EGO-WRAPPIN’
EGO-WRAPPIN’『Dance,Dance,Dance』2023.09.09(sat)大阪・大阪城音楽堂
9月9日、EGO-WRAPPIN’の夏の恒例ワンマンライブ『Dance,Dance,Dance』が大阪・大阪城音楽堂にて開催された。【夏の野外で踊れる】をテーマにして毎年行われてきたイベントだが、コロナ禍の影響もあり、本公演は実に3年ぶりの開催に。連日酷暑続きだった夏も落ち着き、秋の気配を感じる過ごしやすい陽気のなか、会場に集まったファンは大いに踊り明かし、久方ぶり&地元ならではの”エゴ”の本域たっぷりのステージを満喫していた。
『Dance,Dance,Dance』ではお馴染みとなった、バンドの名とレインボーの電飾が輝くステージに森雅樹(Gt)とサポートメンバーが登場。この日のメンバーは伊藤大地(Dr)、真船勝博(Ba)、TUCKER(Key)、icchie(Tp)、武嶋聡(T.Sax)。中納良恵(Vo)はアフリカンスタイルなフォークロアの衣装、たっぷりのフリンジがついた麦わら帽を身に纏い、ご機嫌にフリンジを揺らしながらステージイン。ドラムカウントが始まったと思えば、「PARANOIA」から一気にスタートダッシュをかけていく。中納の心を惹きつけるヒリヒリとしたセンシティブな歌声、高音域で叫ぶ声を追いかけていく、ジャジーなピアノとトランペットの音色。前のめり気味に突き進む性急なテンポの楽曲に、観客は早くも両手を掲げてバンドの音を全身に浴びている。
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「楽しんでね~♪」。観客にラフに声をかけると、夕暮れの涼しくなってきたタイミングにばっちりハマる「love scene」へ。ゆったりと優しく響くギターのカッティングに自然と体が揺れる。この日の中納は超ロングの三つ編みに、衣装には大きくて真っ白なひだ襟みたいな付け襟がついていて、彼女が踊るたびにゆらゆらと揺れるそれが、まるで求愛ダンスを踊る極楽鳥みたいでなんとも可愛らしい。バンドの音を誰よりも堪能しているのが彼女なのだと伝わってくる。「a love song」では心地よく耳をくすぐる柔くスウィートな歌声で観客の心を溶かしていく。じわじわと陽が落ちていき、風が吹く抜群のロケーションのなか、切ないメロを紡ぐ森のギター、少ない音数でも確実に気持ちよく心をとろけさせるバンドのサウンドに誰しもが酔いしれている。ここまででまだ3曲なんだけど、もう今日は最高のライブになる! 誰もが確信を持てただろう。
「3年ぶり! ちょっと恥ずかしい…、年頃ですわ」と、久しぶりの『Dance,Dance,Dance』開催に照れる中納。森は地元大阪での開催はもちろん、ライブの前週、そして翌週も大阪での音楽フェスに出演と、ライブ続きの日々が過ごせていることに喜びの声を上げる。コロコロと話が展開していく絵本みたいな「天国と白いピエロ」、中納のラップや森のリズミカルなカッティングが映える「10万年後の君へ」。グルーヴィなベース、湿度を高めた深い歌声で紡ぐ「Sundance」。次々に展開していく楽曲陣は、次はどうだ!?これならどうだ!?と、まるで観客との攻防戦のよう。オーディエンスの感情が昂ると、それに比例してバンドの音もぐっと深みを増していく。
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BGMにさざ波の音が聞こえるなか、飲み屋の話など地元ならではの”おかえり”トークで盛り上がる2人。アコースティックギターとピアニカでボサノバ調に「満ち汐のロマンス」を雰囲気たっぷりに鳴らしたかと思いきや、「しけもくの良恵の時代の曲です…」と、初期曲「タバコ」へ。マイクスタンドに置かれた赤いライトがタバコに灯る火のようで、チリチリと燃える巻き紙、ぽとりと落ちる灰が音に見えるようで、気だるげに歌うその声さえも美しく感じる。
「WHOLE WORLD HAPPY」ではTUCKERと並んでピアノを弾きながら、多幸感たっぷりなメロを響かせる。じゅわっと染みこむお出汁みたいな、聞くほどに胸いっぱいになる曲に、会場後方にある芝生エリアでは裸足で踊り出す人の姿も。「3年ぶりの『Dance,Dance,Dance』、大阪のみんな溜まってたもん全~部出して! 大人も子どももよ~ござんすか!! Dance、Dance、Dance!!」と盛大に観客を煽っていく中納。森のギターリフが穏やかに、でもしっかりとした充実感を与えてくれる「AQビート」では、楽曲が後半へ進むほどに感情が高まっていくけれど、血が滾るというよりも満ちていく感覚に近い。いまこの瞬間、この場所でEGO-WRAPPIN’の音で満たされていることがなんて幸せなことかとつくづく思う。
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ライブ後半は「human beat」「Shine Shine」「Calling me」と、多彩なエゴサウンドをたっぷりと聴かせていく。“世界中の喜びあつめ 道をつくろう”“くたびれ果てて 踊ろう”、「Shine Shine」の歌詞にある言葉の世界がまさにこの瞬間、この場所にあるようだ。ホーン隊の情感たっぷりな音色が素晴らしく、中納の美しくも圧倒的な存在感を持つロングブレスからは慈しみさえ感じる。
「時代を越えて、えぇ曲は響く!」と、以前に向井秀徳と共演した際にカバーしたという「もうがまんできない/JAGATARA」も特別に披露。エゴ流にアレンジされた心地よいレゲエのリズムも素敵なんだけど、歌詞の世界観がいまの時代にハマりすぎて心を大きく揺さぶられてしまう。中納は貪欲にリズムを拾い、江戸アケミよろしく、ステージで豪快に踊り倒す。
「今日来てくれたみんなに幸あれ!!」と、ライブの定番曲「サイコアナルシス」からラストスパートをかけていく。「くちばしにチェリー」「GO ACTION」と、熱量高いパフォーマンスと喧騒にも似た怒涛のバンドサウンドで血を滾らせていく。「みんな、楽しかった?」、中納の問いは答えるまでもなく、観客はとにかく踊る、踊る、踊る!
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アンコールではグッズのなかに、子ども用サイズのTシャツも展開していたらしく、会場にいたチビっこに「愛と平和のEGO-WRAPPIN’だから」と、サプライズでプレゼント。「新規にも優しいよ♪」とおどけつつも、早くも次世代ファン獲得!?なほっこりシーンに会場が沸く。MVと同じく、ドラを大きく打ち鳴らすと「Mother Ship」からアンコールへ。「乗りこめ! 乗りこめ!」と、とことん観客を引き込み、剛毅なりズムのなかを泳ぐように踊る中納。最後は「愛してます、大阪! お体には気をつけて。また会おう!」と、「サニーサイドメロディ―」でフィニッシュへ。最終曲を前に、混雑を避けようと足早に帰路につく観客の姿を見つけ、「帰らんといて~」と、中納は切なそうに声をかけて引き留めるが、その場にいた誰もが彼女の気持ちがよくわかったはず。だって、愛も幸せもたっぷりの満足度の高いエゴサウンドは最後の一音まで堪能し尽くさないと! EGO-WRAPPIN’の2人とバンド、そして観客が相思相愛になって踊り明かした全19曲が終えると、拍手喝采が沸き起こり、3年ぶりの『Dance,Dance,Dance』の幕が閉じた。
取材・文=黒田奈保子
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