「本当に幸せです」SAKANAMON、結成15周年イヤーを締め括った特大のシンガロングーー“真向”ツアーファイナルレポート

アーティスト

SPICE

​​『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “真向”』

​​『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “真向”』 写真=オフィシャル提供(撮影:酒井ダイスケ)

​​『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “真向”』2023.11.11(SAT)東京・恵比寿LIQUIDROOM

昨年2022年11月、結成15周年を迎えたSAKANAMONは〈15th ANNIVERSARY〉と掲げ、そこからの1年間、これまで以上に精力的に活動を展開してきた。その嚆矢となったのが、ファンにも制作に関わってほしいとクラウンドファンディングを募って制作した7thアルバム『HAKKOH』、そして2023年2月のBillboard Live YOKOHAMA&OSAKAでストリングスと共演したライブだった。2022年11月11日の恵比寿LIQUIDROOM公演を皮切りに全国9か所を回った『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR "発光"』に取り組みながら、彼らが〈15th ANNIVERSARY〉にふさわしい数々の挑戦を続けてきたことは、ファンならご存じの通り。

「割と忙しくさせてもらった。真面目じゃない? すごくない? あまり褒められないからこういう時こそ褒めてほしい(笑)」とこの日、森野光晴(Ba)はこの1年の活動を振り返ったが、SAKANAMONが結成15周年記念イヤーに、どんなことに挑戦してきたのか、念のため、記しておこう。

5月12日に新江ノ島水族館で開催したアコースティックライブ『えのすいフライデーナイト♪vol.12 えのすい×SAKANAMON』、7月8日に渋谷Spotify O-Westに憧れのバンド、the band apartを招いた2マンライブ『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY 2MAN LIVE "憧憬"』。因みに3月3日、Zepp Hanedaで開催された所属レーベルのイベント『TALTOナイト2023』ではトリを務めている。

もちろん、彼らの挑戦はライブだけにとどまらず、この7月から「PLUS ONE(プラスワン)」をテーマに、それぞれにゲストを迎えた3部作の配信シングルもリリース……と結成15周年を経て、彼らが自分達の活動をさらに加速させていこうとしていることは誰の目にも明らかだった。

そんな〈15th ANNIVERSARY〉を締めくくるのが、9月2日から全国11か所を回った『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “真向”』なのだが、そのツアーもまた、ファンにリクエストを3曲募ったアンケートの結果を基にセットリストを作るという〈15th ANNIVERSARY〉にふさわしいスペシャルなものになった。

当然、ベスト選曲のライブになるに違いない。ツアーファイナルとなる11月11日(土)の恵比寿LIQUIDROOMはソールドアウトだ。スタンディングのフロアを埋めつくした観客の手拍子が迎える中、「SAKANAMONです。よろしくお願いします!」と藤森元生(Vo.Gt)が声を上げ、アップテンポのロックナンバー「クダラナインサイド」でスタートダッシュをキメると、バンドの演奏を受け止めようと観客全員が一斉に手を振り始める。演奏をぐいぐいと加速させる木村浩大(Dr)による前ノリのドラムプレイで繋げた2曲目の「幼気な少女」では早速、観客がシンガロングの声を上げる。

「上位20曲でセットリストを作って、1回リハーサルしたんだけど、体が砕け散りそうになった(笑)。少なくとも上位14曲は入っています。リクエストした曲が入っていないという人は特異なファンということで逆に自信を持ってほしいと思います」(森野)

「1票しか入らなかった曲もやりたかった」(木村)

「みなさんが選んだセットリストになります。デビューしてからの曲がまんべんなく入っていてうれしいです。今後、セットリストに入らないかもしれない、一生(ライブでは)聴けない曲もあるかもしれないので、今日、しっかり耳にこびつけていってください」(藤森)

そんなふうにセットリストに対するそれぞれの感慨も語りながら、この日、SAKANAMONが披露したのは前述したとおりファンのリクエストに基づいた新旧の21曲。

ファンキーな「ぱらぱらり」、同期でストリングスも鳴らしたワルツパートも含むスローナンバー「プロムナード」、打ち込みのダンサブルなサウンドをバンドで再現したようにも聴こえる「アリカナシカ(レ点mix)」、深遠な世界観をミッドテンポの演奏で表現した「邯鄲の夢」、<つまねぇよ つまんねぇよ>というコール&レスポンスを繰り広げ、観客と一つになったアンセムの「TSUMANNE」といった曲の数々を聴きながら、トリオならではのタイトで、常に前のめり気味のバンド・アンサンブルを基軸としながら、SAKANAMONが振り幅の広い曲作りに挑んできたことを、誰もが今一度実感したことだろう。

