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BUCK-TICK、最新アルバム「異空 –IZORA-」を引っ提げた全国ツアー初日のレポート到着

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撮影:田中聖太郎

花も咲き綻ぶ4月12日、“最新が最高”を更新したとファンを興奮させたニューアルバム「異空 -IZORA-」をリリースしたBUCK-TICK。その最新作を引っ提げた全国ツアー「BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA-」が4月19日東京・J:COMホール八王子よりスタートした。

ふわりと客電が落ち、アルバム1曲目のSE「QUANTUMⅠ」が流れる中、ヤガミ・トール(Dr)、樋口豊(B)、星野英彦(G)、今井寿(G)と1人ずつメンバーがステージに登場すると、拍手とともに歓声が贈られた。このツアーから、マスク着用の上ではあるが約3年4カ月ぶりに“声出し”が解禁されたのだ。センターに櫻井敦司(Vo)が登場し5人がステージに揃うと、その声は最高潮に達した。待ちに待った瞬間である。

クラップや歓声を浴び、縦横無尽にパフォーマンスするメンバーは水を得た魚のよう。普段からステージに美しいシンメトリーを作る今井と星野のギター隊は、白を基調にした衣装や揃いの小道具で、まるで両翼のように対になって見えた。2人のギターが絡み合い1つのヘヴィなリフを響かせたり、軽やかなステップを踏みながら心地よいユニゾンを聴かせたりする。一方、ヤガミと樋口のリズム隊は黒を基調にした衣装で、柔らかく温かな低音で歌に寄り添ったり、ズシリと重いリズムで情感を表現する。

そして櫻井は両手を広げて、かかしになったり、天使になったり、比翼を持った機体になったりと、様々に変化をする。彼は両手を広げて何を願うのだろうか。銃を構えた手で愛しい我が子を抱きしめることへの許しだろうか。多様性への受容だろうか。LOVE&PEACEだろうか。「異空 -IZORA-」の楽曲で描かれた主人公たちはどれもが強烈で、イントロが始まるとすぐさま彼に憑依する。その一挙手一投足や、主人公たちの感情を乗せた歌の凄まじさたるや。なんとも美しく、鮮烈であった。

本公演は、有機的で美しいバイオリンの調べが加わることで温かみの増した「さよならシェルター destroy and regenerate-Mix」や、泡沫のような綺麗で儚い音粒が集まり、幻想的なイントロを紡いだ「無限 LOOP -LEAP-」「35年以上前のストーリーを最新の機材を使い、ここに再現致しました」と櫻井が紹介した「Boogie Woogie」など、「異空 -IZORA-」の楽曲を中心にした構成。先にも書いたが、どの曲も強烈である。そこにどんな既存曲がどんなふうに組み込まれるのかも興味深いところだったが、それは想像を超えていた。「異空 -IZORA-」の楽曲を肉付けしたり裏付けしたりして、えもいわれぬストーリーを作り上げていたのである。特に「太陽とイカロス」の後、すべてを包み込むような苦しくて切なくて優しくて美しい世界が待っていた。

ステージを観ながら、ふと戦時下を生きた詩人・茨木のり子の「さくら」という詩を思い出した。それは花の命になぞらえて、人の命の儚さと尊さを説く。命共よ、“今は 咲き乱れよ”とBUCK-TICKは謳う。一生のうちに何度桜が見られるだろうかと問うその詩に、あと何回BUCK-TICKのコンサートを観られるだろうかという思いを重ねながら、彼らのステージを堪能しているこの瞬間を愛おしく思った。ツアーは今始まったばかりだ。7月23日のファイナル公演まで、晩春〜初夏〜盛夏の季節を巡るツアーの中で「異空 -IZORA-」の楽曲がどんなふうに深化し、観る者それぞれの心にどんな空を描くのか。そして、この作品の物語はどのように変化していくのか、何度も足を運んで確かめたくなるようなステージだ。その移ろいゆく空模様を存分に楽しみたいと思う。

Text:大窪由香

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