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実験成功!キタニタツヤがEP『LOVE: AMPLIFIED』に仕掛けたサプライズに込められた真意を紐解く

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キタニタツヤ

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6月14日、キタニタツヤが4曲入りのデジタルEP『LOVE: AMPLIFIED』をサプライズリリースした。内容は、「シンガー・キタニタツヤ」と「プロデューサー・キタニタツヤ」の二面性にスポットを当て、全曲にコラボアーティストを配した、極めて野心的なものだ。さらに、直前まで情報を遮断し、リリース4日前のYouTube配信をきっかけに始まった「キタニタツヤを増幅せよ」プロジェクトに基づき、ファンを巻き込みながら徐々に情報解禁してゆくユニークな手法も大きな話題になった。突然のサプライズリリースゆえ、まだ耳にしていない人もいるかもしれない。大型タイアップのシングルやアルバムの形態ではないので、熱心なファン以外には届いていないかもしれない。しかしこの『LOVE: AMPLIFIED』は、今後のキタニタツヤを語る上で極めて重要な作品だと感じている。その画期的な内容について、今あらためてキタニタツヤ自身に解説してもらおう。

――EP『LOVE: AMPLIFIED』はそもそもどんなきっかけで作ろうと思ったんですか。

これは僕発信ではなくて、レーベルのスタッフが最初に言ってくれたんですけど。もともと書下ろしの仕事はよくしていて、というか自分のキャリアの始まりがそこなんですね。作家志望だったので。それが去年の秋とか今年の頭とか、自分が曲を作らずにシンガーとして呼ばれることが、3曲ぐらいポンポンポンと続いたんですよ。たまたま。「自分にこういう需要があるのか」と思っていたところへ、レーベルのスタッフが「キタニタツヤの作品としても、シンガーオンリーでやる曲を作って、シンガーのキタニタツヤとプロデューサーのキタニタツヤと、両方の面を同時に出したらどうか?」と。ほかにそういうことをやっている人もあんまりいないですし、「そのほうがキタニタツヤという人を知ってもらえるんじゃないか?」と。

――はい。なるほど。

自分は、自分に対する認知として「曲を作る人間」なんですね。シンガーとしてのキタニタツヤに対しては、自分はそこまで価値を感じていないんですよ。自信がないんです。もともと曲を作りたくて、ついでに歌っているみたいな優先順位が自分の中にはあるので。シンガーとしての自分には、いまいち自信を持ちきれない部分があったので、そう言われた時に「うーん」という感じだったんですけど。ただ、他の人に曲を書いてもらって、それを歌いたいというのは純粋な欲求としてあったし、それをやることによって、曲を作る人の仕事を見れるんじゃないか?という下心もあったりして(笑)。いい勉強ができるかもしれないみたいな意識もあって、「じゃあやりましょう」ということになりました。

――どうでしたか? 実際やってみて。

僕がシンガーとして歌ったのは、NEEというバンドと、indigo la Endというバンドの曲なんですけど、どっちもレコーディングを見に行かせてもらって。でも「シンガーに徹する」という鉄の掟があったので、スタジオで何か言いたくなっても言わないという、意見を求められた時だけちょびっと言うぐらいで、ほとんど何も口出しをしていないんですよね。でもそこでスタジオ見学が出来て、自分のレコーディングの仕方と全然違う部分もあったし、曲作りってみんな独学でやっている世界なので、それぞれがガラパゴスになっているんですよね。だから人のやってることを見ると、学べることがめっちゃあるから。そういう点は本当に楽しかったですね。

――プロデューサーサイドの2曲はどうですか。

これはもう、いつもやっていることと大きく変わらないというか。自分がシンガーさんに対して「こういうことをやってみたい」という欲求がけっこうあって、ただ、いつもは依頼が入ってからやるわけじゃないですか。多くの場合は、依頼をいただいてからそのシンガーさんに自分が興味を持って、「この人だったらこういうことをやりたい」ということを考えてやるわけなんですけど、今回の、Eveさんとsuis(ヨルシカ)さんというのは、シンガーとして自分がめっちゃ好きで、「この人が俺の曲を歌うんだったらこういうことをやりたい」というものをもともと考えていたりしたので。それを自分のモチベーションきっかけで始められるのが、すごく良かったですね。

――曲の話はまたのちほど、詳しくさせていただくとして。情報解禁にまつわる「キタニタツヤを増幅せよ」企画、面白かったですね。あれについては?

