「やったことないことをやった方がいい」SPECIAL OTHERS、アルバム『Journey』の挑戦と9ヶ月連続配信の軌跡を語る

アーティスト

SPICE

SPECIAL OTHERS

SPECIAL OTHERS 撮影=ハヤシマコ

SPECIAL OTHERSが、9枚目となるアルバム『Journey』を10月25日(水)にリリースした。23年2月から毎月25日の“ニコニコの日”に9ヶ月連続でリリースした配信楽曲を含む、全10曲が収録された本作。毎月、新曲を制作し、さらには一発撮りのライブミュージックビデオと合わせてリリースする新しい取り組みについて、デビュー15周年を経た今だからこそ「やったことないことをやってみる」ことを大事にしたと語る。SPECIAL OTHERSらしさが凝縮された原点回帰のようで、新しい出発点となる節目ともいえる本作について、芹澤 "REMI" 優真(Key)と宮原 "TOYIN" 良太(Ds)に話を訊いた。よりセッションが映える楽曲がそろっているからこそ、現在敢行中のツアー、そして年末の「毎年恒例SPE納め2023」、さらには未だかつてない長尺ライブ(!?)など、ライブでも体感してみてほしい。

宮原 "TOYIN" 良太(Ds)

宮原 "TOYIN" 良太(Ds)

ーー今作の9か月連続リリースとアルバムの制作は、どういった流れで決まったのでしょうか?

宮原:どちらかといえば、9か月連続でリリースしようというアイディアが先だったと思います。連続で出すなら、せっかくだしアルバムにしようかといった流れで。

ーーメンバーはみんな満場一致で、連続リリースしてみようと?

宮原:やっぱりイケてないんじゃないかという意見もありましたね。ちゃんと絞ってリリースした方がいいんじゃないかと。そういう意見もスタッフとメンバーで揉んだ結果、やってみようと。

芹澤:9ヶ月連続で新曲を作ってリリースする、というのはやったことがないことだから、そもそもできるかできないかとかいうところも含めてみんなで考えました。だけど最終的には、このキャリアではやったことないことをやった方がいいんじゃないか、という思いが強く出てやってみようと。それに、SNSで俺らが活動してるかどうかわからないと言ってる人のことを見かけることもあったから、ずっと顔を出し続けることも大事なんじゃないかと潜在的に思っていたのでいいアイデアだなと。すごいいい曲だなと思って作ったのに、アルバムの8曲目ぐらいにはいっている曲だとミュージックビデオにもならないし、後半だからすげえ無視されることもあるので、そういう曲にもスポットが当たるのはいいことだなとも思いました。今ってどんな曲が当たるかわかんないし、誰がどういう形でキャッチしてくれるのかわからないから、コアファンには楽しんでもらえてるけど、世間的には注目されていない曲も注目してもらえるチャンスにもなったんじゃないかなと思います。

ーー曲のストックがあって、制作を始めたわけではなく毎月新曲を作ってリリースされたということですね。

宮原:そうですね。作って出して、作って出しての繰り返しですね。1か月に1曲作れば間に合うか、といった感じで順に進めました。

芹澤 "REMI" 優真(Key)

芹澤 "REMI" 優真(Key)

ーー毎月新曲をリリースするだけでも大変なところ、同時にライブミュージックビデオまでつくられてることにリスナーとしては嬉しい反面、びっくりして。

芹澤:ライブミュージックビデオは全部一発撮りで、音源とは違うから大変そうに思えるかもしれないんですけど、個人的には曲を体に馴染ませることができるからライブの練習になるなといったぐらいでした。そもそも俺たちあて振りは超似合わねえなと思っていて、歯に物が挟まったみたいな感じがして気持ち悪いんですよね。演奏してる時の顔にはなれない。だけど一発撮りだから、ライブと同じように演奏してる様をちゃんと見せることができてすごく良かったし、大変さよりもむしろしこりを解消できたり、ポジティブに楽しめたことの方が多かったです。むしろずっとやってきたことでもあるので、こっちの方が得意だったというか。

宮原:そう、あて振りや演じることがあんまり好きじゃないので……。海外のバンドのYouTubeを見ていてもみんなライブ映像だったりするんですよ。手とちゃんと絵があってるのが面白いんですけど、日本ではあて振りの方が多いですよね。そう考えると、自分たちらしく生身の演奏を見せられたら面白いかなって。あと、ミュージシャンはちゃんとお化粧して見せる、整えたい人が多いんです。だけど自分はリスナー目線で言えば、ミスっていてもいいから生演奏が見たいなと思ったので、自分たちが見たいものを自分たちで体現してみた感じですね。

