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稲垣吾郎主演、舞台『多重露光』は「自分を愛することの大切さを感じてもらえる作品」~公開舞台稽古&舞台挨拶レポート

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『多重露光』舞台写真

『多重露光』舞台写真

2023年10月6日(金)~22日(日)日本青年館ホールにて、モボ・モガプロデュース 舞台『多重露光』が上演される。

モボ・モガプロデュース最新作となる本作は、稲垣吾郎主演で、横山拓也の書き下ろし作品を、眞鍋卓嗣が演出する。

写真館の2代目店主・山田純九郎(稲垣吾郎)を中心に、戦場カメラマンだった父(相島一之)、町の写真館の店主として人気のあった母(石橋けい)、純九郎が憧れる一家の“お嬢様”だった麗華(真飛聖)、麗華の息子(杉田雷麟・小澤竜心/ダブルキャスト)、幼馴染(竹井亮介)、取引先の中学校教員(橋爪未萠里)といった人々が描かれる。

初日に先立ち行われた公開舞台稽古と舞台挨拶の様子をお伝えする。

公開舞台稽古

『多重露光』舞台写真

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舞台となるのは町の写真館。親から引き継ぎ2代目店主となった山田純九郎(稲垣)がひとりで暮らしている。父(相島)は純九郎が生まれる前に戦場カメラマンとしてベトナムへ行ってしまい、一度も会ったことがない。初代店主の母(石橋)は15年前に病死した。母の代から取引のある中学校の教員(橋爪)や、同じくひとり暮らしの隣人(竹井)が、そんな純九郎を気にかけてしばしば訪ねてくる。

『多重露光』舞台写真

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ある日、突然写真館にやってきた麗華(真飛)に純九郎は目を奪われる。かつてこの写真館に毎年家族写真を撮りに来ていた、純九郎にとっては憧れの一家の“奥様”にそっくりだったからだ。麗華は“奥様”の娘で、一家の“お嬢様”だった。

『多重露光』舞台写真

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立派なカメラマンの父と母という存在から受けるプレッシャーや呪縛にとらわれていた純九郎は、麗華や麗華の息子・ミノル(杉田・小澤/Wキャスト)と交流する中で心が動き出し、自らの「幸せ」、そして「罪」と向き合っていく……。

『多重露光』舞台写真

『多重露光』舞台写真

心に抱いたコンプレックスや迷い、閉塞感を打破するために犯してしまった罪、といった人間の心のひだを緻密にあぶり出す脚本は、横山拓也の真骨頂だ。一見、他者からは理解のできない純九郎の行動も、その元をただせば深く根を張った原因があることがわかり、なんともやるせない気持ちになる。

『多重露光』舞台写真

『多重露光』舞台写真

『多重露光』というタイトルが秀逸だ。純九郎を中心に据えながら、純九郎の父と母、麗華とその息子、純九郎を気に掛ける取引相手と隣人、それぞれの人物と重なり合っていく構図が美しい。人生とは、他者との「多重露光」の繰り返しなのかもしれない。重なることで、思いもかけない効果を生み出すことがある。多重露光により生み出されたものが失敗作なのか、そうではないのか、それを決めるのは人それぞれの心の持ち方によるのだろう。

『多重露光』舞台写真

『多重露光』舞台写真

良かれと思って自分の思いや価値観を他者に押し付けてしまうこともあるが、自分にとっての正解が他者にとっても正解とは限らない。うまく重ならないことを嘆くよりも、自分が本当に求めるものは果たして何なのか。純九郎の悩み迷える姿は、見る者に「自分の心の声と向き合えているか」という問いを投げかけているようにも見えた。

『多重露光』舞台写真

『多重露光』舞台写真

稲垣は繊細で静かなたたずまいの中に、純九郎の持つある種のいびつさを、強く妖しく光る暗室灯のようにのぞかせる。暗室で使用する赤い灯はセーフライトとも呼ばれ、印画紙に感光しにくい波長の光を放つ。他者との関わりを持たず、自身の中に様々なものを抱え込んで生きてきた純九郎の姿が、赤い灯と重なって見えた。これまでも横山拓也脚本の演出を手掛けてきた眞鍋卓嗣による、作品への深い理解と洞察のある演出が鋭くも温かい。