あれは、もともとこのEPの企画を提案してくれたスタッフとは別のスタッフから、「ドッキリ企画をやりたい」ということで、みんながあれこれ言いながら、スタッフ全員で考えていくみたいな形だったので、自分一人だと思いつかなかっただろうなと思います。僕という人間が、面白おかしいことをして、ファンをおちょくりたいみたいな気持ちがあることは、たぶんみんなわかってくれていて(笑)。だからこそ、そういう企画を出してくれると思うんですけど、案の定、みんな上手におちょくられてたので。ファンの人たちは。うまくいって良かったです。

――みんな、おちょくられてるのがわかりつつ、乗って来るみたいな。

そうですね(笑)。ただYouTube生配信の「放送事故」に関しては、けっこう焦ってる人もいたし、信じた人もけっこういたみたいです。データが紛失してしまったみたいな、それを芝居として映像を撮るんですけど、その時はスタッフも僕も、嘘とわかってるんですけどハラハラしてました。「ドッキリで良かった」みたいな(笑)。

――キタニタツヤ一流の、ファン巻き込み型の情報拡散でしたよね。

そうですね。音楽だけひたすらやってても面白くねえな、という感じはあるので。だとしても、僕は一人でどんどんアイディアを出せるタイプではないから、最近はスタッフ陣が助けてくれて、チーム感が出て来ていい感じですね。

――サプライズリリースのあと、反響はどんなふうに耳に届いてますか。

すごく喜んでもらえたなと思います。もともと自分が好きなアーティストを呼んだだけなんですけど、共通のファンがわりといることは、肌感覚として理解していたので。たとえばEveさんだったら、このへんの人たちは喜んでくれるだろうとか、NEEだったらこのへんの人たちが喜んでくれるだろうとか、ファン層の中でもここらへんとここらへんかなとか、なんとなくの予想はあって、まんまと喜んでくれたというか、サプライズの誕生日プレゼントが成功したみたいな、そういう感覚があったので。うまくいって良かったです。

 

 

――ではあらためて、1曲ごとの解説を聞かせてください。まず「ラブソング feat. Eve」について。

Eveさんが受けてくれることになって、そこから完全にゼロから作った感じです。なんとなく、ドロッとしたラブソングみたいなものを作りたいとは、最初に思っていました。それってEveさんのイメージと、ちょっと違うじゃないですか。あんまり恋愛とかではないところで歌詞を書いているから。ドロッとした恋愛の曲は、自分(キタニタツヤ)っぽいと言っていただくことも多いので、そこをぶつけたら面白いんじゃないかな?というのは、なんとなく思っていて。ただそれとは別に、音でもやりたいことはあったし、Eveさんらしいところで、なおかつ自分がやりたいことというラインが、あのへんだったんですよね。

――歌、ばっちりでしたね。

合いましたね。Eveさんの普段の曲って、速いパッセージのメロディが多いというか、細かくてめちゃくちゃ上下して、みたいな、そういうメロディを書いてみたいなという欲求も、自分の中にあったんですけど。自分という楽器を想定した時に、歌えなくはないと思うけど、きれいに鳴らないかもな、というのはなんとなく思っていて。やればできるはずなんですけど、自分からチャレンジしに行かないというか、だったらもっと自分らしさがハマるメロディにしようかなみたいな、ついそっちを取っちゃう癖があったので。Eveさんという、いわば新しい楽器を手に入れて、そしたらこういうメロディが作れるようになる、みたいなところがあったから、普段は書かないような、細かくて速くて、上下幅が広くて、みたいなメロディが書けたので。今までの自分にないものを引っ張ってもらえたし、自分がやりたかったことも出来たし。

――いいことづくめです。

楽器に例えるのは失礼かもしれないですけど、たとえば新しいギターを買った時に曲が出来たり、新しいソフトを買った時に曲が出来たり、それと同じ感覚で自分のクリエイティヴィティが刺激される感じはありましたね。