芹澤:だからめっちゃ失敗してます(笑)。だけど失敗がカッコ悪いんだったら「もうシド・ヴィシャスいらないじゃん」という話になってくる。明らかに楽器が弾けてなくても、そこがカッコいいこともあるじゃないですか。つまり音楽として何がカッコいいのかと言われると、上手にできてるかどうかだけじゃないと思うんです。俺もライブテイクの方が好きな作品もいっぱいあるし、スネアの音がちゃんと鳴ってなかったり、サックスの一音が出てなかったり、そういう失敗こそ愛している作品もあります。思い出深いのは、eastern youthのとある曲で、最後の方のワッと盛り上がるところでスネアが1発鳴ってないんですけど、そこがめちゃくちゃ好きなんですよね。なんか愛おしくて、そこばっかり聴きたくなっちゃうんです。そういう風に失敗もポジティブに捉えてもらえたらいいし、多分きっと俺たちの音楽が好きな人はそういう風に聴いてくれるんじゃないかなと思っていて。そういった意味では、自分たちのパーソナリティーが音に出ているのが、今回のライブミュージックビデオなのかなと。

SPECIAL OTHERS – Fanfare(Official Video)

ーー「ライブミュージックビデオもひとつの音源」だとコメントされていましたが、まさにですね。さて、1曲目から順に聞かせてください。まずは祝祭感ある「Fanfare」。この曲から連続リリース&アルバムがスタートすることにワクワクしました。

宮原:「Fanfare」は、まさに1曲目ということを意識して作りました。コロナ渦を引きずっているような暗い雰囲気とは真逆の曲を作りたいなと。

芹澤:世の中にはたくさん嫌な思いをした人がいるけど、個人的にはコロナ渦に生まれたものが多かったのでそこまでネガティブを感じてなくて。 スタジオに籠ることができたからこそ、機材をめちゃくちゃ研究できたし、そのおかげで「Fanfare」ではスペインから輸入したヴィンテージの鍵盤を存分に使っていたり。そういうポジティブな力が音にも反映されていると思います。新しいことを実験できる時間がたくさん作れたからこそ、コロナ渦を経ての「Fanfare」にはポジティブな力が働いた明るい音になっています。

ーー順に制作されたということは、2曲目の「Early Morning」からは前の曲を受けて制作されていくことになりますよね? できた曲を並べて曲順を決めるアルバムとは、また作り方や感覚が違ったのかなと。

宮原:そうですね。ちなみに「Journey」というタイトルだけ最初の方に浮かんだんですけど、これだけ8割ぐらい作っておいて、タイトルになると思ったので後で録りました。それ以外は順番通りですね。「Early Morning」は、1曲目がストレートな分かりやすい曲だったので、次はちょっぴりわかりづらい曲をやろうかなというところから作り始めました。なので拍子が変になっていたり。個人的には、西アフリカのリオーネル・ルエケというギタリストをイメージしてアフリカンギターからヒントを得て作りました。できあがると、そんなにリオーネル・ルエケ感は出なかったんですけど、ま、それはそれでオッケーかな、みたいな。

ーーそういったイメージは、メンバー間でも共有しながら制作を?

宮原:いえ、ぜんぜん。

芹澤:音を聴いて、それぞれが世界観を持って作っていく感じでした。リオーネル・ルエケの話を聞いたわけじゃなく、俺は自分で解釈してローファイヒップホップのドリーミーな、少し音程の歪んだ雰囲気を出したいなと思ってエフェクターを買ったり。

宮原:ドロップボックスに自分が作った曲を入れて、それをメンバーに聴いてもらって作っていく感じですね。みんな、特に良いも悪いも言わないんで「合ってるのかな?」とたまに思いながら進めてると、気持ちよさそうに演奏しているから大丈夫かと、安心してまた進めていくような(笑)。

ーーその時点でファイル名、タイトルはついているのですか?

