2021年7月7日にソロデビューして以降、アーティスト・手越祐也は止まることなく精力的に音楽活動を展開している。10月25日(水)に発売されるBlu-ray/DVD『CHECKMATE』は、4月12日のZepp Haneda からスタートし全国5都市、11公演を巡った自身4度目の全国ツアー『手越祐也 LIVE TOUR 2023 CHECKMATE』を切り取ったもの。ヴォーカル、バンド、ダンス、衣装、メイク、演出、どれかひとつにこだわって見ることも、全部をまとめて楽しむこともできる、“手越祐也のステージ”が確立されたツアーとも言うべき「CHECKMATE」について、そして11月4日(土)配信リリースの新曲「アダルトブルー」について話を訊いた。
──ソロデビューしてから精力的にツアーを行ってきた手越さん。これまでのツアーを経たからこそ『手越祐也 LIVE TOUR 2023「CHECKMATE」』で表現したかったこととは何だったのでしょうか?
まず大前提として、僕はツアーごとにステージの構成や見せ方をガラッと変えたいという思いがあります。2022年の初頭に行った『手越祐也 LIVE TOUR 2022「NEW FRONTIER」』は「俺は新境地でこういう音楽をやっていくんだ」という決意表明のようなツアーで、バンドとダンサーズの両方と一緒に回っていました。その次のツアー『手越祐也 LIVE TOUR 2022「Music Connect」』は「音楽の素晴らしさをストレートに伝えたい」と、バンドメンバーを2人増やした6人で、ダンサーズはナシという布陣で臨みました。それらのツアーを経た「CHECKMATE」は、同タイトルのアルバムを制作しているときから「これはすごくいいアルバムになるだろう。この内容だったらエンタメ色の濃いライブにしたいな」と思っていたので、前半と後半で衣装だけじゃなくメイクも変えたり、照明のバリエーションを増やすためにステージ背後にスクリーンを設置しなかったり、バンドをバックに僕ひとりで踊ったりと……歌が好きなファン、バンドが好きなファン、僕が踊っているところを見たいファン、全員が満足できるようなライブを目指しました。
──ソロデビューしてからずっと一緒にステージを作り上げてきているスタッフやバンドメンバーだからこそ、そういった表現ができるのでしょうね。そんな“チーム手越”の一番の強みは何だと思いますか?
愛があることじゃないかな? それぞれがただの仕事として取り組んでいるのではなく、照明チームも音響チームも「手越祐也がどうやったらかっこよく見えるだろう?」とか「手越祐也の歌が最大限に生きる音響ってどんなものだろう?」といったことを考えてくれる。バンドメンバーも「手越くんとツアーを回るのが楽しいから、演奏で最大限のサポートをしたい」と思ってくれている。そういうチームって強いですよね。
──「Behind The Scenes」のバックステージやオフショット映像からもその思いは伝わってきます。
僕は昔からそうなんですが、ライブをサポートしてくださる方たち一人ひとりと「心の距離を近くしていたい」という思いがあります。バックステージでも密にコミュニケーションをとったり、ツアー中にみんなで飲みに行っていろんなことを話したり。やっぱり、本当の仲の良さに勝るものはないですから。ツアーを俯瞰していても「ああ、みんながツアーを楽しんでくれているな」と感じるし、その雰囲気がステージ上にもにじみ出ていると思います。
──「このチームでよかったな」と特に感じるのはどんなときでしょう?
恥ずかしいんですけど……(照笑)。みんなで打ち上げしているときって、僕はそれぞれのセクションの席に転々と移動して乾杯したり話したりしているんですよね。その間、僕がいない場所でみんなが僕のことをすごく楽しげに話してくれているそうで(笑)。人づてにそういう話を聞くと、やっぱり嬉しいし愛を感じますよね。
──激しく意見がぶつかることなどはないのでしょうか?
そういうことはないし、僕は基本的に人を怒ることはありません。ただ、やっぱりみんながプロフェッショナルとして仕事に向き合っているなかで、オーディエンスに対するパフォーマンスの質を下げるようなことが起きたときにだけ怒ります。僕個人に対してのミスだったら気に留めませんが、それがステージにまで影響してしまう場合は……お金を払って来てくださるファンに対して、ミスが起こってはいけないんです。僕の基準はそこだけですね。
──そうやって真ん中に立つ人がブレない軸を持っていることで、チームはより団結できるのでしょうね。
そうかもしれません。厳しく怒り散らして統率していく人もいるかもしれませんが、僕は「怒ることで良いものは生まれない」と思っています。ただ、思ったことをストレートに言ってしまう性格なので「今日、音響最高だよ」、「照明いいね、ありがとう」といったことを言うのと同じ感覚で「ここは嫌なんだよね」と言ったりもします。ある意味、そういう人が真ん中にいると、わかりやすいのかもしれないですね。
──「Behind The Scenes」のなかで、ギターの伊平友樹さんが「シンフォニックコンサートを経て手越くんの歌がまた変わった」とおっしゃっていましたが、手越さん自身にもその実感はありましたか?
