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アダム・パスカル アコースティックライブ 初日レビュー、ギター1本と魂の歌声で紡がれる至福の90分<オフィシャルレポート>

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アダム・パスカル

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ミュージカルの舞台で活躍するプレイヤーは大きくふたつに分けられる。ひとつは幼い頃からステージでの成功を夢見てレッスンを積んできた者。もうひとつはふとしたきっかけで舞台に立ち、瞬く間にスターになった者。アダム・パスカルは後者だ。

ここでは彼のストーリーを紐解きながら、9月8日(金)に有楽町の I‘M A SHOW (アイマショウ)にて初日を迎えた<アダム・パスカル アコースティックライブ>のレビューを綴っていきたい。なお、本稿ではセットリストやインタビューコーナーの内容に深く触れている旨、あらかじめご留意いただければ幸いである。

アコースティックギターと譜面台が置かれた舞台。笑顔で登場したアダムが最初に歌ったのは『ジーザス・クライスト=スーパースター』からのナンバー「Heaven On Their Minds」。イスカリオテのユダが師であるジーザスに届かぬ胸の内を吐露する楽曲だが、アコースティックギターの響きはロックのサウンドとひと味違う透明な印象をもたらしてくれる。

続いて2曲目は『春のめざめ』より「Song of Purple Summer」。10代の少年少女の抑圧された学生生活を描いた本作の楽曲をアダムは愁いを宿した声でザラっと歌う。それはまるで失われた時を呼び戻しているかのようだった。その繋がりなのか、3曲目は「Memory」。いわずと知れたミュージカル『キャッツ』で娼婦猫のグリザベラが過去の日々を想いながら歌い上げるナンバーである。

そこからは2曲を挟んでのインタビューコーナー。立花裕人氏の進行でアダムのトークが繰り広げられたのだが、彼が語ったエピソードが非常に面白かった。さて、ここでもう 1 度お伝えするが、ここからはトークの内容にも触れていくのでご注意いただきたい。

アダム・パスカル

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じつはアダム、代表作でもある『RENT』に出演する以前はまったくミュージカルに興味がなかったそう。ではなぜ彼がオリジナルキャストとしてロジャーを演じることになったのか。その鍵を握っていたのが『RENT』モーリーン役に早い段階で決まっていたイディナ・メンゼルである。

なんと、アダムとイディナは9歳からの幼馴染で(スクールバスにも一緒に乗っていたご近所さん!)、1995年、所属していたバンドが解散になったアダムにイディナが「絶対あなたに向いている役だから」とロジャー役のオーディションを薦めたそう。その後、演出家、マイケル・グライフによる4度のコールバックを経て、無事アダムはロジャー役に決定。イディナ・メンゼル、まさかエルファバやエルサになる前に“魔法”を使っていたとは!

そんなミュージカルファンにはたまらないエピソードが飛び出し客席が湧いた後にアダムがチョイスしたのは U2。『RENT』じゃないんかーい!と思ったのもつかの間、続いて歌ってくれたのが『RENT』からロジャーのナンバー「One Song Glory」だ。1996年2月にオフ・ブロードウェイで上演され、約2か月後にはオン・ブロードウェイに乗って、あっという間に世界中の観客から熱狂的な支持を得た『RENT』。そのオリジナルキャストの歌をこの濃密な空間で聴ける喜びといったら……!

次いで『キャバレー』からの2曲。「I Don’t Care Much」と「Maybe This Time」。ジョン・カンダーの楽曲をアコースティックギターの演奏で聴けるのもなかなかレアかもしれない。彼が本作で MC 役を務めた ver.を観られなかったのが悔やまれる。

アダム・パスカル

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インタビューコーナー第2弾ではこれもアダムの代表作『アイーダ』からのエピソードが披露された。シカゴでのトライアウト公演時に、終盤でアイーダとラダメスが入った棺が空中に浮くという演出があり、その棺が途中で落下するアクシデントがあったそう。ザワつく劇場内にテクニカルディレクターの冷静な声で「お医者様はいらっしゃいません?」と放送が入り、若い女性医師が手を挙げてくれたものの、彼女は“専門外”だったとのこと。その医師の専門分野が歯科だったのか眼科だったのかも気になるところだが、大きな怪我にならず本当に良かった。この件を受けてか、日本での劇団四季上演版でも棺が浮く演出はカットになっている。

アダム・パスカル

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続いてのナンバーはアダムが『アイーダ』オーディションの時に歌ったビリー・ジョエルの「Vienna」。アルバム収録の比較的マイナーなナンバーだが、郷愁を誘う声が彼のルーツのひとつ、ウィーンへと観客をいざなう。そしてお待ちかねの『アイーダ』より「Elaborate Lives」。エジプト軍を率いるラダメスとヌビアの王女・アイーダ……敵同士であるふたりが反発し合いながらも次第に心を通わせ、初めて結ばれる時に歌われる楽曲だ。本来は途中からアイーダの歌が入りデュエットになるのだが、今回はアダムのソロ。このバージョンも染みる。

アダム・パスカル

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続いて彼が出演したミュージカル2作品からのナンバーと(2曲目はちょっと意外な選曲!)アダムが尊敬するアーティスト、エルトン・ジョンの「Your Song」と優しい時間が流れて、エンディングはもちろん『RENT』の「Seasons of Love ~Finale B」。おそらくほぼすべての観客が心の中でアダムと一緒に歌っていたのではないだろうか。

ミュージカルナンバーが歌われるコンサートはバンドやオーケストラの演奏で構成されることも多い。が、本公演は濃密な空間でアダム・パスカルがアコースティックギター1本で演奏し、ひとりで歌うライブだ。ミュージカル作品の世界観そのものがぶわっと眼前に広がるナンバーもあれば、独自のアレンジにより、オリジナルとは響きが異なって聞こえる楽曲もある。このふたつの表現の融合は彼がロックバンドの世界からミュージカルの舞台に飛び込んだことにも起因するのだろう。

アダム・パスカル

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私はアダム・パスカルの声に強く惹かれる。いわゆる“美しい声”とはひと味違う、ザラつきがありソウルフルな唯一無二の歌声。あの歌声を客席数約400の空間で全身に浴びられたのはとても幸福な体験だった。まさに“No Day  But Today”な90分!

アダム、あなたが「前世はサムライだったかもしれない」と語るほど日本を好きでいてくれるのと同じくらい、私たちもあなたのことが大好きだよ。最高の時間をありがとう!
 

取材・文=上村由紀子(演劇ライター)
撮影=(C)福岡諒祠(GEKKO)

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