『YUTORI-SEDAI one man live「yume」-はじめてのワンマン-』
『YUTORI-SEDAI one man live「yume」-はじめてのワンマン-』2023.10.22(日)東京・下北沢SHELTER
YUTORI-SEDAIが、初の単独公演『one man live「yume」-はじめてのワンマン-』を10月22日(日)、下北沢SHELTERで開催した。金原遼希(Vo.Gt)、上原しゅん(Ba)、櫻井直道(Dr)からなる西東京発の3ピースロックバンドで、今年2月にリリースした「すき。」のバイラルヒットがキッカケで、現在Z世代を中心に人気沸騰中。この日のライブのチケットは即完。反響を受けて12月7日(木)に新代田FEVERでの追加公演が設けられるも、やはり即完。そして来年の3月23日(土)には、3度目のワンマン『2nd one man live 夢のつづき@渋谷WWW』を開催する。この記事では、記念すべき初ワンマンをレポートしたい。
ステージに登場した3人は、ドラム台の周りに集まって小さく気合いを入れてからスタンバイ。1曲目は「23×3」。金原がワンフレーズ歌ったあと、キレのいいドラムフィルを合図にジャーンと音を合わせ、「よろしく! やろうぜ、下北!」(金原)と投げかけた。「はじめてのワンマン、最後の最後まで、あなたに歌います。西東京発の3ピースバンド、YUTORI-SEDAIです」と挨拶した金原は、観客一人ひとりのことを両目でしっかり捉えながら歌っていて、嬉しさと緊張が入り混じったような表情。一方、上原は全開の笑顔で、前に出てきて楽しそうにベースを弾いている。ステージ最後方から届けられる櫻井のビートはみずみずしい。今日この日を迎えられた喜び、感慨を乗せたバンドサウンドに、観客が拳を上げて応えた。
櫻井のビートが曲間を繋ぐ中、金原の印象的なギターリフが導くのは、疾走感溢れるナンバー「サマートリガー」。再びドラムが曲間を繋ぐ中、「お手を拝借!」と手拍子を起こしつつ突入したのは、「スーパーポップでキュートなラブソング」こと「ぎゅっとして、」。ライブならではのアレンジを盛り込みながらの、スピーディーな展開が気持ちいい。そして、センターに出てきた金原が、楽器を高く掲げながら鳴らすギターソロ。細やかかつリズミカルで、ちょっと渋いフレージングだ。歌声やソングライティングについ注目がいきがちだが、彼はロックギタリストとしてもっと評価されていいと思う。
最初のMCでは、改めてメンバー紹介を行った。金原は、珍しい名字と大きな笑い声の持ち主。いつもニコニコしている上原は、出力が0(真顔)か120(超笑顔)になりがちで、適度な微笑みが苦手。櫻井は、幼馴染の金原いわく、「誰よりも純真無垢。だけどドラムを叩くと、パワフルでカッコいいでしょ?」。そんな3人で演奏再開。4曲目は、金原が“運命の人”だと思っていた相手にフラれた時に書いた曲「もう一度好きになって」だ。ここからはYUTORI-SEDAIの真骨頂、恋のバラードのゾーン。心にぽっかりと穴が空いたような悲しみ、自分はもう大丈夫なはずだという強がり、本当は叫び出してしまいたい衝動。感情の起伏とともに在るバンドアンサンブル、そして金原の歌声にみんなじっと聴き入った。
このワンマンのタイトルもそうだが、“yume”というワードを度々掲げてきたYUTORI-SEDAI。2度目のMCでは、自分たちにはまだまだ夢があり、だからこそ今日は通過点にしなければならないと前置きしつつ、「だけど今日を迎えられて、今日も立派な到達点なんじゃないかと思いました」と素直な実感を語った。そして金原が、バンドのこれまでの歩みを振り返る。櫻井とともにバンドを始めるも、友達のバンドが先を行くのを「悔しい」と思いながら見ているしかできない時期があった。そんな自分たちを救ってくれたのが、2020年に加入した上原。この3人が揃った時、本当の意味でバンドがスタートした。もちろんすぐに人気が出ることはなく、ライブをしても、お客さんを一人も呼べなかったことがたくさんあったーー。
