Nothing’s Carved In Stone
結成から15年、スタジオアルバムだけでも11作を世に出し、毎年ツアーを回り続けてきたNothing's Carved In Stone(以下、ナッシングス)は凄まじいペースで活動を展開してきたバンドだ。そんな彼らが1年と少々の間、活動のペースを落とすことになると発表したのが昨年4月。恒例のタイミングでのワンマンやいくつかのフェス出演こそあったものの、これまでになかった規模となったインターバルは、いよいよ9月から始まるツアーでシーンに帰還するナッシングスに何をもたらしたのだろうか。少なくともメンバー各自が、それぞれの活動を通して音楽と向き合い、スキルを磨き抜き、牙を研いできたであろうことは想像に難くない。今回は村松拓(Vo/Gt)と生形真一(Gt/Cho)の2名に、この期間で感じたことや今あらためてバンドに対して抱く思いなどを訊いていく。
──昨年・2022年4月のLINE CUBE SHIBUYAのワンマンで、しばらく活動のペースを落とすという発表がありました。そこから早1年以上経ったんですが、僕はこの期間に「音楽シーンにナッシングスがいない」という感覚をそこまで覚えなかったんです。
村松:そう捉えてくれてたならよかったです。
生形:まあ、結構ライブもやってましたからね。
──そうなんですよね。しばらくお休みすることを決めた時点で、こういう動きになることは想定していたわけですか。
村松:想定はしてたよね。
生形:うん、いろいろライブは決まってたし。でも俺がエルレ(ELLEGARDEN)をやるのもあって、ちょっとライブが少なくなるというか、自分たち主催のライブがなかなかできなくなっちゃうっていう……まあ、やったんですけどね(笑)。
村松:これまでものすごいペースで活動してきたバンドなので、自分たちにとっての充電期間でもあったというか。寂しい思いをさせちゃうかなというのはもちろんあったけど。
──「休みます」とは明言せずにペースダウンする選択肢もあったと思うんですけど、あえてきちんとライブの場で宣言したところにナッシングスの義理堅さみたいな部分を感じたんですよね。
村松:これは個人的になっちゃうけど……自分たちの中で明確に期間が空くよっていうのは初めてだったし、コロナの影響でお客さんもライブから離れてたっていうのもあったので、当時は自分の中に焦りもあって。だからはっきり言っておきたかった。「はっきり言っておくから、また戻ってきたときは遊びに来て」みたいな気持ちがあって。忘れてほしくなかったし、曖昧な感じでだんだん変わっていくみたいなのは避けたかったから。
生形:いろんな意見はあったんですよ。言った方が良いんじゃないか、言わなくて良いんじゃないかというのはバンド内でも話したし。でも結果、言った方が良いんじゃないかということになって。
──これまで全然止まっていなかったバンドだけに、「止まったらどうなっちゃうんだろう?」みたいな不安も無くはなかったのではないかと。
生形:俺がうちのバンドの良いところだと思うのは、後ろ向きに捉えないんですよね、何事も。4人全員がけっこう物事を前向きに捉えるタイプだから、あんまりそういうことに対して後ろ向きになったことはないかなっていう気がします。次のツアーに対しても、たぶんみんなモチベーションがすごく上がっていると思うし、新しい俺らを見せたいなっていう感覚。この1年間でメンバーそれぞれが色々なところで手に入れたものを集めた、新しいナッシングスとしてライブをやるっていう感覚かな。
村松:うん。もともとうちのバンドだけじゃないメンバー達なので、インプットとアウトプットがより深みを増した状態で帰ってこれたらいいなって思ってました。より音楽的に自分を高めて集まれたらっていう思いを、4人全員が持ってることをすごく感じてたし、バンドの4人に対する不安とかはマジで無くて。
──お客さんに対してはどうでした?
