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今年30歳という節目を迎えたluzは、「新しい挑戦をしたい」という気持ちから自身の会社を設立。そして、本名“帯刀光司”の公開やアルバムのリリース、ツアーの開催と、2023年は様々な動きがあった。本記事では、この一年を振り返るとともに、12月6日(水)にリリースした堀江晶太がサウンドプロデュースを務める5thアルバム『AMULET』について話を訊いた。
ーー5thアルバム『AMULET』についてのお話をうかがう前に、まずluzさんが2023年に入ってからとられてきた動きについて、少しおさらいさせていただきたいと思います。春にはご自身の会社を設立し独立されたとのことですが、タイミングなども含めて何故そのような決断をされたのか?という、きっかけについてお話しいただいてもよろしいでしょうか。
自分にとって2023年というのは、ちょうど30歳を迎える年だったんです。その節目を前にして、やっぱり「新しい挑戦をしたい」という気持ちになったことが独立する大きなきっかけになりました。人生というのは一度きりですし、できるだけ後悔のない人生にしていくためにも、なんとなく同じようなことを繰り返しながら生きるより、僕としては新たな一歩を踏み出すことを選択したんです。
ーーこの年末で会社立ち上げからは8ヶ月ほどが経つことになりますが、今のところ“社長・luz”としてはどのようなことを感じられています?
いやぁ、しんどいですね(苦笑)。会社として物事を考えるとなると、自分のことだけではなく、トップとして他の方たちのことも含めて考えていく必要があるので。全てのことに目を通していかないと、何かしらのすれ違いが起こったりしますし。そういう可能性を避けるためにやることも多くなるから、自分の会社のことなんだけれども自分の思うようには行かないこともある、という現実があったりします。もちろん、まだ立ち上げて1年目ですからね。うまくいかないことが出てきたとしてもそれはしょうがないですし、問題点はそのつどクリアしつつ、僕としては今後より良いかたちを作っていかなきゃいけないなと思っているところです。
ーープレイングマネージャーというのは、物事を常に両立させていくのが難しい立場でもあるのでしょうね。そうした中、いざ独立してみて良かったなと感じている点はどのようなことでしょうか。
何かをやりたいなとなった時に、事務所さんにいた時だったら「そのことも考えてあげたいけど、今はこっちを優先したらどうかな?」となっていたことを、今の独立した状態だと自分のやりたいことを優先できる、という点ですかね。たとえば、今回のアルバム『AMULET』に関連したことだとFAKE TYPE.さん作曲の「Ruthless」のMVは、まさに自分のやりたいことを実現したものですし。半ばわがままを言ったような感じだったというか、自社から「Ruthlessの実写MVを作らせていただけないか」ということをレーベル側に提案させてもらって、制作することが叶いました。
ーー「Ruthless」は映画のようなつくりが印象的なMVですよね。
今まで作ったMVの中でも、撮影は一番大変だったんですよ。時間的には、朝から翌日の朝までかかっちゃいましたから。でも、その甲斐あって非現実でフィクション性の高い映像を作れたので凄く良かったです。
ーーでは、ここからはそんな「Ruthless」も収録されている今回の5thアルバム『AMULET』について、いろいろとお話をうかがって参りましょう。前作『FAITH』は信仰心をテーマにした作品でしたけれども、今回のアルバムを作られていくうえでもテーマなりコンセプトは設定されていたのでしょうか。
今回のアルバムのタイトルになっている『AMULET』は、お守りという意味の言葉なんですよ。そして、このアルバムには1曲目が「MONSTERʼS CRY」から始まるんですけど、モンスターというのは目に見えるものとしてではなく、どちらかというと人の内面に棲んでいるもののことを指しているんです。一見すると普通に見えるのに実は中身にちょっとギャップがある人とかも世の中にはいるわけで、良い意味でも悪い意味でもそのことはいろんな人にあてはまるんじゃないかな?と僕は思ってるんです。良い人に見えていたのに、実は……っていうこともあったりするじゃないですか。
ーーオバケや心霊よりも、生きている人間が最も怖いという人もいるくらいですしね。
だから、きっと普段の生活の中でもある意味でのモンスターにおびやかされてるっていう人っていると思うんですよ。今回のアルバムの中ではフィクションとしてモンスターを描いている曲も中にはあるんですが、『AMULET』に関してはそれぞれの楽曲とか僕の歌声も含めて、このアルバムがみなさんにとってのお守りになれたら良いなと思いながら作ったものなんです。
ーーちなみに、先ほどお話しにでた「MONSTERʼS CRY」は、前作『FAITH』に引き続いてサウンドプロデュースを手掛けている堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんが作詞・作曲をされているものとなりますね。
