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サム・スミス、ジャパン・ツアー初日となるAsueアリーナ大阪公演のオフィシャルレポートが到着

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サム・スミス ジャパン・ツアー

サム・スミス ジャパン・ツアー

2023年10月11日に、サム・スミスが最新アルバム『Gloria』を引っさげた全3公演となるジャパン・ツアーの初日公演をAsueアリーナ大阪で行った。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。


その夜、サム・スミスは「Freedom」をオーディエンスに呼びかけた。このショウで自分を自由にして、と。思えば、サムのアーティストとしての歩みはより自由になっていく自身を表現する過程だった。デビュー以来数多くのヒット曲を世に放ってきたサムだが、同じ場所に留まることなく音楽性もイメージも変えながらつねに新しい自分を示してきた。5年ぶりの来日となる今回の「Gloria Tour」は、そんな道のりがダイレクトに味わえる感動的なものだ。そこでは、何よりも自分自身でいることが祝福されている。

2023年10月11日Asueアリーナ大阪。19時を少し過ぎると、金色の巨大な裸体の像が横たわるステージにいよいよサム・スミスがゆっくりと登場する。と、いきなり最初期の大ヒット・ナンバー「Stay With Me」! 綺麗なピアノの演奏と分厚いコーラスをバックにした生の歌声に、たちまち会場全体が引きこまれる。サビのコーラスではオーディエンスにマイクを向け、歌が返ってくると微笑むサム。誰もが知っているヒット曲を冒頭から披露するのは堂々としたものだが、それ以上に貫禄が増していたのはその歌唱だ。あくまでゆったりとしたテンポで、切ないラヴ・ソングをゴスペル・コーラスとともに高らかに解き放ってみせる。そのままデビュー作『In The Lonely Hour』から「I‘m Not The Only One」、「Like I Can」とバラードを畳みかけ、ソウルフルかつニュアンスに富んだ歌声で魅了する。

サムの衣装を楽しみにしていたファンも多かっただろう。今回のツアーではゴールドがイメージ・カラーになっていて、その日のサムはまず、金色のタキシードとコルセットをミックスしたような装いで登場した。そこでは伝統的な男性性と女性性がきらびやかに混ざり合っていて、ジェンダー・アイデンティティをノンバイナリーだとしている現在のサムのあり方が輝かしく表現されている。バンド・メンバーやコーラス隊の衣装も華やかで、目でも楽しませてくるショウだ。

そんな風にポップ・アイコンとしての存在感も増したサムだが、MCでは5年ぶりに日本に来られたことの感激を飾らずに語る。オシャレをしてきたファンの存在に喜ぶ姿もかわいらしい。その変わらぬ親しみやすさにホッとしていると、続いてセカンド・アルバム『The Thrill Of It All』から「Too Good At Goodbyes」。キャリア前半の代表曲をショウの冒頭で出し尽くすような大胆なセットだ。

今回の「Gloria Tour」は3幕構成になっていて、じつはここからが本編だ(冒頭のソウル・バラードのパートは序幕にあたる)。ステージ両脇のヴィジョンに第一幕のテーマである「LOVE」の文字が掲げられると、首元と袖口にレースがあしらわれた衣装に着替えたサムが登場して『Gloria』からピアノ・バラード「Perfect」。ダウンテンポのビートを掌握してしっとりと聴かせる。「Diamonds」、「How Do You Sleep?」、「Dancing With A Stranger」と『Love Goes』からの楽曲を中心にした第一幕では、バンドのダイナミックな演奏を生かして音源以上にエネルギッシュに歌い上げる。もちろん主役はサムそのひとだが、サポートするバンド・メンバーやシンガーたちのそれぞれの見せ場を設けていたのが印象的だった。全員で作り出すステージであることが強調されていて、観ていて気持ちいい。

