1964年に出版されて以来、世界的なベストセラーとなっているロアルド・ダールの児童文学『チョコレート工場の秘密』。 自分の工場で世界中の子供達に愛されるお菓子を作っているウィリー・ウォンカ。製作工程は秘密だったが、ある日、世界中で販売されるチョコレートのうち5枚だけに“ゴールデンチケット”を入れることが発表され、工場に招待された5人の子供達とその家族が信じられないような体験をする、ユーモアに満ちたファンタジーだ。1971年と2005年に映画化もされ、2013年にはイギリス・ウエストエンドでミュージカル版の初演も行われ2017年1月までロングラン上演された。
日本初演となるミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』でウィリー・ウォンカを演じるのは堂本光一。翻訳と演出はウォーリー木下、訳詞は森雪之丞が務める。実力派クリエィティブスタッフとキャスト陣が集結し、万全の体制のもと、“世界一カラフルでかっこよくてオシャレ”と胸を張ることができる作品が完成した。
初日を前に行われた会見には、堂本光一、観月ありさ、森公美子、鈴木ほのか、芋洗坂係長、岸祐二、彩吹真央、小堺一機、トリプルキャストでチャーリーを演じる小野桜介、チョウ シ、涌澤昊生、ゴールデンチケットを手に入れた子供たちをWキャストで演じる黒岩竜乃介・後藤レイサ、舞咲碧音・三宅りむ、歌田雛芽・土井祐杏貴、鈴木弥人・中野晴太が登壇した。
――まずは初日に向けての意気込みを教えてください。
堂本光一:あと1ヶ月稽古したいです(笑)。2ヶ月の稽古期間があっという間でした。ただ、世界中で上演されているミュージカル版ですが、世界一の出来だと思います。
観月ありさ:稽古を見ていても本当に楽しいです。舞台装置も歌も衣装もとてもメルヘンで素敵なのでぜひ楽しんでください。
森公美子:よく見ないとわかりませんが、私たちの衣装の柄はベーコン。他にもプレッツェルやタコさんウインナーがついていて可愛いので、ポスターやプログラムで細かい部分まで見てほしいですね。
鈴木ほのか:こんなに楽しくてワクワクドキドキするファンタジーは初めてです。ウィットに富んだウォンカに魅了されながら、子供心を取り戻して楽しんでください。
芋洗坂係長:満を持してこの体型を作ってまいりました。オーガスタスくんに負けないように……。
堂本:え、芋さんそれリアルなの!?
芋洗坂:自腹です! この衣装に見合う体型を作ってきました。娘のバイオレットも非常にいい仕上がり。No.1を目指すキャラクターなので、舞台の中でもNo. 1と言い続けて楽しい舞台を作りたいです。
岸祐二:ウォーリーさんや我々がやらなければいけないことはまだまだありますが、全部上手く行ったらすごいミラクルが起きる作品だと思います。魅力ある子供達の成長も見てほしいですし、(堂本が)帝劇の王子様から王様になり、今回は魔術師になると思います。楽しみにしていてください。
彩吹真央:明るいメンバーが揃っていますし、楽しい作品だと想像されると思いますが、シーンによってはシビアでちょっと残酷に見えるところもあります。でも、それが教育にいい部分じゃないかと思うので子供達にも見てほしいですね。
小堺一機:座長も言う通りもう少し稽古したかったですが、映画や原作でこの作品を知っている方も1回は「わあ!」と思わず声が出てしまうような作品に仕上がっていると思います。チャーリーをはじめ、子役のみんなもそれぞれ違うキャラクターを作り上げているので、ぜひ楽しんでほしいですね。
小野桜介:8月から今日まで稽古を頑張ってきました。今年1番の作品になるように頑張ります。
チョウ シ:明日もう初日で少し緊張していますが、すごく楽しくてきれいな作品になっています。僕も頑張りたいですし、皆さんにも楽しんでいただけたらと思います。
涌澤昊生:オリックスが優勝し、日本シリーズに向けて頑張っているので、僕もチャーリーを頑張ります。応援してください!