「MONSTERʼS CRY」が1曲目って、要は絶望からのスタートなんですよ。だけど、この曲の主人公が救われる場面で歌われるのが最後に収録されている「AMULET」で、これも堀江さんが作ってくれている曲になります。
ーー「AMULET」は〈貴方は光〉という詞でしめくくられている曲で、luzとはスペイン語で光に由来する名前であることを考えると、これは実に感慨深いです。
7月に僕は30歳になったタイミングで帯刀光司という本名を公開したんですが、luzはその本名の「光」という字からとった名前ですからね。そして、「AMULET」には〈貴方が好きだ〉というフレーズも出てくるんですけど、多分これは堀江さんが“僕がファンに向けて歌う言葉”としてではなくて、むしろ“ファンの人たちから僕に向けての言葉”として書いてくださったものだと思うんですよ。最初のこの曲と詞を受け取った時から僕としてはいろいろ感じるものが本当に多くて、心に深く沁みるなぁと思ってました。
ーー思えば、luzさんの作られた会社の名前はESPERANZA(エスペランサ)=希望ですし。これまでもluzさんの表現されてきた世界には、闇と光が常に同居しておりました。それだけに、今回のアルバム『AMULET』での絶望の闇に満ちた場面から始まって、光をたたえた希望へと向かっていくこの構成は、実にluzさんらしいものであると言えそうです。
難しいところではあるんですけど、誰しも人生って決して良いことだけが起きるわけじゃないですからね。絶望と希望、希望と絶望って僕はいつも隣り合わせなところがあるような気がするんですよ。このアルバム『AMULET』は、そこを表現している作品にもなっていると思います。
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ーーしかも、その表現はかなり極端なかたちで具現化されていますよね。また「MONSTERʼS CRY」のことに戻りますが、この1曲目はサウンドとしてもインパクトの強いものに仕上がっているところが特徴的です。
堀江さんは「今の自分が出来る最高な音、ロックサウンドの最新のものをここに全て取り入れて、これ以上ないものを作った」って言ってました。
ーーなお、「MONSTERʼS CRY」のMVには-真天地開闢集団-ジグザグの龍矢さんと、luzさんのライブメンバーとしてもお馴染みのMiAさん、そしてドラマーのマイキさんが参加されておりますね。龍矢さんとは、どのような縁でご一緒されることになったのです?
龍矢くんのことは、MiAくんから紹介してもらったんです。もともと-真天地開闢集団-ジグザグはとても好きなバンドで、いちファンとして前から聴いていましたし、それを知ってたMiAくんが今回の撮影にあたって、良い機会だからと繋いでくれたんだと思います。実際に撮影の時にお会いしてみたら、龍矢くんはとても素敵な人でしたね。話してると腰が低い方なんですけど、シューティングが始まるとオンオフが切り替わって凄いパフォーマンスをしてくださって、とにかく真っ直ぐな方なんだなぁと感じました。
ーー龍矢さんの件もそうですし、今回のアルバム『AMULET』に関わってくださっている方々についてもそうですが、結局のところこれだけの人材がluzさんの元に集ってくださるというのは、何よりluzさんの人徳によるところが大きいのでしょうね。
それは僕の人徳とかじゃなく、いろいろ運が良いということなんじゃないですかね。みなさんが協力してくださるのは、本当にとてもありがたいことだなと感じてます。
ーーさて。ここでまたアルバムについての話に戻りますが、2曲目の「CARNIVAL」はダークファンタジーの色合いが強い仕上がりです。この曲についても、ぜひluzさんからの解説をいただけますと嬉しいです。
実は、この「CARNIVAL」こそアルバム『AMULET』の始まりとなった曲だったんですよ。というのも、前作『FAITH』で音楽的には自分のやりたかったことをやり尽くしてしまったことで、正直言うと僕は一時的に燃えつき症候群状態になってしまっていたことがあったんですね。それで、ちょうどその頃と新曲を作り始める時期が重なっていたんですけど、堀江さんから「次はバンドサウンドを追求するというところから少し目線を変えて、新しい視点からの勝負をしてみるのもアリなんじゃないか?」という言葉をいただけたんですよ。そこから作り出したのがこの曲で、イメージとしては僕の好きなティム・バートンの映画とか、ゴシックな雰囲気の世界観を取り入れつつ、バンドサウンドの要素もあわせながら、そこにダンスサウンドも融合させていく、というluzとしての新しいジャンルを開拓していくことを目指しました。
ーーなるほど……ということは、1曲目の「MONSTERʼS CRY」は『FAITH』からの橋渡し役を担った曲で、今作『AMULET』における本当の意味での新章は「CARNIVAL」から始まる、ということになるわけですね?
