左から 藤川有樹、髙木竜馬、石井琢磨
2023年7月30日(日)(東京・浜離宮朝日ホール)と8月6日(日)(徳島県阿南市文化会館)に4台ピアノコンサートが開催される。2年前ウィーンから発信された驚異のサウンドで多くの人々を虜にした企画がついに東京と徳島で実現。4人のメンバーのうち石井琢磨、髙木竜馬、そして、編曲・作曲も手がける藤川有樹(あるき)の3人にコンサートにかける意気込みを聞いた(宮田森はウィーン在住中のため不在)。4月某日、浜離宮朝日ホールで行われた試弾の様子とともにお届けする。
YouTube企画から実現した夢のコンサート
――2年前にYouTubeでウィーンから配信された4台ピアノセッションの模様は今でも視聴できますが、リアルなコンサートは初の試みですね?
髙木:2年前の2021年5月にウィーンで石井琢磨君からYouTube企画として声掛けがありまして、その時ちょうど4人ともにウィーンにいましたのですぐに実現しました。幸い視聴者の方々の反響もとても大きかったですし、「いつか実際のコンサートで実現したいね」とみんなで言っていたことがこんなにも早く実現したのは本当に嬉しいことです。同じ場所で学んだ4人で、そして日本で、また4台ピアノコンサートというのはめったにない機会だと思いますので、とても楽しみです。
石井:(2年前に)この企画を「誰とやろうかな」と考えた時に、まず「ウィーンで一緒に勉強した仲間たちとやりたいな」という思いがありまして、自然な流れでこの4人のメンバーになりました。学年は少しずつ違うのですが、友人同士といってもリスペクトし合える、ともに学び歩んできた大切な仲間で、彼らも快く賛同してくれました。
Beethoven: Symphony No.7 in A major 1st movement for 4 pianos
――藤川有樹(ふじかわあるき)さんは、編曲や作曲も手掛けていらっしゃいます。この4台ピアノ企画のためにも様々な作品を編曲していますね。
藤川:このYouTube企画のためにベートーヴェンの交響曲第7番を4台ピアノ用に編曲したものが初めての公開でした。それ以前はほとんど作品を公開していませんでしたが、この編曲作品をきっかけにして継続的に公に出しています。
――(4台ピアノの作品は)編曲している間も一人ひとりのことを思い浮かべているのでしょうか?
藤川:もちろんです。僕自身もピアニストですし、同じ時期にウィーンで一緒に勉強していた仲間ですので、それぞれの持ち味や音楽性、音色もよく理解しています。なので書いていると「彼だったらこう弾くだろうな」というのが思い浮かんできます。この4人のためのオーダーメイドの作品として編曲させていただきました。
藤川有樹(右)
4台ピアノの魅力とは?
――4人で演奏していて何か一番楽しいですか?
石井:まずは各人のキャラクターが演奏にでてくるところですね。かといって一人ひとりが意見を押し通すのではなく、リハーサルの段階でも「君がこうなら僕はこう思うな」という建設的な意見交換や議論ができるのが楽しいですね。“あうん”の呼吸で、というのもいいのですが、4台となると、どうしてもある程度の流れを作っていかなくてはいけないので、リハーサルはとてもやりがいがありますね。
髙木:リハーサルはめっちゃ楽しいよね。交響曲やオペラ、バレエなども大好きなメンバーばかりなので、いざ交響曲をやるとなるとしっかりCDを聴き込んで、それぞれに明確なイメージを持って参加するんです。そのような土台がしっかりとある状態からのスタートなので、共通の一つの作品に向けて互いの思いを寄せていくそのプロセスがとてもいい感じなんです。
――それは寄せていくことで、最終的にはうまく収束して一つにまとまるんですか。
髙木:すごくいい感じで、まとまるよね。
石井:やはりお互いがすごく良い感じでリスペクトし合っているというのが一番重要だなと思います。そこからいいものが生まれるという感じですね。
――4人となると指揮者的な存在もある程度必要ですね?
