OSK日本歌劇団 撮影=ハヤシマコ
『レビュー in Kyoto』先行楽曲披露イベント&成功祈願 2023.10.10(TUE)南座、八坂神社
1922年(大正11年)に誕生し、宝塚歌劇団に継ぐ長い歴史を持つ、女性のみの歌劇団「OSK日本歌劇団(以下OSK)」。解散の危機に幾度も直面しながらも、そのたびに不死鳥のように復活し、昨年で結成100周年を迎えた。現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』のモデルとなった人気歌手・笠置シヅ子は、実はこのOSK出身。さらにドラマには、OSK期待の男役・翼和希がレギュラー出演中なので、注目度が高まるのは必至だ。
OSK日本歌劇団
その絶好のタイミングで、OSKのレビューショー『レビュー in Kyoto Go to the future~京都(みやこ)から未来へ!~ 』が、京都の南座で上演されることに。作・演出・振付に上島雪夫を迎え、今年の春に大阪と東京で上演したレビューショー『レビュー春のおどり』第2部「未来への扉~Go to the future~」を、京都向けに和テイストたっぷりにブラッシュアップした作品だ。「ダンスのOSK」の魅力をどっぷりと味わえそうなこの舞台を前に、楊琳、舞美りら、千咲えみ、華月奏、翼和希の5人のスターが、南座で先行楽曲披露イベントを開催。さらに南座にほど近い八坂神社で、公演の成功祈願を行った。
普段は観客たちで賑わう、南座2階のロビー。上演向けのスペースでもなく、しかも微妙に狭い。本当にここが会場なのか? こんな所で楽曲を披露しても、あのOSKの華やかさは伝わらないのでは? などと、始まる前は正直考えた。しかし蓋を空けてみると、彼女たちは見事に歌声だけで、その場に居合わせた人々を非日常へといざなってくれた。よく考えたら、OSKのスターたちが袴姿&ほぼ素顔で歌うというのは、貴重な機会かもしれない。
華月奏
楊琳
トップで登場した華月が歌うのは、今回の公演用に書き下ろされた「この都で」。京都の歴史をテーマにしたドラマティックなナンバーで、この地で生まれ、育まれ恋をして、そして散っていった人々に、思いを馳せるような気分となる。さらに続いて、楊と舞美と千咲という、トップスターたちが登場。恋多き貴公子・光源氏をテーマにした「Genji」は、源氏&彼が愛した数多くの女性たちの思いがしっとりと歌い上げられ、本番では誰もがうっとりと見惚れてしまうようなシーンになると予想された。
翼和希
続いて登場した翼は、一転して情熱的なラテンムードにあふれる「Passion」を披露。春の公演では元トップスターの桐生麻耶が担当していたが、今回の公演で翼が受け継ぐことになった。そして最後は全員で、本公演のテーマソング「Go to the future」を歌唱。ここからより前向きな未来を目指していけるような、明るい希望を感じさせる一曲だが、本番では大勢の団員がこれを歌うのか……と想像すると、それだけでテンションが高まるのを感じた。
15分ほどのイベントが終了したあとは、会見の時間が設けられた。今回のレビューは『春のおどり』に新しい曲&シーンを加えた構成になるが、現時点ではまだ楽曲が送られてきたばかりで、振付などはこれからとのこと。その上で、今の課題と今回の見どころを聞くと、以下のような答が返ってきた。
楊琳
楊:先ほど華月君が歌ってくれた歌で、初めにお客様をそういう(京都らしい)世界観に導いて、いろんな物語を展開していくことになると思います。その新しい場面と「Go to the future」の間に違和感がないようにするのが、課題になってくるのでは。春の時とは、結構メンバーがチェンジしているので、また新たな「Go to the future」がお届けできると思います。そして私は、昭和5年からOSKで歌い継がれている、フィナーレのテーマソング「桜咲く国」が本当に大好きで。公演は秋ですが、桜が満開、皆様の笑顔も満開で幕が閉まっていく。その時のみんなの笑顔に、特に注目してほしいと思います。
舞美りら
舞美:今回は和洋折衷、和のテイストが多い作品になるので、それをどのように作っていくのかが課題だと思いますが、同時にとても楽しみに思っています。どのシーンも素晴らしいのですが、あえて見どころを上げるなら「ワルツ」の場面でしょうか。娘役だけで構成されているのですが、最近はそういったシーンが少ないんです。クラシックバレエの要素がたくさん含まれた、娘役ならではのシーンになっていますので、気合を入れて頑張りたいです。
千咲えみ
千咲:洋物のショーの中に、ここまで和物の場面を新しく入れるのは初めての経験。でも私はもともと和物のショーが大好きですし、上島先生の和物の振付は、どういうものになるのか? というのも、今から楽しみです。日本の美しさ、雅な部分をお客様に見ていただけたらと意気込んでおります。私はレビューのオープニングが好きですね。お客様だけでなく、出演する自分自身も「今から始まるぞ!」とワクワクを感じるので。今回は中盤も「(和物から)洋物のレビューがはじまる!」と、皆様に感じていただけるのではないかと思います。