『多重露光』舞台写真

『多重露光』舞台写真

真飛の天真爛漫さが作品に華を与え、相島の浮世離れした空気感が物語に広がりを持たせる。石橋は妻、母、店主、と様々な顔を巧みに演じ分け、人間の複雑さを感じさせる。杉田は落ち着いた雰囲気の中に幼稚さをナイフのようにちらつかせ、ミノルの危うさがにじむ。ダブルキャストの小澤はどのようにミノルを表現するのか、その違いも気になるところだ。竹井の懐の深いコミカルさ、橋爪のバランス感覚が舞台を支えている。

『多重露光』舞台写真

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舞台挨拶

(左から)眞鍋卓嗣、真飛聖、稲垣吾郎、相島一之

(左から)眞鍋卓嗣、真飛聖、稲垣吾郎、相島一之

舞台挨拶には、出演者の稲垣吾郎、真飛聖、相島一之、演出の眞鍋卓嗣が登壇した。

登壇した3人の出演者は、眞鍋の演出を受けるのは初めて。眞鍋についての印象を聞かれた稲垣は、「とても俳優に寄り添ってくれる。怒った顔を見たことがない。生きている中で怒ることありますか?」と眞鍋に問いかけ、眞鍋は笑いながら「怒ることありますよ」と返答した。

稲垣は「本当に穏やかな現場で、みんなでいろいろディスカッションをしながら進めた。ワークショップもしたが、個人的には初めての経験だった。演劇の皆さんはよくやるんですか?」と今度は相島に問いかけると、相島が「コミュニケーションの一環として、結構やるんですよ。やってみてどうでした?」と応じ、稲垣は「お客さんもいないのに誰に向けてやってるんだろう、とちょっと恥ずかしかった(笑)。でもとても楽しかった」と振り返った。

『多重露光』会見より

『多重露光』会見より

真飛は眞鍋について、「私たちのことを否定をせずに、肯定をしたうえでさらに提案をしてくれるので、自信にも繋がったし、すごくやりやすかった」と述べ、相島は「眞鍋さんのお芝居はどうやって作っているんだろうなと思って今回初めて参加したら、眞鍋さんに「いいですね、いいですね」と言われているうちに気が付いたら世界が立ち上がっていて、これは眞鍋マジックだ、とちょっとびっくりした」と述べた。

さらに稲垣は、「眞鍋さんと僕は、実は40年くらい前に近くに住んでいた時期があった。小学校は違ったんですけど、こういう縁は嬉しいですね」と明かし、眞鍋も「(住んでいたところが)意外に近くでしたよね」と笑顔を見せた。

『多重露光』会見より

『多重露光』会見より

眞鍋は今回演出をしてみた感想を問われると、「皆さん一緒になって考えてくださるし、人柄も良くて、チームワークもばっちり。非常にいい創作現場だった」と答えた。

今作の中には様々なカメラが登場することを受けて、カメラにまつわる思いを聞かれると、カメラ好きな稲垣は相島が小道具として持っているカメラを指して「ライカのM3という伝説のカメラです」とイキイキと語り出した。相島はそんな稲垣を笑顔で見つめながら「稽古場がこういう状況だった。カメラの話になると、吾郎さんの【稲垣吾郎カメラ講座】が始まって、これが結構面白いんですよ」と楽しそうに明かした。

『多重露光』会見より

『多重露光』会見より

稲垣はセットに作られた暗室を紹介しながら「実際に僕の家にも暗室がある。カメラが好きすぎて、自宅に暗室を作ってしまった。この舞台を見て、またカメラで写真を撮りたいなとか、フィルムで撮る楽しさに興味を持っていただければ」とカメラへの熱意を込めた。カメラについて語る稲垣を指して相島は「見てください、この吾郎さんのイキイキとした顔!」と笑い、真飛も「こんな顔見たことない!」と笑った。

最後に稲垣は「この作品は、誰もが抱えている過去への思いに優しく寄り添ってくれる物語だと思う。見終わった後に改めて家族の大切さとか、そして何よりも自分を愛することの大切さを感じてもらえる作品になっていると思う。出演者みんなで心を込めてお届けしますので、ぜひ劇場でご覧になってください」と語り、舞台挨拶を締めくくった。

(左から)眞鍋卓嗣、真飛聖、稲垣吾郎、相島一之

(左から)眞鍋卓嗣、真飛聖、稲垣吾郎、相島一之

取材・文・撮影=久田絢子

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