そうなんです。僕にとっては「CARNIVAL」が本当の始まりでした。
ーー3曲目の「Ghost in the danse」については、タイトルにダンスという言葉が含まれておりますし、躍動感にあふれている音像が堪能できるものとなっていますが、luzさんがこの曲を表現していく際に心がけられたのはどのようなことでしょう。
もともと自分は邦楽よりも洋楽をメインに聴いているところがあるので、この曲では自分の趣味性を活かしたところが多々ありますね。ある意味、ファンの人たちが求めるluz像とは違うものというか、新しいluz像を表現したかったんです。これまであまりやってこなかった、洋楽チックなサウンドを取り入れたいっていうことを堀江さんに伝えてできたのがこの曲です。
ーーちなみに、luzさんがお好きな海外アーティストはどなたかお聞きしてもいいですか?
イタリアのマネスキンっていうバンドが好きなんですよ。ひとりとひりの個性がとにかく際立っているし、年は全然若いのにみんなセクシーさも凄くて、方向性としてはグラムロックに近いのかな。
ーーマネスキンというバンド名はデンマーク語で月光という意味なのだとか。luzさんとは“光”つながりだったりして?
あ、バンド名の意味までは知らなかったです! 確かにちょっと縁を感じますね(笑)。
ーー4曲目「幽世」はアニメ『ダークギャザリング』のOPに起用された曲となりますが、中にはそのタイアップを機にluzさんのことを初めて知られた方もいらっしゃるかもしれません。MVも135万再生(2023年12月6日時点)を記録しているのだとか。
作者の近藤憲一先生から、この「幽世」に関しては「良い意味で平成を思い出すようなロックソングが欲しい」というお話をいただいていたんですよ。もっと具体的に言うと、近藤先生はJanne Da Arcが好きということもお聞きしていたので、僕は曲をお願いするならルーツとして近いものがあるすりぃさんが良いなと思ったんです。
ーーチェンバロ音色の鍵盤が利いた、非常にドラマティックな楽曲になりましたね。RENOさんのギタープレイと、石井悠也さんのドラムも実に映えていますし。
あのチェンバロの音、僕も凄く好きなんです。全体的にも、近藤先生のおっしゃっていた「良い意味で平成を思い出すようなロックソング」になったと思います。
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ーー5曲目の「ABYSS」はJunkyさんが詞と曲とアレンジで参加していますが、luzさんとしての狙いはどこにありましたか?
Junkyさんは最近ハロウィンの時期になるといろんなところでたくさん流れてる「Happy Halloween」を作った方で、僕としては彼の持ってる世界観が今回のアルバムのテーマのひとつになってるモンスターっていう部分と重なるなと思ったんですよ。それで、今回は僕の方から初めて彼に楽曲制作の依頼をすることになりました。ハロウィンっぽい曲であると同時に、ライブでやった時にみんなとシンガロングできるような曲にしたいですっていうことを伝えて作ってもらいましたね。だから、この曲はライブでやった時に初めて“完成”する曲だとも言えます。
ーーその後、6曲目の「イプシロン」では空気感がまたガラリと変わります。こちらは、クリエイターである柊キライさんの持ち味と、luzさんならではの表情豊かな歌声が絶妙に交じり合った仕上がりですね。
柊キライさんはダークでカッコいいボカロ楽曲をたくさん作っている方なんですが、柊さんっぽさをただ表現するだけだと僕じゃなくても成立しちゃうなと思ったので、この曲では普段とはちょっと違うアプローチとして、今まで僕がやってこなかった和風要素を詞に入れてもらうことにしたんです。
ーー〈百鬼夜行〉〈往生〉〈極楽〉〈悠久〉といった、どこか古めかしい日本語フレーズがちりばめられているこの歌詞を歌っていくとなった時、luzさんがヴォーカリストとして意識されたのはどのようなことでしたか。
さっきもちょっとお話ししたんですけど、普段は洋楽を聴いていることが多いのもあって、僕の発声とか発音ってあまりハッキリとした日本語発音をしない、どちらかというと洋楽チックな発声法になっているところがあるんですよ。でも、この「イプシロン」では綺麗な日本語発声をする必要があったので、アクセントの部分とかは聴いた人が明確に聴き取れるようにということを特に重視しました。
ーー綺麗な日本語発声のみならず、この曲では〈イヒヒヒヒヒヒ〉という奇っ怪な笑い声も歌で表現されているところが面白いです。
あの部分は僕も最初ちょっとビックリしました(笑)。
ーーそんな「イプシロン」が和の魑魅魍魎を描いたものだとすると、7曲目の「Trick Treat Trust」はこれまたハロウィンがモチーフとなっているものになりますか?
