2023年7月21日(金)ザ・シンフォニーホール(大阪)にて、イタリアのピアニスト ベネデット・ルーポがリサイタルを行う。二度目の来日だという今回は、彼が特に心を寄せているというシューマンとブラームスを取り上げる。リサイタルについて、ベネデット・ルーポに聞いた。
――ルーポさんは、今回で2度目の来日だそうですね。
ずいぶん前に、一度だけ日本を訪れました。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで第3位を受賞した後だったと思います。
――7月の来日では、初めて大阪のザ・シンフォニーホールでリサイタルを行ないます。シューマンとブラームスの作品によるプログラムです。
まず、ブラームスとシューマンは、とても緊密な関係があります。ブラームスは、シューマンによって再発見されました。ブラームスの作品で聴いていただきたいのは、大きな楽曲形式を展開する能力に長けている点です。その一方、最終的には小品に回帰し、そのなかでブラームスは直接的で細やかな表現をするようになりました。シューマンは、小品のなかでデリケートな表現ができますが、《ピアノ・ソナタ第2番》では古典的な作曲技法に回帰しています。そこをお聴きいただきたいです。
――ブラームスは、1853年にシューマン夫妻と初めて会いました。
ブラームスは、デュッセルドルフのシューマン夫妻の家を訪れます。そのとき、シューマンはブラームスを高く評価しました。
――リサイタルで演奏するブラームスの作品118と作品119の作品集は、クララ・シューマンと深く結びついています。
ブラームスのこれら2つの作品集は、クララ・シューマンに献呈されてはいませんし、そういうことも楽譜には書かれていません。でも、多くの研究者や専門家は、クララ・シューマンへのブラームスの気持ちとして送られたと述べています。
――ところで、イタリア人のルーポさんにとって、ブラームスとシューマンというドイツ・ロマン派の作曲家について、どのように感じていますか。
イタリアの音楽とドイツ音楽の違いはありますが、ロマン派の時代もそうでしたが、イタリア人音楽家もドイツ語圏の音楽家もそれぞれの国に行き来していました。ブラームスもシューマンもそうです。ふたりの作品にアプローチすることは、私にとっては難しいことではありません。それから、わたしは小さいころからドイツ文学が好きでした。ブラームスやシューマンのようなドイツ的な性格が濃く、ディープな作曲家にも親近感を覚えます。
イタリアよりも北の国々の音楽は、イタリアのオペラとの結びつきが強いのです。ドイツ語圏の作曲家のピアノ曲のなかにも、イタリア・オペラの要素がさまざまな形で入っています。例えば、モーツァルトはオーストリア人だけれど、イタリア語を母国語と同じくらい習得していました。ドイツのピアニストであろうがイタリアのピアニストであろうが、ピアニストはイタリア・オペラを学ぶべきだと思います。音楽の語法の点でも、ドイツとイタリアとが区別されている感じは、自分にはありません。
――ルーポさんの演奏を拝聴し、歌うような表現が印象的でした。
それはボレット先生から学んだ部分でもありますが、イタリア的なピアノの弾き方はまさにそこにあるのです。
ワーグナーは、イタリア・オペラをよく知ったうえで楽劇を作りました。彼は、自分の楽劇を歌うドイツ人歌手たちに、イタリアの声楽の技術を使ってほしいと望んでいました。また、メロディラインを歌うように際立たせる音楽は、主にイタリア人やスペイン人の得意とするところで、その表現はワーグナーやブラームス、シューマンのなかにも浸透しているのです。
――読者のみなさまへメッセージをお願いします。
大阪でのリサイタルで演奏するシューマンやブラームスの作品は、彼らの日記のようなもので、個人的で細やかな感情や感覚が語られています。ささやき合い、心に訴えかけるような内密な音楽ですので、ザ・シンフォニーホールの緊密な空間でそれを感じ取っていただきたいですね。でも同時に、彼らの作品はとても情熱的で、人々の共感を呼び覚まし、自分のなかに聴き手をいざないます。さまざまな音楽のあり方を味わっていただけたら幸いです。