『Haruy Tour 「1414」』2023.9.17(SUN)東京・渋谷WWWX
「(ツアーが)終わっちゃうんだね」
ライブの終盤、Haruyは感慨を込め、観客とサポート・メンバーに語りかけた。
「ツアーってこんなに楽しいんだってびっくりしました。もっとやりたいという気持ちになりました。みなさんのお陰です。ありがとうございます」
その言葉を聞いて、そこにいる誰もが感じ取ったに違いない。Haruyにとって初めてのツアーが確実に手応えあるものになったことと、そしてHaruy自身がツアーを通して、ライブ・アクトとして、自らさらなる可能性を見出したことを。
Haruyは00年生まれのシンガー・ソングライター。21年に急逝したSuchmosのベーシスト、HSUことHayata Kosugiをプロデューサーに迎えた1st EP「MAO」で22年6月に本格デビューを飾ると、一躍、注目を集めた。そして、今年7月、2nd EP「1414」をリリースした彼女が、その次なるステップとして「1414」をひっさげ、東名阪を回った今回のツアー。ファイナルとなる9月17日(日)の東京・渋谷WWWX公演は、HaruyがHaruka名義でベース&ボーカルとして参加しているスリーピース・ガールズバンド、Tastyをオープニング・アクトに迎えるという心憎い趣向も見どころのひとつとなった。
Haruy、Anno(Gt.Vo)、Koike(Dr)からなるそのTastyのステージは「1414」のリリース・ツアーだからということだろう。同EP収録の「Town」のTastyバージョンからスタート。リバービーな音像の中、Annoがギターで鳴らす音色の揺れ、流れるようなHaruyのベースラインが心地いい。続く「Intimacy」は、Annoが歌うソウルともジャジーとも言えるメランコリックな曲と思わせ、Koikeがドラムの手数を増やしながら、Haruy、Annoとともに演奏の熱をじわじわと上げる。
Tasty
「ソロを始める前に組んでいたバンドです。中学の同級生と高校から組みました。3年ぶりのライブです」(Haruy)
この日、Tastyは前述の2曲を含む計7曲を披露した。R&Bをバックボーンにシティ・ポップ、ネオアコ、スカ、ビンテージ・ソウルと曲ごとに装いを変えながら、空間の広がりと低音の響きを生かしたポスト・パンク的なバンド・アンサンブルからは、彼女達ならではと言える世界観が感じられた。
「呼んでくれてありがとうございます(笑)」(Anno)
「出てくれてありがとう!(笑)」(Haruy)
最後を飾った「Waterfall」は、Annoのアカペラから始まるトラッド・フォーキーなスロー・ナンバー……と思いきや、ギターの轟音を鳴らすオルタナ・ロックに展開。ウィスパーからシャウトに変わったAnnoの歌声とともにTastyは鮮烈なインパクトを残したのだった。
Tasty
Tasty
Tasty
20分の転換後、アンビエントなSEが流れる中、客席を照らす眩いライトにシルエットを浮かび上がらせながら、メンバーが登場するというオープニングからスタイリッシュだったHaruyのステージは、「1414」のトップを飾る「SENA」でスタートした。
Tastyのライブを見た直後だったせいか、ソウルともジャジーとも言える曲調は、HaruyのソングライティングがTastyの延長上にあることを思わせたが、一緒に演奏するメンバーが違うんだから、当然、曲は違う印象になる。
グルービーな演奏でHaruyをバックアップするのは、ベース=市川仁也(D.A.N.)、キーボード=TAIHEI(Suchmos/賽)、ドラムス=Dr. 澤村一平(SANABAGUN.)ーーHaruyとともに「1414」を作り上げたミュージシャン達だ。