宮原:もうタイトルもつけていますね。

ーーではそのタイトルからもイメージを感じ取りながら。

芹澤:そうですね。以前はセッションで作ったり、いろんな人に持ち寄ってみたりしていたんですけど、今回は良太が主導して作った曲が並んでいて、 聴いてみて自分なりの解釈をするという方法でした。その面白みの1つが、良太が思ってもいなかった形だったり、「こういう風になるんだ!」という要素があった方がいいなと。それはメンバーみんなに対しても同じで。例えば、ギターに対してのアプローチもそうだし、「ベースはこうなってるんだ!」とか「エフェクターで変なことしてるな」とか。 俺も変なことするのが好きだから、変なことをいかにできるかを楽しみながらね。曲に添えるだけじゃなく、自分のパーソナリティを投影するからこそバンドの意味があるし、ソロアーティストじゃない意味ってそこだと思うし。まずバンドメンバーをリスナーとして喜ばせる、ということを意識して作っていきました。

ーーなるほど。ワルツの3曲目「Apple」については?

宮原:この曲はあまり前の曲を気にしていなくて、時間も余裕もなかったので閃いたまま作りました。「Fanfare」も「Early Morning」もよかったから、その流れで浮かんできてるし大丈夫だろうと。

芹澤:「Apple」はオーセンティックというか、トラディショナルな雰囲気のある60年代や70年代の雰囲気がするところに、昔のヒップホップのJ・ディラとかを参考にしつつ、オーセンティックじゃないリズムを取り入れながらエレピの音を入れてみようかな……と漠然と思いながら作りました。

ーーそこから「Bluelight」に繋がっていくのも面白くて。

宮原:そろそろちょっと早い曲がないと嫌だなというタイミングだったんですよね。聴いてる人もそうだと思ったので、焦ってちょっと早めの曲を作った感じです(笑)。なので今回は、本当にコース料理みたいな感じなんですよ。アワビの前菜が出たから、次は貝類じゃないお肉、みたいな感じで作っていて。

ーーSPECIAL OTHERSが初回から出演している、今年の大阪の野外フェス『たとえばボクが踊ったら、』でも「Bluelight」が披露されていましたよね。ライブではたっぷりセッションが入っていて、聴きごたえが全然違って最高でした。

宮原:いま曲中でジャムセッションを入れるのがブームなんです。LUNA SEAのSUGIZOさんがジャムイベントを開いていて、 そこで俺たちもジャムをめちゃめちゃ入れてライブをやったのが楽しくて楽しくて……。これは普段のライブから入れていこう!というのが我々の今のブームです。だから『ボク踊』の時も曲中にかなりフリーなセッションが入れてみて、芹澤も柳下もベースを弾いたりしてるんです。ベースラインも全然変わっていて、かなりフリーな感じでしたよね。

芹澤:ライブでやるときは、その場で失敗するのか成功するのかわからないチャレンジをしたいんです。自分の中の105%ぐらいのできるかできないかわかんないことを、そこに落とし込んでいく楽しさってヒリヒリするじゃないですか? 俺、すっごいギャンブル好きで。昔、お金がない頃もあと1000円しかないのに1000円をギャンブルに入れるのが好きだったんです(笑)。そういう気持ちで「俺、弾けるかな、このベースライン?」と思いながらチャレンジしていくのが楽しくて。そのベースラインにギターがどういうついてくるのかとか、そのヒリヒリ感を味わえるのはライブならではですよね。音源だとやっぱりカチっと決め込んだことをやるから。だけど最近までは、ライブではジャムセッションを短くして、ちょっと発表会的なぐらいだったというか。自分たちの本質をちょっと見失ってたのか、ちょっと飽きちゃってたところもあったのかもしれないです。「お客さんもそんなに長くて、だらだらしたのは楽しくないだろう」みたいな思い込みというか。それでライブでは短くしていたんですけど、逆に音源が短くて、ライブが進化バージョンになっている方が自分たちらしいと思えるようになって、なによりライブ中の方がみんな集中力も持って聴いてくれるんです。お酒を飲みながらも聴けるし、踊りながらも聴けますしね。そういう意味では、俺らは今こそライブが1番楽しくなってんじゃないかな。

ーー以前に、芹澤さんがラジオで現代のファストカルチャーについて触れながら、短くてわかりやすいものが好まれるシーンと逆行して、インストで長い曲をやることの意義について話されていたのとリンクしました。