村松:あっという間に忘れられちゃうので。今までこれだけ積み上げてきたものも……バンドをやる上で現状維持って下がっていくものなので、そうなりたくないよねっていうのは各々が思い続けてきていて。真一が言ってたようにマイナスなことは口に出さないし、めちゃめちゃ前向きなんだけど、得体の知れないくらいのパワーを感じるバンドじゃないと、なかなか周りの人を巻き込んでいけないじゃないですか。初期の俺らにはそれがあったと思うし、また集まったときにそうなれてたらお客さんは付いてきてくれるだろうなという気持ちでした。
生形真一
──この間、拓さんはソロやABSTRACT MASHを、生形さんはELLEGARDENの活動をされてきましたが、見えない部分での動きもあったんでしょうか。
生形:やってました。ナッシングスは必ず月に一度は集まって曲作りしてました。だから曲も何曲かあるよね。
村松:あるね。
生形:レコーディングはしてないけど、デモの段階のものはあります。
──新たなインプット/アウトプットによって、「こんなふうに考えるようになった」「こんなことができるようになった」とか、思い当たることはありますか。
生形:俺はめちゃめちゃありますね。明日からリハなんですけど、みんな色んなところで戦ってきて、戻ってきて、見せたいことも話したいこともあるだろうし。得たものはすごく多いんじゃないかと思います。自分にとってナッシングスがどういうバンドであるか、ということとか。
村松:そこは大きいですね、たしかに。
生形:15年間(の活動)でアルバムをたくさん出してて、毎年のようにアルバムを出してツアーも回ってきた中で、やっぱり波があるんですよ。最初はもう自分たちの好きなことを好きなだけやって、それをずっと続けていくと今度は欲が出てきて。もっともっと人気が出てほしいとか、その為に曲をこういうふうに変えてみようとか色々考えて。結局は元に戻ってみようとか、色んなことにチャレンジしてきたバンドで。で、俺がこの半年とか1年でナッシングスに対して考えてたことは……誤解がないように言いたいんだけど、流行りがどうこうとかじゃなくて自分たちがやりたいことをやればいいんだなって思った。今の若い子たちの音楽はもちろん聴いてるし、どちらかというと俺らはそこに敏感なタイプなんですよ、世界中の音楽に対して。そういうものから刺激を受けるのはありつつだけど、「こうしたらみんなが喜ぶんじゃないか」とか余計なことは考えないで、自分たちがカッコいいと思う音楽を作ることで、ナッシングスが一番カッコよくいられるんじゃないかなっていうことに気づきましたね。やってない間に。
村松:うん。
生形:それで失敗したら失敗したで良いんじゃない?っていう感じ。
──ルーツみたいな部分に囚われるわけでも、新しいものを追いすぎるわけでもないと。
生形:そう。だから4人で話してても、たとえば拓ちゃんが「これ聴いたんだけどカッコよくない?」って言ったら「カッコいいね、やろうよ」ってなる。それがめちゃめちゃインディーなバンドだったとしても、カッコよければ俺らはやるっていうスタンスが良いなと思いました。
村松:同じことを考えますね、やっぱり。俺も一人でもやったしアブストもやって、いろんな人と出会って、そのぶん喜びもあったわけで。一人でツアーを回って、1年経ったらフェスに呼んでもらって、少しずつ自分で状況を変えることができたりとか、本当にいろんな成長や喜びがあった。だけど、客観的に見てああいうフェスに並んでるバンドで──ELLEGARDENももちろんそうですけど──俺が面白いなって思うバンドって、そのバンドにしかできないことをやっているから面白いんですよね。その価値がたとえばエンタメでも、楽曲のオリジナル性であっても、ライブであっても、そのバンドにしかないものがあるバンドに価値があるというか。そこがバンドの面白さであるっていうことを再認識して。「ナッシングスの面白みってどこなの?」ってところを一回丸裸にして表現できるようになっていたいな、みたいな。
村松拓
──その拓さんにとっての「ナッシングスの面白み」ってどういう部分なんですか。
村松:それはね……マジで一言では言えないんです(笑)。でも、どのバンドでも、個性が集まって一つになるから面白いじゃないですか。その最たるものだと思うんですよ。各々の「好き」っていう気持ちとか熱量とか、いろんなものを持ち寄って一つに変えていくことができるバンド、っていう感じですかね。お互いに空気は読むし、人間性として尊敬する部分もあるんだけど、それぞれが自分のギター、ベース、ドラム、俺だったら歌に賭けて、積み上げながら壊しながらやってきたものを、なんとか合わせて一つにしようぜっていう。なんというか、ミュージックラバーなところじゃないですか。このバンドに自分の表現を重ねている部分と、音楽をバンドでやる楽しさを感じてる部分と一緒くたになってる、「これぞバンド」みたいな面白さがうちのバンドにはあるんですよね。
