ハク。『Walk Walk Run! -ONEMANLIVE-』2023.11.15(WED)大阪・心斎橋 Live House Pangea
ハク。が11月15日(水)に大阪・心斎橋 Live House Pangeaで『Walk Walk Run! -ONEMANLIVE-』を開催した。ハク。の日こと8月9日にリリースした1stフルアルバム『僕らじゃなきゃダメになって』を引っ提げ、満を持しての地元大阪ワンマンライブはチケットソールドアウト。観客の期待が高まる中、あい(Gt.Vo)、カノ(Ba.Cho)、なずな(Gt)が、まゆ(Dr)のドラムを囲むように集まり、手を合わせる。今年21歳になる女子たち4人とは思えないライブでの落ち着きが、個人的には大好きで、それは1曲目「直感way」でのビートと声からも伝わってくる。微熱だが、徐々に熱を帯びるあいの歌声。続く「君は日向」のギターとドラムの始まりからも躍動を感じられた。観客だけでなくライブハウスの店員も自然に揺れている。理想的な光景。
去年1月にリリースされた1stミニアルバム『若者日記』に収録された「ふたり基地」。ひやっとした感触でゾクっとしてしまうハク。の真骨頂が顕著に表れている。「無題」では、その上に壮大さを感じるのだが、4人だけで、こんなに豊かな音を織り成すことができるなんて、毎回感心してしまうし、今年に入ってから、よりライブが盤石の体制になっている。2021年3月、彼女たちが高校を卒業する直前に初めて楽曲を聴いた時に、18歳でこのクオリティーを表現ができるなんて間違いなく本物だと思った。
<この世は嘘だらけ そんな風に見えてしまった 17にもなって またくる朝を憂鬱で描いた>
<17にもなって>という歌詞が落ち着いたサウンドと共に聴こえてくる「本物」の歌い出しを聴く度に、本物だと思わざるをえない……。カノとなずながまゆの方を少し向きながら演奏する姿は、あいを3人が支えている感じがしてぐっときてしまう。
どう考えても威風堂々としか我々には映らないのに、あいは緊張していると言う。これだけのライブをしているのだから緊張する必要なんて無いのに、と聴く側は呑気に思ってしまうが、これだけの演奏をしているからこそ極度の緊張があるのかもしれない。そんなことを勝手に考えていたら、あいは「緊張しますよ、そりゃ!」と言いながら自分の頬に軽くビンタしている。唐突に何をしてるねんと思うも、緊張を乗り越えようと姿はリアルであり、どこか微笑ましかった。
<優しさを持って生まれた私は 優しさを持ってどう生きるの>
「カランコエ」が歌われた瞬間、また一気に空気が変わる。先程までおどおどして緊張しながら自分にビンタを入れていた人物と同じとは思えない堂々っぷり。演奏中、一瞬、照明の光で4人が神々しく見えた。単なる照明の具合ではあるのだが、この光のシーンは、とても印象に残っている。
中盤を越えたあたりでの「なつ」は、今までと毛色が違うリズムで刺激あるスパイス的な役割を果たす。音源で聴いた時に感じた格好良さとはまた違うライブならではの生々しさがあり、90年代UKロック的なダイナミズムを感じた。しかし、ここでハプニングが起きる。ほんの瞬刻だが、あいが歌詞を飛ばす。が、何事も無かったかのようにラララというハミングで乗り切る。当の本人は焦ったに違いないが、この動じないショーマストゴーオン精神は、彼女の成長とタフさを感じることができた。
1stフルアルバムで2曲目に置かれて、重要な役を担った「自由のショート」。この曲に関しては何も言うことがない。ライブに来ていた人は思い出して欲しいし、ライブに来ていない人も何かしら聴いて、近々必ずライブで生で聴いて欲しい。いい曲過ぎて、それをライブで素晴らしく表現し過ぎていて、感激して泣いてしまった。完璧だった。