サム・スミス (C)Michael Bailey Gates

サム・スミス (C)Michael Bailey Gates

第二幕の「BEAUTY」からショウはさらに勢いを増していく。シルバーのゴージャスなドレスに着替えた姿に歓声が上がると、サムは「このドレス、気に入った?」と嬉しそうだ。そして、独唱の迫力で圧倒する「Kissing You」から、サポート・シンガーとのデュエットで魅せる「Lay Me Down」へと続く流れで、ステージに登場したダンサーたちとともに歌の美しさを差し出してみせる。ソウル・シンガーとしての圧倒的な表現力に思わず息をのむ一幕だ。

最高だったのは、「Love Goes」のアウトロでエレガントに舞っていたダンサーが突然観客に向けてお尻を激しく振るトゥワークをし、「Gimme」へと突入した瞬間だ。ここから一気に『Gloria』のセクシーなダンス・ポップのモードになり、いつの間にかカウボーイ風の衣装に着替えたサムを中心にした大ダンス・パーティへ。「Lose You」やカルヴィン・ハリスとの「Promises」のハウス・ビートで会場を揺らして踊らせる。ダンサーたちは身体を激しくシェイクしたり同性同士でのキスを披露したりして、ジェンダーやセクシュアリティを限定しないエロスがそこでは掲げられ、祝福されるのだった。

クィアネスの解放と祝福がこのツアーの重要なテーマであることは間違いない。「Over The Rainbow」を引用した「Dorothy’s Interlude」でレインボー柄の巨大なガウン(?)を羽織ってディスコ・チューン「I’m Not Here To Make Friends」を歌い上げるサムはさながらディーヴァのようだ。それは、大勢のLGBTQ+の人びとの心を解き放ってきたダンス・ポップの歴史を続けようとする意思の表明に感じられた。

会場の熱はすっかり上がりきっているが、まだまだダンスは終わらない。続いては初期からのファンには嬉しいディスクロージャーの「Latch」。サム・スミスというシンガーの魅力を世に知らしめたポップなハウス・ナンバーだ。ピンクのジャケットに♡型の穴が開いたジーンズのキュートなカジュアル・ルックもキマっていて、サムがこれまで見せてきた多面性が軽やかに表現されていた。

第二幕の最後は永遠のディスコ・アンセムであるドナ・サマーの「I Feel Love」で、サムはなんとマイクを置いてセクシーなダンスを披露した。ついにはシャツを脱いで上半身裸になり、会場は大興奮だ。自分はこの瞬間、少し泣いてしまった。クィア・カルチャーでずっと愛されてきた大名曲とともに、ありのままの自分自身がさらけ出され、讃えられていたからだ。それはクィアの文脈における「プライド」に他ならない。奇しくもその日はカミングアウトしているLGBTQ+の人びとを祝福する国際カミングアウトデーで、自分らしい表現を追求してきたサム・スミスというアーティストのあり方とシンクロしているように感じられたのだった。ステージでサムはLGBTQ+の存在をどこまでも肯定しつつ、華やかなエンターテインメントのなかでセルフ・ラヴをポップに表現することで、あらゆるジェンダーやセクシュアリティのひとにシェアされるものへと昇華していた。

ラスト、アンコールにあたる第三幕のテーマは「SEX」。サムは布をかぶってアカペラで「Gloria」を荘厳に歌ったかと思えば、ボンデージ風のいかがわしい衣装でマドンナの「Human Nature」を妖しくパワフルにカヴァーする。ねっとりとした半裸のダンス。「あなた自身を表現しなさい」――ポップの女王のメッセージが引き継がれる。そして、「Unholy」のイントロが流れるとその日一番の大歓声が上がった。そう、サム・スミスは最新ヒット曲でピークを生み出すことができる現在進行形のスーパー・ポップ・スターなのだ。キム・ペトラスがヴィジョンに登場しラップを披露し、ステージはダーティでセクシーな饗宴状態に。ラスト、サタンの恰好で堂々とショウを終えたサム・スミスは、シンガーそして表現者としての自身の現在を余すことなく解き放っていた。そこには美しく力強い「Freedom」があった。

文=木津 毅 

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