいた。彼もまた、未曽有の状況下で苦悩し葛藤した。それでも、長渕は再生を掲げて立ち上がった。
新曲「REBORN」を書き下ろし、2021年12月には関東圏のみでアコースティックツアーを開催。たったひとりでステージに立ち、歌とギターで己の原点に還流した。そして、2022年6月。長渕は屈強なバンドを引き連れて全国ツアーに出た。
しかし、久しぶりの“ロード”は、さまざまな規制や制約に縛られていた。小さな“分断”が、クルーを大きく苦しめた。ついには彼自身も新型コロナウイルスに感染。8月に予定していた地元・鹿児島公演も延期となった。
それでも長渕はステージに戻り、ツアーを再開させた。2022年10月20日、鹿児島での振替公演2日目。公演延期から2か月余り。彼を信じ、待ち続けた高揚が川商ホールを包み込む。熱い手拍子が鼓動のように高まる中、場内が暗転し待望の瞬間が訪れた。
逆光に浮かび上がる鍛え上げられたシルエット。長渕剛の凱旋だ。「帰って来たぞ!」1曲目は「STAY DREAM」。冒頭から思いのたけを音楽にぶつける。ピアノの伴奏と女性コーラスが魂の叫びに寄り添う。
続く「誰かがこの僕を」では、「いつかきっと」という願いを励まし、鼓舞する。シャンデリアの灯りとハーモニカの音色が優しいのは、彼の心を映しているからだ。
「鹿児島、最高です!」の叫びから「明日をくだせえ」へ。リズムに合わせてステップする。シャツを脱ぎ捨てると、筋骨隆々の上半身が剝き出しになる。圧倒的なストイックさは、力強いヴォイスの礎だ。
「はやくも脱いでしまいました。少しはやかったようです」照れながら笑わせる姿が愛しい。最初のハイライトは2曲続けて披露された「SITTING IN THE RAIN」「泣いてチンピラ」だった。
ベースと2本のギター、いわゆる竿隊と息の合ったアクションを魅せ、バンド一丸となって「頑張れ、鹿児島!」と渾身のリフレイン。メンバーソロもフィーチャーし、2曲で20分超えの圧巻の演奏。聴き手のエモーションを解放する、長渕流ロックンロールの神髄がそこにあった。
汗だくの聴衆に柔らかなそよ風を送るような「月がゆれる」を経て、ギターを爪弾き、はにかみながら呟く。「一緒に歌えるかな」
誰もが忘れかけていた音楽のコール&レスポンス。ホール全体がひとつになり、「とんぼ」を歌い分かち合った。曲が進むにつれて、心の奥底に刺さっていた棘のようなものが溶けていく。
荒れ地と化した世界で、懸命に踏み止まり生を祈る長渕。そして、彼の想いに真正面から応える無数の歌声が天に舞う。穢れの無いイノセンスがそこにあった。
「すべてほんとだよ!!」では、ひとりひとりに大切なラブレターを届けるように歌う。失われていたぬくもりが心をあたためていく。「届いたかな?」長渕の問いかけに、会場中が惜しみない拍手を贈った。
観客とのやり取りの後、一拍置いて弾き語られた「JEEP」もまた素晴らしかった。肩肘張らない素のままの歌。「全てを許してみよう」彼の投げ掛けが傷だらけの胸に沁み入った。
思い出話も交えてユーモア多めに語った「二人歩記」、レゲエサウンドの「He・la-He・la」、屈指のラブソング「パラシュート」。彼の音楽の引き出しの多さを垣間見せる3曲を歌い終え、二度目のハイライトへと向かう。
太いリズムで心の奥底を掘り下げるような代表曲「RUN」、ドラムソロから始まった「明日へ向かって」。どちらも長年歌い続けてきたアンセムだ。ボルテージが最高潮に達した瞬間、観衆から放たれるエナジーもすべて長渕にチャージされる。ますます強くなるステージと客席の魂の交感。ただただ壮観だった。
続く「ZYZY」は、新たな生命の誕生へ未来を慈しむ新曲。赤裸々と言っていいほど、真っ直ぐな心で彼は歌う。シンガーソングライターとしての真骨頂。世代も性別も関係無く、心の琴線をなぞる歌が囁かれた。
「今日は何度も泣きそうになった」はにかみながら語る表情は晴れやかだった。暗い世相の中で感じたこと、何よりも仲間を思いやる心を伝えたあと、最後に真心を込めて「REBORN」を歌った。
「何回でも生まれ変わればいいよ」「また帰って来るから」。そんなメッセージを残して、万感を胸に長渕はステージから去って行った。こんな時代でも、「今」を信じる本望がある。彼はそれを歌で証してくれた。
会場の熱量が加速度的に高まっていったのも印象的だった。コンサートを通じて、まるでコロナ渦以前に戻ったかの様に熱く拳を突き上げ、声援を振り絞ったオーディエンス。その荘厳な光景はこの数年間、誰も創り上げることが出来なかった。長渕が先陣を切って取り戻したライヴエンターテインメントの本質があった。
前年のアコースティックツアー、長渕は独りステージに立ち、再生へ向けた祈りを捧げた。続く今回のツアー。彼は絆や仲間、連帯の尊さを示した。祈りや願いは必ず希望となって未来へと向かう。それが共(友)に“生きる”ということだ。
バンドとは‟絆”という意味である。長渕剛が傷だらけになりながら再生へのメッセージを示した渾身のBAND LIVE。それは彼が紡いだ“絆”が眩しいほどの輝きを放つ、至高の音楽空間だった。