フレデリック、充実の2023年を締め括るツアーがスタート「自信を持って言います。これからもついてきてください」
フレデリックの全国ワンマンツアー「FREDERHYTHM TOUR 2023-2024 “WELL 噛 ONE”」が、11月25日・26日の神奈川・KT Zepp Yokohama公演よりスタートした。
全国からのオファーに応え、様々なフェス・イベントに出演した春~夏を経て、8ヶ月ぶりのワンマンツアーが実現。ツアー2日目のKT Zepp Yokohama26日公演には、フレデリックのライブを待ち望んでいたファンが駆けつけ、バンドを熱烈に歓迎した。観客の歓声はメンバーが思わず笑ってしまうほど大きく、バンドが最高の演奏をすれば、みんなもっと興奮を抑えられなくなる。「1日目を超えていきましょう、みたいなのはもういいでしょう。今までで一番楽しかったライブを今日にしませんか!?」と三原健司(Vo/Gt)。それに応える観客の声は地鳴りのようだった。
今回のツアーは、声帯ポリープ切除手術および療養のため、歌唱および一部の発声を伴う活動を約1ヶ月休止していた健司が復帰してから初の全国ツアー。ポリープがあることを公表せず活動していた約5年間も健司の歌唱は素晴らしかったし、本人も手術前に「安心して待っていてもらえると嬉しい」というコメントを出していたものの、それでもやはり心配だったファンもいたことだろう。そんななか、健司はライブ序盤でのびやかなロングトーンを披露。その歌声でファンの不安を完璧に払拭し、心から楽しめるライブを状態を一瞬で作り出した。のちに本人も「びっくりするくらい絶好調。もっと出るやんって感じ」と語っていたが、もはや途中から、復帰後初のツアーであることをすっかり忘れていた観客がほとんどだったろう。
そして三原康司(Ba)、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)も絶好調。きらめきながら疾走しつつも、全員揃ってのキメやユニゾンのフレーズの精度は凄まじく高い。音圧で空間を掌握する場面もあれば、全神経を注いだ一音で聴き手の心を掴む瞬間もあり、つまり、抜群の演奏だった。ゆえにフロアは盛り上がり、暗転の度に拍手喝采が湧く。康司の「全員でめっちゃ楽しい祭りしてる感じがする。俺が夢に見た日曜日かも」という表現がしっくりくるような、泥臭くも爽快な熱狂が生まれていく。
「噛めば噛むほど味がする音楽を、あなたに」がテーマのセットリストは、11月8日に配信リリースした「ペパーミントガム」をはじめとした最近の曲や、インディーズ時代から大切に鳴らし続けている曲、さらに「オドループ」「ジャンキー」などのライブ定番曲を網羅したもの。「普段聴いているあの曲もいつもと違う感じで楽しんでいただけるんじゃないかと思いますし、素材の味を活かした曲もありますし」と健司が言っていたように、バンドのアプローチは曲ごとに違ったが、総じて、根幹にあったのはフレデリックの“演出力”の高さだったように思う。
演出といっても、照明や舞台セットに限った話ではない。「この曲をどう見せようか」「この曲のポテンシャルをどう引き出そうか」というメンバーの思考が反映されているという意味では、アレンジの方向性、使用楽器や機材の選択、音響、アーティキュレーション、束の間の無音……そういったものの一つひとつを演出と呼べるだろう。その上で、各曲に対するアプローチはもとより、ライブのオープニング&エンディング、曲間の繋ぎ方、1本のライブを通じての起承転結の紡ぎ方など、どれもが“新しくも潜在的”であるということが今ツアー最大のポイントだろう。そんなバンドの演奏から感じられたのは、これまでの歩みが自身にもたらした財産の豊かさに目を向けつつ、“今、ここ”に辿り着いた自分が選ぶ未来に可能性を見出そうという眼差し。これまでを大事に思うからこそ、新しいトライに踏み出すということ。新曲の「ペパーミントガム」もまさに“新しくも潜在的”な曲だったと、重層的なサウンドに身を浸しながら思った。
4人の鳴らす音楽に、「これをZeppでやるなんて非常に贅沢だ」と思わざるを得ない照明演出ほか、チームスタッフの職人仕事が掛け合わさり、総合芸術としてのライブが形作られる。もちろん、現場一発勝負だからこその偶発的要素もスパイスとなるが、全部ひっくるめて、ツアー序盤とは思えないほどクオリティの高いライブだった。ライブのクライマックスには、ボートレース 2023年CMシリーズ「アイ アム ア ボートレーサー」の主題歌として年間を通じてオンエアされた「スパークルダンサー」が演奏された。ボートレースとのタイアップ、敬愛するフジファブリックとのコラボ、「THE FIRST TAKE」出演……と、“他”と交わり“個”を究めたフレデリックの2023年は、振り返れば「スパークルダンサー」とともに始まった。1年の集大成として披露された同曲は、キメるところはばっちりキメつつも、どこか軽やかな佇まい。いい具合にリラックスし、飾らない笑顔で「楽しすぎる」と言い合えている状態こそが、充実の1年を経た彼らの現在地だ。
ライブ終盤のMCでは、健司が今年の活動を振り返り、「自分たちが“これを残したい”と思うことをやった結果、今日あなたに会えたのかなと思ってます。今日あなたがいることが俺らの正解だと思います」と目の前の観客に伝えた。また、メジャーデビューから9年が経ち、初期ブーストのかかった時期は過ぎたからこそ、「ここからがミュージシャンとしての勝負なのかなと思ってます」とも。「自信を持って言います。これからも、俺たちについてきてください」という頼もしい言葉に拍手が湧く。信頼しているし期待しかないと、今日のライブを観た人は思ったはずだ。このライブが今後全国で行われるのだと思うと、ワクワクしてしょうがない。
「FREDERHYTHM TOUR 2023-2024 “WELL 噛 ONE”」は次回12月3日Zepp Fukuoka公演を控え、年内は仙台と大阪。年明けて2024年は名古屋、1月21日のZepp Sapporo公演でファイナルを迎える。
文:蜂須賀ちなみ
撮影:森 好弘 / 西槇太一
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