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初のドラマ(『隣の男はよく食べる』)主題歌である新曲「ハイキ」ができるまで リーガルリリーの現在地を紐解くインタビュー

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リーガルリリー

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リーガルリリーのニューシングルは、ドラマParavi『隣の男はよく食べる』(テレビ東京系にて毎週水曜深夜24時30分から放送中、動画配信サービス「Paravi」では毎週水曜夜9時より毎話独占先行配信中)の主題歌として書き下ろした「ハイキ」だ。16ビートやドラマの内容とリンクした歌詞など、バンド史上最もキャッチーな楽曲でありつつ、ギターバンドとしてのオリジナリティやたかはしほのかの語り、そしてリッチな音像など、リーガルリリーらしさをアップデートした作品でもある。今回はこの曲の着想やドラマ原作への共感を軸に、バンドの現在地を3人に訊いた。なお、「ハイキ」も収録したニューミニアルバム『where?』は5月24日にリリースされる。

――映画主題歌は『惡の華』での「ハナヒカリ」がありましたけど、今回初めてドラマへの書き下ろしですね。制作はいかがでしたか?

ゆきやま(Dr):今まで、ある程度要望というか形があるところから作ることがあまりなかったので、すごく新鮮でした。みんなで咀嚼しながら話し合って、スタジオに入ってセッションしながら作ることになって。そこで何曲か種が生まれた中の一つが「ハイキ」になりました。

――たかはしさんとしては、何がこの曲の着想になったのでしょう。

たかはしほのか(Vo/Gt):このドラマは、『隣の男はよく食べる』という漫画が原作のものなんですけど、私はもともと少女漫画がすごく好きで。創作の種になったりすることもよくあるんです。なので、自分としてはいつもと変わらない雰囲気で作りました。この漫画を読んでいて一番に思いついたのが<廃棄>という言葉で、そこから<廃棄処分寸前だった>っていうフレーズを落とし込みました。だから最初に作ったのはBメロで、そこからいろんな歌詞や物語が自分の中で生まれていって。監督の井樫さんが「すごく寄り添って作っていただいて」とおっしゃってくださって、すごく嬉しいお言葉だなと思ったのを覚えています。

――ストーリーとしては女性が年上で、しばらく恋愛をしてなくて……という状況ですね。

たかはし:はい。あと、今までの作曲方法と違うことがあって。自分を介して作詞をする上で、自分のことを男だとか女だとかという視点をもって作詞をしたことが今まであまりなかったんですけど、今回女性目線での気持ちで作詞に挑んだんです。これからのリーガルリリーの方向性というか、作詞にも生きてくるんじゃないかな、変わってくるんじゃないかなと思いました。あと、隣って距離的にもすごく近いので、その近い世界を深く掘れば掘るほどむしろ広がっていくんだなっていうのは詞を書いて思いました。

――リズムは16ビートですけど、跳ねるっていう感じでもなく。これはどのように決まっていったんですか?

たかはし:前回の配信EPに「地球でつかまえて」という曲があるんですけど、この曲はつらなりを意識したビートというか、本当だったら跳ねたい雰囲気の曲なんですけど、敢えてバスドラとハイハットを隙間なく埋め込んでいて。これが個人的には地続きというか、明日につながる感じがあるなと思っているんです。ドラマのエンディングにもそういう雰囲気が合うんじゃないかなと思って、「ハイキ」もそういう感覚のリズムで作りました。

――リーガルリリーの16ビートが新鮮で。

ゆきやま:この曲のビートを作る上で一番意識したのは、“あまり崩さないこと”だったんです。このバリエーションの中の一つが16のハイハットだったんですけど、「一番リフのテンションが上がるやつ!」で、“始まった感”があるものが四つ打ち16ビートかなと思ってこうなりました。

リーガルリリー

リーガルリリー

――曲が進んでいくとメランコリックな部分もあったりしますね。

たかはし:結構キメを作りました。<痛い、痛い>のところとか。たまに来るキメが、ちょっと穴が空いたようなアレンジになったんじゃないかなと思います。

ゆきやま:今までのリーガルリリーだとガラッとリズムを変えるアレンジが多かったんですけど、ある程度一定にすることで怖さが効いてくる曲になったというか、ちょっとした変化が曲に新鮮な感じを与えてくれたので、いい曲が作れたなと思っています。

――海さんはいかがですか?

海(Ba):自分の中で、前回の「地球でつかまえて」よりもリズムとメロディを織り交ぜたものにしたいなと思っていて。この曲では、3人の楽器が鳴っている中でも、ベースがギターリフと台頭に並べるぐらいのフレーズを当てたいなと思って作りました。そういった部分が効いている曲なのかなと思います。

たかはし:Cメロの<渋滞をバイクで走り抜け>のところも元々海ちゃんのベースラインのメロディが入っていたんですけど、それを聴いて作った歌メロなので、ここは海ちゃんのメロディというか。そういう部分は新しいですね。

――この<渋滞をバイクで走り抜け>のところは映像が浮かびます。

:漫画でもバイクの後ろに乗るっていうシーンが印象的で、キュンキュンポイントだったので、そこが浮き出てすごく嬉しいです(笑)。 

たかはし:一番好きなところだから(笑)。 

――この原作のストーリー自体は皆さんどう思われましたか?

