DEZERT×MUCC
11月24日(金)に新宿BLAZEで開催されたDEZERTとMUCCのツーマンライブ『DEZERT PARTY vol.14 -EXTRA Edition- DEZERT vs MUCC ~LAST SHINJUKU BLAZE~』のオフィシャルレポートが到着した。
通称・デザムック。DEZERTの千秋がMUCCの逹瑯に「一緒にツアーをやりませんか」と持ちかけて実現した、完全アーティスト主導型のツーマンツアー『MUCC/DEZERT[Is This The “FACT”?]TOUR 2019』から約5年の時を経て、このたびデザムックは『DEZERT PARTY vol.14 -EXTRA Edition- DEZERT vs MUCC ~LAST SHINJUKU BLAZE~』として、あらたなかたちでの開催へと至った。
ちなみに、両バンドの縁は2015年に新木場COASTで開催された『DANGER CRUE PRESENTS[COMMUNE Vol.1 』から始まっており、その際にはMUCCのミヤが“尖ったバンドだけを集めたガチンコ勝負”を繰り広げるべく旗振り役をつとめ、DEZERTはその日の出演バンドの中で最年少であったにも関わらず、野心あふれるステージングとハリネズミのごとく威嚇的なスタンスをみせていた印象が強い。
それ以降、MUCCとDEZERTはことあるごとにイベントで共演するようになったうえ、のちには自主マネージメントをしていたDEZERTがMUCCの所属事務所に加入したのもあり、今や彼らは名実ともにファミリーと呼べる関係性にあると言えようか。
なお、5年前の『MUCC/DEZERT[Is This The “FACT”?]TOUR 2019』について、当時の筆者はレポートの中で“容赦なき熾烈で過激な兄弟喧嘩”という表現を使ったのだが、今回の場合はイベントが“PARTY”と題されていることもあり、内容としては取っ組み合いの決闘の類ではなく、楽しいパーティの中で行われてはいるものの互いが真剣勝負で臨む対戦ゲームかのような雰囲気がその場に生まれていたように思う。
MUCC/逹瑯
かくして、今宵の先陣を切ったのはこの場に召喚された側のMUCC先輩。11月11日まで『MUCC 25th Anniversary TOUR 「Timeless」~カルマ・シャングリラ~』で各地をまわっていた勢いをそのまま持ち込むかたちで、まずは逹瑯とミヤのツインヴォーカルが映える「Mr.Liar」を投下してフロアをおおいに湧かせることになった。「Hey,BLAZE!MUCC初めて観るっていう人いる?(そう多くはないがパラパラと手が挙がる)よし、今日はおまえらのためにライブやるわ。よろしく!」(逹瑯)
MUCC/ミヤ
MUCCほどの揺るがぬ地盤を持つバンドでも、いまだにタイバン相手のファンをかっ攫ってやろうという貪欲な姿勢を丸出しにするこの姿勢は実に潔い。振り返ってみれば、今年のMUCCは25周年にまつわる諸々の動きをとっていく中、7月以降にはdeadman、NIGHTMARE、KIRITOと立て続けに“タイマンライブ(公式Xにおいて逹瑯はこの表現を使っている)”を敢行してきたわけで、実質的にその締めくくりとなったデザムックでも彼らの百戦錬磨な底力が発揮されたのは明々白々。
MUCC/YUKKE
10月に『MUCC 25th Anniversary TOUR 「Timeless」~カルマ・シャングリラ~』会場限定シングルとして発表された新曲「サイレン」や、YUKKEの操るアップライトベースの音が芳醇な色気を醸し出していた「ピュアブラック」、先だってのTimelessツアーを通して現在形に進化した「アイアムコンピュータ」などもまじえつつ、リリース当初にアニメタイアップ曲だったこともあってサブスクサービスで絶大な再生数を誇る「ニルヴァーナ」では、夢烏(読み:ムッカー。MUCCファンの総称)らが盛大なシンガロングで場内をいっぱいに満たしていく一幕も。
吉田トオル
「今回はBLAZEがもうすぐ終わっちゃうということで、「最後にとれたから来い」とみーちゃん(Miyako)から言われまして(笑)。逆らえないので来ました! DEZERTとMUCCのツーマンが楽しいことになるのは決まってるんで、みなさん思う存分楽しんでってください。よろしくお願いします!」(逹瑯)