この日、Haruyは「MAO」「1414」からの8曲にD.A.N.の櫻木大悟(Gt. Vo. Syn)を作曲とプロデュースに迎えた最新4th シングル「Frozen」を加えた計9曲を披露した。
オルガンがノスタルジックに鳴ったソウル・バラードの「Snake」はHaruyの歌声もさることながら、バンド・アンサンブルに熱を加えるリズム隊のエネルギッシュなプレイも聴きどころ。そこにシンセが80’s風の音色で鳴るエレポップ・ナンバー「Lovely」を繋げると、スタンディングのフロアを埋めた観客が体を揺らし始め、バンドのグルーヴがフロアにもしっかりと伝わっていることを物語る。
「ツアー最終日。めちゃめちゃ寂しい。次はアルバムを作ろうと思っているんですけど、そのツアーはもっといろいろなところを回りたい。みなさん、3連休中なんですよね? その中、来てくれてうれしいです」(Haruy)
短いMCを挟んでから披露したのは、トリップ・ホップなんて言葉も連想させるアブストラクトなR&Bナンバー「Frozen」とタイトな8ビートが演奏に疾走感を加える80’sニュー・ウェーブ調のポップ・ロック・ナンバー「Ryan」ーーHaruyが作る楽曲の振り幅を印象づける2曲。曲調に合わせ、Haruyはアンニュイともミステリアスとも言えるウィスパーと、聴く者の心に明かりを灯すようなハイトーン・ボイスを巧みに使い分ける。
市川、TAIHEI、澤村によるセッションからなだれこんだ後半戦は、リズムが跳ねるファンキーな「Swimmer」、R&B調のグルーブを持つ「Don’t catch the now」と繋げ、今一度、フロアを揺らしていく。ともにアーバンな曲と言えると思うが、Haruyはクールな歌声とリズム隊のソリッドな演奏で差を付ける。
自分を含めたバンドと言ってもいいほど、Haruyがサポートの3人に全幅の信頼を寄せていることは明らかだったが、それが如実に表れていたのが、「今日はありがとうございました。Haruyでした!」と声を上げ、本編の最後に演奏した「Moonrise」だ。
メランコリックなトリップ・ホップが後半、ハウス・ミュージック調に変化。そこから、楽器隊の3人が繰り広げる長尺のインプロビゼーションにHaruyが奔放なスキャットで応酬しながら、演奏は一気に白熱。クライマックスという表現がふさわしい熱気を作り出した。そこにHaruy&バック・バンドではなく、Haruyも含めたバンドと言ってもいい一体感を感じ取った観客は少なくなかったはずだ。
「「Moonrise」のアウトロは(あらかじめ展開を)決めずに、いつも楽しくやらせてもらっているんですけど、今日はすごかった。マジ、ヤバかった!」
観客のアンコールに応えステージに戻ってきたHaruyの第一声がこれだったのだから、もしかしたら、演奏していた本人達が観客以上に興奮していたのかもしれない。
そこでHaruyの口から飛び出したのが、冒頭の言葉だったのだが、サポートの3人も大きな手応えを感じていたことは、今回のツアーを振り返ったそれぞれの言葉からも明らかだった。
「俺らも同世代になると、全国ツアー初めてって、もうそんなにないから、名古屋と大阪に初めて行って、おぉっとなっている彼女を見て、初心に帰りました」(TAIHEI)
「ライブを重ねるごとによくなっていった!」(澤村)
「ありがとうござました!(笑)」(市川)
観客のアンコールに応え、TAIHEIと共作したバラード「Landscape」を、TAIHEIのピアノだけで歌い上げながら、ウィスパー・ボイスとファルセットの魅力をダメ押しするように見せつけ、ツアーは幕を閉じた。最後に3人に語りかけた「アルバムのツアーもよろしくお願いします」という言葉に加え、Haruyはこのメンバーでライブに意欲を燃やしていることを窺わせながら、「(この4人で)これからも仲良く和気藹々とやっていきたいと思います!」と観客の期待を高める言葉を残したのだった。
取材・文=山口智男 撮影=ひの