たかはし:私はずーっとキュンキュンしていましたね。

:漫画を読んだ後に「ハイキ」の歌詞が送られてきて、一行目の<私の理屈通りのものは 君にとっての退屈かな>を見たときに、「わ!これだ!」ってなったんです(笑)。「いろいろと考えるよな。そりゃそうだよな」って思いながらも、やっぱり主人公の背中を押してあげたくなるというか。原作を読んで、音で背中を押してあげたくなるということが初めての感覚でしたね。

ゆきやま:私は想像でキュンキュンすることが久しぶりで。「すごくドキドキする」ドラマだったんですけど、曲ができていくにつれ、登場人物の映り切っていない表情や言葉がつながっていく感じがして。「すごいなぁ」って素直に思いました。

:あと久々に少女漫画をみんなで読んで、「どこまで読んだ?」って……そういう空気感が久々で楽しかったですね(笑)。

たかはし:この原作には自分に落とし込める要素しかないので、私100%の言葉で書けました。関係性の心理というか、距離感が隣って近いからこそ、そういうところを深く掘っていくっていう。登場人物が少ないので、このような人間ドラマはすごく良かったです。

リーガルリリー

リーガルリリー

――<廃棄処分寸前だった>自分がいて、彼はいつもお腹が空いている人で(笑)。

たかはし:そう(笑)。食べ物って腐る寸前が一番美味しいよっていうところが、“燃え上がる恋”みたいな感覚なのかなって。

――桃とか腐る前が美味しいって言いますね。

たかはし:そうですよね。お肉とかも。熟成です。

――できたてとか新鮮っていうのとは少し違う。

:コード感もそうですね。ただ“新鮮キラキラな恋”っていうよりは、もうちょっと複雑な気持ちと戦いつつも、でも楽しい!みたいな。

――音楽がドラマに与える影響というか、一話終わった時に印象が変わりそうですね。

たかはし:そうですよね。最初、ドラマの主題歌を作る場合は普遍的な詞の方がいいんじゃないかなと思っていたんです。わかりやすいし、みんなに安心して聴いてもらえるんじゃないかなと思って。でも、そういう普遍的な言葉を曲の最後に書いたらすごくかけ離れてしまったんです。私の言葉ではなく、共通言語というか、原作を読んだ後の感想文のようなものを書いたら違和感があったんです。そこから自分の言葉で書いてみようと思って、自分というフィルターを通して書いてみたらすごくハマって。こういう部分も新発見でしたね。

――今のリーガルリリーにとっては、作ってみて楽しかったですか?

ゆきやま:そうですね。作っている最中は「こんなシンプルなリズムでいいのだろうか」って葛藤していたんですけど、いざ完成してみるとすごく楽しかったです。私ができる範囲で一番“ポップ”じゃないけど、そういう線を攻めてみたのはいい経験でした。

たかはし:制作中に「お腹が空いた感じって、やっぱ中華料理だよな」となって、曲の最初に銅鑼を入れることにしたんです。しかもレコーディング前日に私がイントロを増やしたいってみんなに言って。そこからイントロのギターをスタジオで増やしてもらって、当日急遽銅鑼を借りてきて、ゆきやまが生まれて初めて銅鑼を叩いたんです。楽しかったな(笑)。

ゆきやま:すごくデカい銅鑼を鳴らしました(笑)。

たかはし:コミカルな感じで始まりたいと思って、あのイントロを入れました。

リーガルリリー・たかはしほのか(Vo/Gt)

リーガルリリー・たかはしほのか(Vo/Gt)

――聴いたとき、なんだなんだ?って思いますね。

:ヘンテコなところって、リーガルリリーっぽいじゃないですか(笑)。

たかはし:登場人物の男の人(本宮蒼太)が抜けている性格で、ちょっと駄目な男の人っていう感じなので、そういう部分を音像にしたらこうなったのかなって。とくにイントロが。

――たかはしさんが今回は女性の一人称で書いていることも面白いし、新しいことだと思うんです。

たかはし:はい。しかも大人の女性という。自分にもこういう大人な女性の部分があるって知ったきっかけにもなりました。出てくる人物みんなのことを一度自分に落として考えてみたら、みんなの要素を全部持っているなと思って。しかもその女性の一人称の中にも男性の面もちゃんと含められているんじゃないかな?って思いました。一人称は女性なんですけれど、二人の性格もちゃんと入れたいなという。

――そしてミュージックビデオがまた違う角度の内容で。捨てられたモノの反乱というモチーフってロックンロールバンドっぽいなと。

 

たかはし:うんうん、確かに。

――あれは監督さんのアイディアなんですか?

