(C)門井慶喜/講談社 (C)舞台「銀河鉄道の父」製作委員会
舞台『銀河鉄道の父』が、2023年9月9日(土)に東京・自由劇場にて開幕した。門井慶喜の同名小説を原作にした本作は、詩森ろばが脚本、青木豪が演出を手がけ、2020年に初舞台化。今作は3年ぶりの再演となる。開幕に先がけ行われたゲネプロ取材会と囲み取材のオフィシャルレポートが到着した。取材には主演の的場浩司、福田悠太(ふぉ~ゆ~)、駒井蓮が出席した。
本作は「風の又三郎」や「銀河鉄道の夜」で知られる宮沢賢治とその父・政次郎を中心とした家族の物語。初演に続き、政次郎役を的場浩司、その妻・イチ役を大空ゆうひ、その父・喜助役を田鍋謙一郎が演じ、今作からの新キャストとして宮沢賢治を福田悠太、妹・トシを駒井蓮、弟・清六を三浦拓真、政次郎の姉・ヤギをしゅはまはるみ、トシの女学校の恩師・西洞タミノを桑田亜紀が演じる。
ゲネプロ前の会見では、的場は「僕が演じる政次郎は、今では珍しくないですが、(この作品の舞台となる)明治、大正、昭和初期の頃においては珍しい、大変子煩悩で、子供に自分の人生をかけた父親です」「悠太と蓮が生意気でかわいくて、本当に自分の息子と娘を見ているような感じになっています」、福田は「皆さんご存知の宮沢賢治の役ですが、この作品では(作家としての面よりも)家族愛や父親と息子の愛情を濃く描いています」「普段、ふぉ~ゆ~のメンバーからは“福ちゃん”と呼ばれていますが、 この現場では的場さんから“悠太”と呼ばれていまして、本当に父親のように思っています」、駒井は「トシは時々、父である政次郎に立ち向かうような、当時は珍しい、女性としての意見を持った賢くて立派な人だと思います。そして賢治お兄ちゃんの才能を信じていて、すごく愛に溢れた人です」「稽古場ではお父さんとお兄ちゃんがすごく明るくておもしろくて、本当の家族みたいです」と和やかに話した。
(C)門井慶喜/講談社 (C)舞台「銀河鉄道の父」製作委員会
(C)門井慶喜/講談社 (C)舞台「銀河鉄道の父」製作委員会
物語は政次郎の葬式シーンから始まる。人生を全うした政次郎は、“ハザマの停車場”で賢治と再会し、その人生を振り返っていく――。政次郎は、葬式で妻イチが「政次郎さんは一生懸命、明治の男をやりあんした。だどもあったな明治の男はオラは見だこたね」「あったに子供を甘やかす明治の男はいねよ」と語るような人物。明治の「男はこうあるべし」を守ろうとはしながらも、子煩悩な父・政次郎は、的場のはまり役。 強面を保ちながらも愛情があちこちに滲んでしまうという、ある意味複雑な人物像を的場が生き生きと表現し、政次郎の愛情は宮沢家だけでなく劇場まるごと包み込んでいく。その長男である宮沢賢治というと、教科書に載るような詩や誰もが知る童話、農業に尽くし、仏教に傾倒し、「雨ニモマケズ」から連想される人生など、清貧というイメージがあるが、本作で描かれるのはそれとはまた違う姿。放蕩息子と言いたくなるほど政次郎を振り回す存在だが、その賢治を福田がのびのびと演じており、その姿がまさに「この父にしてこの子あり」。 うれしくなるほど納得させられる。そしてそれは駒井演じるトシも、三浦演じる清六も、さらには大空演じる妻イチも同じ。政次郎がこうであることで家族がこうやって生きているということが役者たちの表情や声からも届き、観ていてとても心地よく感じた。
シンプルだけども時々ふっと驚かされる舞台美術や、田鍋、しゅはま、桑田の兼役ぶり、子供時代の賢治、トシ、清六は人形を使って表現するなど、演劇ならではの見せ方も印象的。宮沢賢治の作品にあるフレーズも散りばめられ、それを役者が台詞として語ると、絵本や小説で読む文字とはまた違った響きを感じられる。岩手弁でのやりとりも温かで、くすっと笑わせてくれる作品。さまざまな角度から楽しめる本作をぜひ劇場で味わってほしい。
(C)門井慶喜/講談社 (C)舞台「銀河鉄道の父」製作委員会
(C)門井慶喜/講談社 (C)舞台「銀河鉄道の父」製作委員会
公演は9月16日(土)まで。お見逃しなく!!