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ザ・ビートルズ、最後の新曲「ナウ・アンド・ゼン」MVを監督したピーター・ジャクソンの長文公開

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ザ・ビートルズ「ナウ・アンド・ゼン」

日本時間11月2日23:00にデジタル配信、翌日にアナログ盤が発売となるザ・ビートルズ “最後の新曲”「ナウ・アンド・ゼン」のミュージックビデオの監督をつとめたピーター・ジャクソンによる長文がザ・ビートルズの公式サイトに公開となった。

ピーター・ジャクソンは2021年に公開されたザ・ビートルズのドキュメンタリー「ザ・ビートルズ:Get Back」の監督を担当しており繋がりは非常に深く、また「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを担当した現代映画界を代表する巨匠のひとりだが、今回の長文メッセージでは、最後の曲にふさわしい映像を作るという大きなプレッシャーやその制作の過程を綴っている。またピーター・ジャクソンがミュージック・ビデオを監督するのは今回が初となる。

ザ・ビートルズ “最後の新曲”「ナウ・アンド・ゼン」のミュージック・ビデオは日本時間11月3日23:00にザ・ビートルズのYouTubeにて公開される。

また当初フィジカルではアナログ盤とカセット・テープのみだった「ナウ・アンド・ゼン」だが、急遽CDシングルでの発売も決定した。日本には輸入盤が到着しだいの発売となる。

ピーター・ジャクソンによるメッセージ(日本語訳)

アップルから、ミュージック・ビデオ制作の依頼が来たとき、僕はまったく乗り気ではなかった。この厄介な仕事が誰か他の人の問題になっていれば、その後の数か月間の僕の生活はずっと楽しいものになっただろうし、他のビートルズ・ファンと同様に、ザ・ビートルズの新曲とミュージック・ビデオのリリースが近づくにつれ、クリスマス前夜のようなワクワク感を楽しんでいたと思う。1995年、「フリー・アズ・ア・バード」のリリースが近づいたときには子供のように興奮したし、それが楽しかったから。

ザ・ビートルズに“ノー”とさえ言えば、当時と同じような体験が可能だったはずだ。

正直言って、ザ・ビートルズが最後にリリースする曲に相応しいミュージック・ビデオを制作しなければならないという責任の重さを考えただけで、対処しきれないほどの不安が押し寄せてきた。僕のビートルズへの生涯の愛が、皆を失望させてしまうかもしれないという恐怖の壁にぶつかった。だいたいミュージック・ビデオの制作自体が初めての体験だったし、50年前に解散して、この曲を実際に演奏したことがなく、またメンバーの半分がこの世にいないバンドのミュージック・ビデオをどのように制作したらいいのか、まったく想像できなかったこともあり、とても不安な気持ちになった。

ただの使い走りをやった方がはるかに楽だろうなと思った。

とにかくザ・ビートルズ側に断るための正当な理由を考えるために、少し時間が必要だった。つまり、僕は「ナウ・アンド・ゼン」の、ミュージック・ビデオ制作に同意していない。(実際、今でも、同意した覚えはない)

アップルには、適切な映像がほとんどないことが心配だと伝えた。本当は貴重映像や未公開映像をふんだんに使う必要があったが、そのようなものはほとんどなかった。1995年にポール、ジョージ、そしてリンゴが<ナウ・アンド・ゼン>に取り組んでいる様子を撮影した映像は存在していないようだったし、ジョンがこの曲のデモを書いた70年代半ばの映像もほとんどない。60年代のビートルズの未公開映像すらないことも不満だった。その上、昨年ポールとリンゴがこの曲を完成させるべく作業をしている様子すら、彼らは撮影していなかったという。

ザ・ビートルズのミュージック・ビデオは、偉大なるビートルズの映像を核に据えないと成り立たない。俳優や、CGのビートルズで代用すべきではない。ザ・ビートルズのショットはすべてが本物であるべきだ。この段階では、まともな映像がなければ、誰がどうやっても「ナウ・アンド・ゼン」のミュージック・ビデオはできないと僕は確信し、もはやこれは、下手な言い訳どころか立派な理由だった。そしてミュージック・ビデオ制作に関する僕の不安や心配は、今や確固たる理由に裏打ちされ、臆病者だと思われずにこの仕事を断ることが可能となった。

ザ・ビートルズは、彼らが何かをやると決めた時に“ノー”とは言わせないということは知っていたが、彼らは、僕が“ノー”と言うのを待つことすらしなかった。彼らは僕の懸念事項にあまりにも素早く対処してくれたので、気がついた時には、すでに巻き込まれていた。ポールとリンゴは、自分たちの演奏シーンを撮影して送ってくれた。アップルは長いこと忘れ去られていた1995年のレコーディング・セッションの映像を14時間分、発掘してくれた。その中には、ポール、ジョージ、リンゴが「ナウ・アンド・ゼン」に取り組んでいる映像も含まれていた。それらをすべて僕に託してくれた。ショーンとオリヴィアは、素晴らしい未公開のホーム・ムービーの映像を見つけて、送ってくれた。極めつけは、ザ・ビートルズが革のスーツを着て演奏している数秒間の貴重な映像。もちろん未公開の、ビートルズ最古の映像で、ピート・ベストの好意により、手に入れることができた。