歌い方や歌のうまさって数値化できるものではないので、自分で認識するのは難しいけれど……ヴォーカリストにとって、ステージ上で得た経験のすべてが歌の栄養になるんですよね。そういう意味では『CHECKMATE』のツアー中に1日でセットリストも異なる2公演のシンフォニックコンサートを行った経験は大きかったと思います。1日で40曲くらい歌いましたし、5、60人のシンフォニックメンバーがいる前で歌うのは、バンドとはまた違ったものが要求されますから。「CHECKMATE」で歌う曲をフルオーケストラで歌った経験が『CHECKMATE』でそれぞれの曲の幅を広げてくれたんじゃないかと思います。
──また、「Behind The Scenes」で手越さんもおっしゃっていましたが、KT Zepp Yokohamaでの手越さんの名前を呼ぶファンのみなさんの声が本当に大きくて感動しました。ステージ上であの声を受けて、どんな思いだったのでしょうか?
コロナ禍で歓声が出せないなかソロデビューして、それまで当たり前のように名前を呼んでいただいたり、歓声をいただいていた環境が一度完全にゼロになったんですよね。それが少しずつ声を出せるようになってきて、『CHECKMATE』の途中からは満員でも声出しが認められるようになりました。そのありがたさというのを本当に実感しましたし、横浜であの歓声を聞いたときは改めて「生きてるー! これがあるから、俺はステージに立っていたいんだ」という気持ちになりました。
──「Music Connect」のBlu-ray/DVDは「“アーティスト・手越祐也の音楽の入り口”になるような作品」とおっしゃっていましたが、今作はどんな作品になったと感じていますか?
『CHECKMATE』はいつも以上に“手越祐也にしか作れないライブ”になったと思っています。シンガーソングライターやアイドルのステージ演出とも違うし、バンドのステージではメイクや衣装を変えたりしないと思うんです。そういう意味で、特定のジャンルにカテゴライズできない“手越祐也のステージ”を今回は見ていただけるような作品になっているという自信があります。バンドが好き、踊りが好き、歌が好き、演出が好き、夢の時間を提供してくれるようなライブが好きといった、すべての人の欲求を満足できるような、それぞれの「見たい」を見せてあげられるような作品になっていると思います。
「アダルトブルー」ジャケット撮影
──11月4日(土)配信リリースの新曲「アダルトブルー」のイメージは「憧れ」「劣等感」「嫉妬」。手越さんの楽曲は聞く人の背中を押すような作品が多く、「アダルトブルー」も同様だとは思いますが、負の感情に寄り添うというアプローチがこれまでとは少し違った印象です。これらのテーマを選んだ理由は?
今回は「OVER YOU(feat.マイキ)」に続いて、マイキに作詞・作曲・編曲をお願いしています。僕から「こんな曲を歌いたい」というイメージはもちろん伝えさせてもらいましたが、マイキ自身もアーティストとして表現したいものがあると思いますし、彼が作る楽曲をリスペクトして歌いたいので、歌詞やメロディラインについて細かく伝えるようなことはしていません。これは、いままで楽曲を作ってくださったみなさんにも言えることです。そうして「アダルトブルー」の歌詞を見たときに……アーティストのマイキだからこそ感じるモヤモヤとした思いが出ているなという印象でした。彼も人間ですから、良いメンタリティのときに書く歌詞と、自分のなかに何かしらのモヤモヤがあるときに書く歌詞があって、その両方があるからアーティストとして美しいんですよね。それを僕は尊重したいし、そういうマイキだからこそ僕は彼に楽曲をお願いしたいと思うんです。前回作ってもらった「OVER YOU(feat.マイキ)」は僕が普段話していることや、僕のインタビュー記事を読んで「きっと手越くんはこういうことを伝えたいんだろう」と感じたものを歌詞に散りばめてくれた作品でしたが、「アダルトブルー」は“手越祐也というボーカリストに歌ってほしい、マイキ自身の気持ち”がたくさん入っているんだろうなと感じました。
──手越さん自身には「憧れ」「劣等感」「嫉妬」といった感情はない?
