新山詩織、デビュー10周年記念アルバム発売記念ライブが大盛況で終了 10月にアコースティックツアーも決定

アーティスト

新山詩織 Live 2023「何者 〜十年十色〜」 7月21日 東京・渋谷 PLEASURE PLEASURE 撮影:達川範一(B ZONE)

一時離れていた音楽の世界に復帰してから2年。フルアルバムとしては実に6年半ぶり、7月5日にリリースしたニューアルバム「何者〜十年十色〜」を引っ提げて、シンガーソングライター・新山詩織が東名阪でツアーを開催。そのファイナルを飾った東京公演の模様をレポートする。

この日は後輩にあたるレーベルメイトのRanがオープニングアクトを務める。新山もお気に入り曲だという「sheets」を始め、3曲を披露。初々しくも堂々たるパフォーマンスで大いにステージを温めた。

その後開演までのひと時に流れたBGMは、The Birthday、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、The pillows、BUMP OF CHICKEN、ART-SCHOOL等々。

毎回新山が影響を受けてきたフェイバリットソングに触れられるこの時間もファンにとっては楽しみの1つになっている。

しばらくして、いよいよ本編がスタート。和久井沙良の幻想的なピアノ演奏に乗って登場した新山は、盛大な拍手を浴びながら颯爽とステージ中央へ。白いノースリーブのブラウスにすらりとしたパンツルック、かなり明るめのカラーリングにウェーブがかかったヘアスタイルがぐっと大人っぽく見える。

1曲目はニューアルバムの中から表題曲の「何者」と共にキーになっているという「Spotlight」。ジャジーなサウンドに乗り、ハンドマイクで横揺れしながら心地よいヴォーカルを響かせる新山。冒頭からこんなにもラフで動きのある彼女を見るのは初めてだ。新作「何者〜十年十色〜」は、人間誰しもが覚えのある心に負った「かすり傷」をテーマに、ネガティブだったりダークではあるけれど、それをあえて隠さずさらけ出してみようと作られた作品。心を解放したことでステージングにも変化が表れているのか? 始まったばかりだというのに様々な変貌にワクワクが止まらない。

2曲目は愛器のギブソン ES-335を鳴らしながら、「アーティストとしてのターニングポイントとなった曲」と自らが語る「絶対」を披露。魂を震わせながらの歌声から、いかにこの曲が彼女にとって今も大切な存在であるかを感じさせられる。

「先週の名古屋、大阪に続き、ここ『渋谷PLEASURE PLEASURE』に立てることを本当に楽しみにしていました。何より今日は、新曲をがっつり含めたセットリストになっていて、皆さんからの声、レスポンスが欲しい曲がたくさんあるので、最後まで楽しんでいってください」

客席を明るくし、オーディエンスの顔をしっかり見ながら丁寧に語りかけた後は、部屋で一人過ごす日常のシーンを切り取った2曲を披露。まずは20歳で初めて一人暮らしをした際ホームシックにかかってしまった時に作った「ワンルーム」。アコギの優しいストロークに、ファルセットと地声が行き来する素朴な歌声が味わい深い。続く「夜の魔法」はニューアルバムからのナンバー。スクリーンには歌詞とシンクロするアニメーションが映し出され、より鮮明に曲の世界観へと誘ってくれた。肩の力が抜ける軽快なサウンドに自然と手拍子が起こり、新山も笑顔を浮かべ楽しげだ。曲終わりには客席から「イエーイ」と歓声が飛び出すほどの盛り上がりを見せた。

続いて、新山と和久井以外は一旦退場。創造性豊かなピアノのインプロビゼーションから「I can’t tell you」へ。ますます息も相性もぴったりの二人は、互いの感情の波を重ね合わせながら深遠な空間を作り上げていった。ここでもまた曲終わりで「ヒュ〜!! ブラボ〜!!」の歓声が響いた。

「この曲は去年の9月のアコースティクライブのツアーで(和久井)沙良ちゃんと何度も色んな場所で披露してきたのですが、改めて今日ここで歌うことができて本当に嬉しいです。前回は配信リリース後の披露で、今回はアルバム収録曲としての披露ということで、また違った気持ちで演れました。とにかく沙良ちゃんのイントロが凄すぎて、ずっと聴いていたい(笑)!! 本当に素敵で感謝しかありません」。

新山の言葉に「ちょっと長すぎたかな?」と、今回のツアーのバンドマスターを務めた和久井が、少し照れる。そんなアットホームな雰囲気の中、ギターのイシイトモキも加わり、次はトリオ編成でニューアルバムの中で唯一のバラード曲「あなたに」を、オリジナルとは異なるピアノとアコギと歌のみのよりシンプルなアレンジで披露した。ラブソングが少ない新山作品の中で、美しく尊い恋心を鮮やかに描いた今作。

