KANA-BOON、10周年イヤーの幕開けを飾る初野音ワンマンをレポート

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撮影:ハタサトシ

今年9月で2013年のメジャーデビューから10周年という節目を迎えるKANA-BOON。そのメモリアルイヤーの幕開けとなる記念ライブ「KANA-BOON 10th Anniversary KICK OFF LIVE『Sunny side up – Moon side up』」が、東京・大阪の“野音”で開催された。4月30日の大阪・大阪城音楽堂に続いて5月14日に東京・日比谷野外大音楽堂で行われた公演の模様をレポートする。

メンバーもライブ中のMCで何度も「自分たちは雨バンド」と笑っていたが、この日はあいにくの空模様。だが雨の中でライブを観るというのもある意味で野音ならではの醍醐味だ。会場に集まったファンの熱は高く、開演前から客席には期待感が渦巻いていた。色とりどりのレインウェアに身を包んだファンの世代は幅広く、親子連れのお客さんもいる。そんなあたりにも10年という時間の流れを感じていると、いよいよライブがスタート。1曲目に選ばれたのは「1.2. step to you」だった。1stアルバム「DOPPEL」のオープニングナンバーだ。谷口鮪(Vo・Gt)の「キックオフ!」という叫びとともにイントロに突入すると、ステージ上から客席に向かって銀テープが放射される。オーディエンスの力強い手拍子がバンドを後押しする最高のロケットスタートだ。続くメジャー1stシングル「盛者必衰の理、お断り」でもその手拍子は鳴り止まない。小泉貴裕(Dr)のパワフルなスネアと古賀隼斗(Gt)のギターリフが楽曲をドライブさせ、客席からはシンガロングも巻き起こった。すでに2曲でライブのテンションはピークだが、そこで手を緩めないKANA-BOON。ここで必殺の「ないものねだり」を繰り出す。冒頭の「1、2!」の掛け声からオーディエンスと一緒に曲を盛り上げていくと、曲中でのコール&レスポンスパートでは谷口だけでなく他のメンバーも参戦。遠藤昌巳(Ba)は「気持ちいいー!」と笑顔を見せ、小泉の絶叫には歓声が上がった。

そんな「ないものねだり」を終えて「日比谷野音にKANA-BOONが初めて立ったぞ!」と谷口。めちゃくちゃ楽しそうで元気でハイテンションだが、ここでじつは彼の肋骨が折れているという衝撃の事実が明かされる。10日ほど前にスケボーをやっていて怪我をしたのだそうだ。「骨は折れても心は折れない、谷口鮪です、どうぞよろしく!」。みんなの声で折れた骨がどんどんくっついていっている、とライブの効用を口にしているが、実際はともかく、でかい音を鳴らしてお客さんの声を浴びていると、痛みなんてどこかにいってしまうのかもしれない。その証拠にライブはその後もどんどん勢いを増していく。ここからは谷口がハンドマイクで歌う「FLYERS」にはじまり、シングルのカップリング曲を連打。本当だったら夕日をバックに歌うはずだった「オレンジ」は思い描いていたシチュエーションとは違うものになってしまったが、オレンジ色の照明と優しいメロディが雨で少し冷えた体をしっかりと温めてくれた。

「ユーエスタス」を終えて谷口は客席に「桜は好きですか?」と問いかける。KANA-BOONには「さくらのうた」という名前の曲が3曲ある。その中からまず披露されたのは「桜の詩」。切ないメロディがじんわりと心に染み込むようだ。続けて今年3月に配信リリースされた最新の桜ソング「サクラノウタ」へ。ピンクのライトが夜に近づく日比谷に一足遅れた春を連れてきた。「KANA-BOON夜の部へようこそ!」。そんな谷口の言葉を合図に小泉がマーチングドラムを高らかに鳴らす。「夜のマーチ」だ。ここからは「スーパームーン」「夜をこえて」と「夜」をテーマにした楽曲を立て続けにパフォーマンス。谷口は「KANA-BOONには夜の曲が多い」と言っていたが、孤独と切なさを抱えた夜につぶやくひとりごとのようなそれらの曲は、雨が降る野音にとてもよく似合っていた。だが、たとえば1stアルバムからの「夜をこえて」などはそれだけではない強さも感じさせる。古賀ののびやかなギターも頼もしく、さまざまなことを乗り越えて前に進み続けてきた彼らの歩みを証明するような響きをもっていた。