芹澤:ファストなことも、きっとみんな飽きていくと思うんですよね。短いものの中には一瞬で分かるものをドンと入れるしかないから縦軸がなくて、深みがなくなるのは必然だと思うんです。だから今もうすでにちょっと飽和してるんじゃないかな。そうするとこれからは、しっかりと縦軸があって深掘りしていく楽しさが新たなブームになるのかもしれないですよね。長いものがいいところは自分のペースで聴きたい時に聴けるし、別に聴きたくない時はぼんやりしてればいいし、自分の時間軸を保てるところがいいと思っています。そうやって次に長いものが好かれる時代が来た時にはこっちのもんですよ。

ーーぼんやりと聴いていたくなる、でいうと5曲目「Bed of the Moon」はまさにお酒を飲みながらしっとり聴いていたいような楽曲で。MVは原宿の老舗中華料理店・紫金飯店で撮影されていますね。これは曲から着想をえて、撮影地を選ばれたとか?

宮原:全然そんなイメージはなくて、絵替わりしないから場所に困ってたんですよ。そしたらディレクターが「いつも出前をとってる中華店で撮れそうですよ!」というので、直接交渉でそうしようと。

芹澤:おもしろいですよね、中華店で。あれで味をしめたんで、もしうちの店でやってもいいぜって人がいたら連絡ください(笑)。

SPECIAL OTHERS – Falcon(Official Video)

ーー続く「Falcon」も紫金飯店で撮影されていますが、よりセッション感が楽しいSPECIAL OTHERSらしい楽曲に。

芹澤:「Falcon」こそ俺らの真骨頂ですよね。ちょっとアフロビートぽかったり、得意分野ではあるんですけど、こういう曲はこれまであんまり人気が出なくて。燻銀みたいな、地味な曲だったんです。だけどこうやってミュージックビデオになったことでやっと日の目を浴びてくれるんじゃないかと。おかげでこうしてインタビューでも聞いていただけたり、いわゆるそのジャムセッションの醍醐味が詰め込まれてますよね。自分もポップに聴かせようとか下心なく、そこで自分が一番鳴らしたい音、実験したいことを自由に試せる曲だったので、個人的にはめちゃくちゃ聴いてほしい曲ですね。

ーーよりプリミティブな感じというか。

芹澤:そうですね。本当に自分からその瞬間に生まれたものが入っているというか。ファーストインプレッションで、弾いた最初のフレーズが生かされていたり。

ーー「Feel So Good」は、プライベート・スタジオのSPE STUDIO JAPANで収録されてます。ここでスタジオも初披露になったとか。

宮原:大々的にはこの時が初めてでしたね。

SPECIAL OTHERS – Feel So Good(Official Video)

ーーこの曲は、エンジニアを起用せずに宮原さんがレコーディングを。

宮原:いつも録ってくれているエンジニアが、俺が普段から録ってるリハの音源を聴いてて「もう良太が録ったらええやん!」と言われて。あ、関西人なんで「録ったらええやん!」と言われたんですけどね。それで録ってみたらめちゃめちゃいい音で、みんな超やりやすいと言ってくれて。もう楽しすぎて楽しすぎて、いま1番楽しいことがレコーディングです。今回の作品もレコーディングを自分でしたくて、始まったようなところもあり。だけどレコーディングをするには曲が必要で、それもいい曲で録らないとつまんないんです。なのでずっと「レコーディングがしたい! いい曲を作ろう!」というのがモチベーションでした、そういえば。やっぱり新しい機材を買っても、その音が聞きたくてしょうがないから「曲を作ろう!」となるんですよね。今回も毎晩スタジオに行ってはドラムを1人で録ったりしてました。これから俺が録る曲も増えるかもしれませんね。だってこんなに楽しいことないんじゃないですか、人生の中で。スノボよりちょっと楽しいかもしれない。人間の趣味の中でもかなり上のほうですよ。

芹澤:俺はスノボの方がちょっとだけ楽しいかな。

宮原:あはは。すみません、適当なことを言いました。

芹澤:俺もマイクプリアンプをいいやつ買ったりしましたね。リハやってる時って自分の音が良くないとフレーズも浮かんでこないんですよ。だけど新しいエフェクターとか新しい機材を1個買うだけで、新しいフレーズとか新しい曲ができたり、音に触発されることってめちゃくちゃあるから超大事なんです。そういう意味では、機材を揃えていくことこそクリエイティブな作業だから本当に面白くって。機材を揃えることこそもう人生だ、みたいな。普段からずっと機材を探してYouTubeを見ていて。鍵盤の割にはすごくエフェクターをいっぱい使うタイプということもあって、休みの日は朝から晩までずっと機材をYouTubeで見て、好きな機材を買ってというのが楽くてしょうがないんです。それを持ってスタジオに入るのがまた楽しくて楽しくて。音を鳴らしてみたら、こんなにいい音が出てたんだ、みたいな満足感を得たり。これはもう、スノボよりちょっと楽しいかもしれないですね。

