9月23・24日東京体育館、9月30日・10月1日大阪城ホールで開催された『BMSG FES』のオフィシャルレポートが到着した。
BMSG、設立から3年。音楽業界・芸能界にていかなる変化を起こしたのか。「数字でしか語れないようなことをしたいわけじゃない」と社長のSKY-HIはたびたび語り、「ありきたりな地位や名声じゃ目標にすらならない」とBE:FIRSTは最新曲で歌う。
SKY-HI率いるマネジメント/レーベル・BMSGが主催するフェス『BMSG FES』が、今年も開催された。今年は9月23・24日東京体育館、9月30日・10月1日大阪城ホールの計2か所4公演。BMSGに所属するアーティストとトレーニー総勢23人が集結し、各日全63曲を通して、今日までに起こした革命を目に見える形で表現したのが『BMSG FES’23』だった。
本稿では、9月24日公演を中心にレポートする。
撮影:石井亜希(田中聖太郎写真事務所)
昨年は富士急ハイランドを舞台に野外フェスとして開催されたが、今年は東京と大阪の屋内にて開催。SKY-HIは事前に「東西での開催とした事も、屋内での開催とした事も、全てに意味があります」と発表し、昨年とは異なるテーマがイベント全体に込められていることを示唆していた。
今年は、BMSGのアーティストやトレーニーたちを出身地別で東西にわけたスペシャルユニット「BMSG EAST」「BMSG WEST」を結成し、BMSGの設立3周年である9月18日、2曲の新曲「The Sun from the EAST」「The Moon in the WEST」をリリース。『BMSG FES’23』の会場内には、ステージに向かって左側には月、右側には太陽のモニュメントが吊るされて、ミュージックビデオと連なる世界観の舞台が組み立てられた。
撮影:田中聖太郎
『BMSG FES’23』東京公演は、BMSG EASTによる「The Sun from the EAST」からスタート。続けて、BMSG WESTによる「The Moon in the WEST」へ(大阪公演は「The Moon in the WEST」からスタートし、2曲目が「The Sun from the EAST」という流れに)。マイクリレーの中で、ラップや歌だけでなく仲間たちへの愛もつないでいく。2曲を終えると、「Welcome to 『BMSG FES』!」とSKY-HIが挨拶し、Novel Core、BE:FIRST、Aile The Shota、edhiii boi、MAZZEL、REIKO、RUI、TAIKI、KANONの名前を一人ずつシャウト。そして「口火を切ってくれるのはお前だよね?」という振りから、「edhiii boi is here」へ。前半はedhiii boi、ShowMinorSavage、Aile The Shota、RUI・KANON、TAIKI、REIKO、NovelCoreがそれぞれのパフォーマンスを行った。
撮影:石井亜希(田中聖太郎写真事務所)
しかし、ただソロライブをやるだけでは当然終わらない。各ステージの中で、過去を回収し、現在の物語へと美しくつなげていく。今このステージに立っている23人は、決してここまで順風満帆に歩んできたわけでない。各々がこれまでに味わってきた挫折や悔しさはすべて、成功への一歩にすぎなかったのだと言えるようになるための物語が、一遍ずつ紡がれていった。
そもそもedhiii boiは、BE:FIRSTを輩出したオーディション『THE FIRST』の3次審査にて落選し、やりきれない想いを抱えながら家に帰ったあと、SKY-HIへデモテープを送ったことで逆転勝利をおさめた。いまや立派なソロアーティストとして、ポップパンクを混ぜ込んだ「Flower」やハイパーポップを昇華した「不思議な国のアリス」など、多面的なサウンドを操り、「118」ではNovel Core、SOTA(BE:FIRST)と並んでオンリーワンな声で迫力あるラップをかます存在にまでなった。
撮影:石井亜希(田中聖太郎写真事務所)
音楽的ルーツにおいて共通する部分を持つ、Aile The Shota、MANATO(BE:FIRST)、SOTA(BE:FIRST)が『THE FIRST』の審査内で組んだユニットShowMinorSavageは、『BMSG FES’22』にて、当時の楽曲をブラッシュアップした「No Cap Navy」と新曲「Thinkin’ bout you」を披露していた。そして今年2月、それらにChaki Zuluプロデュースによるジャージークラブの「SUPER ICY」を加えて、待望のEPをリリース。今回のステージでは全3曲をパフォーマンスし、ShowMinorSavage特有のスムースな歌とラップやチルいビートでオーディエンスの身体を揺らした。
