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山本彩はなぜ歌詞を書き、曲を作るのか? 新曲「劣等感」と「Bring it on」に込めた想いとは

アーティスト

SPICE

山本彩 撮影=高田梓

山本彩 撮影=高田梓

シンガーソングライターの山本彩が3年ぶり、自身4枚目となるアルバム『&』をリリースする。既存曲に加え、「劣等感」、「Bring it on」という新曲2曲を新たに書き下ろした今作。このインタビューでは『&』というタイトルにちなんで、どんな面が合わさって山本彩という一人のアーティストが形成されているのかを探ってみた。

――今回、SPICEには初登場ということで、まず基本的なところからお伺いしたいと思います。山本さんが自ら楽曲を制作して歌っている理由を教えてもらえますか?

理由は、そのなかの一つとしてライブが好きだというのがありまして。そのために歌っているところはありますね。実際、作品を作るときもライブを想定しながら制作することも多いですし。そうして作ったものをライブでやれるから作れているし、作るのを楽しめているところもあるので。“これ、ライブでやったらみんなどんな反応すんやろう?”とか。そういうことを考えるのが楽しくて作っていることも多いので。やっぱりライブは大きいかもしれないですね。

――最新アルバムでいうと「ぼくはおもちゃ」 とか、ライブで演奏したらみんな盛り上がりそうですものね。

そうですね。今回のアルバムのなかにはアッパーでがっつりロックな曲はあっても、ここまでポップな曲はないですからね。あと、音楽を作って歌う理由としては、私は自分の思いを言葉にするのがあまり得意なほうではないので、歌詞を書くときはいつも時間がかかるんですね。

――曲を作るよりも時間がかかる?

はい。めっちゃかかるんですよ。作曲はそこまでかからないんでけど。

――楽曲制作は曲を先に作るんですね。

そうです。曲先です。こうして人と会話をするときって、思っていることをすぐに言葉にする力が必要ですけど、作詞は書くまでに時間がかけられるので。その分、自分にとっては、より自分の思いを言葉でしゃべるよりも表現しやすいんです。そこも、音楽を作る理由の一つですね。

――そもそも作詞、作曲をやろうと思ったきっかけは何だったんですか?

一番最初に憧れたスタイルが、シンガーソングライターだったからですかね。

――そのような考えがありながらも、グループ時代はプロの作家さんによる作品を歌われていました。そのときはどういう心境だったんですか?

まったく違う楽しさがありました。頂いた楽曲を歌いながら……、お芝居に近いというか、自分じゃない自分になるというのがアイドル時代だったんですね。自分なりに、頂いた楽曲ごとに表現方法を探してパフォーマンスをするという面白さがあったんです。でも、そうじゃなくて、嘘偽りのない、ありのままの自分を表現したいという思いはずっとあって。自分が作った楽曲を自分で歌うことでそれができるのは、シンガーソングライターというスタイルの一番の楽しさだと思いますね。

 

 

いっつも戦う相手は自分だった気がします(苦笑)。結局、自分を変えられるのは自分しかいなくて。なので、そういう気持ちが自然と歌詞にも出てきているのかなと思います。

――では、ソングライティングをするようになって、山本さんが作って歌う楽曲は、今作でいうと《色褪せた今日というオーディナリーにバイバイ》(「ドラマチックに乾杯」)とか、《高い壁だって わかって向かうんだ》(「against」)とか、《もう一度新しい自分と会うためにここから出ていくよ》(「ゼロ ユニバース 」)など、とにかく現状を打破して次に向かおうというメッセージ性が強くなって。そこにロックなファイトスピリッツを感じるのですが。このような気持ちは、歌詞を書くようになってから出てきたものなのでしょうか?

ああ~、どうやろう……。たしかに“自分てそういう人間なんやな”って気づいたのは作詞を繰り返していってからだと思うんですけど。でも、歌詞を書くようになる前も、いつも戦ってるのは自分自身というか。

――自分とバトルしていたタイプですか?