 

――suisさんに歌ってもらった、「ナイトルーティーン feat. suis from ヨルシカ」はどうですか。

これに関しては、僕はヨルシカのベースをずっと弾いていて、いろんな曲があるんですけど、バックのミュージシャンとして「suisさんの声のここらへんが一番いいな」と思っていたのが、すごく生活感ある曲を優しく歌っている瞬間なんですよ。今年の頭から、ヨルシカのツアーが2本あって、ずっと一緒にいたんですけど、そこでやっていた「左右盲」という曲があって。すごく生活感のある、人肌のぬくもりを感じる曲で、音源ではsuisさんのオクターブ下でn-bunaが歌っているんですけど、ライブでその曲をやる時に、n-bunaが突然「俺はギターが忙しいから。キタニ、やれるよな」って。いやいや、こっちもそこそこ頑張ってベース弾いてるんですけどって思ったけど、でもヨルシカでは雇われなので「わかりました。やります」って(笑)。

――あはは。それでやることになった。

でもやってみたら、自分が普段キタニタツヤとしては出さないような声の出し方が出来て、「これはハマりがいいな」と。だったら自分も、似たような質感の曲を作って、suisさんと一緒に歌ってみたいなと。そしたら本当に、生活感丸出しの歌詞になっていったみたいな。本当は音のイメージが先だったんですけど。

――声の質感も、曲調とぴったり合っていて。

これは、仮のキーを設定して、そこから上げたり下げたりするかな?と思ってお渡ししたんですけど、そのままのキーで行けたんですね。「俺もけっこうsuisさんのことわかってるやん」と思いました(笑)。ずっと聴いて来てるんでね。

 

――次は、シンガー・キタニタツヤの2曲について聞きます。「知らないあそび prod. indigo la End」は?

これはいい曲ですね。「川谷(絵音)さんが歌ってくれよ」っていう気持ちに、どうしてもなっちゃいますけど(笑)。いい曲です。僕のために書いていただいたとおっしゃっていたので、歌詞のドロドロした部分も、自分と似通う部分があるなと思ったりしました。包み隠さず言えば「サイテー男」という、そういう歌詞じゃないですか(笑)。これは川谷さん節だなと思いました。

――まあ…確かに(笑)。

これは、デモをお出ししていただいてから「キーを自由に決めていいよ」と言っていただいたので、自分のほうでプリプロして、4パターンぐらい作ったんですよ。その中でどれがいいですか?ということを、indigoチームに聞いて、最終的にこのキーにしていただいたんですが。僕は、今世に出ているバージョンの、マイナス2のバージョンが一番いいかな?と思っていたんですよ。自分の曲だとしたら、自然に選ぶキーがマイナス2だったんですけど、もっと余裕をもってウィスパーで歌うだろうな、という設定で。そのほかに、それよりプラス3の、多少無理したバージョンも出していたんですけど、今のキーのやつが一番いいとおっしゃっていただいて、「うわ、頑張んなきゃ」ってなったんですけど。結果的に自分だと選ばなかったキー、選ばなかった響かせ方になって、それが面白かったですね。自分で聴いても「いいじゃん」って思いますし、もうちょっと無理したほうがいいのかな、と思ったりしました。

 

――新たな引き出しを開けてもらった感覚ですか。そしてもう1曲が、「やんぐわーるど prod. NEE」です。これはもう、一聴して、NEEらしさ全開の曲をそのままぶつけてきたなと思いましたね。

そうですね。くぅくんらしいし、まさにNEEですね。これは特に「こういう曲を作ってくれ」ということもなく、お任せする形でした。強いて言えば、おもちゃ箱っぽい感じで、シリアスになり切らない、おちゃらけた感じで、NEEのファニーさが僕はすごく好きなので、そういう曲を作ってほしいということではなくて、「そういう部分が好きです」ということだけは伝えていたんですけど。結果的に、自分がNEEのいいなと思っているところが十二分に発揮されている曲だなと思いましたね。面白かったのが、デモの時にくぅくんのボーカルが入っているんですけど、たぶん都内の一人暮らしの家で歌ってるから、こそこそ歌ってる声なんですよ。「この感じわかる!」みたいな(笑)。自分も学生時代、実家で歌っていた時は思い切り声を出せないから、その感じがめっちゃわかったので。くぅくんは、自分の4つ下とかなのかな。大学生の頃の自分をすごく思い出しちゃいましたね。