――皆さんへのメッセージをお願いします。
堂本:2ヶ月の稽古を経て、素晴らしい作品が生まれようとしています。公演を重ねてさらに良くなっていくと思うので、お客様と一緒に旅をして素晴らしい時間を共有したいですね。トリプルやWキャストだと会う機会が減ってちょっと寂しいけど、みんなと一緒に作ってきたものを皆さんにお届けできるのが嬉しいです。ぜひ楽しみにしていてください。
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ゲネプロでは、チャーリーを小野桜介と涌澤昊生、グループ夫人を森公美子、オーガスタスを黒岩竜乃介、ベルーカを舞咲碧音、バイオレットを歌田雛芽、マイクを中野晴太が演じた。
原作や映画とはまた少し違うストーリーやキャラクターになっており、元々のファンも新鮮に楽しめるだろう本作。特に、ウォンカとチャーリーの関係性がより深まっており、2人のお菓子に対する愛や情熱がひしひしと伝わってくる。
堂本は、天才的な菓子職人らしいカリスマ性と子供っぽさを兼ね備えた、人間味あるウォンカ像を作り上げている。ユーモラスな言動とふとした時に見せる聡明さのギャップ、ブラックユーモアを交えたセリフの軽やかさ、怪しく威厳のある曲からチャーミングな曲まで幅の広いパフォーマンスに惹きつけられた。
チャーリーは一幕では小野、二幕は涌澤が担当した。小野は家族思いでチョコレートへの愛情が爆発しているチャーリーを健気で可愛らしく表現。堂本との掛け合いや母・祖父母とのやりとりも和やかで、幸せになってほしいと思わせる愛らしい少年を演じている。 涌澤は子供らしい好奇心を持って工場見学をするチャーリーのワクワクと少しの不安をしっかり見せる。周りの子供たちを案じながらもウォンカを信頼し、チョコレート工場の秘密に目を輝かせるまっすぐな姿が魅力的だ。
チャーリーを見守る母・バケット夫人役の観月は、家族の温かさや日常といったシーンをしっかり支える。チャーリーを心配しつつ、息子の夢や思いも大切にする愛情深さに心を掴まれた。ウォンカの工場で働いていたことがあるジョーじいちゃん役の小堺は、時折アドリブも交えながら愛嬌のある祖父を好演。保護者らしい優しさと少年の心を忘れないお茶目さを持ち、不思議な工場を冒険する相棒としてチャーリーに寄り添ってくれる。
ゴールデンチケットを当てた子供たちと保護者も魅力的だ。森は息子を溺愛して甘やかす母親をユーモアたっぷりに演じ、黒岩は肥満時のオーガスタスを憎めない少年として描き出す。舞咲は高飛車でワガママなべルーカを愛らしく見せ、岸は娘に振り回される父親を情けなくも愛嬌のある人物として表現。ヒステリックな娘に困りながらも甘えられると勝てない父親の構図に笑ってしまう。
ベルーカとは方向性の違う勝気さを持つバイオレットをポップでキュートに演じる歌田と、娘に負けず劣らず自信家な父を好演する芋洗坂は、「なんでも1番がいい」という価値観はそのままに、より現代らしい価値観やテンションのキャラクターに仕上げている。中野はコンピューターオタクのマイクを憎たらしくも可愛く作り上げ、彩吹はそんな息子以上にエキセントリックな母を演じて強い印象を残した。
また、本作の大きな魅力が細やかに作り込まれた舞台美術や華やかで可愛らしい衣装・ヘアメイク、作品の世界を深める照明や映像。原作や映画に触れたことがある方ならご存知の通り、ウォンカの工場にはたくさんの奇妙な部屋があり、夢のような方法でお菓子が作られている。増田セバスチャンによるアートディレクションをはじめとする個性と魅力あふれるクリエイティブ、役者の身体表現をはじめとする生のよさと映像効果などを組み合わせたウォーリー木下らしい演出によって舞台ならではの工夫が盛り込まれ、驚きと楽しさに満ちた魔法のようなできごとが次々に展開されている。この次は何が起きるのだろうとワクワクし、チャーリーたちと一緒に工場を見学しているような気分になることができた。中には「この場面のためにこれだけのセットを?」と驚かされるものも。カラフルで豪華なセットや丁寧に作りこまれた衣装、キャラクターらしさを底上げするヘアメイクなど、細かな部分まで見逃せない。
もちろん、ミュージカルなだけあってキャッチーで多彩な楽曲も見どころだ。 チケットを当てた子供たちの紹介曲では、ヨーデル風の曲と食いしん坊っぷりを強調したダンスが楽しいグループ親子、ロシアのバレエ音楽を思わせる品のある楽曲と裏腹な歌詞がユーモラスなソルト親子、ファンキーでパワフルなパフォーマンスで惹きつけるボーレガード親子、行進曲を思わせる壮大さとデジタル感のギャップが印象的なティービー親子と、出身国やキャラクターに合わせた個性的なパフォーマンスで魅せてくれる。
本作のマスコット的存在であるウンパ・ルンパが披露するちょっぴりブラックでとびきりポップな楽曲は、原作にも多数登場する言葉遊びが落とし込まれていたり、一緒に踊りたくなるような振り付けがあったりと楽しさ満点。ウォンカやバケット夫人が歌うロマンティックな楽曲など、じっくり聴きたくなる美しいナンバーも多く、メリハリがついていて飽きさせない。
シーンに合わせて街の人々やウンパ・ルンパらを演じ、華やかさやリアリティを生み出すアンサンブルキャストの活躍も見応え十分だ。 プリンシパル・アンサンブルともにステージ上のあちこちで個性を発揮しているため、見るたびに毎回新たな発見ができるのではないだろうか。
不思議で魅力的なチョコレート工場へと誘ってくれる本作は10月9日(月・祝)より帝国劇場で開幕。2024年1月には福岡・博多座、1月・2月には大阪フェスティバルホールにて上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