そうですね。いっつも戦う相手は自分だった気がしますね(苦笑)。

――そのことに気づいたのはいつ頃ですか?

グループにいた頃ですかね。戦っているのはいつもメンバーや自分以外の対象だと思っていたんですけど、実はそういう存在がいるからこそ“自分はこういるんだ”という発見がありました。結局、自分を変えられるのは自分しかいなくて。私はそこで、なによりも自分に負けたくないんだと思うんですよ。自分の大事にしている言葉の一つに“克己心”というのがあって。自分に打ち勝つ力という意味なんですけど。なので、そういう気持ちが自然と歌詞にも出てきているのかなと思いますね。

――歌詞に書くことで、そこには“負けんなよ”と自分を鼓舞している気持ちも。

めちゃくちゃあります! 今回収録した新曲はまさにそうで。

――「Bring it on」と「劣等感」ですか?

「劣等感」はむしろ強がらない、弱い部分をそのまんま歌詞に書いたものなんですど。「Bring it on」に関しては、自分のボルテージを上げるために書きましたから。ライブが始まる直前、自分を鼓舞するために書いたような曲でもあるので、そういう色合いが強く出ていると思います。

――歌いながら自分で自分に気合いを注入していく歌というか。

ええ。だから、いままで書いた曲でも、運動しながら聴いたりする曲もあって。

――そのリストに確実に仲間入りしそうなのが今回の「Bring it on」。

はい。なので、書けてよかったと思ってます。

――この曲はアレンジも洋楽寄りで、曲調もかなりハードでアグレッシブなロックです。

このときはそういう強いモードだったんですよ。自分を全肯定して、なによりも自分は強いんだって。“自分最強!”っていう気持ちになれる瞬間と、なりたい瞬間ってあるじゃないですか? この曲を書いたときは前者のモードに入っているときだったんです。

――書いたのはいつ頃だったんですか?

休養から復帰してからですね。アルバムを出すこととツアーをやることも決まっていたので、“じゃあこっからあとはやるだけや!”という気持ちのときに書いたんです。

――そうしたら、山本彩史上最強の無敵ソングが誕生した。

そうです(笑顔)。

――英詞パートが多いところも新しかったですね。

ここまで入れたのは初めてです。これは、歌詞を書いていたら自然と“あ、ここは英語にしよう”と思ったんですよね。

私は、劣等感の塊みたいなものですから。「劣等感」という曲を書いたことによって、少しは楽になった部分はあるんです。

――では、この流れで新曲「劣等感」についても聞かせて下さい。こちらはどんなきっかけから生まれた曲ですか?

ずっとこういう思いが自分の中にはあったんです。でも、なかなか人に言えるものではないので……。

――山本さんが劣等感を抱いているとか、あまりイメージがわかないのですが。

あ~、それよく言われるんですよ(苦笑)。むしろ私は、劣等感の塊みたいなものですから。本当は。

――え! そうなんですか?

ええ。でも、この曲を書いたことによって、少しは楽になった部分はあるんですけど。でも、ゼロになった訳ではないんですよ。

――歌詞には《あの子にあって、私にないものは 一体何個あるんだろう TVに映る人、すれ違う人を見ては比べている》とありますが。子供の頃からこの歌詞のように人と比べている自分がいた訳ですか?

いや。昔は全然そんなことなかったですね。

――では、グループに所属したことで思うようになった?

グループなのか、年齢を重ねていくことによって強くなっていったのか、こういう業界のなかで生きているからなのか。そこは自分でも分からないんですけど。でも、めちゃめちゃ人と比べたりする自分がいて。常に意識する対象がいるんですよ。私は周りの目とかも気にするタイプなので、今の自分は周りにどう映ってるんだろう?とか。あの人と比べられてるんだろうなぁ、とか。人だけではなく、数字とかもそうなんですよね。枚数とか、動員とか、再生回数とか。それだけではないのに、そういう数字も気にしてしまうタイプではありますね。

――息苦しくなったりしませんか?