――この曲は、メンバーのコーラスもガンガン入っていて。まさにNEEらしいバンドサウンド。

そう、それもね、僕は自分の曲だと一人で声を重ねまくるんですけど、NEEって、バンドメンバーでギャーギャー歌ってるのがすごくいいじゃないですか。あの4人のバランスがめちゃくちゃいいので、「それはぜひやってくれ」と。だから僕が多重録音しまくるコーラス部分もあれば、「ここはNEEにやってほしい」と自分が言ったところもあって、スタジオで4人がギャーギャー歌ってるのを、ニコニコしながら眺めていました。ドラムのやつ以外みんな年下だから、みんながわちゃわちゃ楽しんでレコーディングしているのが可愛くて、微笑ましいんですよね。保育園の先生になったような気がしました(笑)。みんな元気良くて、いいチームですよね。すごく楽しかったです。

――結論すると、「楽しかった」に尽きますかね。この4曲は。

そうですね。人とやるのは本当に面白いし、その面白さを持ち帰って自分一人で作るような曲もありますし。それこそ、昨日(7月6日)リリースされた「青のすみか」という曲は一人で作り切ったんですけど、みんなで一緒に作るという経験が、そこへフィードバックできるというか。これからもそういうことはどんどんやっていきたいし、この企画をその口実として(笑)、シリーズ化していけたらなと思っていて。

――それはめっちゃいいですね。

もっとほかに、やってみたいなと思う人もいるし、これからも出てくる気はするので。せっかくソロでやっている強みとして、関わる人を曲ごとに選べるということがあるので、自分はかなり浮気性でやっていきたいというか。頑固でいるのもいいんですけど、たぶん自分はそういうタイプではなくて、その時々で考えることや言うことがコロコロ変わっていくタイプだと思うので、作る曲もコロコロ変えていきたいですしね。そういう意味でこの企画は、すごく自分の糧になっていますね。

――今後にも期待します。そう思って見ると、この『LOVE: AMPLIFIED』というタイトルも、いろいろ応用が利きそうな気が。「LOVE」を何かに変えても、「AMPLIFIED」を何かに変えても、続けていけそうなタイトルだなあと。

実は、そういうスケベ心もあります(笑)。

――今回の「AMPLIFIED」は「増幅」ですよね。このワードはどこから?

自分が、ボーカルという楽器について思っていることがあって。たとえば曲を作って、メロディと歌詞を書く時に、そこに含まれている、ソングライターが頭に持っている観念的なものが、メロディと歌詞に100%出力されたとしても、その概念が入っているメロディや歌詞をボーカリストが歌う時に、ボーカリストのフィルターを通ると、そこでかなり味がついて。結果、ソングライターの頭の中にある純然たるものは、人の耳に届くことはないんですよね。ポップスってそういうものだという感覚があるんです。

――はい。なるほど。

だから、そのボーカリストのフィルターを通った状態で世の中に届くよ、という想定をした上で、メロディと歌詞を書くべきだと思っていて。自分の場合は、自分が歌うのがほとんどだから、自分というボーカルを通すとこういうふうに届く、というものを想定して、逆算して、メロディと歌詞を書くという癖が、無意識的についてきているんですよね。自分という楽器は、変えようがないじゃないですか、自分の体だから。ボーカルという楽器が、ポップスという音楽の世界においては、避けられないフィルターだなという感覚があって、だからこそ自分というフィルターの性能がどうなるのか、ほかの人が曲を書いても、自分というボーカルを通せば自分っぽくなるのか、あるいは、自分が自分らしさ100%で書いた曲を、ほかの人が歌うとどういう響き方になるのか。みたいなことも思っていたので、その実験をしてみようという感覚がありました。

