ReoNaのファンクラブ「ふあんくらぶ」限定のツアー『ReoNa Acoustic Live Tour “ふあんぷらぐど2023”』。二年ぶりとなる開催の初日公演は名古屋、三井住友海上しらかわホールが舞台。清潔感がある縦長のホールは天井も高く、どこかヨーロッパの教会のような雰囲気を感じる。
ライブハウスともまた違う距離の近さがあるステージ。手を伸ばせば届きそうな場所に静かにReoNaが現れる。本日25歳の誕生日を迎えたReoNaは「五周年を迎えたふぁんくらぶのみんなへ届けるお歌、最後まで楽しんでいってね」と語った。
荒幡亮平と山口隆志との三人だけのミニマムな世界観。しかしそこに満ちている音楽の密度は高い。シンプルな構成だからこそ、ReoNaを含めたトライアングルのバランスが際立つ用に感じた。高い天井に反射して降り注ぐ音楽が本当に心地よい。
今年の抱負を聞かれ「24歳のときに“来年25です”と言い続けてしまって損をした気がするので、来年は“今25です”と言うようにする」と小さな願望を話すと会場からは温かい笑いも起きた。
そして『ふあんぷらぐど』ならではのカバー曲が聞けるのも楽しみの一つだ。中にはこの日初披露となったカバーもあり、驚きと新鮮さを感じられたのも良き体験だった。あらゆる楽曲を歌うことに説得力を持たせる歌唱力をReoNaは身につけている。元々が持っているブレスの多いささやくような声から、伸びやかな高音、体に響かせる低音までシームレスに歌いこなす。特にこの日は中音域の声の広がりが秀逸に感じられた。
デビューから五年、四半世紀を“生き抜いた”ReoNaはその登場から今に至るまで一貫して「絶望系アニソンシンガー」の看板を掲げ続けている。絶望という誰もが感じたことのあるネガティブに対して「背中も押さない、手も引かない」というReoNaの接し方は確実に共感を生み、その一対一の会話こそが“お歌”という形でこの暖かい空気を作り上げていると思えた。気持ち良い時間が過ぎていく。
様々な経験を経た今のReoNaの“お歌”には今まで以上に重力を感じる事が出来た。安定した歌唱、観客の耳も目も、心も引き付ける魅力、それらはまさに重力と呼ぶにふさわしい力を持っている。今日このホールに集ったのは、ReoNaを支え続けたReoNaの重力にいち早く惹かれたファンたちとの五年間の足跡がこのツアーには詰まっているような気がした。
ライブ後半では全国ワンマンホールツアー『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”』を2024年5月から開催することも発表。「また同じ空間で、お歌受け取りに来てくれますか?」とReoNaが語ると会場からは万来の拍手が巻き起こる。未来の話も出たが、今まだ『ふあんぷらぐど』は始まったばかり。ReoNaはしっかりと一歩づつ、このアコースティックツアーを歩いていく。
取材・文:加東岳史