Asilo
1st ONE-MAN LIVE『Asilo with the Bouquet』
2023.9.10 渋谷WWW
9月10日(日)、Asiloが渋谷WWWにて『1st ONE-MAN LIVE『Asilo with the Bouquet』』を開催した。
2020年4月から弾き語りのカバー動画を公開し始め、2021年から現在の名義で音楽活動をスタートさせたAsilo。ギターも楽曲制作も本格的に始めたのはコロナ禍になってからという彼だが、自身のルーツであるR&Bやソウルをベーシックにした心地よいポップミュージックと、伸びやかな歌声がリスナーの耳に留まり、確実に支持を集めてきている。そんなAsiloにとって初となるワンマンライブは、彼のこれまでを詰め込んだ90分間のステージになっていた。
この日のサポートを務めた小川 翔(Gt)、Takayasu Nagai(Ba)、GOTO(Dr)、miri(Key)の4人が音を重ね合わせ始めると、Asiloがステージに姿を現した。オープニングを飾ったのは、最新曲の「Stay Here」。手拍子を始めたフロアに向け、笑顔で手をあげたAsiloは、夜の匂いが漂うメロウでグルーヴィーなサウンドに乗って、柔らかな歌声を届けていく。続けて「Days」へ。ステージを左右に歩き回りながら、手をあげてオーディエンスを盛り上げたり、ギターソロに合わせてスキャットしたりと、なんとも心地よい空気がフロアに満ちていく。「みなさんはじめまして! 一緒に歌って踊って、楽しんでいってください」とフロアへ語りかけてから始まった「Talk」では、美しいファルセットを交えながら、タイトルの如く、客席に話しかけるような温度感で歌を届けていった。
Asilo
ここで一旦サポートメンバーがステージを離れ、Asiloひとりでライブを進めていくことに。初ワンマンということもあって緊張しながら話す彼は、「早いようで濃い2年でした」と、音楽活動を始めてからこれまでのことを振り返っていく。Asiloとしての初仕事はアーティスト写真の撮影だったそうなのだが、カメラの後ろにたくさんの大人がいて、慣れない状況にかなり緊張したとのこと。そのときにヘアスタイリストから「僕らのことをかぼちゃだと思っていいよ」と言われたというエピソードを話し、「それ以来、緊張しているときは、かぼちゃだと思うようにしていて。いま、まさにみんなかぼちゃです(笑)。徐々にみんな人間になっていくと思うんで」と、客席を和ませる。この日はMC時間がかなり長めに用意されていたのだが、それもそのはず、「結構話さないといけないんですよね。(リリースした)持ち曲が7曲しかないから、普通に曲だけやると30分で終わっちゃうんで(笑)」と、正直に話すAsilo。観客の前でも気取ることなく、ありのままの自分でいられるところは彼の強みでもあるし、オーディエンスのことを身近に感じている証拠でもあるだろう。
そして、彼にとって音楽活動のはじまりとなった弾き語りカバーを披露した。まず届けられたのはキリンジの「エイリアンズ」。「ずっとやりたかったけど、難しくて逃げていた曲」と話していたが、彼の繊細の歌声が見事なまでにハマっていた。続けて、「今までSNSにあげてきた曲はしっとりめだったけど、踊れるような明るい曲を」と披露されたのは、ハナレグミの「踊る人たち」。客席から起こった手拍子に「ありがとうございます」と笑顔で返しながら、軽やかに歌い上げた。そこからサポートメンバーを呼び込むと、「ずっとバンドでカバーしてみたいと思っていた曲」として、レディオヘッドの「High and Dry」を披露。サポートバンドのしなやかな演奏を受けつつ、Asiloはアコースティックギターを奏でながら、伸びやかに歌声を響かせる。この日、Asiloがセレクトした楽曲は、おそらくすべて彼のフェイバリットだとは思うのだが、自身の声の特性や、ストロングポイントでもある美麗なファルセットが活きるものばかりでもあった。
ここからは再びAsiloの楽曲へ。ナイーブな空気を帯びたファルセットと柔らかな鍵盤の音色から幕を開けた「Lonely」では、観客に寄り添うようにそっとメロディを届けていき、続く「Swim」では、センチメンタルながらも温もりのある歌声で魅了していく。瞬く間に本編のラストナンバーとなり、惜しむ声が上がる中で繰り広げられた「Melody」では、フロアにマイクを向けてシンガロングを求める。決して力むことなく、オーディエンスとのコミュニケーションを存分に楽しんでいた。
Asilo
「ただいま」と、再びひとりステージに戻ってきたAsiloは、「I know」という未発表曲を弾き語りでワンコーラスのみ披露。「Swim」と同じ世界線にあるということで、メランコリックながらも彼の柔らかな歌声が映える1曲だった。そこからウォーの「Why Can't We Be Friends?」を、バンドメンバーと共にカバーすることに。「みんなと一緒に歌いたいと思って」と、事前にオーディエンスと練習をしてから、いざ本番へ。サポートメンバーのソロ回しも飛び出す中、ラストはオーディエンスのシンガロングと、Asiloのスキャットが響き渡るピースフルな空間を作り上げていた。そして、初のワンマンを締め括る楽曲として披露されたのは「Beautiful Rain」。彼がAsiloとして初めて世に放った曲だった。
音楽活動を始める前は、調理師専門学校に通っていたAsilo。当時はコロナ禍真っ只中だったこともあり、授業もオンラインで、「あまりにも暇すぎて何かを始めたいと思った」そう。そのときに自身がよく観ていた弾き語り動画に影響を受け、ギターを手に取り、SNSにカバー動画を投稿したことがきっかけとなって、今日に至る。「2年前はまさかこんな素敵な舞台に立てているとは思っていなかったし、アーティストになるとも、音楽をやるとも思っていなかった」と、しみじみと思い返していたが、「Beautiful Rain」を披露する前、彼はこんなことを話していた。
Asilo「学生時代はマジで夢がなかったんですけど、この2年で夢ができて。これからもっともっと音楽を続けたいと思ってます。みなさんをもっと大きな舞台に連れていきたいなと思っていますので! また遊びに来てください。次の曲、一緒に歌ってくださいね」
Asilo
Asilo
彼が掲げているAsiloというアーティスト名には、フィリピンの言葉で“家”という意味がある。この日のライブは、彼の人柄がよく表れたアットホームな雰囲気があり、ステージから届けられる彼の歌声もとても温かくて、優しさに満ちていた。「本当に楽しかったです! ありがとうございました!」と、「Beautiful Rain」のアウトロで、どこまでも遠くまで響いていきそうなファルセットを放っていたAsilo。ここから多くの人達が安らぎを求め、彼の歌声であり、音楽に触れていくであろうことを強く感じさせられた夜だった。
文=山口哲生