石井:う~ん、音楽面でのリーダーはこのグループにはいないですね(笑)。
髙木:でも、4人が息を合わせなくてはいけないところでは、やはり、全員が自然と琢磨を見て、合わせるようにしています。だから、琢磨も合図を出してくれています。でもそこに上下関係があるわけではなくて、4人が横並びに一生懸命、いい作品を創り上げようとしている感じです。
藤川:この仲間でよく飲んだりもするんですが、だいたい琢ちゃんのいるところにみんな集まりますね。
髙木:彼はナチュラルボーンリーダーなんですよ。
石井琢磨
――もう一人のメンバーである宮田森(みやたしん)さんは、ウィーン在住のため本日不在ですが、彼はどのようなキャラクターの持ち主ですか?
石井:僕は彼と同門だったんですが、すごく真面目で、実直で楽曲分析などを重視する、ウィーンらしさみたいのをしっかりと持っている正統派なタイプですね。
――そもそも4台ピアノという編成の魅力とは?
髙木:先ほど、本番でも使用させて頂く浜離宮朝日ホールの舞台の上で試弾をして響きを聞きました。もちろん音量も4倍なのですが、一つの楽団が弾いているようなまとまり感を感じて、これが4台ピアノの魅力なのか、はたまた僕たちの相思相愛関係から生まれるものなのかはわからないのですが、やはり新たな発見、感触というのはありました。正直、こんなにまとまっているとは思わなかったので、多分に藤川君の編曲の巧みさというのもあると思います。
藤川:書き手目線で4台ピアノの魅力を考えると、まず機動力というのでしょうか。例えば、「ここは音楽を前に進めるべき」という箇所など、オケだとやはり人数が多いのでなかなか難しいこともあると思います。ですがピアノ4人という少数精鋭の編成だといい具合に流れていくんです。音量的な面ではびっくりするくらい音が出ますし、小さい音もとても響きます。加えて、音色の多彩さもピアノソロより増えるというところも魅力だと思います。
石井:4台ピアノをYouTubeに出したいと思ったのは理由があって、交響曲を聴きたいと思ったら、もちろんCDもありますが、やはりコンサートホールに行かないとその醍醐味はわからないというのがあるじゃないですか。そこで、4台ピアノというかたちで交響曲を紹介することで、ピアノを目当てに来場されたファンの皆様も「交響曲というまた違った世界があるんだ」ということを新たに発見して頂けることもあると思いますし、またオーケストラがもともと好きな方々も「ピアノだけで、しかも4台で演奏すると、またオケとは一味違うサウンドの良さがあるんだ」ということも感じて頂けるんじゃないかと思うんですね。4倍のパレット、色鉛筆があるというのは、それだけ引き出しも増えるわけですし、ものすごい可能性を秘めていると思います。
初演を含むラインナップで新たな魅力の発見に
――当日演奏予定のラインナップについてお聞かせください。
石井:流れとしては、自己紹介替わりに一人ずつソロ演奏をして、連弾をやって、2台ピアノをやって前半を終えて、後半に4台ピアノでの演奏というかたちを考えています。2台ピアノは僕と髙木君でヒナステラの作品を演奏して、ラヴェルのボレロは藤川君と宮田君が連弾というかたちで演奏する予定です。そして後半はたっぷりと4台での演奏で交響曲をお届けします。ソロ作品は、それぞれ未定なので、そこらへんはお楽しみということで。
髙木:編成も響きもだんだんクレッシェンドしていくようなかたちを考えています
石井:僕は一つのソナタ形式と考えていて、だんだん盛り上がってゆく感じです。だから後半の最後には客席の皆さんが「おっ!」となっているはずです。
髙木竜馬
――先ほどの試弾で、情熱的でエキゾティックな一節が聴こえてきましたが……。
藤川:あれはヒナステラのバレエ音楽『エスタンシア』のマランボです。2台ピアノのための作品として以前編曲したもので、今回が初演です。