終盤に入り、「ナイーブ女の子」では疾走感を感じまくる。カノとなずながステージ前方にぐいっと踊り出て音を鳴らす。それぞれがそれぞれの音を鳴らして一体感を作り上げていく様に、強烈なバンド感を感じた。メンバーのコーラスの美しさも感じられた。今年に入って、よりライブが良くなっている事を先述したが、結局それは4人の結束力なのだと思う。これだけ良いものを魅せてもらえると、こちらも当たり前だが、のんべんだらりとでは無く、良い意味で真剣に緊張感を持ちながら魅入る。この良い緊張感を与えてくれる若いバンドは中々いないし、それはハク。も緊張感を持って真剣に音を鳴らしているからだとも思う。
「日常を生きていると負けてしまうこともあるけど、私は絶対に音楽を続けたい。絶対に諦めたくない。諦めたくないから音楽をしています」
あいは、こう言った。本人は校長先生の挨拶みたいだと照れていたが、とにかく彼女の、ハク。の、強い意志を受け取ることができた。
「勝ちたい」
この言葉には目頭が熱くなるしかなかったし、我々は聴いて応援することしかできないが、勝たせてあげたい……、そして勝つ姿を見届けたいと強く強く思った。
小さい頃にいじめられた経験も明かしていたが、直後にはギタートラブルも起きて、先程の歌詞飛ばし同様、飄々と淡々と乗り切る。小さな頃から彼女はハプニングやトラブルやアクシデントに屈することなく、自然に立ち向かい、自然に乗り越えてきたのだなと、彼女の芯の強さを垣間見ることもできた。そういう経験が積み重なってきているからこそ、私が2年前の3月にハク。を初めて聴いた時の曲である「アップルパイ」も当時とは別の曲みたいな力強さが歌に込められていた。
1stフルアルバムのオープニングナンバー「回転してから考える」。アルバムを聴いた時、今までのハク。には無かった衝動的な突破力がぶちかまされていて、ガッツポーズしたのを未だに覚えている。この日も鳴らされた途端、「きたー!!!!」と心の中で叫ぶ。鉄壁のグルーヴと書くが、そんなもの簡単に手に入れられるものではない。でも、ハク。は手に入れれている。
<回転してんだベイべ>
あいが歌うと言葉と音の強度でぶっ飛ばされてしまう。4人は一心不乱に楽しそうに音を鳴らしている。今のハク。は最強だ。
「ハク。にとって一番大切な曲を、みんなにとって大切になって欲しい曲をやって帰ります」
ラストナンバー「僕らじゃなきゃだめになって」。<愛しい>というラストフレーズが何度も何度もリフレインして終わっていく。やはりハク。は美しい。
アンコールでは、初となる東京でのワンマン・ライブ『ONE』を来年3月30日に下北沢 Flowers LOFTで開催することが発表された。これだけ良い楽曲を世に送り出して、これだけ良いライブをしているのだから、2024年はハク。の年になるべきだし、この東京初ワンマンを皮切りに、より全国にハク。の存在がばれていくのは決定的であろう。そして「アップルパイ」と同じく初期の楽曲「BLUE GIRL」へ。2年前の3月に初めて聴いた時とは、これまた違う跳ねるビートで改めて強さを感じる。このノリの良さには、今の時代に流行る旬の音楽との類似性を何故か感じた。すなわちハク。の音楽が時代の音楽になる日が近いということなのだろう。
「自分を愛していこうね。ありがとう。ハク。でした」
アンコール2曲目〆の「ワタシ」。最後の最後まで会場にいる全ての人々は揺れているし、最後の最後になればなるほど、どんどん強度を増している。何よりも、あいを支えるカノ・なずな・まゆの屋台骨が本当にしっかりしているのだ。最高だった……それしか感想はない。これは皆、同じ感想のはずだ。しつこいようだけど、最後に言わせて欲しい。ハク。の音楽は絶品。
取材・文=鈴木淳史 写真=オフィシャル提供