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『THE HOPE』3万人が目撃した現在進行形JAPANESE HIPHOPシーンの最高峰

アーティスト

SPICE

「THE HOPE」

「THE HOPE」 撮影=Masanori Naruse

まったくとんでもないものを見てしまった。9月23日、東京・お台場の野外ステージに3万人の大観衆を集めた『THE HOPE』。現在のシーンを代表するヒップホップアクトが一堂に会し、熱狂的なファンと共に繰り広げた9時間に及ぶライブ。それは日本のヒップホップの到達点であり、新たな始まりを告げる発火点。現場で、あるいはABEMAプレミアムの中継で、見た者すべてが歴史の証人だ。

「THE HOPE」 撮影=Daiki Miura

「THE HOPE」 撮影=Daiki Miura

昼12時、ファーストアクトが登場した時点で、グラウンドはすでに身動きしづらいほどの人で埋まった。巨大なステージ、超大型スクリーン、鮮やかな照明の演出、無数のPAによる爆音、なにもかもスケールがでかすぎる。序盤のアクトは持ち時間5~10分しかないが、そこに全力をぶち込むからテンションが異様に高く、転換もスムーズでどんどん進む。すべてのアクトに触れていると文字数がいくらあっても足りないので、特に印象的だったパフォーマンスをここから紹介していく。

ralph 撮影=cherry chill will.

ralph 撮影=cherry chill will.

ralph 撮影=cherry chill will.

ralph 撮影=cherry chill will.

序盤でひときわ大歓声を浴びたのはralph。スマホのカメラが一斉にステージに向けられる中、威風堂々の黒づくめ、麻神チョーカーをぶらさげ、ヘヴィメタルのグロウルを思わせる極悪な低音ボイスでオーディンスを圧倒。「Get Back」はイントロだけで爆上がり、「DOSHABURI」はフックをもれなく全員が合唱する。ふてぶてしい自信と、「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げるギャップ映え。わずか10分でも出来る奴は出来るお手本のようなパフォーマンス。

ANARCHY 撮影=Yusuke Oishi (MARCOMONK)

ANARCHY 撮影=Yusuke Oishi (MARCOMONK)

C.O.S.A. / ANARCHY 撮影=Yusuke Oishi (MARCOMONK)

C.O.S.A. / ANARCHY 撮影=Yusuke Oishi (MARCOMONK)

13時を回ると漢、D.Oといった実力者が登場してくるが、ANARCHYの奇天烈かつ安定した存在感はやはり格別だ。ピンクのフーディーを半分だけ被ってステージをのし歩き、C.O.S.A.を呼び込んでまだ誰も知らない新曲(かっこいい!)を本邦初披露。ビートなしで圧巻のフリースタイル、いや、自らの生きざまの独演会と言うべき長大なスピーチをぶちかましてから「Fate」へ繋げるなど、やることなすことすべてがオンリーワンヘッズたち。盛り上げるよりも語りかける、不思議な親近感と愛らしさをかきたてる得難いキャラ。今日もANARCHYはANARCHYだった。

LANA 撮影=Masanori Naruse

LANA 撮影=Masanori Naruse

LANA 撮影=Masanori Naruse

LANA 撮影=Masanori Naruse

シークレットとして空けてあった枠に登場した、KOWICHI率いるSELF MADEクルーが最新曲を投下し、YUTO&DopeOnigiri with Friendsが手堅いマイクリレーを決める。男くさいアクトが続いたあとに颯爽と登場したLANAの、その場の空気を一気に変えるパワーは本当に凄い。1曲目「TURN IT UP」から、会場にいる女子を全員味方につけた大合唱が巻き起こる。通常のヒップホップイベントに比べて女子率が非常に高いのも、大盛り上がりの一因だ。わずか5分であっという間に去って行ったが、巨大ステージに物怖じするどころか左右いっぱいに歩き回り、自然体で盛り上げる姿がかっこいい。そして可愛い。やはり大物だ。

Tohji 撮影=cherry chill will.

Tohji 撮影=cherry chill will.

Tohji 撮影=cherry chill will.

Tohji 撮影=cherry chill will.