『THE FIRST』の最終審査でソロアーティストとしての道を提案されたAile The Shotaだが、彼自身の中でBMSGを牽引しようとする想いはますます強くなっている。「今年のフェスで何を提示しようかなと思ったときに新曲を書きました。愛するBMSGという場所で輝くAile The Shotaの音楽、そして僕の存在意義を、新曲に込めました」と語ってから、新曲「J-POPSTAR」を歌い上げる。『BMSG FES’22』では「BMSGを次のステージに連れていくのは俺です」という言葉が飛び出したが、この1年間、Yohji Igarashi、Shin Sakiura、GANMI、dawgssとコラボするなど、BMSGの他のアーティストたちとは異なるベクトルでシーンをまたいでクリエーションを行い、アンダーグラウンドなカルチャーもJ-POPど真ん中へ連れていこうとする動きを見せてきた。「J-POPSTAR」は、昨年の宣言を具現化するために行動を起こしてきたAile The Shotaが、この先のさらなる道標を自ら描くような一曲だ。
撮影:河村美貴(田中聖太郎写真事務所)
Aile The Shotaの出番の最後に繰り広げられたのは、SHUNTO(BE:FIRST)、REIKO、RUI、TAIKIも加わった「YOLO」。これも『THE FIRST』の審査内で生まれた一曲である。オーディションで出会ったこの5人は、それぞれが自身の才能や個性がもっともいい形で花開く道を選んだ。あれから3年間、自分の道をしっかりと歩み進めてきたからこそ、このステージ上で5人の異なる輝きと笑顔がキラキラと乱反射していた。
『THE FIRST』にてSKY-HIから直筆の誓約書を渡されてオーディション最中に異例のトレーニー契約を結んだRUIと、MAZZELを輩出した『MISSIONx2』の最終審査後にSKY-HIが切望し直々にトレーニー契約を結んだKANONも登場。8月にリリースしたばかりの「声」では、RUIの透き通る高音とKANONの温もりのある低音、それら2人の声が重なり合った。今年が『BMSG FES』初出演となったKANONも、BMSGに所属する他の22人とはまた違ったボーカリストとしてのポテンシャルを持っていることをBMSGファンに証明した瞬間でもあった。そして、『THE FIRST』出演時から、当時13歳ながら自分の言葉を刻み込むラップで人々を驚かせたTAIKIは、LAのプロデューサートリオ・Bankroll Got Itによるビートに、空手(自身が黒帯保持者でもある)とヒップホップカルチャーへのリスペクトを込めたフレーズを乗せた「KARATE KID」を堂々と投下。
『THE FIRST』参加時はダンスも歌も未経験だったにもかかわらず、今や日常生活の中にそれらがあるかのごとく、全身にグルーヴが流れているかのようなパフォーマンスでR&Bの愛と欲望の世界へと引き込んだのは、REIKO。「去年のフェスで僕が言った言葉、今日叶えちゃっていいですか?」と言うと、RAN(MAZZEL)が登場し、二人で『THE FIRST』の審査時に書き下ろした「Just FUN’ky」へ。REIKOは、MAZZELを輩出した『MISSIONx2』からも離脱した背景があるが、結果的に、彼にとって最善の選択であったソロアーティストとしての道を歩み始めることができたこと、そのうえで、こうして二人で大きなステージに立てたことに、会場からは熱い拍手が鳴り止まなかった。
撮影:石井亜希(田中聖太郎写真事務所)
サプライズはまだまだ続く。次はNovel CoreにBE:FIRSTからSHUNTOとRYOKIが交じり、新曲「MF」をドロップ。この楽曲は『BMSG FES’23』終了直後に配信リリースされた。今後もグループの壁を超えた、誰も予期していない組み合わせによるコラボレーションが発表されることに期待が膨らむ。
ハウスバンド「THE WILL RABBITS」を引き連れて登場した、BMSGの第一弾アーティスト・Novel Coreは今、圧倒的に頼もしい存在にまでなった。どんな会場であってもステージ前に集まった人たちを絶対に楽しませる安定感と凄味を備えたスターアーティストだ。MCでは「ひとつだけ、俺がBMSGの最初のアーティストである理由があるのだとしたら、それはきっと、日高さんが今言ってることが叶ったその日に、世界中があの人の言葉に頷く瞬間がきたときに、あの人は何十年も前から同じことを言ってたよって証言するために隣にいると思っています」と語る。最後は、MAZZELになる前にミュージックビデオへの出演をお願いしたRANへ向けて、「デビューおめでとう!」と祝辞を放ち、「THANKS, ALL MY TEARS」で締め括った。
撮影:河村美貴(田中聖太郎写真事務所)
前半戦の最後では、BE:FIRSTとMAZZELの初のコラボレーションが実現。両者のオーディション内の課題曲「Be Free」を15人でパフォーマンス。トークを挟んだあと、またさらなるサプライズが。BE:FIRSTの2ndシングルに収録された楽曲であり、SKY-HI、Novel Core、Aile The Shota、edhiii boiによるリミックスも発表されている「Brave Generation」が、MAZZEL、REIKO、RUI、TAIKI、KANONもジョインした新たなバージョンに生まれ変わったのだ。最後、一人ずつの名前を呼び上げて「We are BMSG!」と締めたSKY-HIは、“喜”や“楽”など普遍的な言葉に収まらないほどの充実感に満ちた表情を浮かべていた。
