Rei
Reiny Friday-Rei&Friends-Vol.15
2023.10.27 東京キネマ倶楽部
『Reiny Friday -Rei & Friends- Vol.15』。そう、『Reiny Friday』も、もう15回目になる。2015年に始まり、不定期に(気まぐれにとも言う)開催してきた、ReiとReiのフレンドとの共演ライブ。フレンドが文字通り仲良しのお友達ミュージシャンのときもあるし、Reiが尊敬するベテランミュージシャンのときもあった。つまりある世代に限定しない大きな意味でのフレンドなのだけど、ひとつ言えるのは、必ずReiがリスペクトしているミュージシャンだということ。そこ大事。で、15回目となる今回のフレンドは、物語の設定や言葉選びに独特のセンスが光るシンガーソングライターの吉澤嘉代子。初めは少し意外なお相手のようにも思ったけれど、このライブの告知文のなかに「夜の長電話や、秘密のお泊まり会で交友を深めてきた二人」とあって、そうか、ふたりはプライベートでそうやっていろんなことを打ち明けたりしてきた仲なんだな、ならばそんなふたりの仲良し関係がそのまま音楽にあたたかく反映された場面も観ることができそうだなと、この夜が楽しみになったのだった。
会場は過去の『Reiny Friday -Rei & Friends-』でも度々使われてきた東京キネマ倶楽部。いつものようにブルーやオレンジやパープルのビニール傘が上から吊るされている。照明が落ちると雨音が聞こえ、下手側上方のサブステージに現れたReiが片手に傘、片手にギターケースを持って静かに階段を降りてきた。メインステージでケースからアコギを出してひと爪弾き。「こんばんは。Reiです」。そう挨拶して始めたのはこのシリーズライブのテーマ曲としてお馴染みの「Reiny Monday Blues」だ。ブルージーなその曲のあとはエレキギターに持ち替え、信頼するふたりのミュージシャンと共に一気にロック展開へ。自己紹介ソング「My Name is Rei」。ステージ上に熱が生まれ、それがそのまま客席に放たれる。さあ、ゴキゲンなロックショーの始まりだ! そんな感じ。
この日のリズム隊は、ベースが真船勝博、ドラムスが伊藤大地。EGO-WRAPPIN’やハナレグミなどいろんなところで組んできた黄金のバッテリーで、Reiもこれまでそれぞれと何度も演奏してきたが、トリオでやるのはそういえばこれが初めてだと言っていた。が、そこは信頼と実績の賜物。長くこのトリオでやってきたかのように息のあったグルーブがあり、Reiのギターの暴れっぷりもいつにも増して凄まじい。ストーンズみたいなギターリフもかっこいい「MOSHI MOSHI」、「キネマ倶楽部、アー・ユー・レディ?!」の煽り声に始まりRei流のラップも炸裂した「QUILT」、ビートルズの「Birthday」(「You say it’s your birthday」の《birthday》を《friday》に変えて歌っていたこと、みんな気づいたかな?)とノリのいいロックが続き、その曲の途中で吉澤嘉代子を呼び込んだ。因みにこの夜のReiはよく映える真っ赤な衣装も鮮やかだったが、手を小さく振ってにこやかにサブステージからの階段を降りてきた吉澤嘉代子も赤系統の衣装。ふたりの共演は吉澤にしてはロック成分ありの「未成年の主張」でスタートした。吉澤が前に出て跳ねたりもしながら歌い、その横でReiが弾く。ときおりReiも前に出て並ぶと、曲調のガールポップ感も手伝い、Reiの動きや表情もいつもよりガーリーに。そのあとのふたりの言葉のやりとりがまたさらにガール感出まくりで。例えばこんなふう。
吉澤嘉代子、Rei
「Reiちゃん、呼んでくれてありがとー!。今日はね、赤でね」(吉澤)