髙木:もともとはオケ作品でして、(指揮者の)ドゥダメルと彼の祖国のユースオーケストラの演奏などではお祭り騒ぎ的な感じで演奏しています。今回この作品で前半を締めるのですが、とてもふさわしい一曲だと思います。
藤川:ついつい、身体を動かしたくなるような作品です。プログラムでは、この曲の前がボレロなので舞曲つながりで並びもいいです。ボレロは僕と宮田君の連弾です。この曲はモダンバレエでもやったりしますが、二人の手が交差するところなど視覚的にも楽しんでいただけるようアレンジしています。
――なかなか耳慣れない編成ですから、「こういうところを聴いて欲しいな」という点がありましたら教えてください。
髙木:この配置(写真参照)でいくのであれば、どの角度から見てもすごく臨場感を持って楽しんで頂けると思います。僕と琢磨は客席の皆さんには背中を向けていますが、かなりダイナミックに鍵盤が見えるはずですし、この距離で鍵盤全体をご覧頂ける機会はなかなかないと思います。
横には藤川君と宮田君がいますので、彼らの表情もばっちり見えますし、通常のソロの場合だと、どうしてもサイド側のお席からは見切れてしまうところがあると思うのですが、今回に限ってはどこから見ても楽しんでいただけると思います。”あうん”の呼吸で弾くところもあれば、ばっちりアイコンタクトも取るところもあると思いますので、いかに4人が同じように呼吸をしているかも見て頂けたらとも思いますし、目と耳の両方から新しい刺激を感じて頂けたら嬉しいです。
石井:臨場感あふれる音×4というのは、実は僕たちもまだ聴いたことがないので、そのダイナミックなサウンドを僕たちと一緒に楽しむ最初のお客様になって頂けたら嬉しいですね。
藤川:全体的な響きを楽しんで頂くのももちろんですが、このホールだと、あ、このフレーズは彼が弾いているな……というようにいろいろな聴き方を楽しめると思いますね。
――今回は東京公演に加えて、徳島でも演奏されるそうですね。
石井:徳島県阿南市で8月6日(日)に『音楽の日』というフェスティバルがあり、そこでの公演も決まっています。なので二か所ツアーというところでしょうか。僕の故郷に3人を連れていきます。関西方面の方々はぜひこちらに来ていただけると嬉しいですね。
――最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
髙木:ウィーン国立音楽大学で同じ空気を共有してきた仲間たちが4人そろって演奏できる機会はなかなかないと思いますし、実際、僕たちにとっても貴重な機会ですので、僕たち自身が楽しんで演奏している様子を見に来ていただければ嬉しいです。僕たちも一生懸命準備したいと思っています。
藤川:初めて4台ピアノの響きを聴いたときは本当に衝撃を受けたのですが、今回はお客様にもそのサウンドをお届けできるのは嬉しいことです。「ピアノっていい楽器だね」さらに「オーケストラの曲っていいね」と感じて頂けるよう頑張らせていただきます!
石井:2年前のリハーサルでは、4台ピアノが置いてある部屋がなくて、二人ずつで長時間合わせをしていたんです。そのおかげで、他の人のパートもよく理解できるようになりましたし、スタッフもいないところでしたので、自分たちで蓋をはずしたり、運んだりといろいろな嬉しい苦労や思い出があります。そういうことを考えると僕たちにとっては、夢が叶う瞬間でもありますので、その瞬間にぜひ皆さんにも立ち会って頂けたら嬉しいですね。皆さん、お時間あったらぜひ来てください。
ドヴォルザーク: 交響曲第9番「新世界より」第4楽章 / Dvorak Symphony No.9 4th movement for 4 pianos
取材・文=朝岡久美子 撮影=福岡諒祠
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