宮原:まさかのスノボに帰ってきた(笑)。

ーーあはは。お披露目されたスタジオの詳細やライブミュージックビデオを見て、お二人のように機材をチェックする人もきっとたくさんいますよね。

芹澤:あんなスタジオ、恥ずかしいとすら思ってたぐらいなんですけどね。そしたら周りがカッコいいと言ってくれて。だからこのビデオでは、自分たちが恥ずかしいと思っていたスタジオを、いかにカッコいい機材を画角の中に無理やり入れ込んで、自分たちをちょっと大きく見せたかというところに注目してほしいですね(笑)。 わざと80年代のレアなヴィンテージの機材を、ツラを前にして1番見えるところに無造作に置いてみたりしてますから。

宮原:俺はドラムですけど、柳下の良い機材は面出ししときました(笑)。「こっちの方がいいよ!」つって。

芹澤:機材好きな人が見たら「あの機材持ってんだ、すげえ!」みたいな憧れの機材も結構あると思います。憧れてもらうために買ったみたいなとこもあるんで(笑)。注目してみてほしいですね。

ーーさて、8曲目「Point Nemo」ですが、こちらは先にイメージがあって残しておいた「Journey」を受けての楽曲に?

宮原:いえ、これもそういうわけではなく。

ーーそうでしたか! 「Point Nemo」が「到達不能極」で辿り着けないところ、という意味でもあることから、てっきり先にできていた「旅」へと繋げる楽曲になったのかなと。

宮原:それもぜんぜん考えてなくて、「Journey」と繋がってることに今言われて気づきました……。

ーー「Fanfare」から華々しく旅に出て、気づけばすごく遠くまで、行けないようなところにまで行けた……というようなテーマがあったのかなと。勝手に。

芹澤:そのイメージです!

宮原:めっちゃいいですね。それでした! 本当は偶然、YouTubeで「ポイントネモ」という場所が世界にはあるという動画を見ていて、今作ってる曲にぴったりだなと思ってタイトルにしました。

ーーでは、なんとなく「Journey」を控えていることもあり、無意識的にリンクしたところがあるのですね。

宮原:そうかもしれません。たまたまうまくいくことがすごい多いんですよ。こないだも、きゃりーぱみゅぱみゅの歌を歌いながら会議室に入ったら、たまたまそこにいた人たちがきゃりーぱみゅぱみゅの話題をしてたとか、不思議なことが起きるんです。

芹澤:それはうまくいったことなのか?

宮原:なんか勝手に思いつきがリンクするんですよね。ほかにも口が気持ちいいからポムポムプリンと言いまくってたら、YouTubeからポムポムプリンの宣伝が出てきたんですよ!

ーーそれはなんだかちょっと怖いですね(笑)。

宮原:スマホが声を拾って広告を出してきている都市伝説みたいな(笑)。

芹澤:偶然って実は必然だったりする気もしていて、意外と自分の勝手な都合でもあると思うんですよね。すごい偶然だと思うものの中には、実は自分がキャッチしてるもので、そうではない99%を意識してなかっただけだったり、すごく意識できるようなものを必然としていたり。だから「Journey」というタイトルがなければたどり着かなかったこともあるし、「Point Nemo」という言葉を知らなかったらたどり着かなかったところもあるはずで。いずれにしても材料がすごく良ければ、偶然は必然として人の心に残る気がします。人の心に残るものは、そういうものなんじゃないかな。