「お揃いにしました。私たちは長くお友達なんです」(Rei)
「私が泣きべそかいてReiちゃんに電話したら、スイカを持ってきてくれた。で、朝までね」(吉澤)
「嘉代子ちゃんのギブソン、かわいいね。私たち、好きなものも近いなって思うんです。お寿司も好きだよね」(Rei)
「うん。お寿司も好き」(吉澤)
そんなほんわかユルMCも挿みながら、そこからしばらくは楽しくもあたたかな共演時間。まず「アン、ドゥ、アンドゥトロワ」とフランス語カウントで始まった荒井由実のカバー「ルージュの伝言」は原曲よりテンポを落として演奏。歌い終えて「楽しい。友達とライブできるなんて」と吉澤がつぶやけば、Reiは「嘉代子ちゃんは歌で女の子の気持ちを代弁してくれて、なんでこんなにパーソナルな気持ちがわかるんだー?!って」。吉澤がReiについて「本当にこんな誠実な人はいないなっていつも思う。今回も犬のシールをたくさん貼ったたたき台を用意してくれて」と話すと、Reiはふにゃっと照れながらも「作家としての嘉代子ちゃんに影響を受けた曲があって。一緒にやりましょうか」と言い、「うん。私の大好きな曲を一緒に」と吉澤が応えて「Categorizing Me」を。そこではふたりがメインとコーラスを交替でとり、《わたしのことをちゃんと見つめてよbaby》のところでは“ちゃんと”見つめ合うふたりだった。“女の子”の“ホンネのカケラ”。吉澤がその表現に長けたシンガーソングライターであることはよく知られているが、「Categorizing Me」のリリックからもわかる通りReiにもそういう側面があって、その“女の子”成分が吉澤と歌ったり話したりすることでこぼれ出る。次の吉澤の妄想爆発昭和歌謡風味曲「地獄タクシー」が始まる前には、Reiがタクシーの運転手、吉澤が乗客に扮しての寸劇もあり、普段のReiのライブでは見られないコミカルな側面がそうして出ていたことにも得した気分になった人が少なくなかっただろう。
吉澤がステージを去り、ライブ後半戦はReiの新しいシングル「Sunflower」でスタート。「(山下)達郎さんとかナイアガラの大滝(詠一)さんとかを彷彿とさせるような、上質なポップソングを作ってみたいと思って書いた」と説明したその曲は、ナマで聴くと尚更メロディの良さが際立った。そこからの流れもスムーズに、続くはこれもポップであたたかな「Smile!」。観客一人ひとりの顔を見て、「笑っていてよ」の思いを歌でも笑顔でも表わすReiがいた。そしてそのあとは一転、記憶もぶっ飛ぶくらいの熱く激しいダンス/ロック曲を次々に。「ORIGINALS」「Lonely Dance Club」「JUMPIN’ JACK JIVE」「COCOA」「What Do You Want?」。伊藤のドラムソロ、真船のベースソロもここぞというところでバチバチ・ブリブリに入り、Reiはこれでも食らえとばかりにのけぞって激しいギターソロをお見舞い。よってステージもフロアも際限なくヒートアップ。その凄まじい爆発力に圧倒される形で本編が終了した。
アンコールでは再び吉澤嘉代子をステージに呼び、並んで椅子に腰かけると、「アルバムを出すそうですね?」と吉澤に話を振るRei。「Reiちゃんナタリー」なんて言いつつインタビュアーの役目を担いながら大事なフレンドをもてなし、その魅力をみんなに伝えようともするあたりがReiの優しさであり行き届いた心遣いだ。そしてReiのアコギでしっとりじっくりと持ち曲「東京絶景」を歌う吉澤。甘い喋り声と違って歌声の強さが際立った。最後は伊藤と真船も再び加わって「BLACK BANANA」でもうひと盛り上がり。リスペクトできる仲良し友達がこの世界にいるってことと一緒に演奏できるってこと。ステージ上のその喜びが会場全体に浸透した幸福な夜だった。
取材・文=内本順一 撮影=垂水佳菜