SUPER BEAVER
[NOiD] – LABEL 10th Anniversary Special Live –
2023.10.6 Zepp Haneda
「 [NOiD]レーベル10周年おめでとうございます! そんな記念すべき1日にあなたと一緒に音楽ができるなんて、俺たちはとても幸せ者だと思います」(渋谷龍太/Vo)
メジャーレーベルから契約を切られ、メンバー4人だけで再出発したSUPER BEAVERと共に活動していくため、渋谷のライブハウス、eggmanのライブイベントからレーベルに発展した[NOiD]が2023年10月6日、レーベル発足10周年を迎えたことを記念して、現在、メジャーレーベルに所属しているSUPER BEAVERが、[NOiD]時代のSUPER BEAVERと“対バン”するというスペシャルライブをZepp Hanedaで開催した。
ステージを覆い隠している紗幕に、この10年間のバンドの歩みを振り返る動画や写真が映し出され、観客の興奮がぐんぐんと高まる中、柳沢亮太(Gt)のコードストロークから先手[NOiD]時代のSUPER BEAVERの演奏はスタートした。紗幕が落とされ、バンドの演奏が一気に加速していくと、スタンディングのフロアを埋め尽くした観客全員が拳を振りながら、声を出し始める。いや、1階だけじゃない。2階席の観客も全員、立ち上がって、拳を振りながら声を上げている。
10年前の同じ日、つまり[NOiD]レーベル発足の日、SUPER BEAVERは下北沢のライブハウス、CLUB 251で自分たちで立ち上げた自主レーベルIxLxP Recordsと、メジャーレーベルに所属していた、かつての自分たちと“対バン”するという同趣向のライブを開催し、その日の最後に[NOiD]レーベルに所属することを発表している。それから10年経ったこの日、彼らが1曲目に選んだ曲が前回、最後に演奏した「鼓動」なのだから心憎い。
[NOiD]からの第1弾リリースとなった3rdアルバム『361°』収録のアンセミックなロックナンバーだ。エネルギッシュに身を翻しながら、渋谷が伸びやかな声で歌う《笑える まだ笑える 忘れたい記憶を 忘れなくても 鼓動が聞こえる 今も生きてる》という言葉が10年前のバンドの切実な思いを、そして、《転んでも 転んでも 転がり続けていられれば良い》という言葉が再起にかけるバンドの覚悟を蘇らせる。
「メジャーレーベルを追い出された俺たちに居場所なんて一つもなかったわけ。さあ、どうしようかと思った時に一人の男が手を挙げた。渋谷のeggmanってライブハウスでブッキングをやっていた、マネージャー経験のない奴が一緒にやろうと言ってくれた。メジャー落ちバンドとライブハウスのブッカーに何ができるんだっていろいろなところでバカにされたけど、俺たちだけでやってやれることをやってやろうって志は誰にも負けないというその気持ちだけで、俺たちはこの場所にやってきた。アンチメジャーじゃないんだよ。俺たちは普通に、ただ楽しく音楽をやりたかっただけ。お陰であなたに会えたんだから、俺たちは間違ってなかったってことを今日、見せてやるよ!」(渋谷)
そんな思いを込めながら、バンドがこの日、演奏した[NOiD]時代の楽曲は全8曲。「鼓動」をはじめ、その半数がこういう機会でもないと、なかなか聴けない曲だったと思う。バラードと言ってもいいほど、渋谷がじっくりと歌い上げた「あなた」は指弾きでチェロのような音色を奏で、楽曲をリッチなものにした上杉研太(Ba)のベース、力強いビートで演奏を支えた藤原“35才”広明(Dr)のドラムも聴きどころだった。
柳沢が叫んだ快哉がきっかけになったのか、渋谷が「あの時、対バンが決まらなかったんだよね」と前回の「SUPER BEAVER vs SUPER BEAVER」が苦肉の策だったことをカミングアウトするハプニング、いや、サプライズも飛び出した。
「マジどうする!? え、やる? 俺たちとっていうのが10年前ですね(笑)」(渋谷)
「でも、10年前からすでにアイデアをチームで出し合って、常に考えてきた。その一つだと思うし、そのお陰で今日があるわけですからね。音楽を作って、ライブしてっていうそれだけじゃなくて、日々一緒に生きてきた形がここにあるんですよ。それが今、SUPER BEAVERになって、いろいろな人の人生と交差して、今があるってしみじみ感じてます」(上杉)