ゆきやま:そうですね。ドラマに寄り添った「ハイキ」は恋愛が絡むけど、恋愛だけじゃなくてもっと広い意味で見た「ハイキ」が、監督さんの意見を聞いて広がった感じがして。しかもそれをポップに描いてくれているんです。捨てられたもので楽器を作るっていうストーリーなんですけど、自分が音楽をしてるっていうこともそういうところから来ていたりするなと思って。シンプルにそういうことを伝えるポップなMVってなかなかできることではないと思うので、すごくいいものが作れたなと思います。MVは、ゴミからゴミモンスターが生まれて、ゴミモンスターが自我を持って曲と一緒に踊って、踊りながらゴミを使って楽器を作っていく感じで。

:ゴミ改造!

ゆきやま:その作った楽器を私たちが最後演奏して終わるっていう。ゴミだと思ってたものが楽器になってそれを鳴らすんだ、というストーリーです(笑)。

:捨てる神あれば拾う神みたいなやつだよね。

ゆきやま:そう!

――人にとっては価値がないけど自分にとっては価値があったり。

ゆきやま:そうです。自分がゴミだと思っていたものって、実は価値があるんだよって。

たかはし:そうだね。監督さんが言っていたことですごく覚えているのが、「人ってダメなところっていうもので作られている」「ということは、ダメなところがその人のいいところ」っておっしゃってて、「うわ〜!」と思って。

ゆきやま:言ってたね。恥ずかしそうに説明してくれてたな。

たかはし:そのお話を聞いて、私も「ハイキ」を作る上でそういうことを考えながら作っていたなと思って。やっぱり伝わるんだなと思いました。

リーガルリリー・海(Ba)

リーガルリリー・海(Ba)

――MVの話を聞いてよかったです。意味がさらに重層的になりました。

ゆきやま:そうそう、いろんな方向で厚みができました。このMVの撮影と同じ日にアーティスト写真を撮ったんですけど、それは浄水場や工場で撮ったり。そういうところまで「ハイキ」が繋がっていきました。

――MVの中で最後作った楽器捨てるじゃないですか。

たかはし:はい。それで、誰かが拾う気がします。

ゆきやま:To be continued.ですよね。

――次の誰かにとっての価値ということですね。ところで最近、リーガルリリーはイベントやフェスへの出演も多いですが、対バンをしてみて、改めてリーガルリリーってこういうところに特徴があるなって感じたりしますか?

ゆきやま:3人って珍しいのかな?という感じがしていて。3人でも……

:個々の楽器が独立してるっていうことがリーガルリリーだなって思うことが多くて。他の3ピースバンドを見ても、限りなく混ざり合っている感じがするんですけど。

ゆきやま:かっちりバンドっていう感じがする。

:うん。上手い・下手ではなくて、音の混ざりが一つのバンドっていう印象を受けていて……それが5人でも4人でもそうなんですけど。リーガルリリーってその瞬間を持っている時もあれば、全然バラバラなことをやっているのにリーガルリリーの時もあるっていう、ついたり離れたりする組み合わせの面白さはライブをしていて感じますね。

たかはし:でも対バンをすると「うわあ、いいなあ」って思います。周りのどんなジャンルの人たちも本当にすごいなって。奇跡が起こってる。周りのバンドに感動すればするほど、自分たちもすごく奇跡だったんだなあって、そういう面を客観的に見れるのでありがたいです。

:自分たちの“ここがすごい”っていうことを自覚できていないからこそ、そこを見つけてくれる人がいるんだっていう、不思議な感覚ですよね。「こんなにすごいバンドと並んでいいんだ。私たちって、それぐらいのものをひょっとしたら持ってたりするのかな?」って。というのと、どんどん磨いていきたい!ところと。

リーガルリリー・ゆきやま(Dr)

リーガルリリー・ゆきやま(Dr)

――リーガルリリーの場合は、大きな存在になろうとか、いつまでにあのステージに立ちたい!ということではなく、経験が全部また次の音楽になっていってると思うんです。それはバンドという形態で珍しい感じがして。

たかはし:どっちがいいのかわからないんですけど、でも目標みたいなものはあるんです。

――知らなかった。動員といった目標じゃないんだろうなと勝手に思っていました。

たかはし:いや、あります。ありますよ(笑)。

――意外! どんなとこでやってみたいなとかあるんですか? 7月2日には初の単独日比谷野音公演が決まっていたり……

たかはし:そう、これがまさに夢だったんです。日比谷野音でやること。なぜかというと、私が高校2年生のときに『閃光ライオット』っていう10代限定のイベントを見に行ったんですよ。その時客席で「あ、ここでライブいつかやりたい」って思ったんです。その夢が一番の夢でした。何年かかかりましたけど、やっと立てるんだと思って。

ゆきやま:実はさっき、みんなで会場に行って来たんですよ。ほのかが語彙力を失ってました。

たかはし:「ヤバい! お腹痛い!」って言ってましたね。

――その気持ちだけですごいことになりそうだなっていうのが予感できます。内容は今からじっくり考えて行く感じですか?

ゆきやま:はい。もう集大成的なセトリにしようっていうところは決まっています。余すところなく。

リーガルリリー

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取材・文=石角友香 撮影=新家菜々子

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