ここでリズム隊の2人、新山のツアーは初参加となるベースのまきやまはる菜とドラムの山近拓音も戻って、再びバンド編成に。新山のアコギ弾き語りで静かに始まったのは、盟友・山崎あおいとの共作「Free」だ。儚くも伸びのあるピュアな歌声に寄り添った情感たっぷりのイシイのギター・ソロも秀逸である。さらに中盤は「Do you love me?」「Keep me by your side」とミディアム調のゆったりしたナンバーが続く。ニューアルバム収録のこの2曲は、日々の中で感じる「寂寥感」や「生きづらさ」が綴られた歌詞なのだけれど、ハートフルなアレンジと包容力のある演奏によって、「大丈夫、無理しなくていいんだよ」と優しく包み込んでくれるような安心感を与えてくれる居心地の良い時間が刻まれていった。

ここから一気にギアチェンジ。それまでの柔らかな照明から一転、真っ赤なライティングに色を変えたフロアにノイジーな爆音が轟き、「ここからは皆さん立ってもいい時間です。最後まで一気に盛り上がっていきますが、皆さん行けますか!?」と、激しく煽ってアッパーな楽曲を連打する後半戦がスタート。まずは2ndアルバムに収録した懐かしのロックナンバー「Dear friend」で、ボルテージを急加速させていった。それまでじっと聞き入っていたオーディエンスもこの時を待ち構えていたようにスタンディングで拳を振り上げたり、手に持ったタオルを振り回すなど高揚が見て取れる。それでもなお曲中に「皆さんもっと行けるんじゃないですか!?」と促し、自身もES-335をかき鳴らしながら気迫のこもったプレイを見せる。続いては、ホーンをフィーチャーしたノリの良いロックンロール「Hate you」。しゃくに触る相手に向けて「あなたが嫌い」と繰り返すセンセーショナルな歌詞を、生々しい感情を乗せたヴォーカルで痛快に歌い切った。どんどん熱量が増す中、もう一曲ニューアルバムから新境地を窺わせるファンクテイストなナンバー「約束」。フロア全体に響く盛大なクラップに、巧みなヴォーカリゼーションで応える新山。曲間ではソロ回しをしながらのメンバー紹介もあり、客席とステージの一体感はより一層の高まりを見せた。

「皆さん楽しんでますか? あっという間に次の曲で最後になります。ニューアルバムの中でまだ演ってないこの曲をラストに持ってきました。この曲で皆さんと最後盛り上がっていきたいと思います!」

そう語り、現在の新山の心の内を最もリアルに投影した「何者」を投下。アーティキレーションを効かせたバンド演奏が生み出す立体的なサウンドと、揺るぎのない歌声、クールに決まったポエトリーリーディングも実にカッコ良く、この日のクライマックスを迎えて本編は幕を閉じた。

鳴り止まぬアンコールに応じてツアーTシャツ姿で再登場した新山とメンバーたち。センターに立つ新山にだけスポットライトが当たり、「ふっ」っと大きく息を吸い込んだ後弾き語りで「だからさ」を歌い始める。10年前発表のアーティストデビュー曲をアンコール1曲目に配置するという原点回帰の趣も漂わせつつ、2番からはバンドも加わってどっしりと叙情的な歌声をフロアの隅々にまで行き渡らせていった。

そしてラストはデビューシングル「ゆれるユレル」。明るくなった客席を広く見渡しながら、バンドと一丸となって伸び伸びと歌い、開放感溢れる晴れやかなエンディングを迎えた。

ライブ後は、8月にMaica_nとのスプリットインストアツアーが決定したことと、去年好評を博した和久井沙良とのアコースティックライブを10月に開催することを発表。デビューして満十年。アルバムタイトルの文字通り十年十色の経験を重ね、音楽性を培ってきた新山詩織。表現者としての成長を鮮明に浮かび上がらせた今回のステージから、今後どのように変化していくのかますます楽しみになってきた。

TEXT:松原由香里(Music Freak)

新山詩織 Live 2023「何者 〜十年十色〜」2023.7.21 @渋谷 PLEASURE PLEASUREセットリスト

Spotlight
絶対
ワンルーム
夜の魔法
I can’t tell you
あなたに
Free
Do you love me?
Keep me by your side
Dear friend
Hate you
約束
何者
EN.1 だからさ
EN.2 ゆれるユレル

サポートメンバー〜
和久井沙良(key&ライブアレンジ)/イシイトモキ(gt)/まきやまはる菜(ba)/山近拓音(dr)

関連タグ