メンバーそれぞれに10年前の再出発を思い返してから、「対バンのSUPER BEAVER、絶対ぶっ潰してやる! 行くぞ!」という藤原の雄叫びから「運命」「正攻法」「秘密」と繋げた後半戦の盛り上がりは、改めてレポートするまでもないだろう。
「正攻法」から、そのままドラムで繋げた「秘密」は現在まで続くSUPER BEAVERの快進撃のきっかけになった彼らのアンセム中のアンセムだ。
「いや、思った。この後、出てくるバンドがかわいそうだなって(笑)」
[NOiD]時代の全8曲の最後に選んだのは、『361°』収録の「ありがとう」。
「あなたに歌ってるって俺たちが言うのは、そうすることで歌う意味がわかった気がしたんだよ。誰かを攻撃するためにやる音楽じゃなくて、もっと大事なもの、核となるもの、お墓に入っても持っていきたいと思える気持ち。それを持って、あなたと対峙しなければ、俺は音楽が嫌いになると思った。それを教えてくれたのは、紛れもなくメンバーであり、SUPER BEAVERの音楽であり、俺たちのスタッフであり、そして、一番にあなたです。俺はあなたに教わってることがたくさんある。道を間違えそうだなって思うこともある。今だってムカつくこともある。全部うまく抱えきれない日だってあるんだよ。それでもあなたの顔を見てると、そうじゃないかもしれないって思えるんだ。俺たちが音楽を鳴らしていて最も愛しいと感じるのは、その瞬間なんだよ。音楽をやる意味は、あなたがいてくれること。それ以外、俺たちに音楽をやる意味はないと言っても過言ではないくらい、あなたには感謝しています。至らないこともたくさんあるよ。その時は助けてください。その度に支えてください。持ちつ持たれつ。ダサいなと思うけど、これからも持ちつ持たれつで俺達と一緒に音楽をやっていきましょう」
渋谷は言葉を惜しまずにじっくりと、この日、「ありがとう」を演奏する意味を語ったのだが、ファンに感謝を伝える曲がバラード風の歌い出しから、この気持ちを言葉にせずにいられないという思いとともに疾走感溢れるロックナンバーに展開するところが改めてSUPER BEAVERらしいと思わせ、先手[NOiD]時代のSUPER BEAVERのステージは、「この後、SUPER BEAVERってかっこいいバンドが出てきます」と渋谷が言いながら終了する。
そして、いつもどおりCap’n Jazzの「Tokyo」をBGMにステージに出てきた後手メジャーレーベル所属のSUPER BEAVERは、いきなり「ハイライト」「突破口」とメジャー再契約後、発表してきたアンセミックなロックナンバーの数々を繋げ、観客にシンガロングの声を上げさせる。
「最初に出たのが[NOiD]期のSUPER BEAVERってバンドなんだけど、俺らがソニー期のSUPER BEAVERです。ただ、勘違いしてほしくないことがあって、俺たちまだ[NOiD]なんだよね。[NOiD]からソニーに行ったわけではなくて、[NOiD]にいながらソニーにいる。だから今も[NOiD]期です。メジャーとインディーズの垣根が曖昧になってきて、ちょっとわからないと思っている人もいるかもしれないけど、自分たちでこれならできるってことを決めて、俺たちはメジャーに戻りました。けっこういろいろ耳にするんだよ。この間、俺、喉をやったじゃん。声が出なくなっちゃってさ、その時、色んな人からメジャーに働かされすぎだって言われたんだけど、俺たち、言うことを聞くバンドじゃないから(笑)。全部、自分たちで決めてるのね。言いなりになるために戻ったわけじゃない。あなたに会う機会が増えると思ったからメジャーに行っただけ。メジャーにもう1回戻るとき、共闘するって言葉を使ったんだけど、その意味がわかる? 言いなりになるため、言いなりするために戻ったわけではなく、共闘するためにソニーと手を組んでるんだよ。だから、今、あなたに会えてるんだってわかってくれてる?」
今回の「SUPER BEAVER vs SUPER BEAVER」は、ちょっとややこしい現在のSUPER BEAVERの立ち位置や、自分たちの活動のスタンスを改めてファンに知ってもらういい機会にもなったようだ。
