『908 FESTIVAL 2023』 撮影=西槇太一
908 FESTIVAL 2023
2023.9.14 日本武道館
KREVA主催の“音楽の祭り”『908 FESTIVAL 2023』が9月14日に日本武道館で開催された。
2012年にスタートした『908 FES』はコロナ禍の影響を受け、2020年は無観客のなかオンラインで。2021年は爆発的な感染拡大で開催を延期し、2022年2月に『908 FESTIVAL 2021+1』を、さらに同年9月に『908 FESTIVAL 2022』をそれぞれ有観客無歓声で開催した。通算12回目となる今回は、ついに4年ぶりに有観客有歓声の完全体『908 FES』が大復活!! KREVA以外の出演アーティストは三浦大知、石川さゆり、KICK THE CAN CREW、AKLOと、あえて『908 FES』に出演経験がある気心知れたメンバーを招聘して復活を祝った『908 FES』。その完全レポートをお届けする。
この日、FES全編の演奏を担うKREBand(白根佳尚/Dr、柿崎洋一郎/key、近藤潔人/Gt、大神田智彦/Ba、熊井吾郎/MPC+DJ、SONOMI/Cho&Key)がサウンドを奏で、ポップアップで舞台中央からKREVAが飛び出すと、場内には大歓声が響き渡る。《武道館なら皆勤賞》と歌い込んだ「クラフト」をオープナーにライブをスタートさせると「ど頭から紹介していいですか?」といって盟友・三浦大知をさっそく呼び込み、2人は華麗なパスワークで「Fall in Love Again feat.三浦大知」をパフォーマンス。KREVAは曲中「みんなの愛を確かめてみようか、大ちゃん!」といって、この曲のサビの歌唱を初めてオーディエンスに任せることで、今回から『908 FES』がコロナ禍から新しいフェーズに突入したことをみんなで共有していった。
AKLO
華麗なパスワークから次にパスを引き継いだのは、『908 FES』常連だったAKLO。久々の『908 FES』登壇。緊張感あふれるなか「我々ラッパーなのでカマすか死ぬか」とクールにいい放ち、「カマすor Die」などをここまで磨き上げてきたラップで畳み掛けていく。「思いっきり声、聴かせてください」という煽りに続いて「百千万」では“百千万”とシンガロングする声がどんどん広がっていったところにKREVAが登場し、「RGTO」をパフォーマンス。「何年ぶりか分かんねぇけど、うちのバンドともカマしてもらっていいですか?」とAKLOに挑みかけると、DJから演奏がKREBandにバトンタッチ。始まったのは、あの「Catch Me If You Can」! AKLOとKREVAはガチで、ハードコアなラップバトルを展開すると場内に熱狂が巻き起こっていった。
石川さゆり
そのままステージに1人残ったKREVAは「いろんな意味で寂しくなってきた。でも大丈夫。今年からはみんなが歌ってもいいから」といって「くればいいのに」を歌い出す。1サビをオーディエンスの歌声に包まれて終えたあと、これまでこの曲を様々なアーティストと歌ってきたことに触れ「2023年、この人を迎えられることを光栄に思います」というと、日本武道館をイメージしたような赤と白の晴れやかな着物姿で石川さゆりが登場。曲のエンディング、石川が独特のコブシ回しで、都々逸をきかせながら《あなたがくればいいのにぃ〜〜》とうっとりするような所作でKREVAに向かって手を差し出しながら歌い上げると、KREVAは右手を胸に添えて紳士的に一礼。ゴリゴリのラッパーとのバトルに続いて、このような演歌界の大御所との気品あるステージ共演が見られるのは、まさにジャンルレスな音楽の祭りを謳う『908 FES』ならではの醍醐味。石川の美しくも凛とした存在感、抜群の歌唱力に騒然とする観客に対して、『908 FES』は今回が初有観客体験となった彼女は「みんな若いのね。ずっと立ってて」とチャーミングな声で語りかけ、場を和ませていく。そうしてKREVAが「50周年。これぞ石川さゆり、というのをガツンとブチかましてもらっていいですか?」というと「やっちゃうか」と可愛く答え、歌い出したのはもちろん天下の「天城越え」。歌、動き、視線一つまで貫禄のパフォーマンスに魅せられた観客は、盛大な拍手を送り続けた。
KICK THE CAN CREW
石川の次にマイクを託されたのは、見た目も特徴も三者三様、キャラ立ち3本マイクでおなじみのKICK THE CAN CREW。躍動感たっぷりに軽妙なマイクリレーを繰り広げて「千%」では“ここ”で、メンバーとともに観客全員が武道館の床を指差す。そうして曲の最後、3人がユニゾンで“ここ、武道館!”と歌詞をアレンジして歌うとステージ後方に“日本武道館”の文字が浮かび上がる。「さゆりさん、盛り上げ過ぎじゃない?」、「すごかった!」と3人はクロストークで盛り上がったあと、KREVAが「今年ずっと“ここ”でやりたかった。ここが俺らの家だととらえて」といって「住所」の掛け合い「in the house」を観客と練習。「千代田区北の丸公園2−3(←武道館の住所)、今日ここを俺らの住所にしようぜ」というKREVAの曲紹介から始まったのは「住所」。オーディエンス一丸となって楽しそうに“いいかも”と歌う声が場内に広がる。そこに、即「マルシェ」投下。カラーテープが降り注ぐ中、観客のテンションはさらに急上昇。そうして、さらにこの日は、これまで映像付きで見てもらうのが一番いいという理由で披露してこなかった新曲「カメとピューマとフラミンゴ」(彼らが“生き物の多様性”をテーマに書き下ろしたSDGsラップ)を「みんなのうた〜ひろがれ!いろとりどり」(NHK)で使われていたアニメーション映像をバックに初アクト。『908 FES』ならではのサプライズに、場内は歓喜に包まれた。