15時近くなると、曇り空から明るい日差しが覗いてぐっと気温が上がって来た。JP THE WAVYがステージ巧者ぶりを発揮して会場をさらに熱くし、最新曲「What's Poppin feat.LANA」ではLANAがジョインして熱気を煽る。次に登場したTohjiは、さらに火に油を注ぐ…というよりもあくまでマイペース、超然としたスマートなパフォーマンスでオーディエンスの目と耳を釘付けにする。異彩を放つモードファッションに身を包み、Mall boysクルーの盟友・gummyboyと2マイクで届ける楽曲は、ヒップホップ経由のEDMとダブステップと言うべきか、スタジアム映えする強烈なダンスミュージック。ステージを走り抜けながらも汗くささを感じない、独特のお洒落な存在感はほかにはない。

賽 a.k.a. BADSAIKUSH 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

賽 a.k.a. BADSAIKUSH 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

DELTA9KID 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

DELTA9KID 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

G-PLANTS 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

G-PLANTS 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

イベントもそろそろ中盤だ。Eric.B.Jrが「本当のヒップホップを教えてやるよ」というかっこいいセリフを吐き、ジャパニーズマゲニーズがイリーガルな際どいMCで会場を沸かせる。それぞれが信じるヒップホップを体現する中、コールされた瞬間に3万人を一斉に立ち上がらせたのは舐達麻だ。プロフィールを見てもヤバいことしか書いてない、筋金入りのストリート出身者が3万人のヘッズたちに歓迎される理由は、曲が響くからの一点に尽きる。壮絶な経験を歌っているのに現代詩のように聴こえるリリシズム。賽 a.k.a. BADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KIDの三者三様の飛びぬけた個性。「ANGELA」ではANARCHYと、「OUTLAW」では突如現れたAwichと共に熱狂の渦を巻き起こす。人気と実力が完全にかみ合った、圧巻のパフォーマンス。

AK-69 撮影=Daiki Miura

AK-69 撮影=Daiki Miura

AK-69 撮影=cherry chill will.

AK-69 撮影=cherry chill will.

ラストアクト登場までまだ2時間ある18時にAK-69が登場してしまうとは、出番を決めた『THE HOPE』も受けたAK-69も実に懐が深い。AK-69にしてみれば、これからは若くてイキのいい奴がメインを張るべきだという意識もあるだろう。しかし一たびステージに立てばキングの貫禄は絶対に譲らない。スクリーンが真っ赤に染まり、激しく炎がぶち上がり、ド派手な照明が輝く中、すさまじい気迫のラップと歌で格の違いを見せつける。「Ding Ding Dong~心の鐘~」から「Flying B」まで選曲も完璧だ。オーディエンスはただ盛り上がるだけでなく、ケタ違いのパワーに口あんぐりで見とれているように見える。「日本のヒップホップ。よくここまで来た」という言葉がずしりと重い。若手中心の今日のアクトの中で、身をもって到達点を示す圧倒的な存在感には痺れるしかない。

DJ RYOW 撮影=cherry chill will.

DJ RYOW 撮影=cherry chill will.

般若 撮影=Daiki Miura

般若 撮影=Daiki Miura

R-指定 撮影=Daiki Miura

R-指定 撮影=Daiki Miura

AK-69は次のアクト、DJ RYOW with Friendsにも“E”quallと紅桜と共に登場してTOKONA-Xの「WHO ARE U?」をプレイし、名古屋ヒップホップの歴史の深さと結束の固さを見せつける。同じくDJ RYOWのセットには般若とR-指定がゲストで登場し、未リリース曲「Osanpo Remix」とTOKONA-X「ビートモクソモネェカラキキナ」をプレイしたのも、贅沢としか言いようがない。そういえば二つ前のアクト、DJ TATSUKI with Friendsのステージにも般若やZEEBRAがフィーチャーされていた。メインアクトを張ってしかるべきラッパーが、フィーチャリングとして惜しげもなく登場する『THE HOPE』。つくづく恐るべきイベントだ。

BIM 撮影=cherry chill will.

BIM 撮影=cherry chill will.

BIM 撮影=cherry chill will.

BIM 撮影=cherry chill will.

BIMのスタイルはあくまで自然体。「みんなと遊べて嬉しい」という言葉の通りに、心地よい夕暮れの涼風が吹き始めた時刻にぴったりのスムーズなラップでオーディエンスを乗せていく。一度聴いたら忘れない、ピリッと苦みの効いた独特の声質と、暑苦しさとは無縁の飄々としたキャラクター。「intelligent Bad Bwoy」ではC.O.S.A.を、「BUDDY」ではPUNPEEを、「Sweet Wine」ではYouth of Rootsを呼び込んで、15分の持ち時間をノーミスで走り抜ける安定感は抜群だ。「ヒップホップとは?」などと考え込まずともシンプルに楽しめる、らしさ全開のパフォーマンス。初見のオーディエンスにもしっかり伝わったはずだ。

PUNPEE 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

PUNPEE 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

PUNPEE 撮影=cherry chill will.

PUNPEE 撮影=cherry chill will.