華月奏
華月:先ほどの「この都で」と、(新しいパートから)「Go to the future」につながる一曲「未来へ」を歌わせていただくので、どちらの曲もその世界観を、大事に大事に運んでいけたらと思っています。この間「Go to the future」のお稽古をして「こんなに踊ってたんだー」と思ったので(笑)、また心新たに臨めたら。またストリートのシーンでは、上島先生が上演する土地にちなんだラップを考えてくださるんです。今回の京都ではどんな歌詞になるのか、ちょっと楽しみにしながら待っております。
翼和希
翼:前回は「101年目の新たな扉を開き、そして未来へ」というテーマだったのですが、今回は『都から未来へ』ということで、さらに歴史の幅が広がった感じがします。歴史上の人物をレビューショーの中で演じるのは初めての経験なので、どうなるのか楽しみで仕方がないです。アルゼンチンタンゴを踊るシーンもあるのですが、一緒に組ませていただいている実花ももさんが、今回の南座公演でご卒業されるんです。その最後の相手役として踊らせていただけることを嬉しく思っていますし、より洗練されたものをお届けできるよう頑張りたいです。
また現在放送中の『ブギウギ』では、趣里が演じる主人公・福来スズ子が所属する「梅丸少女歌劇団(USK)」のショーのシーンに、OSKの団員たちが出演しているのに加えて、翼和希がスズ子の先輩・橘アオイ役で出演中だ。凛々しくも華麗なダンスと、スズ子たちへの鬼軍曹のような指導がすでに大評判となっているが、翼は「「実際の翼さんもこうなんですか?」とご質問をいただきます」と苦笑。周りからの「違うよ」「もっと優しいよね」との声に「ありがとうございます」と御礼を述べる一幕もあった。
翼:今放送されているのは100年前の時代ですが、OSKとして受け継がれているものは、今も劇団に息づいていると思います。OSKがもともと映画上映の幕間に(公演を)やっていたのからスタートして、みんながひたむきに稽古を重ねて、どんどん大きくなっていたというバックグラウンドを(ドラマで)知った上で観ていただけると、よりいっそうOSK自体を好きになっていただけるんじゃないかと感じています。
楊:ドラマを通じて、笠置さんはOSKにこういう思いで入られたということを追体験できるし、古き良き時代のOSKはこうだったんだ……ということも勉強になります。ドラマの中で「強く、たくましく、泥臭く、そして艶やかに」と(キャッチフレーズを)言っている通り、OSKもただキレイなだけじゃなくて、生命力の強さがあってたくましい。ドラマを通じて「OSKという劇団が大阪にある」ということを知っていただいて、ハマっていただいて(笑)、これからも公演を見に来ていただけるように、私たちのパワーをお届けしたいと思います。
OSKの魅力にハマった人の話を聞くと、やはり名物の一糸乱れぬラインダンスを始めとする、ダンスの美しさがきっかけになったというケースが多い。ダンスが中心となるレビューショーは、特に『ブギウギ』で興味を持った未見の人には、OSKデビューにもってこいの1本と言っていい。OSKにとっても、それは同じ思いだそう。
楊:レビューには、言語の壁がないと思うんです。私たちが(作品世界を)体現しようと、一生懸命お稽古をしたその先に、お客様と言葉の壁を超えた一体感が生まれるのが、レビューの醍醐味だと私は感じております。そして舞台は総合芸術なので、音楽、振付、照明、舞台機構のみんなの力が合わさって、さらにお客様に見ていただいて、ようやく作品が完成する。それをひっくるめての「レビュー」だと思うし、私にとって普段では体験することのできない、特別な生きる糧という感じです。OSKにとっても、レビューは力を存分に発揮できる場だと思いますので、今までのファンの方も、新しいファンの方も、心から楽しんでいただけるように、頑張っていきたいと思います。
OSK日本歌劇団
この会見の直後、八坂神社でほかの団員たちも合流し、公演の成功祈願が行われた。全員が桜色の着物&グリーンの袴でそろえたOSKメンバーの一団は、すでに雅な和の空気感をまとっていて、秋の京都を訪れた観光客だけでなく、通りすがりの京都市民たちも「きれい!」と言いながら、スマフォを向ける人も少なくなかった。公演の宣伝のチラシを手にする人も多く、成功に向けて順調な一歩を踏み出した一日となったはずだ。
御祈祷の様子
わずか70分という上演時間の中に、日本舞踊、クラシックバレエ、タンゴ、ストリートダンスなどのジャンルをこれでもかと詰め込み、そのどれもが極上のテクニックとチームワークによって、見ごたえのある世界となって現れる。しかも大阪の劇団らしく、随所で人間味とたくましさを感じさせるのが、どこにも真似ができないOSKの魅力だろう。『ブギウギ』のUSKのキャッチ「強く、たくましく、泥臭く、そして艶やかに」を体現した世界を、画面越しではなく、ぜひ生の生命力を全身で浴びながら観てみよう。
取材・文=吉永美和子 撮影=ハヤシマコ