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チェリスト宮田大が語る、最新アルバムから盟友ジュリアン・ジェルネとのリサイタルまで

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宮田大

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2009年のロストロポーヴィチ国際チェロコンクールでの優勝以来、国際的な活躍を繰り広げる宮田大。2,000席規模のコンサートホールを満席にするほどの人気ぶりで、作曲家や演奏家からの信頼も篤く、名実ともに「日本を代表するチェリスト」として充実のときを迎えている。

そんな宮田から届けられた新作アルバム『VOCE – フェイヴァリット・メロディー -』には、「今、届けたい名曲」というテーマのもと厳選された、クラシックに限らないヴァラエティ豊かな曲たちが収録されている。そこには宮田のどのような想いが込められているのだろうか、話を聞いた。

感性で選んだフェイヴァリット・メロディ

――今回の新作は、ジャケット写真からしてこれまでのアルバムとは雰囲気が違いますね。

アルバム・タイトルの“VOCE ”とはイタリア語で「声」という意味ですが、「私の大好きな曲を聴いて」と語りかけているようなイメージでしょうか。クラシックだけ、あるいはチェロの定番曲だけにこだわらず、「今、届けたい名曲」をボーダーレスに選んだ、私のわがままを全部詰め込んだアルバムです。

――いわゆる「チェロの名曲集」とはひと味もふた味も違う、ユニークなプログラムになっています。

誰もが知る名曲ではなく、どの曲も、知っていらっしゃる方もいれば、知らない方もいらっしゃる。けれど、ひとたび耳にすれば誰もが「名曲」と思えるような作品を集めたつもりです。さらに裏テーマとしては、どこか懐かしさを感じる曲を集めて、皆さんにタイムスリップしていただきたいという思いもありました。たとえば「リベルタンゴ」を聴けば、1990年代のピアソラ・ブームを巻き起こしたヨーヨー・マの演奏を思い出す方も多いでしょう。私は今回、そこに都会的でスタイリッシュな雰囲気を、自分なりの表現として入れてみました。

――懐かしさといえば、『ファイナルファンタジーX』のオープニング曲「ザナルカンドにて」や、映画『星になった少年』のテーマ曲などは、1986年生まれの宮田さんにとって懐かしい曲だったりするのでしょうか?

そういった自分のリアルタイムの記憶に直結する曲もある一方で、吉松隆さんの「ベルベット・ワルツ」や菅野祐悟さんの「ACT」などは、自分の思い出とは関係なく、今回はじめて取り上げた曲ですが、なぜか弾いていると懐かしい気持ちになるんですよね。畳の部屋の窓を開け放して、夕陽を見ながら昼寝をしているような、のどかな風景が浮かんだり。「ACT」は秒針が進んでいるけれど、同時に1秒がすごく長く感じるような感覚を覚えたり。言葉で説明するのは難しいのですが……。

――たしかに、「こういうコンセプトで選曲しました」と明確に説明できるようなコンセプト・アルバムが多い昨今ですが、このアルバムには言葉では言い表わせない、宮田さんならではの繊細な感性が反映されていますね。

日本の作曲家の作品が多く入っているので、難解な現代曲なのかなと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、どれも親しみやすく素敵なメロディの曲ばかりですので、まずは聴いてみていただけましたら。

同時代に活躍する作曲家たちとの交流

――同時代に活躍する日本の作曲家たちの作品が多く収録されているのも、さまざまな作曲家の新作を初演したり、曲を献呈されたりしてきた宮田さんならではです。

どの作品にも、それぞれの作曲家との交流の思い出や、思い入れがあります。村松崇継さんとは、「Earth」を彼自身のピアノと一緒に演奏させていただいたことがあって、この曲に込められた世界観を感じ取ることができました。また、加羽沢美濃さんは私のコンサートのために「DAIM」という曲を書いてくださって、そのとき一緒に披露してくださったのが「Desert Rose」でした。菅野祐悟さんも、私のためにチェロ協奏曲「十六夜」を書いてくださって。ありがたいことに、私のチェロを愛してくださっている方々の作品が集まりました。

――吉松隆さんにも、彼のチェロ協奏曲「ケンタウルス・ユニット」を演奏して絶賛されていらっしゃいました。

日本で2回、演奏させていただきました。久石譲さん、植松伸夫さんも私にとって憧れの作曲家でしたが、雑誌の対談でお話させていただく機会があって。唯一、お目にかかることができなかったのが坂本龍一さんです。

作曲家・吉松隆氏と。

作曲家・吉松隆氏と。

――海外の作品として、「ソング・フロム・ア・シークレット・ガーデン」や「リバーダンス」が収録されていますが、山中惇史さんによる「リバーダンス」のアレンジは圧巻ですね。