Allen
遂にフロアでリフトコロダイ勢が発生した「前へ」、ミヤが「まぁ、これはDEZERTでいう「「殺意」」だなぁ!」と曲紹介してから演奏された「大嫌い」、MUCCファン以外にもフェスやイベントを介して広く知られているほどの鉄板曲「蘭鋳」と、出番後半に差し掛かり彼らはいよいよ“仕留めにかかる”ことに。しかも、逹瑯は「蘭鋳」のブレイクダウン部分で以下のような発言もしていたのである。
MUCC
「DEZERTとガッチリなツーマンをするのは久しぶりなんですが、なんか今日は千秋がずっと楽屋でソワソワしてて、小難しい顔しながら楽屋に貼ってあるセットリストを「あーでもねー、こーでもねー」って何回も書き換えて「よし、これだ!」みたいなことを言ってました(笑)。このあと来るんで、みなさん可愛がってあげてくださいね」(逹瑯)
さすがはタイバン殺しの得意な逹瑯。このあたりは今回も容赦がなかったところで、千秋からしてみれば「してやられた」感じであったのかもしれない。そのうえ、この夜のMUCCがラストソングに選んでいたのは5年前のデザムックでも演奏していた「リブラ」で、彼らはあの時と同じように…ではなく、あの当時以上の貫録を漂わせながら気高くこの曲を響かせていくことになったのだ。
来たる12月28日には東京国際フォーラム・ホールAにて、25周年の集大成として『MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to「Timeless」&「WORLD」』を開催するMUCCの本領。それは、限られた時間でのステージングとなった今回のデザムックでも見事に凝縮されていたと断言出来る。
MUCC
そこから一転して、重く暗い空気の充満する初期楽曲「「眩暈」」と、今年6月に配信シングルおよびライブ会場限定CDに収録されていた「君の脊髄が踊る頃に」を並べて聴かせるところからこの夜を始めたDEZERTは、5年前のデザムックとは全く異なるスタンスとパフォーマンスぶりをいかんなく披露していくことになったと言っていいだろう。
DEZERT/千秋
たとえば、「「誤解」」では〈貴方たちならわかるでしょ?〉を〈僕たちならわかるでしょ?〉と千秋が歌い替えてみたり。ここまでにライブを重ねてくることで、SORAのドラミングやMiyakoのギターワークの切れ味がいっそう増してきた「MONSTER」では、以前なら〈息が出来ず苦しいから 明日を作り、壊せ〉と歌っていたところを、千秋が〈息が出来ず苦しいなら 明日をつかみ、壊せ〉と訴えてみたり。
さらには、詞の一部どころか随所が改変されていたうえ、最も重要なフレーズといえる〈救いは“あなた”の中〉が〈救いは“わたし”の中〉と千秋によって歌いあげられた「Call of Rescue」における変化は、そのままDEZERTの成長を示していたのではなかろうか。時系列的な面でいっても、この曲はちょうど『MUCC/DEZERT[Is This The “FACT”?]TOUR 2019』が開催されてほどなくリリースされたものであり、その時期はDEZERTが数年にもわたった迷いと悩みに翻弄されていた時期とも微妙に重なる。
DEZERT/Miyako
今思えば、あの5年前のデザムックでDEZERTが大先輩の胸を借りるどころか、胸ぐらにつかみかかる勢いで、もがきの表情さえ隠さず死闘におよんだ理由はそこにあり、あの頃の彼らは嵌ってしまった沼から脱するべく、ただただ必死だったのだと思われる。
しかし、あれから約5年が経ってDEZERTは“2024年にメジャーデビューを控えているだけでなく、武道館ワンマンまで決定した”実力派バンドへと変貌した。言うなれば、新興国だった立場から先進国への発展を成し遂げた、恐るべき存在だと言えはしまいか。
DEZERT/Sacchan
「なんか、MUCCの時はコロダイとか起きとったけど、あんなん怖い怖い!次世代ちゃう、ちゃう!! こんな不安な世界情勢の中、ぶつかりあってどうすんねん。同じ方向に向いて踊ろうや。平和の権化・DEZERTでございます!!!」(千秋)
