.ENDRECHERI.こと堂本剛「.ENDRECHERI. LIVE 2023 END RE ME」「.ENDRECHERI. Ballad of FUNK」ツアーレポート
.ENDRECHERI.が開催した全国ツアー「.ENDRECHERI. LIVE 2023 END RE ME」。9⽉6日の兵庫・神⼾国際会館こくさいホール公演を⽪切りに、全国5箇所で⾏われた。さらにそのツアーを完遂するやいなや、10⽉10日から新たなツアー「.ENDRECHERI. Ballad of FUNK」をスタート。前者はファンク、後者はバラードを軸にした異なる公演内容だが、その中から9⽉29日の神奈川・パシフィコ横浜公演と10⽉17日の東京・TOKYO DOME CITY HALL公演についてレポートする。
オープニングの「END RE CHERI」が流れる中モニターに映し出されたのは、幾何学模様や宇宙空間、⿓、堂本剛の顔の構造がわかるような解剖図と思わしきものなど、さまざまな写真や素材がコラージュされた映像。公演を重ねるごとにアップデートされていくこの映像は今回も⾒応えがあり、⼀瞬にして観客を.ENDRECHERI.のディープな世界へと誘ってくれる。会場の熱もみるみるうちに⾼まり、クラップの⾳も⼤きくなっていく中、ついに幕が上がり登場したのは、奇抜な⾐装やアイテムを⾝に纏った.ENDRECHERI.とバンドメンバーたち。
まず披露されたのは「Super funk market」。冒頭から圧巻の熱を孕んでおり、その仕上がりっぷりは1曲⽬と思えないほどだった。続けて「MYND」など数曲が披露されたが、どの曲も⾳が塊となって迫ってくるようで、少しでも気を抜けば置いていかれるような感覚に陥るほどだった。
お馴染みのバンドメンバーたちの中で⾒慣れない⼈物が1⼈いた。剛の歌に合わせて⼿話を披露する⼥性、その⼈物は⼿話アーティストのペン⼦だった。後のMCで語られたが、さまざまな垣根を超えて.ENDRECHERI.の曲をたくさんの⼈に届けたいという想いから剛⾃らネットでリサーチし、彼⼥に出演オファーをすることになったという。「全ての⼈に曲を届けるのは難しいけど」と語る剛だったが、⽬標に向けて⼀歩ずつ前進していく彼の姿勢が素晴らしいと思った瞬間だった。
このツアーでは 最 新アルバム「Super funk market」から「依存BEAT」「cho_cho_chocol@te」「Pretty Phantom」など新曲もいくつか披露されたが、特筆すべきは、⾃分らしく⽣きることの⼤切さがストレートに綴られた「I, Knew Me」ではないだろうか。
“I. know me 僕を君を⽣きなきゃ”“イメージ. ⽂字. ⾔葉に/さらわれないように”
そもそも、⾃分らしく⽣きていく未来は彼が求めていたものだった。⾃⼰表現のきっかけを与えてくれたファンクなど、⾃分が⼼から好きだと思える⾳楽を追求したい。そして、⾳楽を通じて本当の⾃分を知ってほしい。そういった想いから始動したソロプロジェクトが.ENDRECHERI.の前⾝にあたる「ENDLICHERI☆ENDLICHERI」だったが、ENDLICHERI☆ENDLICHERIのライヴが初めて開催されたのも横浜だった。あれから約15年。彼は歩みを⽌めることなく、他者からの理想やイメージに囚われることなく、⾳楽と向き合ってきた。このライヴ中にも観客やバンドメンバーに「ここでは⾃分を解放してほしい」という⾔葉を投げかけており、それに応えるように、バンドメンバーは思い思いのプレイを展開していった。演奏⾯でもMCでも⼀⼈⼀⼈の⾒せ場がしっかりと設けられていて、それぞれの個性が起こす化学反応の爆発⼒を体感しつつ、.ENDRECHERI.バンドが唯⼀無⼆のグルーヴを⽣み出せる理由というのを垣間⾒た気がした。何より、圧倒的に⾃由度が増した.ENDRECHERI.のライヴは、その場に居るだけで幸福感でいっぱいになるような、愛しかない空間だった。
その翌⽉にスタートした「.ENDRECHERI. Ballad of FUNK」。出演者はキーボーディストのGakushiと.ENDRECHERI.の2⼈だけで、ファンク公演の時に映し出されたOP映像はなく、開演時間を迎えて彼らが登場すると⾃然な流れで演奏も開始された。「LOVE VS. LOVE」「Everybody say love」と続けて披露されたあと、剛は「バラードとして改めて過去の曲を歌うとエッジの効いたものが多くて…今日は皆さんの⼼をズタズタにするかもしれません」と語っていたが、彼の歌声には痛みを乗り越えていく⼒強さが宿っていて、むしろ聴いていると気持ちを⿎舞されるような感覚だった。
その後の「シンジルとウラギル」ではピアノを、「愛詩⾬」ではアコースティックギターを演奏しながら歌うこともあったが、基本的にはキーボードの旋律に乗せて歌うというシンプルな構成によって、彼の類稀な歌唱⼒はいつにも増して際⽴っていた。声量を出す必要のあるバラードを歌う際、突発性難聴の後遺症に苦しめられることもあったというが、病気のことを感じさせないほどの歌声であったこと、そしてこのバラード公演に⾄るまで彼が試⾏錯誤を重ねた日々を思うと、「美しい」とか「圧巻」とか、そういう⾔葉で簡単に表現してしまいたくなくなるほどの歌声だった。
⼀⽅で、MCでは「ラブソングを歌う気にはなれないけど、提供曲として作ったり、誰かを意識しながら歌うことはできるかも」という話の流れから、即興でラブソングを披露したり、阿吽の仲である剛とGakushiのトークで会場が沸く瞬間も多々あった。Gakushiは.ENDRECHERI.の楽曲を制作する上で重要なキーパーソンであるが、この公演でのやりとりや、Gakushiの秀逸なアレンジによってさまざまな曲が違和感なくバラードに⽣まれ変わっていたことに、剛が彼に全幅の信頼を置いていることにも納得がいった。
1曲1曲歌うごとに、ひとつひとつの⾔葉に想いを込めながら、楽曲の制作秘話などを語る剛。「Eye brow / BLUE」は、コロナ禍で⼤変な思いをしている医療従事者の⼈々が“隙間時間で少しでも笑えることができれば”という想いから開始したInstagramへの写真投稿によって誕⽣したことなど、どのエピソードからも、他者に寄り添う彼の優しさが感じられた。特にラストに披露された「街」で、故郷の奈良の景⾊を思わせる写真を⾒つめながら、“痛みまでも⾒失いたくない”と歌う姿が強く印象に残っている。
ファンク公演もバラード公演も公演内容は⼤きく異なれど、彼が伝えたいテーマは「⾃分を⽣きることを諦めないで」ということに尽きるのだろう。本当の⾃分で⽣きることができない苦しみ、反対に⾃分らしく⽣きることと、そんな⾃分を受け⽌めてもらえる喜び。今回のツアーは、その2 つを強く実感している彼だからこそ、そしてどんな時も愛と平和を信じている彼だからこそ、⽣み出せる時間だったのではないかと思う。