――深いです。それが今回のコンセプト。

だから今回は、テーマを「LOVE」に絞って、僕にとっての愛とは何だろう?と思った時に、27年間生きて来て、愛という観念についても僕なりの歪み方があって、自分なりに偏っているものがあって。それをメロディと歌詞に起こした時に、それを歌う人が僕ではなかったら、まったく別の見え方で人の耳には届いていると思うんですね。「ラブソング feat. Eve」のセルフカバーを、「青のすみか」のカップリングとして録ったんですけど、案の定、歌詞の見え方が全然違うんですよ。自分が歌うと、ある種のえぐみが出て、さらっと歌えない。えぐいものが、えぐいまま出ちゃう。それはそれでいいんですけど、それはさんざんやってきたからいいとして、Eveさんにまったく同じものを歌わせても、えぐくならないというか、あの人はさらっと歌うから。歌詞に対してニュートラルな距離感を保っている、そういう歌い方が出来る人なので、聴こえ方が全然違う気がしていて。だからこの実験は、「実験は成功じゃ」と。やっぱり響き方が全然違っておもろいぞ、というのがあって。

――確かに。

それはほかの曲でも、川谷さんが川谷さんらしい歌詞を書いて来ても、自分が歌うことによって、ちょっと濁りが生まれるわけじゃないですか。その濁り方が面白みだし。だから、川谷さんが歌ったバージョンも聞いてみたいなと思ったりするんですよね。

――そうですよね。それ、全員でやってほしいかも。

1曲を一人が歌って、それがオリジナルだというのは、もう古いんじゃないか?という気もしているんですよ。ネットで「歌ってみた」文化みたいなものがあって、ボカロとか聴いてる若い子たちにとって、原曲は一バージョンでしかないんですよ。それはポップスの世界でも全然あっていいなと思うし、だから自分も今回の曲のセルフカバーを出すし、曲を書いてくださった方は、セルフカバー版を出してほしいですし。そういうことをどんどんやってもいいよねと思うし、それぐらいボーカルという楽器は、曲に対しての影響が、ギターとかベースに比べてデカイので。ということで、長くなっちゃったけど、ボーカルは味付けの濃い増幅器だなあという意味合いで、「AMPLIFIED」というタイトルにしました。だから今後は、『ナントカ: AMPLIFIED』にしていくのかな。わかんないですけど。全然変わるかもしれないですけど、ボーカルという楽器の考え方がまた変わったら、タイトルも変わると思いますけど。

 
EP『LOVE: AMPLIFIED』

EP『LOVE: AMPLIFIED』

――楽しみです。そして、ここで実は、『LOVE: AMPLIFIED』に参加したアーティストから、キタニさんへの質問を預かっているんです。

あら。そんなの、いただいたんですか。知らなかった。

――サプライズリリースに引っかけて、サプライズクエスチョンということで。では早速行ってみましょう。

Eve「実は面識もないままデータでのやりとりだったのですが、非常に楽しかったです。今回お声をかけて下さったきっかけなどあれば聞いてみたいです。また、僕がこの曲のレコーディングをしている時はまだ別タイトル案がついていたと思うのですが、「ラブソング」というタイトルはどのようにして決まったのでしょうか」

Eveさんに関しては、「もともと好きだったから」としか言いようがなくて。面識はなかったんですけど、確かその時、呪術廻戦(の主題歌)が決まってて、呪術繋がりもあって、今のタイミングなら受けてくれるんじゃないかな?みたいな下心もあって(笑)。そしたら快諾してくださったんで、「しめしめ」という感じでした。そしてタイトルは、もともと「トキシック」という仮タイトルがついていたんですよ。でもちょっと弱いなとずっと思っていて、もっと印象に残る言葉だったらさらにいいけど、一応候補として「トキシック」にしておいて、スタッフとも「もうちょっと皮肉が効いてたほうがいいよね」という話をしていて。そしたら唐突に、この曲に「ラブソング」って付けたら、めっちゃ馬鹿にしてるみたいで良くない?という話になり(笑)。アンチ・ラブソングみたいな感じの曲だから、ラブソング一派にケンカを売るみたいな感じになって面白いし、お客さんをびっくりさせたい心もあって、絶対そっちのほうがいいなと。あと、「ラブソング feat. Eve」というタイトルが先に出たら、お客さんは「キュン」としちゃうんじゃないかという、でも曲を聴いたら「うそぴょーん」みたいな、そういう感じもあるので。ギリギリに閃いたタイトルとして、付けました。きっとEveさんは、直前までそれを知らなかったんだと思います。