ある意味、先ほどの逹瑯のジャブに対する意趣返しのような煽りを入れつつ千秋が場を盛り上げた「大塚ヘッドロック」では、デザギャ+デザギャ男(DEZERTファンの俗称)と夢烏が揃って、いわゆる横モッシュを展開。あげく、間奏にあたるくだりではSacchanが発光するリコーダーを用いてMUCCの「ニルヴァーナ」と「蘭鋳」のフレーズを吹き、オーディエンスから大喝采を浴びることになったのだった。
DEZERT/SORA
なお、終演後の楽屋ではミヤがこの時のことを「あんなのズルいって! 絶対ウケるじゃん(笑)。まさか練習してたの??」とSacchanに話しかけ、Sacchanは「実は、楽屋に入ってからずっと練習してました(笑)」と答えていたことを参考までに付記しておこう。
「MUCCとは約5年前にデザムックというツーマンツアーをやらせてもらったんですが、逹瑯さんはおそらく覚えてないと思いますけど、大阪で凄い助けられたことがありました。まぁ、みなまでは言いませんけれどもね。そして、元をたどれば『COMMUNE Vol.1 』に誘ってくれて、言い方は悪いけどあれは別に俺らが出なくても成り立つイベントだったのに「カッコいいんだからいいんじゃん!」って言って出させてくれたんですよ。MUCCはそんな先輩です。いまだにミヤさんはちょっと怖いし、逹瑯さんもおっきいですし、YUKKEさんとはもうちょっと時間かかりそうだし(笑)。でも、今回のツーマンに関しては快くOKをいただけて本当に感謝しております。(中略)やっぱり、MUCCっていうのはマジで俺らにとってデカい存在です。5年前はまだまだ俺らも全然で、とにかく尖ってたけど、今は正直言うとMUCCと闘えると思ってます」(千秋)
この言葉のあとに続けられた「TODAY」は、それこそ5年前にデザムックのツアーファイナルでも歌われていた曲だが、その面持ちにはあの頃にはなかった確かな自信が滲んでいるように感じられた。
DEZERT
「来年、DEZERTは日本武道館でワンマンライブをいたします。後悔させませんよ、俺たちの武道館は必ず良い日になる。だから来てください。そして、その日の最後にはこの曲で締めようと思います。2023年11月24日、これがDEZERTだ!!」
最後に、フロアへ向かって叩きつけるように彼らがプレイしたのは「「切断」」。今年は大晦日のイベント『V系って知ってる! -VISUAL ROCK COUNT DOWN 寸前GIG 2023-』で旗振り役を担うだけのバンドになったとはいえ、それでもDEZERTの抱え続けて来た闇と痛みがなくなってしまうこと自体はあるはずもない、ということをこの曲は証明していたに違いない。
DEZERT
さて。充実の宴とあいなった『DEZERT PARTY vol.14 -EXTRA Edition- DEZERT vs MUCC ~LAST SHINJUKU BLAZE~』では、両バンドのメンバーが参加したアンコールにも趣向が凝らされており、MUCCの「絶望」ではSORA、DEZERTの「「変態」」ではMUCCのサポメン・Allenがドラムを叩くという交換留学生的システムが導入されたほか、後者の曲ではSORAがウォールオブデスを取り仕切る役として客席フロアに降り立って、観客たちとの密接コミュニーションをとることにもなった。
そればかりか、デザムックのフィナーレとして演奏されることになったのはLUNA SEAの楽曲。逹瑯からの指導を受けた千秋が、RYUICHIへのリスペクトを込めた「ネッックスソーング!!」のコールを入れてから「ROSIER」を始めると、Jのセリフ部分をSacchanが何故かラップ調にアレンジしていたうえ、安全面を考慮して緩衝材でぐるぐる巻きになったマイクスタンドをJのように背負い投げるも、緩衝材だけがすっぽ抜けて後ろに飛んでいくという光景が! それは偶然のことだったらしいが、パーティにつきものの宴会芸として結果的に最高の演出でもあった(笑)。もちろん、カバーとしての完成度はデザムックのメンツならではのクオリティであったのはお墨付き。我々はめちゃめちゃ面白いけれども、ヤバいくらいにカッコいい「ROSIER」を堪能できた次第だ。
頼りがいある兄・MUCCと、伸び盛りの弟・DEZERTが集う、通称・デザムック。次は5年後といわず、もう少し近い将来にまたの実現を願いたい。
取材・文=杉江由紀 撮影=冨田味我