生形:すごい極端な話をすると、4人がよければ何でもいいっていう感じ。投げっぱなす意味じゃなくて、それが一番良いんだろうなっていう。明日のリハからまた新しいツアーや作品に対しての向き合いが始まると思うので、合わせてみるのがすごく楽しみです。それに、ずっとアルバムを出し続けてツアーをやり続けてきて、それは当時そうしなきゃいけないと思ってたことで、ルーティーンのようにやってたんだけど、こうやってごっそり期間が空いてみると「こういうのも良いな」と思いましたね。曲を作りたくなるし、ライブをやりたくなる。もちろん、(以前が)やりたくなかったわけではないけど、独立する前とかは色んなことを考えて急かされるように作った部分もあるから。
──リフレッシュできた部分もありそうですね。
生形:うん。だって、こんなにアルバム期間が空いたのは初めてじゃないかな。
村松:初めてだよね。
──そこはもしかしたら作風にも──
生形:出るかもしれないですね。ツアーとかライブをやっていくとどんどん変わっていったりするから、それはこれから分かるかもしれない。
──15周年イヤーでもあります。15年やってきたという事実に対してはあらためて思うことはありますか。
村松:俺らは各年代の時代分けみたいなことをしてないから、あんまり分からないけど、でもまあ、ひなっちとかがよく言うのは、「15年経ってファミリーになったよね」みたいなことで。お互いのものをぶつけ合うだけじゃなくて、同じ船に乗ってる一つの家族というか、「行ってこい」も「帰ってこい」もできる。……この間、ライブでファンの人と会ったら、高校生くらいだった2人組の子がいま22〜3歳くらいになってて、「変わってないね」「今でも応援してます。ナッシングス楽しみです」みたいな話をして。そういう、俺ら自身が重ねてきてる歴史とファンの方が重ねてきてる歴史があるという意味でも、きっと濃い15年だったんだろうなとは思います。俺らは自分なりにやってきたつもりだけど、きっと応えられた部分があったんだろうし、その自信みたいなものが嬉しかったですね。
──たしかに15年ってもう、一つの歴史ですね。
村松:面白いのが、15年間でゆっくり関係性を作ってきたのもあるけど、メンバーお互いの感じは変わらないし、結局最終的にやろうとしてることは変わらない気がしていて。真一が「4人がよけりゃいい」っていうのもそういうことで、ステージに上がろうってときに、どんなライブをするか決めて上がったところであんまりできないバンドっていうか(笑)。結局、そこで出したいものって「4人でやるならこれしかないよね」ということが、本当はどこかで分かっている。そこが変わってないことがすごく良いし、俺たちにしか無いものなのかなって思いますね。
Nothing's Carved In Stone
──間もなくツアーが始まって、年明けの武道館ワンマンへ向かうというのが15周年の大きな道筋となります。これはどうやって決まったんですか?
生形:まずは武道館が取れるか取れないかっていう、裏の話があったんですけど(笑)。武道館が取れたから「よし、もう一回気合い入れ直して頑張ろう」「その前にツアーもやろう」っていう組み立て方でした。もちろん、ツアーはやりたかったんですけどね。あとは対バンをやりたかった。
村松:そうだね。
生形:前回の『Hand In Hand』っていう対バン企画がコロナで2回延期になって、結局中止になっちゃって。それもあるから対バンツアーってめちゃくちゃ久しぶりなんですよ、4年ぶりくらいかな。だからずっとやりたかった。今回の相手もみんなで話して決めて、すごく……いつもは揉める、というとあれだけど、難航するんです。でも今回はすぐ決まったし、バンド側もすぐOKしてくれて。
──すごいメンツが揃いましたね。まず初戦が若手の鋭児。
生形:鋭児だけが面識ないんですよ。他は一緒にやったりフェスで会ったりしてよく話すバンドなんだけど。1バンドくらい全く新しいバンドとやりたいなっていうのがあって、色んな人に話を聞いたり音源を聴かせてもらったりして「カッコいいな」って思いました。わりと尖った感じの音ですよね。
──そして様々なタイプの猛者たちを経て、ファイナルはマンウィズ。
生形:マンウィズは昔ツアーに呼んでくれて。すごくデカい規模でやってるバンドだけど、すごくバンドマンですよね。
村松:そうなんですよ。中身が本当バンドマンなんですよ。
──"中身"とか言っちゃマズいんじゃないですか。
生形:はははは!