そこからさらにバンドは「ひたむき」「名前を呼ぶよ」とアンセムを披露。渋谷が伸びやかな歌声で届けた《出会いが人生の全てだって思った》という「名前を呼ぶよ」の歌詞が、バンドと観客の交歓を称え、今この瞬間をかけがえのないものにする。もちろん、観客のシンガロングも止まらない。
「改めて頼もしいです、ありがとうございます。今日が最後になってもかまわないと本気で思って、オンステージしてます。ただ、こういう景色を見ると、ここで終わらせちゃつまらないと思うんです。今日死んでもかまわないと思って、必死にあなたと向き合ったこの時間を持って、明日も生きたいと思います。それぐらい真剣に向き合ってもらってると思ってます」(渋谷)
中盤では、「はちきれそう」と「儚くない」というバラードも披露した。「はちきれそう」でバラードらしからぬ無骨な演奏を繰り広げた楽器隊の3人と、歌いながら歌声にどんどん気持ちを乗せていった渋谷の熱演に観客が大きな拍手を贈る。逆に「儚くない」はバラードの王道を思わせる端正な演奏で観客を釘付けに。歌の裏でメロディアスなフレーズを奏でた上杉、グリッサンドからのチョーキング、さらにはトレモロピッキングも交え、エモーショナルなソロを弾いた柳沢のプレイも聴きどころだったが、それ以上に聴き逃せないと思ったのが、フロント3人の逸る気持ちを繋ぎとめるようにプレイする藤原のタイトなドラミングだった。
「SUPER BEAVERは19年目なんだけど、同じメンバーでここまで来られるとは思ってなかったです。ここまで続けるとは思ってなかった、全然。続けさせてもらってるんですよ、結果的に。メジャーをクビになって、インディーズになって、[NOiD]というレーベルを弱小マネージャーと弱小バンドで組んで、ギャフンと言わせてやろうぜってところから、ギャフンどころじゃないことになってるもんね。俺たち、今すごく健康的に音楽やってます。[NOiD]があって、メジャーレーベルがあって、SUPER BEAVERがいて、あなたがいるんだもんマジで思うんだよ。負けねえな、俺たちって。これからも俺たちではなく、(観客も含めた)俺たちで最高の音楽を一緒に作っていきましょう」(渋谷)
ラストスパートを掛けるように演奏したSUPER BEAVER流の70’s型パンクロック「さよなら絶望」から、「ありがとう」と同様にファンに対する思いをストレートに伝える「アイラヴユー」に繋げ、観客と一緒に歌いながら、この日一番の熱狂を作り出した直後に観客に歓喜の声を上げさせたのが、「ラスト1曲、新曲やってもいいですか」(渋谷)と伝えて、披露した「決心」だった。森永製菓「inゼリーエネルギーブドウ糖」のテレビCMソングでもある同曲の第一印象を語るなら、直球のSUPER BEAVERを思わせながら、ポップな魅力に入り混じる初々しさとなるだろうか。柳沢と上杉が加える爽やかなコーラスも聴きどころ。今後、シンガロング必至のアンセムになっていきそうだ。
現在のライブの主軸になっている曲に加え、懐かしい曲や新曲も聴けたんだから見どころの多いライブだったと思うが、何よりもメジャー再契約後、新たなファンを巻き込みながら、活動の規模がどんどん大きなものになっているタイミングで、渋谷がいつも言っている「フロムライブハウス」という言葉の真意を、オンステージしながら直接、観客に伝えられたのが大きかったと思う。
ホールツアーの真っ最中にもかかわらず、こういうイレギュラーなライブを平気でやってしまう自分たちにメンバー自身、苦笑していたが、活動の規模と反比例するようにバンドのフットワークはどんどん軽くなっていっているようだ。そんなところが頼もしいと思いつつ、「アンコールをやらないと掬えない曲があった」と渋谷が言いながら、アンコールで披露した「予感」が[NOiD]からシングルとしてリリースされたのち、メジャー再契約後のアルバム『アイラヴユー』に収録されたことによって、[NOiD]期ともソニー期とも言える不思議な位置づけになった曲であることを最後に付け加えておきたい。セットリストを考えながら、「予感」の存在に気付いたメンバーたちはきっとニヤリとしたんじゃないかと想像する。
取材・文=山口智男 撮影=青木カズロー