この映像を見て、状況が一変した。ミュージック・ビデオが制作できる気がしてきた。実際、短編映画を制作するんだと考えた方がはるかに簡単だと気づいた。そう考えたら、ミュージック・ビデオ制作に関しての不安は一掃された。なにしろ、ミュージック・ビデオを作るわけではないから。

それでも、この“短編映画”がどうあるべきかという確固たるヴィジョンは、まだ浮かばなかった。そこで、曲に頼ることにした。

1年以上前にデモ・テープからジョンの声を分離し、ジャイルズは「ナウ・アンド・ゼン」の初期ミックスを作っていた。それは2022年に僕の元にも送られてきていた。僕はとても気に入って、以来、純粋に楽しむために「ナウ・アンド・ゼン」を50回以上聴いていた。

それを今度は別の理由で聴き始めた。曲を聴き込めば、この短編映画のためのアイデアやインスピレーションが曲から得られるのではないかと思ったからだ。果たして、その通りになった。聴くほどに、意識しなくても、自然にアイデアやイメージが頭の中で形成されていく気がした。

僕は「ザ・ビートルズ:Get Back」の編集者であるジャベズ・オルセンと協力し、新しい映像素材を使用して、これらのぼんやりとしたアイデアをサポートする方法を考えることにした。これは非常に有機的なプロセスで、少しずつ小さな断片を組み立てて、物事がカチッと決まってくるまで、映像や音楽をさまざまな方法で動かしていった。

この短編映画では、人々の目に涙が浮かぶようなものに仕上げたかったが、アーカイヴ映像だけでそれを成し遂げるのは難しかった。でも、幸いなことに、この美しい曲のシンプルなパワーが、その仕事のかなりの部分を引き受けてくれたので、映画の最初の30秒から40秒は、比較的早めに完成した。

ここまで終わったところで、僕たちは一足飛びにエンディング部分に取り掛かり、彼らの最後のレコーディングの最後の数秒間で、ザ・ビートルズの“遺産”の大きさを十分に総括できるような何かを作り出そうとしていた。でもそれは不可能だった。彼らの世界への貢献はあまりにも膨大で、彼らの驚異的な音楽の才能は、もはや我々のDNAの一部となっていて、今となっては言葉では言い表せないからだ。

僕たちができないことをやり遂げるためには、視聴者それぞれの想像力が必要で、視聴者の皆がそれぞれに自分だけのザ・ビートルズとの別れの瞬間を創造する必要があることに気づいた。そして、僕たちが皆をそこへ、優しく誘導する必要があった。僕の中には漠然としたアイデアはあったけれど、実際にはどうすれば実現できるのかがわからなかった。

幸運なことに、ダニー・ハリスンがこの時期にたまたまニュージーランドに来ていた。そこで彼とエンディングの話をして、自分が考えていた漠然としたアイデアを彼に説明してみた。みるみるうちに彼の目に涙が溜まっていく。それで、その方向で行くことにした。

次にジャベズと僕は中間部分に取り掛かった。その時には最初の部分とエンディングが見られるようになっていたので、すぐに当初の計画通りに中間部も同じような感情を継続させていくのは間違っていると気づいた。ザ・ビートルズは、そういうバンドではなかったから。彼らは核心部分では不遜で滑稽なので、中間部はその精神を取り込むべきだと考えた。僕たちはザ・ビートルズを笑い、そして彼らと共に笑う必要があったんだ。彼らはいつも自分たちをちゃかしていて、他の人たちが彼らのことを真面目に受け取れば受け取るほど、より道化に徹していたんだ。

幸運なことに、僕たちはザ・ビートルズがリラックスして面白く、そして率直な感じで取り組んでいる未公開のアウトテイク集を見つけた。これを中間部の背骨にして、2023年撮影の映像にユーモアを織り込んだ。結果、かなり面白いものとなり、寂しさと笑いが絶妙なバランスで配合されたビデオに仕上がった。

ビデオは、W ē t ā FX社で、シンプルだがトリッキーなVFXショットをいくつか入れ込んで完成した。

正直言うと、僕たちとしては、ザ・ビートルズの最後に相応しいお別れを演出したつもりだけど、結果は、君たちが自分の目で見て確かめて欲しい。あと少しで公開されるから。

最後までやり遂げたことで、今、自分としては他の人の「ナウ・アンド・ゼン」のミュージック・ビデオを待つ身にならなくてすごく良かったと思っている。自分たちが制作した作品をとても誇りに思っているし、今後、何年間もずっと愛し続けると思う。必要なサポートをしてくれたアップル・コアとザ・ビートルズには大変感謝している。僕が逃げ出すことを許さなかったことにもね。

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