いつの間にか時刻は19時を回った。ここからは持ち時間20分のアクトが3人、そしてヘッドライナーへ向けて盛り上がってゆくゴールデンタイム。にも関わらず、「12時から来てくれた人は疲れてるだろうから、ゆっくりBGM代わりに聴いてください」と言葉をかけ、チルでスムーズなムードを演出したPUNPEEの姿勢には頭が下がる。「お隣さんより凡人」の、往年の日本語ラップのフレーズを盛り込んだラップにはジンと来たし、BIMを迎えた「Night Rider」で新しいシーンにもしっかりコミットする。装飾を排して真っ当なラップに徹する、さすがの貫禄。

ちゃんみな 撮影=Yusuke Oishi (MARCOMONK)

ちゃんみな 撮影=Yusuke Oishi (MARCOMONK)

ちゃんみな 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

ちゃんみな 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

このブロックに堂々と抜擢されたのだから、ちゃんみなの人気と期待度は本物だ。実際、大ステージに映える演出の完成度の高さとパフォーマンス力は明らかで、ダンサーチームを従えて一糸乱れぬ振付で大歓声を浴びたかと思えば、ロックシンガーにも負けないド迫力ボイスでオーディエンスをノックアウト。LANAと同じく会場内の女性人気は圧倒的だが、コケティッシュでありながらも媚びずに凛としたたずまいは、男くさいラッパーたちに囲まれても揺るぎない包容力がある。「美人」から「Never Grow Up」までヒットチューンをずらりと並べ、今ここだけの華やかな空間を存分に楽しませてくれたドリーミーな20分間。

¥ellow Bucks 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

¥ellow Bucks 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

¥ellow Bucks 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

¥ellow Bucks 撮影=Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

¥ellow Bucksの熱演にも触れないわけにはいかない。コールされた瞬間の大歓声が物語るように、熱狂的な支持を支えに、C.O.S.A.を迎えた「What?」やANARCHYをフィーチャーした「I Know What」など、いやがうえにも盛り上がる曲を連続投下。極めつけはAK-69と共演した「Bussin’」で、AKは来年2月にこの二人の日本ガイシホール公演を行うことを発表するなど、¥ellow Bucks絶対支持の姿勢を表明。もはや若手ではない、名古屋シーンから日本を代表するラッパーになった¥ellow Bucksの実力を見せつけた鮮烈なパフォーマンス。

BAD HOP 撮影=Yusuke Kitamura

BAD HOP 撮影=Yusuke Kitamura

BAD HOP 撮影=Masanori Naruse

BAD HOP 撮影=Masanori Naruse

さあ、ついにここまで来た。3万人の大観衆が8時間以上待ち続けた今日のファイナルアクト、BAD HOPの登場だ。ご存知の通り、来春にクルー解散を発表している彼らにとって、一回一回のステージはまさにメモリアル。バンドを従えての特別編成で、1曲目「Kawasaki Drift」からとんでもないパワーで一気に飛ばす。しかもメンバーは金子ノブアキ(Dr)、Kenken(B)、masasucks(G)、伊澤一葉(Key)という、夏のフジロックフェスティバルを再現する最強メンツだ。体にぶつかって来る音の感触はヒップホップでありながらラウドロックに近く、うねりのある重たいグルーヴの上で8MCが個性あふれるラップをぶつけあう。「Friends」「High Land」などイントロから大歓声、フックに至るまでオーディンエンス全員が歌いまくる光景が現出し、ラップをJ-POPやロックと同じレベルで聴き取って盛り上がれる層がついに根付いたことを、目と耳でしっかりと実感する。まさしく80年代から続く日本語ラップの歴史のここが最先端。「解散ライブ、2024年2月、東京ドームでやります」と、T-Pablowのアナウンスに応えて湧きあがった怒号のような大歓声が、今も耳を離れない。

ラストチューン「Champion Road」が終わって彼らがステージを去り、イベントを締めくくる花火がステージ上空高く打ち上げられる。振り返ればおよそ9時間に及んだイベントは、仕掛けの壮大さにも関わらず運営はスムーズ、転換もノーストレスでラッパーたちも気迫十分、それぞれのメッセージを打ち出しながら、ディスもビーフもない非常にピースフルなものになった。おりしも、アメリカではヒップホップ誕生50年を祝う2023年、多様性の花咲く日本のヒップホップの現在位置をしっかりと見せてくれた『THE HOPE』。移動経路の規制と時間の関係で、隣接するDJ STAGEを見ることができなかったのは心残りだが、楽しみは次の機会にとっておこう。『THE HOPE』は日本のヒップホップの過去と現在と未来を一望できる巨大なショーケースだ。来年もぜひ開催されることを強く願いたい。

取材・文=宮本英夫 

BAD HOP 撮影=Yusuke Kitamura

BAD HOP 撮影=Yusuke Kitamura

 

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