──心の中身が、ですかね(笑)。そして武道館へ向かうわけですけど、一度目の武道館をいま振り返るとどんなライブでしたか。
村松:いろいろあったな。でも、どうだったかなぁ……どうでした?
生形:え?(笑) あんなに入ると思わなかったですね、正直。売り切れたし。
村松:そうだね。
生形:宣伝もそんなにしてもらわずに、自分たちでやって。
村松:あれ楽しかったよね。毎月自分たちのホームページだけ更新して。
生形:だからすごく嬉しかったのは覚えてますね。
村松:思い返してやっぱり思うのは、"ご祝儀"だったよね。
生形:初めての武道館っていうことで。だから次が勝負だよね。
村松:間違いなく。同じことやったら面白くないし。
──初めてと2度目では心構えも違うでしょうし。
生形:やっぱり進化した自分たちを見せたいのが一番ですよね。あとは今回セットリストもみんなに決めてもらいたくて投票をしたりとか、そういうこともありますけど。一番は5年経った自分たちを見せたい。
──リクエストに応えて、かつ30曲以上やりますというのをあらかじめ宣言したことにも驚きました。
村松:フルボリュームですよね。だいたいワンマンだと23〜4曲だから。
生形:多くてもそうだね。
村松:30曲やるっていうのも初めての試みだし、リクエストのライブじゃないですか。だからみんなですごく相談したんですよ。20曲もリクエストにして本当にライブが成り立つのか?みたいな。
生形:バラードばっかになっちゃったらどうする?とか……まあ、自分達で11曲は選ぶからそんなことないんだけど(笑)。
村松:6/8の曲ばっかりだったらどうする?みたいな(笑)。僕らは僕らで良い演奏を作り上げていくつもりですけど、お客さんが主役であるところもあってほしいというか。
生形:お祭りみたいにしたいよね。
村松:そうそうそう。その話になったのも前回と違うものにしたいという流れがあったからなので……やろうかやめようか本当に揉めたけどね(笑)。
生形:外の人にも相談しました。外っていうのは本当、バンドマンだけじゃない人とかにも。
──一度目の武道館がご祝儀的な"take"のライブだったとしたら、今回は楽しんでほしいという"give"の精神ですよね。だって、普段は全然やらない曲ばかりになる可能性だってあるわけで。
生形:いや。中間結果がもう出てるんですけど、めちゃくちゃ王道です(笑)。
村松:めちゃくちゃ打ちやすいよ、本当に。目を瞑っても打てる(笑)。
生形:でも中間発表してからもう一回投票できるんで。
村松:そこでバランスが取れるかもしれない。
──最後に、すでに制作が始まっているという今後の作品についても話せる範囲でお願いします。
生形:ツアー中も制作は多分するけど、どうなるかはまだ……アルバムを作るつもりでやるから、その中でもし出せそうなら出すしっていう感じ。でも俺、実はこれから作る曲が楽しみで。ツアーが始まってメンバーみんながどうなるか、何を感じていくかっていうのがすごく楽しみ。
村松:いやあ、そうなんだよなぁ。いきなりハードコアなアルバムとかになるかもしれないからね。
生形:そうそう。本当にそうかもしれない。
村松:やりてえ〜!
生形:(笑)。そういう曲も絶対出てくるだろうし、それがやっぱりバンドの面白さだしカッコよさだと思っていて。だから俺たちにもまだどうなるかわからない。それだけに楽しみですね。
取材・文=風間大洋 撮影=大橋祐希
Nothing's Carved In Stone