ーー音楽を聴いていても自分の今の気持ちにぴったりだったりとか、自分のことを歌っているように感じるのもちょっとそれに近いですよね。

芹澤:そうかもしれないですね。自分の人生の中心は、自分ですから。「優れた芸術は、全ての人に共感させる」といった名言があるんですけど、そういうことだと思うんです。すごく限定したものだとその人の人生には当てはまらないし、抽象的すぎてもその人の人生かどうか掴みきれないじゃないですか。その絶妙な幅が人の心に届くものなんだとしたら、俺らのインストゥルメンタルである理由とか歌詞があまり聞こえてこない曲であることは、そういう振り幅の余地を作っていたりするんだと思います。その上で、こうして耳に残るタイトルがついてることで、その幅がぎゅっと狭まったりとかね。そうして偶然と必然が決まっているとすると、ドラマチックなんじゃないですか。

ーーシンプルなタイトルだけど、引っかかりがあるのもそうですよね。

芹澤:それを偶然と呼ぶなら偶然だし、必然と呼ぶなら必然ですよね。

SPECIAL OTHERS – Journey(Official Video)

ーー「Journey」がタイトルになると芹澤さんもご存知でしたか?

芹澤:聞いてはなかったですけど、俺もタイトルトラックにしたいなと思っていました。作っていく過程で、この曲は昔からSPECIAL OTHERSの音楽を聴いてくれてる人たちにも、SPECIAL OTHERSらしいと思ってくれるだろうなと感じていたので。最近はちょっとロックになっていたり、その時々に系統してるものが色濃く出たアルバムが多かったと思うんです。そういった流れがあったからこそ、みんなが求めている時代のSPECIAL OTHERSらしいものができたらいいなという気持ちがずっとあったので、この曲にそれを感じて。だからこそ、この曲をリードリードトラックしていきたいなとみんなで話さずとも思っていたと思います。デビューから15年でいろんな色が出て、その経験を経た上でマージして、アップデート版のSPECIAL OTHERSらしいものが出せたような。それにこのアップデートしたところを、世界の人たちに聴いてもらえたなら「これが日本の音楽だぞ!」と言って、自信を持って広げられたらという思いを持って作れたと思います。

ーー原点回帰であり、世界へと発信する新しい旅の始まりのような楽曲に。そして、ラストは「Thank You」へ。

宮原:最後の曲にふさわしいようなイメージで作りましたね。しんみりとしたエンディングにはしたくなかったので、次回予告が流れそうなイメージの曲にしました。

ーーエンドロールが終わったあともまだまだ続いていくような。アルバムとしては一区切りではあるんですけど、ワクワクした気持ちの余韻でもう1回アルバムを聴いたり、ライブが楽しみになるという。

宮原:そういう風につくったので嬉しいですね。

芹澤:俺も友達と遊んで帰る時に、「もうバイバイだね。寂しいね」とかいうのあんまり好きじゃなくて。「じゃ、またね!」と言って、明るく去っていくのが好きなので、そういう曲になりましたね。

ーー9ヶ月というほとんど1年を通してリリースされているからこそ、その季節ごとの空気も閉じ込められているし、リリースされた月毎の記憶と共に曲が印象づくところも面白かったので、またぜひやってほしいですね。

宮原:1曲を1か月ごとに聴いてくれるので、思い出にも残りやすいですよね。早くも大成功した気持ちがしています。評判もいいので、ニコニコの日、味をしめました。

ーーまたやってみたいですか?

芹澤:やってみたいどころか、もうやるだろうぐらいの気持ちですね。なので、みなさんも期待して待っていていただいていいかなと。

ーーツアーも始まり、12月16日(土)には横浜Bay Hallで「毎年恒例SPE納め2023」の開催も。

宮原:ライブならではの音を楽しんでもらえたらと思います!

ーー芹澤さんがどう攻めた演奏をするのか。

芹澤:大失敗してるか、大成功してるところが見れるかもしれない。

宮原:メンバーとしてはあまりにもめちゃめちゃだと、どうやって着地するんだろうかと心配になることもありますけど、お客さんは見ていると楽しいと思います(笑)。

芹澤:意外と俺よりもギターのヤギがやばくなりがちです。1番なんかギャンブラーですからね。

ーーなによりアルバムの楽曲が、たっぷりとロングセットで見られるのが楽しみです。

芹澤:長く聴きたいと思ってくれる人がたくさんいるので、いつかいまだかつてないぐらい長尺のワンマンをやってみようと考えています。特に大阪は新しいことを受け入れてくれる人が多い街というイメージもあるので、いつかやってみたいと思っているので楽しみにしていただけたら。

取材・文=大西健斗 撮影=ハヤシマコ

関連タグ

関連タグはありません