苦しいです。だからこの曲が生まれたんです。

――どうでもいいや、とは思えない。

いや。そうなれる瞬間もあるから「Bring it on」が生まれるんですよ(笑)。だから、両極端にしか物事を考えられないというか。

――まさに今作のアルバムのタイトル『&』が示すように白か黒か。その二面性があってこそ、山本彩なんですね。

ああー、そうですね。私は中間がないんですよね。楽曲を聴いてもらったら分かるように。“なんとかなるさ”精神みたいなものがないんです。

――中間がないからこそ、「愛なんていらない」とか歌っちゃうんですね。

そうなんです(笑顔)。極論にいっちゃうんです、書いていたら。こういうものを書こうと思って書いてるんじゃないんですよね。自分に降ってきた言葉をそのまま書いたら、言い切りなんですよね。

――歌詞は、喝を入れるような言い切りが多いですものね。

そうですね。そうやって“もっとできることがあるんじゃないか”って、常に自分に言い聞かせているんだと思います。

――自分に厳しいんですね。

だから、ありのままの自分をちゃんと認めてあげて、優しくしてあげられる術を持っている人は素敵だな、素晴らしいなぁと思います。自分はそうはなれないから、なかなか生き辛いんですけど。でも、どうしようもないと思います。これが性格なので。

――内面ではこんなに劣等感を抱いていて、自分と戦ってばかりいながいながらも、外見からはそういうものが感じ取れないところも山本さんの二面性で。パッと見た感じで受ける印象は、誤解を恐れずに言うと、いい人というか。

あぁ……(苦笑)。よく言われます。真面目でまっすぐ、という印象を持たれがちですね。

――だけど、その枠だけには収まりきらない自分がいる訳ですよね。

はい。むしろ、収まりきらないほうが自分らしい一面だと思っているので。そこを表に出し切れてないところは自分のせいで。いまの自分に足りない部分なんだと思いますね。

――真面目とかまっすぐという印象があるからこそ“さや姉 ”という愛称もついたんでしょうし。

そうかもしれないですね。自分からそう呼んで欲しいと言った訳ではないので。

――ライブではどうですか? 自分の極端な二面性が出ていると思いますか?

いや。ライブは基本、気を張ってて、ずっとオンモードなんですよ。だから、ライブを観てくれている方は「劣等感」の印象は抱きにくいだろうなぁと思います。自分でもスイッチが入ってゾーンに入っているときは、めちゃくちゃ気持ちいいし、自分でも“こんな自分いるのか!”っていうぐらい。

――最強の自分なんですね?

そうです。だから、ライブ=自分とも言えなくて。ライブはまた別の自分になってしまったりするから。それも、なろうと思ってなれるものでもないので。

――毎回、最強の自分になれる訳ではない、と。

そうなんですよ。だから、そこも難しいところでもあって。

――最強になれないと「劣等感」みたいな弱い自分がまた顔を出てきてしまったりして。

はい。上がった分そこでまた下がるんです。

――下がると、また“もっとやれることあるだろう”と自分に喝を入れる自分が出てくる。

そうなんです(苦笑)。

 
 

 

――ライブではエレキ、アコギ両方を弾かれていますが。ギターを弾きながら歌ったほうが最強になれるんですか?

ああ、そうですね。なにも持っていないと手が寂しい、みたいな感じなんですけど。エレキを持つとバフがかかります(笑)。ゾーンに入ってしまえばギターとかなくても、いくらでもいけるんですけど。

――ライブで最強の自分になれる瞬間は、グループのときでもあったんですか?

グループはグループで、ライブのときにしか感じられない楽しさがあるんですけど、それとはまた違うんですよね。ソロは独り占めでできますから。独り占めできる分、自己責任というプレッシャーは大きくあるんですけど。プレッシャーが大きい分だけ、いいライブができたときの高揚、達成感も独り占めできるので。そこは大きく違うと思います。

――山本さんの場合、ライブはご自身ですべてプロデュースされているんですか?