「こうやってあなたとYUTORI-SEDAIの音楽を共有できることが、何よりも嬉しくて、かけがえなくて。何よりも守りたいと思わせてくれます。あなたが僕らに希望をくれたから、今度は僕らがあなたの希望になれるように」
そんな言葉とともに披露されたのは、ライブタイトルと同名の曲「yume」。金原がメンバー2人に対して作った曲だ。金原はバンド自身の覚悟を歌いつつ、一つずつ積み重ねてきた自分たちの日々を根拠に、君には君の物語があるはずと想像し、寄り添う。YUTORI-SEDAIならではのエールソングだ。彼らの現在の音楽性は、3人がこれまで流した涙の上に咲いた花のようなものだと実感させられる。
「ここからラストスパートなんだけども、まだまだ盛り上がれる人?」と金原が問いかけると、フロアからたくさんの手が挙がる。「いいじゃん、いいじゃん」と観客とやりとりしつつ、10曲目には、新曲「足りないくらいがちょうどいい」を披露。TikTokを中心に既に話題になっている曲ということで、観客はノリノリでジャンプ。メンバーも飛び跳ねながら演奏して楽しんでいた。そして「ジャンプのあとはみんなで声出したいんだけど、力貸してくれますか?」と、会場全体で「好き、好き!」と声を合わせてから、バンドの転機となった曲「すき。」へ。2番サビでは金原が歌うのを観客に任せ、大きなシンガロングが発生した。「最高!」と嬉しそうなメンバー。音がもう一段階躍動的になる。
そして「ラスト1曲です。本当に本当に、ありがとうございました!」と、本編は「アイラブユーベイビー」でフィニッシュ。止まない手拍子に応えてのアンコールでは、金原が「せっかくの初ワンマンだから、2人も」と振り、上原、櫻井も自分の言葉で語った。
「改めて、大事な日に来てくれてありがとうございます。僕は途中からこのバンドに入ったので、最初はバンドに馴染めるか不安だったし、“面白いことも言えないしな”って思っていたんですけど、この2人に今の自分を肯定してもらって、受け入れてもらって、今こうして大事なワンマンができてます。本当に2人に感謝します。必ず、3人とみんなで、夢を叶えていきます。これからもよろしくお願いします」(上原)
「このバンドを10代の頃に始めてからずっと、ワンマンは大事な日にとっておこうと(金原と)言っていました。SHELTERパンパンで、今までの自分たちだったら考えられないくらいの人が観に来てくれて……本当にありがとうございます。僕は器用な人間ではありません。バンドと生活の両立が上手くいかなくなってしまった時もありました。そんな時に2人とスタジオに入ったりして。いつも応援してくれるみんなの存在があって、自分の好きな音楽に救われて、今があります。だからこそ、つらい気持ちや悲しい気持ちを抱えた人を楽にしてあげたい。YUTORI-SEDAIの音楽にはそういう力があると信じてます。これからもこの3人でやっていくので、よろしくお願いします」(櫻井)
このMC中には、涙で言葉を詰まらせた櫻井が、目頭を押さえ、グッと上を向く場面があった。2人のまっすぐな想いを感じ取った金原は、「本当に2人には感謝しています。ありがとう」と2人に伝えつつ、観客には「でも何よりも、今日という一日を作り上げられたのは、紛れもなくあなたのおかげです。僕らにとって特別な時間だし、居場所だなと思います。本当に、本当にありがとうございました」と伝える。
そんなMCのあとに演奏されたのは、この3人で初めて作った曲「君と音楽」。スタジオであれこれ言い合いながら作ったのだろうと想像できるような、どこか初々しさの残る曲が、心から泣いたり笑ったりしたあとの3人のテンションにばっちりハマった。今この瞬間だからこその気持ちが乗った、素晴らしい演奏だった。
「僕らにとって大切なあなたに贈る歌です。あなたにとっての大切な人を思い浮かべながら聴いてください」と、最後には「幸せにしたいんだ」を届けたYUTORI-SEDAI。彼らの鳴らす素直で温かい音楽は、優しさの連鎖を生み、世界をちょっとやわらかくさせてくれそうだ。笑顔でライブハウスを出るファンの姿を見て、そんな未来を想像した。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=伊東実咲