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オフィスオーガスタ主催の新人発掘イベント「CANVAS vol. 8」ライブレポート

アーティスト

撮影:永田拓也

音楽プロダクション・オフィスオーガスタが運営する新人発掘・開発プロジェクト「Canvas」のニューカマー・ピックアップ・イベント「CANVAS vol. 8」。今回も才能と可能性に満ち溢れたラインナップとなった。

最初に登場したのは、シンガーソングライター、ちたへんりー。アコースティックギターの弾き語りによるパフォーマンスを披露した。ギターを爪弾きながら、いきなりボーカルのロングトーンで魅せる。声の存在感がハンパない。ただ、彼の魅力はそれだけではない。1曲目「さいだー」は疾走するポップスで伸びやかで透明な声の特質を十分に発揮しながら、ギター演奏にも唸らされる。1番のAメロと2番のAメロでアプローチを変えたり、ストローク、アルペジオ、ミュートや休符などを巧みに出し入れしたりすることで曲のイメージを豊かに紡ぎ出している。ギターの弾き語りとは思えないほどカラフルだ。

2曲目「僕らは未だに身体測定で背伸びをする。」では彼の器用さとセンスをさらに目の当たりにする。間奏ではビートボックスによるトランペットを披露し、その後にはとある超有名曲をサンプリングして歌うという、ヒップホップ的手法を大胆に、かつ自然にポップスに組み込んでみせた。

「生きてさえいれば自分のことが嫌いでもちょっとだけ好きな自分を見つけられたりとか、私にとってここが私の居場所やと、そういう場所が見つけられるはずやと、そう祈って、信じて最後にこの曲をやります」と言ってパフォーマンスしたのが「それでも」。“呼吸をするたび自分が増えていく”という歌詞の言葉がオーディエンスに突き刺さる。歌の表現力にギターの演奏力、そして歌詞のオリジナリティと、すでにアーティストとして必要なものを全て備えていると言っても過言ではない、ちたへんリーの今後が非常に楽しみになった。

志摩陽立は札幌出身のシンガーソングライターで、あらゆる楽器を演奏するマルチプレイヤーにして、自身の楽曲のアレンジ、ミックス、マスタリングまでを一人で行う。今回は、ドラムス、ベース、パーカッション、キーボードのサポートでバンド編成のライブを行った。

いわゆるシティポップと呼ばれるものに近い音楽性だが、シティポップ自体の定義が曖昧なように、彼の音楽もあらゆるジャンルを飲み込みながら“彼のポップス”としか言いようのない音楽になっている。1曲目「ネイルバイター」は一見とっつきやすいポップスだが、要所要所で不穏な表情を見せる。展開的にもすんなり終わると思いきやアウトロで一転、この先どうなるの?といった余韻を残す。

「今日はこれを聴けば志摩陽立のことはだいたいわかるという曲をセレクトしてきました」

2曲目に披露したのは「ベンハムのコマ」。みずみずしさの溢れるポップスでサビからのグルーヴに思わず身体が揺れる。ちょっとひねくれた歌詞も独特のスパイスとなって楽曲の持つ生命力を輝かせる。歌詞の最後の一節“らららFallin’in僕のグレーな世界 会話を車がまた遮るそして二人…”という部分の“二人”の描き出し方が素晴らしい。あえて“車”というノイズを持って来ることで、そこには君と僕しかいないという情景がありありと見えるようだ。

ラストは、「ステップ」。4月から12ヵ月連続リリースをしている志摩陽立。そのプロジェクトのスタートとなった曲だ。いくつものメロディーが重層的に積み上がっている曲で、決して単純な構成ではない。しかしそれをごく自然な形でスッと聴き手の心に入り込むように仕上げている手腕はさすがの一言に尽きる。若きポップマエストロに注目だ。

3番目に登場したのは、大阪出身のシンガーソングライター、Vela。ヒップホップやR&Bをルーツに持つ彼女のこの日のステージは、DJとともにパフォーマンス。1曲目「POSE」でのクールなトラックに乗せて放たれる彼女のリリックは、それだけで音楽と思えるくらいフロウ感に満ちている。まるで言葉に羽が生えたように舞い上がり、時に深く潜る、言葉と音のマッチングに独特のセンスがあるのだろう。また、声に強さと弱さ――クリアに伸びやかな部分と壁にもたれるようにかすれる部分――の両極端が同居しているのも大きな特徴だ。そこが深みとなっていつまでも聴いていたいと思わせる。

「基本的に私が歌う曲は、Love myselfというか、そう言ったら聞こえはいいけど、自分らしくいたいなって思う時に支えになるのって音楽だと思うんですよね。私自身がそうだったから。曲を書いてきて今ここに立っているって感じです」

6曲目に披露した「Story」は彼女の表現者としての根っこが現れた曲だ。オーガニックなトラックに乗せて歌われるのは、私は私で、あなたはあなたで、他に代えはいないんだ、というメッセージだ。先ほどのMCでの言葉もそうだったが、彼女の表現は自分というものに向き合い、自分をいかに受け止めていくか、という切実なまでの想いに貫かれている。

ラストナンバーは「Tokyo」。自分の弱さをさらけ出しながら、揺れ動く自分自身を試しながら、それでも自分を信じていくんだという決意表明とでもいうべき楽曲だ。彼女と多くの人たちがつながった先にある光景はどんなものだろう――Velaが描き出す、その先が少しだけ見えたような気がした。

今回の最後を飾ったのは、3ピースバンドの宇里。これまでリリースした楽曲がApple MusicやSpotifyの公式プレイリストに選出されるなど、すでに高い評価を得ているバンドだ。今回はキーボードをサポートに加えた体制でパフォーマンスしてくれた。

その透き通ったサウンドと言葉の織りなす世界は、1曲目「Birthday」の一音でフロアの空気を変えてしまった。つかみどころのないメロディではあるのだが、バンドのグルーヴがしっかりと手綱を握り、ギリギリのところで空中分解するのを免れているような際どさがたまらなく魅力的だ。強烈な光を放っている。例えばBig ThiefやBlack Country, New Roadといった米英のインディロックバンドと共鳴するようなサウンドだ。

アーバンなインストゥルメンタルの後に披露した「awase」では独特の浮遊感と疾走感が合わさり、「直感覚解放」ではブラックミュージック的なアプローチのリズムにポップなメロディが入り混じる。どこまでが感覚で、どこまでが計算なのかはわからない。けれど、全てが絶妙なバランスの上に成り立っている。ほんの少し余計な力を加えただけで崩壊してしまうような儚さが言葉を超えて何かを伝えようとして来る。

最後に披露した「日常」は、もはや削ぎ落とすものはこれ以上ないくらいにシンプルな曲だ。MCも挨拶程度で特にはない。歌詞に特別なメッセージが込められているわけではない。だけど、音として雄弁なのだ。そこにリスナーの居場所がある、そういう音楽だ。

いつにも増して才能豊かなラインナップとなった「CANVAS vol. 8」。サブスクやDTMが当たり前になるなど、若い才能を育む環境は一昔前に比べて充実している。ただ、今回登場した4組のアーティストは、そうしたテクノロジーの発展や環境の変化といった恩恵だけに頼るのではなく、自らの音楽を自らの方法で見つけ、探求するパッションに溢れていた。きっと未来を切り開く音楽は、そういうところから生まれて来るに違いない。

Text●谷岡正浩
Photo●永田拓也