撮影:田中聖太郎
後半戦は「New Chapter」からスタート。そしてMAZZELのステージへとつなげていく。『BMSG FES’22』ではトレーニーとして出演したRANが「7人の大事な仲間とこうやってステージに立てているのも応援してくれているみなさんのおかげです。MAZZELとして帰ってきました!」と告げると、この日まで応援し続けてきたファンから大きな拍手が湧く。1年前は『MISSIONx2』のオーディションに参加している最中だったSEITOとKAIRYUは、『BMSG FES’22』に二人で参加し「来年はあそこに立とう」と悔し涙を堪えながら誓い合っていたそう。そして、10月18日にリリースする最新曲「Carnival」を披露し、ストリートダンス出身者の多いMAZZELらしく激しくて迫力あるダンスパフォーマンスで魅せた。
撮影:田中聖太郎
BE:FIRSTは、4thシングル『Mainstream』収録「SOS」のライブ初披露からスタート。「Betrayal Game」ではミュージックビデオのセットをスクリーンに映し出し、「Bye-Good-Bye」ではパステルカラーがステージを彩る。LEO、JUNON、MANATO、RYUHEIがスタンドマイクで歌う「Softly」、RYOKI、SOTA、SHUNTOが自分の在り方を詰め込んでラップする「Spin!」、EDMナンバー「Don’t Wake Me Up」、こちらもライブ初披露となった「Salvia」などを織り混ぜて、BE:FIRSTだからこそ生み出せる多種な魅せ方でオーディエンスを誘う。SHUNTOの「BMSGを応援するあなたが、BESTYのあなたが、俺にとっては大切な音楽仲間だと思ってます」という言葉から、「Message」のアコースティックバージョンをスクリーンに歌詞を映し出しながら歌い上げたシーンもエモーショナルだった。
撮影:田中聖太郎
そして最後のステージを引き受けたのは、SKY-HI。「I’m your Boss SKY-HI」(「Crown Clown」)と音楽で挨拶し、9人編成のSUPER FLYERSによるダイナミックなサウンドを響かせていく。「MISSION」では途中でMAZZELの8人もジョイン。SKY-HIとメンバーが一人ずつ目を合わせて歌ったり、SEITOと同じ高さでハイキックを見せたりと、全員のポジティブな熱量が爆発したステージだった。そして「ナチュラルボーンラッパー」とSKY-HIが呼ぶRYUKIだけが残って、「ボーイズグループだからこそラッパーがまじで大事なんだよってことを証明してやろうぜ」という言葉から、Novel Core、RYOKI、RYUKI、edhiii boi、TAIKIによる「Name Tag」を披露。さらに寅年生まれのJUNON、LEO、Aile The ShotaにTAKUTOも加わった「Tiger Style」、RUI、edhiii boi、TAIKIに特別にKANONとRYUHEIも参加した「14th Syndrome」、『MISSIONx2』の初期メンバーであるREIKO、RAN、SEITO、KAIRYUが再集結した「One More Day」と、SKY-HIの楽曲が、BMSGの新たな仲間たちを加えたリミックスで届けられた。
撮影:田中聖太郎
屋内で行われた『BMSG FES’23』は、ステージ上にLEDスクリーンが設置されて、全63曲、映像演出がそれぞれの楽曲の核心を彩った。そんなステージの中で、23人が繰り広げるプロフェッショナルな姿勢と音楽に対する遊び心全開なパフォーマンスから浮かび上がってきたのは、BMSGは常に「音楽ファースト」「クオリティファースト」で楽曲を生み出してきたということ。トレンドを後追いするのではなく自らがトレンドを先導し、大衆を蔑むことないスタンスで、常にオルタナティブな音楽を生み落としながらトップを狙ってきた。そして、SKY-HIが3周年記念のテレビCM内でも語ったように、BMSGは「アーティストの幸せ」を一番大切に音楽ビジネスを回してきた会社だ。それら2つのポリシーを貫きながら、大勢のオーディエンスに人生の喜びを分け与えることに成功している。BMSGが3年間に起こした革命とは、業界における「成功」に辿り着くための方法論だ。
「また来年お会いしましょう、『BMSG FES!』」というSKY-HIの言葉から、最後を飾ったのは、「The Sun from the EAST」と「The Moon in the WEST」のマッシュアップ。太陽と月が完全に重なったとき、人々は、その珍しい光が気になって空を高く見上げる。SKY-HIの名前にまたひとつ意味が増えた瞬間だった。次に日本で皆既日食を見られるのは2035年だと言われている。その頃、BMSGはどんな未来を描いているのだろうか。
文=矢島由佳子 撮影=田中聖太郎