「バンドを長らくやってきて、発見したことがあって」。ライブ終盤を前に谷口がおもむろに口を開く。「俺たちはロックスターなんてガラじゃない。手の届かない存在にはなりたくない。そんな高いところにいったらあなたに手を差し伸べられなくなるから。ロックスターじゃなくて、俺たちはヒーロー」――倒れても立ち上がって誰かのために戦い続けるヒーローの姿は、確かにKANA-BOONにこそふさわしい。「たくさん転んで、たくさん転ばされてきた。何度も立ち上がって歩き出した先に今日がある」という谷口の言葉には、決して順風満帆というだけではなかった彼らの歴史がにじむ。「よく見ていてください、俺たちがKANA-BOONです」。そう言って谷口が歌い出したのは「フカ」。“当たり前を変えてみたいだろう/君は何度も何度も何度も何度も/立ち上がり歩き出す”という歌詞が、先ほどの谷口の言葉と重なって、胸が熱くなった。

そして困難な時期のKANA-BOONを支え続けてきた「まっさら」をオーディエンスの声とひとつになって全身全霊で鳴らすと、その「まっさら」にも通じるテーマを力強く歌う「シルエット」へ。この曲もずっとKANA-BOONのそばにあり続けてきたもので、谷口が言っていたとおりアニメの曲としてKANA-BOONを世界に連れていってくれた楽曲。歌われる言葉は変わらないが、時を経てより強い意志と実感を伴って鳴り響く「シルエット」はどこか誇らしげに聞こえてきた。そして遠藤のコーラスも印象的な「きらりらり」を経て、本編最後の曲へ。ここで6月14日にリリースするコンセプトアルバム「恋愛至上主義」の告知をすると、そのアルバムからの1曲「ぐらでーしょん」をゲスト・北澤ゆうほ(the peggies)とともに披露。ポップなサウンドとアッパーなリズム、そして男女ツインヴォーカルの華やかな歌が夜空へと舞い上がる。演奏しているメンバーも、歌っている谷口と北澤も心から楽しそうな表情を浮かべているのが印象的だった。

アンコールに応えて「スターマーカー」を演奏すると、谷口は「ひとまず今日これまで、ありがとうございました。そしてこれからもよろしく!」と客席に笑顔を向けた。そう、10周年の節目を超えて、KANA-BOONの歴史は続いていく。最後の最後に奏でられた「眠れぬ森の君のため」の感情のこもった熱演は、彼らの中にある「原点」がじつは少しもブレていなかったということを物語っていたと思う。たくさんの夢を叶え、たくさんの喜びを感じ、たくさんの涙を流してきたKANA-BOONはこれからも「覚めない夢」を歌い続ける。ここから始まる10周年のさまざまなこと、そしてその先を追いかけ続けたい、と思った。

この日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブの模様とその裏側に密着した特別番組が、6月15日21:00からスペースシャワーTVにて放送されるも決定している。

文:小川智宏
撮影:ハタサトシ

セットリスト

M1. 1.2. step to you
M2. 盛者必衰の理、お断り
M3. ないものねだり
M4. FLYERS
M5. Weekend
M6. ロックンロールスター
M7. オレンジ
M8. ユーエスタス
M9. 桜の詩
M10. サクラノウタ
M11. 夜のマーチ
M12. スーパームーン
M13. 夜をこえて
M14. フカ
M15. まっさら
M16. シルエット
M17. きらりらり
M18. ぐらでーしょん(feat. 北澤ゆうほ)

En1. スターマーカー
En2. 眠れぬ森の君のため

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