ないですね。グループ時代に「自分はいま、絶対的エースのポジションにいないな」と俯瞰していた時期がありましたが、だからといって「なんだよ、つまんねーな」とか「もう適当でいいや」といった思いにはなりませんでした。「絶対的エースにあって、俺にないものって何だろう?」とか「歌でポジションを覆すぐらいに実力をつけたらいいんじゃないか。そのためにはどうしたらいいだろう?」といったことを、ずっと考えて行動していましたね。それは、いまも昔も変わらないです。だからといって「俺には嫉妬や劣等感なんてないから、この曲の主人公の気持ちはわからない」とはまったく思っていなくて。先ほどおっしゃっていただいたように、負の感情に寄り添うことはできると思うんです。僕が特殊なポジティブ人間なだけで(苦笑)、多くの人がそうではないというのを理解しているから「なんでそんなことで悩んでるの? もっとポジティブにいけばいいじゃん」とは思わなくて、そういう人にも寄り添えるような存在でありたい。ポジティブな曲ばかりじゃなく、「アダルトブルー」のような曲があることで、負の感情に苛まれている人に寄り添いやすくなるんじゃないかと思うんです。
──マイキさんと手越さんの特性がピタリとはまった曲が誕生したのですね。
そういう化学反応が起こるから、アーティストに楽曲を作っていただくのが楽しいんです。マイキが自身のなかから出してくれたモヤモヤとした感情を自分なりに汲みとって、ポジティブな俺が浄化して、歌として奏でる。聞いてくれる人に寄り添いつつ、「私も浄化された先に行こうかな」と思ってもらえる可能性が……ポジティブな曲を歌うよりも高いんじゃないかと思うんです。だから、レコーディングでも余計なアレンジをせずに、まっすぐ歌いました。
──ステージ上での「アダルトブルー」はどんな曲になりそうですか?
セットリストのどこに入ってくるかで毎回違う表現にはなると思うけれど……マイキがとても繊細な歌詞をつけてくれているので、繊細で感動的な演出にしたいなとは思います。これまでの曲のなかでも、もしかすると一番共感性が高い曲になるかもしれないので、みんなの心により深く、より繊細に届けたいですね。ライブを生きがいにしている人って多いと思うんです。嫌なことやムカつくことがあっても、「ライブがあるから頑張ろう」と思える。そういったみんなの背中を音楽で押すことができるのがアーティストであって、そこに僕は魅力を感じているんです。だから、僕のライブで「アダルトブルー」を聞いたときに、みんなの心にガーンと届くような何かを与えたい。僕なりに浄化したものを出して、みんながポジティブなほうへ向かえるように背中を押したい。そういった思いが一番光るような演出にすると思います。
──2024年には、2月1日のKT Zepp Yokohamaを皮切りに、5都市をめぐるツアーが予定されています。
『CHECKMATE』後も「JOIN ALIVE」や「TWO MAN ZEPP TOUR『2ぺプラ手越』」でたくさんの景色を見ましたし、今年もまだバースデーライブや学園祭なども控えていますから、それらのステージで感じたいろんなことも吸収しつつ、2月の手越祐也が表現できる一番良いものをお見せしたい、その時点での最高到達点へとみなさんを導きたいと思っています。いまはまだ未来のことはわかりませんが、僕は必ず「ひとつ前のツアーを絶対に超えるぞ」と思ってステージを作ってるので、『CHECKMATE』からさらに進化したものになるのは間違いありません。
──2021年にソロデビューし、2022年には音楽を通して多くの仲間を増やしてきた手越さん。まだ2か月強残っていますが、2023年はどんな年になったと感じていますか?
2022年は色んな種をたくさん蒔いて、2023年はその種がすべて満開ではないものの、いろんなところでぽんぽん咲いてくれて、その美しい花を周りの仲間たちがさらに彩ってくれました。蒔いた種はまだまだたくさんありますし、2022年に蒔いたものよりもさらに質の良い種を2023年は蒔くことができたと思います。物事にはすべて“流れ”があると僕は思っているんですが、2023年のアーティスト・手越祐也には追い風と向かい風のどっちが吹いていたかと言ったら、100%追い風だと断言できます。自分の夢が叶いやすい環境に近づいたと思いますし、いろんなことがプラスに動いている実感が強いので、あとは「その追い風にどう乗っていくか」ですよね。最大限に生かして、ビュンビュンと前に進んでいきたいと思います。2024年も間違いなく良い年になります!
取材・文=とみたまい 写真=フォーライフミュージック提供