suis(ヨルシカ)「(歌詞に)“風に洗われた犬ころ”とありますが、犬のことはどの程度好きですか?犬への情は、喩えるなら何に近いでしょうか?」

ああー、なるほど。でも僕は、犬に対して深い愛情は別になくて。飼ったこともないし。飼っている人って、絶対SNSに上げるじゃないですか。でも、人んちの犬の可愛さって、あんまり共感できなくないですか(笑)。人間の赤ちゃんもそうだけど、あんまり「かわいいー」とか、(本人が)そういうことしないほうがいいのになって、余計なことを考えちゃうんですけど。可愛さに集中できないというか、自分がそこに入りきれないんで。だから飼ったことはないし、飼いたいなとも思わないんですけど、でも自分のスマートフォンに「コーギー」っていう名前を付けてるんですよ。めっちゃ好きなわけでもないのに。それは、たぶん、「米」みたいな距離感なんですよね。めっちゃ大好きなわけじゃないけど、常に頭をよぎっているというか、生活に根差しているというか。SNSを見ていると、犬の画像を見ない日って、1日もないんですよ。絶対にどこかに犬が潜んでいる。

――潜んでいる(笑)。確かに、多いです。

だから、お米とか、ご飯ぐらいの距離感にいるんですよ。それこそ、「ナイトルーティーン feat. suis from ヨルシカ」は、生活感がテーマになっている曲で、そのありきたりさを喩える時に、自分にとって犬はそういう存在なんですよね。どの程度好きか?と言われると、大好きだよっていうわけではないですけど、常にそばにいるものなので、ものに喩えるなら「ご飯」です。

くぅ(NEE)「今の音楽シーンにキタニタツヤというアーティストとして、何を見せつけていきたいですか?(伝えていきたいですか?)」

ああ、でもやっぱり、「俺はすごいんだぞ」というのが、ずっと創作の原点にあるので。承認欲求という言葉がありますけど、「俺はこんなこともできるぞ、こういう曲も書けるぞ、俺はマジですごいんだぞ、だからみんな俺を見てくれ、褒めてくれ」という気持ちが、曲を作り始めた時からずっとあって。もともと、友達がオリジナル曲を初めて作って、人前でやってるのを見て、「だったら俺のほうがすごい曲作れるし」と思って曲を作り始めたんですよ。自分の根底にはずっとそれがあるから、何を見せつけていきたいですか?と言ったら、「キタニタツヤという男はこれぐらいすごい、なんでみんな俺のことを知らないんだ、俺を見ろ」みたいな気持ちです。

夕日(NEE)「制作において音楽以外のものから影響を受けることはありますか?」

漫画を読んでいて、歌詞の内容に接触してくることはよくあります。漫画って、映画と一緒で、言葉と絵を同時に摂取できるものなんですけど、映画と違うのは、漫画には文字も印刷されているんですね。絵と同じ平面上に文字も印刷されているから、文字と絵をどっちも同じ比率で摂取できる感覚があって。映画とかだと、絵(映像)の比率が大きくなるんですよ。目から摂取するものが大きいので、そういう意味で漫画は、絵のほうは音に影響してくるし、文字は歌詞に影響してくるという意味で、漫画(の影響)は多いです。あとはツイッターとか、SNS全般ですね。自分が会ったことも見たこともない人たちのツイートを見るのが、すごく好きなんですけど、そういうところに面白い言語感覚とか、「こういう人はこういうことを思ってるんだ」とか、普段会話出来ない人の頭の中をちょっとのぞき見出来るわけじゃないですか。SNSは自分にとってすごく大きいです。

かほ(NEE)「楽曲のインスピレーションが一番降りてくるのは、何をしている時ですか?」

ああー、そうだなー、人の曲を聴いてる時かな。「これめっちゃいいな」と思いつつ、「俺だったらもっとこうするのにな」という、さっき言った「俺のほうがいい曲作れるぜ」という話に繋がってくるんですけど。いい曲を聴いて「これの俺バージョンをやるぞ」というのは、曲を作り始めた時からずっとあるので、一番はそこかな。でも、椅子に座ってじーっと「こういう曲を創ったら驚いてくれるかな」ということを、頭でっかちに考えている時も、インスピレーション元として大きいので。「何もしてない、椅子に座って考えている時」というのもあります。その二つは同じぐらいです。