15曲を演奏したところで、それら振り幅の広い曲を作ってきた藤森は「いやいやいや、本当にいろいろな曲がありますね」と、まるで他人事のように感嘆の声を漏らしていたが、この日、それら“いろいろな曲”がシンガロングに表れたファンの愛着とともに改めて物語っていたのは、曲作りにおける挑戦を繰り返してきたSAKANAMONの歩みだ。

そして、自分達の歩みを振り返りながら、それが回顧だけにとどまらずに「本当に新旧の曲が含まれ、今の曲もちゃんと愛され、昔の曲も愛されてきたんだなと思いました。非常に光栄であり、すごく自信になります。いい曲を書き続けてきたんだなと誇りに思います。みなさんの人生のBGMのどこかに、この楽曲達が散りばめられていることが本当に幸せです」という藤森の発言に繋がったことが重要だ。なぜなら、それがこれからの活動の大きなモチベーションにさらに繋がったからだ。

「これからもそうしていかなきゃいけないと思います。使命であると同時に自分でもそうしたい。これからも曲を書き続けていきますが、その楽曲が20周年の時、同じようなイベントでちゃんとセットリストに組み込まれていないと恥ずかしい。今の自分に負けたことになります。ちゃんと今の楽曲に負けないぐらい、いいものを書き続けなきゃいけないし、昔の自分達に、かっこいい、こうなりたいと思ってほしい(笑)。そんな気持ちで音楽を続けていきます」(藤森)

ファンにとって、この言葉は何よりもうれしかったはず。うれしかったと言えば、「仙台からの帰りの車の中でナンバーガールを聴きながら、藤森君が俺達は解散しないようにしようって」と森野が語った今回のツアーの思い出話も胸に染みるものだった。

「解散したって、またやりたくなって、どうせ再結成するんだからって藤森君が言ったのがうれしかった。それくらいSAKANAMONの音楽を特別に思ってます。僕らは解散しないのでよろしくお願いします」

結成15周年という節目を迎えるタイミングでコロナ禍を乗り越えた3人の結束はより一層強いものになったようだ。それを証明するように「みなさんと一緒に音楽を楽しめていけたらと思っていますので、16周年以降も応援よろしくお願いします!」と藤森が声を上げ、なだれこんだラストスパートは、「PLAYER PRAYER」「ミュージックプランクトン」と怒涛の勢いで繋げ、タイトかつソリッドなバンド・アンサンブルをアピールしていく。

そして、前述した3部作シングル「PLUS ONE(プラスワン)」の第1弾であると同時にTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇中バンド、結束バンドに提供した曲のセルフカバーでもある「光の中へ」で本編を締めくくると、アンコールでは蒼山幸子(Vo.K)をゲストに迎え、「PLUS ONE(プラスワン)」の第3弾となる「猫の尻尾」を11月15日(水)のリリースに先駆け、初披露された。

隙間を生かしたアレンジと緊張感に満ちた演奏が印象的だったこのバラードを、藤森は「SAKANAMON初の失恋ソング」と説明したが、この日、結成16周年を迎え、さらにそういう挑戦ができることが頼もしかった。因みに蒼山は「SAKANAMONが本当に大好きで、今日、ステージの袖とか客席とかでライブを見ながら一緒に口ずさんでいました。みなさんと同じ気持ちです。すごくうれしいです」と語ったが、その言葉は今回の共演が真摯に音楽に取り組むSAKANAMONの姿勢が結んだ縁であることを物語っていたように思う。

そして、〈15th ANNIVERSARY〉の締めくくりが新たなスタートであることを印象付けるように来年3月6日にSAKANAMON初のEP「liverally.ep」をリリースして、それをひっさげたツアーを開催することを発表すると、「花色の美少女」からダンサブルな「TOWER」と繋げ、一際大きなシンガロングの声を上げる観客とともに一つになる。

「16周年も応援してくれる人!?」

満員の客席に呼びかけた藤森に応えるように、2時間におよぶ熱演の最後はさらに大きな観客のシンガロングが眩い光の中、響き渡ったのだった。

取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供(撮影:酒井ダイスケ

関連タグ

関連タグはありません