吉川晃司、ニューアルバム「OVER THE 9」を引っ提げた全国ツアーファイナル日本武道館公演のライブレポート到着
吉川晃司の全国ツアーファイナルとして、2月23日・24日に東京・日本武道館公演が開催された。約6年半ぶりとなるオリジナルニューアルバム「OVER THE 9」を引っ提げ行なわれた最新ツアーの締めくくりとなる2DAYS公演。高まる期待感が地熱となって会場を高揚で包んだ。
ツアー参加ミュージシャンは、菊地英昭(Gt.)、INORAN(Gt.)、ウエノコウジ
(Ba.)、湊雅史(Dr.)、ホッピー神山(Key.)という百戦錬磨の顔触れ。バンド経験も豊富で実力もネームバリューも最強のメンバーが、ステージに厚みを加えてきた。
また、今回の公演では、実験的かつ画期的な映像収録が行なわれたことも話題となった。DAY1では、満場の観衆を迎えた通常のコンサート収録。DAY2では、“EXTRA SHOOTING LIVE”と題して、ドローンや大型クレーンなど数多くのカメラを導入。アリーナエリアに座席を設けずに特別な演出も施し、有観客でのドローン撮影も実現した。
公演本編は「OVER THE 9」収録曲を中心に、キャリアの中から現在の吉川晃司に連なる楽曲で構成されたセットリスト。80年代前半の代表曲ともいえる「LA VIE EN ROSE」「No No サーキュレーション」や、COMPLEXの「GOOD SAVAGE」「恋をとめないで」も散りばめながら、スケール感あふれるダイナミックなパフォーマンスが展開された。
特に印象的だったのが、冒頭の2曲だ。最新アルバムのオープニングチューンでもあるロックンロールナンバー「ソウル・ブレイド」。ツインギターのリフレインが吉川の魂の刃に寄り添い、胸に突き刺さる。オーディエンスの鼓動と客席に配られたリストバンドのライトの点滅が、激しく呼応する。
続く「ギムレットには早すぎる」では、彼の美学でもあるハードボイルドへの深い造詣に、スイングジャズへのオマージュが彩りを添える。キーボードの絶妙なアクセントがまた素晴らしい。骨太かつソリッド。野性的でありながらゴージャス。彼の音楽性がさらに広がっていることが伝わる2曲だった。
もうひとつ、特筆したいのが、中盤で披露された最新アルバム収録のミディアム~バラードナンバーだ。ポップでダンサブルなサウンドとシュールな言葉遣いが見事な「タイトロープ・ダンサー」では、全国ツアーを通じて練り上げられた大きなグルーヴで武道館を包む。
続く「風が呼んでいる」は、どこか懐かしさを感じさせるメロディーラインが秀逸な楽曲。噛み締めるように歌う吉川と、歌にそっと寄り添うようなバンドの演奏がとても心地良かった。
イントロのリズムパターンからスリリングな「One Side Liar」は、ドラマティックな楽曲構成とシニカルなメッセージが融合した、吉川晃司ならではの作品。見事なバンドアンサンブルで聴衆を魅了した。バラード楽曲「まだ愛のために」での低音の魅力を活かした歌声も味わい深かった。
ステージ後半はアップテンポなナンバーで攻めに攻めた、吉川流ロックンロールの真骨頂。「ナイフ」や「SAMURAI ROCK」など、今では彼の“古典”とも呼ぶべき名曲たちが吉川の音楽史を繋ぐブリッジとなっていたことも嬉しかった。そして、強靭なリズム隊が、場内の熱狂と興奮を受け止め吉川とバンドの演奏を支えていたことも記しておきたい。
WOWOWでは、この2日間の公演を過去に例を見ない斬新な収録によるライブ映像を交えて5月27日20:00より放送・配信する。躍動する吉川の肉体、ステージ上に迸る汗と熱、シンバルキックで描かれる放物線。すべてが空前絶後で規格外だと言って過言ではない。
来年40周年を迎える吉川だが、常に挑み続ける姿勢はデビュー当時から何も変わっていない。しかし、己の理想を追求し突き詰めた日々、壁にぶつかり跳ね返された経験、そして、コロナ禍で八方塞がりとなりながらも可能性を模索し続けたここ数年。すべての積み重ねは、間違いなく彼の表現をより重層的にしている。
表現の幅が広がりその奥行きが深くなる一方で、加速度は更に増しているようだ。長年彼の活動を支持してきた者たちにとっても、現在の吉川の姿は誇らしく感慨深いものであろう。
成長から成熟へ、そしてさらなる進化(深化)へ。彼は今、自らも未だ知りえない本当の“吉川晃司”に、また一歩近づいていこうとしているように見える。表現者として前人未踏の領域に挑もうとしている彼のLIVE=生き様そのものを、番組で目撃しよう。