大樹(NEE)「今ハマってるジャンルやアーティスト、これから制作する楽曲に取り入れてみたいようなジャンルは何ですか?」

おおー、大樹ちゃんが真面目な質問をしている(笑)。取り入れたいものか…そうですね、なんとなく今やりたいなと思っているのは、ゴスペルとかアカペラとかをやってみたい、というのはありますね。本当にゴスペル的な音楽ジャンルではなく、そういう声の使い方。ただ自分一人だと、同じ声をいくら重ねても広がりは出ないんですよ。それこそ、「やんぐわーるど prod. NEE」の時も、みんなギャーギャー騒ぐ時に、一人3パターンぐらい声を出すんですよ。普通に歌ったり、高い声を出したり、オペラっぽく歌ったり、そうやって何パターンも出すと、いっぱい人数がいる感じが出てすごく面白くなる。僕もそういうことをやってきたんですけど、そうではなくて、普通に自分がいいなぁと思うボーカリストをいっぱいコーラスに入れて、キタニクワイヤを作るみたいな。

――それはめっちゃ面白そうです。

声の多重録音が好きなんですよね、作業として。頭を使わないんでいいんですよ。コーラスの重ね方には理屈があるし、歌うことが決まったらその通りに録るだけだから、単純作業感が強くて楽しいんですよね。たぶん僕は、そういうのが好きなんです。ボーカルのピッチを直す作業もすごい好きだし。キモいんですけど(笑)。そういうのを、ほかの人を巻き込んでやりたいな、というのはちょっとあったりします。お金かかりそうですけどね(笑)。

――「今ハマってるジャンルやアーティスト」という質問の答えも、そのへんになりますか。

いや、ハマってるのはちょっと違うんですけど。でもそれこそ、ボーカロイドの世界でそれをやってる人がいるんですよ。ボカロでアカペラをやってる人がいる。僕もボーカロイドの世界出身なんですけど、僕がやってた時って、音声ライブラリの種類がそんなになくて、ソフトはいっぱい出ていても、本当に使えるものは2,3種類ぐらいしかなかったんですね。でも今は、テクノロジーの発達はすごいもので、いろんな声があるし、人間っぽいのもあれば、昔ながらの機械っぽい声もあって、それを駆使して、1曲に6人も7人も音声ライブラリを使ってアカペラでやっている、「ちから」っていうボカロPがいて。その人の曲がめちゃくちゃ面白くて、それも影響ですね。「俺もやりたい!」って思うんですよ。ボカロと、人間らしいアカペラという表現と、離れているイメージがあるんですけど、そのミスマッチ感がすごく良くて。機械たちが人間らしいことをやっているということが、胸に迫るものがあって、グッと来るんですよ。SFとかもそうなんですけど、機械が人間らしいことをしているのがすごく好きなんですよね。その矛盾というか、そういうところにグッと来るんで。その実践として、ボカロアカペラは面白いし、そういうものを聴いてると、逆に自分が人間らしい形でアカペラをやりたいなということにもなったりするし。

――ありがとうございます。質問は以上です。

あざーっす!

――ここまでの話をとりまとめると。キタニさん、今、「歌」や「声」にすごくフォーカスしている時期のような気がします。

ああ、確かにそうですね。歌に興味が出ているのかもしれない。それこそ、曲を作り始めた時には、歌のことなんか何も考えてなくて、曲を作る、メロディを作る、ギターをいっぱい乗せる、みたいなことに楽しさを覚えていたので、「やっと歌に興味を持ったか」という感じですね。歌なんか、メロディをちゃんと聴かせられれば何でもいい、みたいな気持ちだったんですよ。ずっと。やっとシンガーとしての意識が高まってきたのかな、という感じかもしれないですね。

――今後のリリース、そしてツアーも楽しみにしています。今日は長い時間、ありがとうございました。

ありがとうございました!
 

取材・文=宮本英夫

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