Tina Moon
Tina Moon one-man Live"MY ARMS." 2023.11.09(thu)shibuya WWW
11月9日、Shibuya WWWでTina Moonを観た。Tina Moonは2021年にデビュー、ジャンルレスな音楽性とゴシックでグラマラスなビジュアル、シアトリカルなライブパフォーマンスを武器にするアーティストだ。4月に配信リリースしたデビュー・アルバム『MY ARMS.』が注目を集める中、今日は彼女にとって初めてのワンマンライブ。これまで2年間の集大成とこれからのビジョンを見せるための、重要なステージだ。
Tina Moon
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オープニングから劇的な展開で、いきなり深い闇の世界へとオーディエンスを引きずりこむ。ステージ上はドラムとギターのサポートメンバーに加え、白ゴス風のドレスを身にまとう二人のダンサーが、Tina Moonに忠実なメイドのように寄り添い踊る。照明は暗く沈んだサイケデリック調で、スポットライトは彼女の顔をとらえない。エレクトロニックなトライバルビートの「Lucky Guy」が妖しいムードを煽り立て、そのまま「BARBIE GIRL」「Give it to me!!」へ、アルバムの曲順通りにノンストップでライブは進む。
プログレッシブハウス、オルタナティブR&B、ヒップホップやインダストリアルメタルの香りもする重厚なサウンドの上で、幼女のような囁きから魔女のようなスクリームまで、変幻自在に歌い上げるTina Moon。背後のビジョンに映る映像も非常に刺激的で、血と死の匂いをたっぷりとふりまくどぎつい画や、キッチュ趣味のポップアートが次々と現れては消える。VJはJACKSON kakiだ。音とビジュアルと歌とパフォーマンスが一体化した、これがTina Moonオリジナルのシアトリカルライブ。
Tina Moon
Tina Moon
強力なアップテンポのダンスチューン「Chicken Street」から、メランコリックでメロディアスな「Kawaki」を経て、再びアップテンポの「Villain」へ。時の過ぎるのが異常に速い。衣装チェンジの時間も無駄にせず、古いシネマミュージックのようなBGMと映像でオーディエンスの目と耳を惹きつけたまま、インスト曲「MY ARMS」へ。極彩色の照明の下、再びダンサーと共に登場したTina Moonが、「虎視眈々」の執拗に繰り返されるトライバルなリズムに乗って歌い踊る。その姿がまるで音楽が憑依したシャーマンに見えてくる。
「私は自分のことが好きじゃないという気持ちで毎日生きています。今回のアルバムを作るにあたって、どんなふうに自分が嫌いなのか、日頃どんな風に憎しみを発散しているのか、心の声に従って、そこにフォーカスして書きました。自分が好きになれなくて苦しんでいる人に、“そういう感情を抱いてもいいんだ”って、私の楽曲を聴いてくれればわかってくれると思うので、そういう人とは共感しあえるんじゃないかと思います」
Tina Moon
Tina Moon
この日最初のMCの内容は重いものだが、隣の席の人に話しかけるような柔らかな口調には、暗さだけではない優しさが見える。ここから始まる後半は、アブストラクトヒップホップ風の「He.」「incubus」から、徐々にテンションを上げて自らエレクトリックギターを弾くグラマラスなロックンロール「Choose for yourself」へ。グラムロックやパンクバンドのボーカルでも行けるだろう、彼女のボーカルの多彩な表現力には驚かされっぱなしだ。さらに「みんな、踊っていくよ!」と叫び、明るい四つ打ちのダンスチューン「PaBodance」で客席を挑発しながら盛り上げる、肝の据わったアクトレスぶりがかっこいい。そしてラストは「selfish REMIX」の幽玄なサウンドと祈りのようなハイトーンボイス、ビジョンに映る美しい月の映像が、温かく肯定的なムードで会場を包み込む。まるで一本の映画を見終えたような、深い余韻があとに残る。
Tina Moon
Tina Moon
「最初は怖がられるイメージでもいいんだけど、徐々に打ち解けて、これからもライブに来てくれると嬉しいです」
アンコール、少しだけ明るくなった照明の下で、はにかんだ笑顔がちらりと見えた。「かっこいい新曲を作ったので、初披露させていただこうと思います」と紹介した新曲「今生の喜び」は、いにしえの重厚でスローなハードロックを、現代的なエレクトロニックチューンへ転生させたような、激しいギターがうなりを上げる劇的な1曲。ジャスト1時間、全14曲のセットリストの最後に新曲を置くことで、今日のライブはTina Moonが新たなステージの扉を開く記念日になった。リリースもライブも、これからどんどん活発になっていくだろう。全人格を賭けたメッセージを、圧倒的なボーカル力と刺激的なサウンドに乗せて大胆にパフォーマンスするアーティスト。Tina Moonのこれからに注目してほしい。
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