ご存じのように山中さんは作曲家でもあり、ピアニストでもありますから、本当に面白いですね。何度も聴けば聴くほど、そのたびに耳に入ってくるパッセージが違って、新しい発見に満ちたアレンジです。今回のアルバム制作にあたって編曲家の方々にお伝えしたのは、自分自身の作品だと思ってアレンジしてくださいということ。皆さん原曲をリスペクトしつつ、ご自身の味を入れてアレンジしてくださいました。

アレンジの手腕が光るプログラム

――チェロのために書かれた作品ではない曲が多く収録されている今作は、編曲家の腕の見せ所でもありますね。たとえば久石譲さんの「Asian Dream Song」は、宮田さんのチェロの表現力を活かしたアレンジで、アジアの風景が目に浮かぶようです。

「Asian Dream Song」、植松伸夫さんの「ザナルカンドにて」、坂本龍一さんの「星になった少年」のアレンジは篠田大介さんです。「星になった少年」は同じメロディが重ねられていくのですが、ひとりの少年が成長して、星になって羽ばたいていくというストーリーを、篠田さんは音楽でも見事に描いてくださいました。中間部でジャジーに展開する箇所があって、レコーディングではそこがいちばん難しかったですね。すべて楽譜に書いてあるので、ピアノとのアンサンブルでどこまで即興的に弾いていいのかを考えながら収録しました。

――「ソング・フロム・ア・シークレット・ガーデン」と「リベルタンゴ」のアレンジは伊賀拓郎さんです。

「リベルタンゴ」は6〜7年ほど前に伊賀さんにアレンジしていただいたものを、ピアニストのジュリアン・ジェルネとのリサイタルで、いつもアンコールに弾いていました。ピアソラのアルバムを録音したときに「リベルタンゴ」を入れなかった理由は、ジュリアンのピアノと録音したかったから。今回それが叶ったわけですが、誰もが予想だにしない最後の展開はまさに伊賀さん節です。リサイタルではジュリアンがすごく自由に、即興で違うパッセージを入れたりしながら弾くので、今回の録音もライヴっぽい仕上がりになっています。

(c)takafumi ueno

(c)takafumi ueno

盟友ジュリアン・ジェルネとのリサイタルも

――ピアニストのジュリアン・ジェルネさんとは、長年にわたって共演していらっしゃいます。

もう10年以上になりますね。ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールの受賞記念コンサートでジュリアンは私の演奏を聴いたそうなのですが、そのときは面識がなくて。その後、フランスのマントン音楽祭でジュリアンと一緒にリサイタルをする機会があり、それがきっかけで意気投合し、毎年のように一緒に日本でツアーをしています。私は留学先のスイスやドイツと日本を行き来する生活が長かったので、学校でも友だちがなかなかできず、唯一、プライヴェートまで話し合えるような間柄になったのがジュリアンでした。仕事仲間であり、友だちでもある大切な存在です。

2022年リサイタルより(c)takafumi ueno

2022年リサイタルより(c)takafumi ueno

――ジュリアンさんとのレコーディングはいかがでしたか?

今年の4月に3日間かけてレコーディングしたのですが、曲数が多かったのでなかなか大変でしたね。今回、サン=サーンスの「あなたの声に私の心は開く」(歌劇『サムソンとデリラ』より)とドヴォルザークの「私にかまわないで」(『4つの歌曲』作品82 第1曲)は、私とジュリアンでアレンジしました。ジュリアンはフランス語が母国語なので、サン=サーンス作品では言葉の発音やニュアンス、意味合いを教えてもらって、チェロのアーティキュレーションに活かしたりも。ちょっとした音の切れ目や弓遣いなど、細かいところまで打ち合わせしてレコーディングに臨みました。

2022年リサイタルより(c)takafumi ueno

2022年リサイタルより(c)takafumi ueno

――おふたりでのリサイタル・ツアーも全国各地で予定されています。

今回のアルバムからの選曲のほか、サン=サーンスのチェロ・ソナタ第1番を演奏する予定です。聴いたことのない方も多いかもしれませんが、フランス的だけではなく、ドイツ的な要素も感じる「隠れた名曲」。リズムもしっかりあって、感情が揺さぶられるような作品です。また、ツアー最終日となるクリスマス・イヴには、このアルバムをレコーディングした柏崎市文化会館アルフォーレで演奏します。レコーディングのときは誰もいないホールで演奏しましたが、そこにお客さんがいっぱい入った状態で演奏できると思うと、とても楽しみです。

――アルバムもツアーも楽しみにしています。ありがとうございました!

文=原典子

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