このあと、突然授業開始のチャイムが武道館に鳴り響くと、目の前のステージが教室に早変わり。ここからは黒縁メガネをかけ、白衣姿のKREVAが先生となり韻の踏み方を教える「ライミング予備校」のコーナーが2018年以来大復活。三浦大知、AKLOという従来の生徒が着席すると、まずは今回の教材はKREVAが『ねぶた祭り』を題材に制作し、青森市オリジナルダンスのオフィシャルソングとして認められている「ラッセーラ」であることを、自身が今年参加した『ねぶた祭り』の映像も交えながら紹介。その青森の景色とつながるように「津軽海峡冬景色」の1コーラスを熱唱しながら石川さゆりが新入生として登場すると、場内は驚愕。石川が津軽弁で私語を連発し、KREVA先生に「カツカツで進行してるんだから」と注意されたり、三浦が「ラッセーラ」に合わせてハネトのように踊りまくると「そんなにステップ踏めるんなら韻踏まなくていいよ」といわれながら授業は無事終了。この後はMCU、AKLO、LITTLE、KREVAの4人のラッパーが、順にラップをしていくサイファーで、その成果を競い合った。
三浦大知
続いて、授業では恒例の瓶底メガネと学ランキャラで客席を大いに笑わせた三浦大知のステージへ。『908 FES』常連ながらも「三浦大知です。よろしくお願いします」といつもながらの丁寧な挨拶を経て、パフォーマンスへと移る。ダンサーを従え、ダイナミックなテンポチェンジを流麗に聴かせながら、それを全員が見事な音ハメで踊っていく「Backwards」。その1曲でオーディエンスをロックオン状態に。場内の空気をいっきに三浦色に染めたあと、新曲「能動」ではアグレッシブなサウンドとともに、ラップ調の歌唱から中低音に響く声、エンジェリックな美しいフェイクに突き抜けていくようなパワーボイスまで、最新鋭の三浦の多彩なニュアンスのボーカルをすべて詰め込んだようなステージを体現。そうして、毎回こちらも恒例となっている三浦のKREVAソングのカヴァー。「前回は“居場所”。今年はそのときも候補で上がっていた“人生”という大好きな曲を歌わせてもらおうと思います」と告げ、KREVAの「人生」を歌唱。そうして「紹介しましょう、もちろんKREVA」とKREVAを呼び込み、メロウな優しいバラード「Your Love feat.KREVA」を歌ったあとは、再びダンサーとともに三浦が「いつしか」を芸術レベルとも思える素晴らしいアクティングで観客を魅了。武道館が感動に包まれるなか、オーラスのKREVAへとバトンをつないだ。
無数のレーザービームを浴びながらこの日のトリとして登場したKREVAは、パープルコーデにブラックサングラスを着用。王者らしい風格とオーラをまといながら「神の領域」で堂々とライブをスタートさせる。ファンキーなイントロでサングラスを外してステップを踏みながら、ソウルフルな歌声のSONOMIを指差し「ってfeat.SONOMI」。「挑め」は『908 FES』バージョンで、曲中MCU、続けてLITTLEがラップで登場すると客席は大賑わい。”『908 FES』、全員で挑めっ“と曲を華麗に締めくくったあとは、AKLOと久々にセンチメンタルなメロディアスチューン「想い出の向こう側feat.AKLO」を歌唱。その雰囲気を引き継ぐように曲は「EGAO」へと展開。KREVAは1人、ハンドマイクではなくマイクスタンドをセンターに立て、オートチューンを使った声でこの曲を歌い上げる。2サビはそっとマイクから口を外し、オーディエンスが歌う声に耳を傾けた。そして「みんなの声で、手で、感情でこの曲に参加して下さい」と場内を煽ったあと、石川さゆりを招き入れ「やっときました。歌える人はどんどん歌って下さい」といって「火事と喧嘩は江戸の華」が始まると舞台上ではトーチが燃え、炎がバンバン上がりだす。観客はお祭りに欠かせない掛け声を一斉に入れだし、会場全体が大熱狂に包まれる。さらに、そこに三浦大知が飛び出してきて「全速力feat.三浦大知」の投下で、武道館は限界までスパーク。そして「この歌、初めて歌います。歌わせて下さい」とKREVA。最後は「クレバの日」にリリースしたばかりの新曲「Expert」を初パフォーマンス。観客の胸に素晴らしい音色とメッセージをしっかりと刻み込んで本編を締めくる、はずだったのだが(笑)「時間がないのでこのままアンコール行かせて頂きます」とKREVAがいって、ライブはそのまま続けてアンコールへ。
バンドメンバーを1人づつ紹介したKREVAは「まだまだこういう状況が続きますように」という言葉を添えて「All Right」を届け、『908 FES』のフィナーレを飾った。最後は、あらためて出演者全員が一同に揃って挨拶。有観客有歓声の素晴らしさを改めて出演者、来場者全員で噛みしめる中、『908 FES』は完全体で大復活を果たして「『908 FES』、これにて終了」というKREVAの言葉で閉幕。最後までステージに残っていたKREVA は、観客に最大限の感謝の気持ちを込め、指でハートマークを作ってプレゼントしながら退場していった。
取材・文=東條祥恵 撮影=西槇太一