全部ではないですね。セットリストは自分が主軸で考えるんですけど。それを元に会議をしていると、この流れだったらこういう演出ができるよね、というアイデアが出てきて。それを舞台監督さんと話しながら形を作っていく感じです。

ただ心地いいから聴くというよりは、なにか救いや助けを求めて聴く。自分にとっては、人生のターニングポイントにはかならず音楽があったんです。

――6月13日からはアルバムを提げた全国ツアー『SAYAKA YAMAMOTO LIVE TOUR 2023-&-』がスタートします。どんなツアーにしたいと考えていますか?

ようやく本来のライブができるんじゃないかなと思うので、みんなと一緒に作るライブにしたいなと考えてます。今回作った新曲「Bring it on」はみんなに歌わせようと思って作ったので、英詞のところは全部憶えてきてね。よろしく! という感じですかね。ようやく本来のライブが楽しめるって考えると、自分が行く側だったら騒ぎたいと思うので。今回は小箱のライブハウスだからみんなとの距離も近いですし、熱気でライブハウスのなかを埋め尽くしたいです。なので、今作のアルバムがメインという感じよりも、いろいろごっちゃまぜで飛ばせる感じにしたいと思ってます。だから、疲れるライブになりますね(笑顔)。

――初めてライブに参加する方に、なにかアドバイスはありますか?

私は楽しんでくれてたら楽しいタイプなので、とにかくライブという非現実の空間を思いっきり楽しんでほしいです。

――アルバム『&』はどんな風に楽しんでもらいたいですか?

みなさんにとって、人生のいいときも悪いときも聴ける、寄り添える曲が集まったアルバムになっていると思うので、なにかにつまずいたときも、逆に絶好調なときも聴いてほしいです。

――人に寄り添ったり支えたりできる音楽を届けたいと考えてらっしゃるんですね。

はい。自分自身にとって、音楽の存在がそうだったので。ただ心地いいから聴くというよりは、なにか救いや助けを求めて聴くじゃないですけど、そういう存在のものなんですよ。本当に大袈裟じゃなく、音楽ってそんなに軽いものではなくて。だから、誰かにとって私の音楽もそうあってほしいなという思いで音楽は作ってます。一瞬だけすっごい聴くんじゃなくて、“ほんまにこの曲好きだな。一生聴いてたいな”と思ってもらえる曲を書いていきたいです。

――いままでたくさん音楽に支えられてきたからこその発言だなと思いました。

ありがとうございます。本当に支えられてきましたから。人それぞれいろんな音楽の聴き方があるとは思いますけど、自分にとっては、人生のターニングポイントにはかならず音楽があったんですよね。

――ではそのターニングポイントとなったとき、自分を支えてくれた音楽を一つだけ挙げるとすると?

ELLEGARDENの「ジターバグ」という曲です。兄が家でめっちゃエルレを聴いていて、めっちゃギターでコピーしてたんですよ。それを聴いて育ったのもあって(笑)。そのときはそこまで歌詞は聴いていなかったんですけど、大人になって改めて聴いたら、歌詞が自分とリンクしてめちゃくちゃ刺さったんですよ。《たった一つのことが今を迷わせてるんだ》、でも《数え切れないほど無くしてまた拾い集めりゃいいさ》という曲なんですけど。ああ、そうだなと思ったんです。いままで保身的になっていたけど、守るだけじゃなくて、何かを手に入れるためには何かを犠牲にして何かを捨てて、一からやるのも一つの道なんだなと、背中を押してもらった曲ですね。

――そういう音楽に自分が何度も背中を押してもらったからこそ、自分やリスナーを鼓舞するような熱いメッセージソングを書いてしまう。

はい。自分としてはもっといろんなことを歌いたいな、歌うべきなんだろうなと思うんですけど。

――穏やかな癒し系の楽曲をやわらかいトーンの声で歌っても、声質的には合うと思うんですが。

そうなんです。静かなバラードとか、自分でも声質的には合ってると思うんで歌いたいんですけど。でも、いまは、書くといつも戦ってるような曲が生まれてしまうんです(笑)。

取材・文=東條祥恵 撮影=高田梓

 

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