この曲は、サウンドプロデューサーの堀江晶太さんとよく組まれているebaさんが書き下ろしてくださったんですよ。テイストとしては僕の好きなロックサウンドをわかりやすくかたちにしてくださって、アッパーなんだけど妖艶な感じもあるっていうお洒落さも持った曲にしていただけました。
ーーそれから、冒頭の方で少し話に出ていた「Ruthless」はFAKE TYPE.さんとのコラボ曲になります。この新機軸な楽曲の生まれた背景についても教えてください。
そもそも、僕はラップをした経験がなかったんですよ。FAKE TYPE.さんとのコラボを提案してくださったのは堀江さんで、今回の『AMULET』というアルバムで新しいluzとしての存在感を打ち出すには、ボーカリストとしてこういう新しいチャレンジもあると良いんじゃないか、と言ってくださったんです。だからといってluzの世界を崩してしまうのではなくて、今回はFAKE TYPE.さんの世界にluzを招待していただいたような楽曲になったんじゃないかと思います。
ーーラップをするとなると、喉の使い方からしていつもとは違いました?
いわゆる“歌”をレコーディングする場合、僕はクリック(ガイドとなる打ち込みのリズム)を聴きながらそれに沿って歌うことが多かったんですよ。だけど、ラップの場合はクリックからズレたタイム感を出すことで初めてラップとして成立するところがあるので、今回は“必ずしもジャストタイムで歌うことだけが正解じゃないんだ”っていうことを学びました。ちょっと遅れたりすることも実はカッコいいんだって知ったんです。
ーー実際にやってみて初めてわかること、というのがあるのですね。
それは本当に感じました。音楽にこれ!っていう正解はないんだっていうことを学ばせていただけて良かったです。
ーー今作『AMULET』での新境地という点では、9曲目の「shall we!!?!?」も斬新さを感じられる曲になっていませんか。
前作『FAITH』の時は「涅槃」を作ってくださったケンカイヨシさんが、今回も彼らしいトリッキーな曲を作ってくれました。一応、大体のテイストはいつもイメージとして伝えるんですけど、彼の場合は良い意味でどんなものが出てくるか全くわからないんですよ(笑)。そこがとても楽しみではあるんですけど、彼は何回もライブに足を運んでくれていて、luzのライブではオーディエンスとの圧倒的な一体感が生まれるっていうことをちゃんとわかってくれているから、曲を作るうえではそこをちゃんと大事にしてくれている点も嬉しいんです。
ーー「shall we!!?!?」については、曲の中に詰まっている歌詞の情報量の多さにも驚きましたね。取材用にプリントアウトしたら、4ページにも渡りました(笑)。
すみません(笑)。ほんと、ケンカイヨシさんの曲は情報量が多いですよね。しかも、この曲にもサビでラップパートが入ってるんですよ。あのあたりはちょっと苦労しました。おそらく、難易度でいうと「Ruthless」の方がまだ初心者向けにFAKE TYPE.さんが作ってくれてたと思うんですけど、こっちの方がより変化球なんです。それこそ、ちゃんとラップとかヒップホップを学ばないとこれは歌った時にサマにならないなっていう感じがしたので、自分にとっては手強い曲でした。
ーーその分、ここでluzさんはスキルを増やすことができたということですよね?
それはきっとあります。この「shall we!!?!?」からも吸収できるものがあったら良いなということは思いながら向き合ってましたね。経験値は増えました。
ーー10曲目の「Pandora」は、「紅蓮華」をはじめとして近年ヒットメーカーとして活躍されている草野華余子さんによるものとなります。これは堀江さんからの提案で実現したことだったのでしょうか。
そうです。堀江さんから「草野さんの曲もluzくんに合うと思うよ」という風にご提案いただきました。
ーー「Pandora」を最初に受け取った時、感じられたのはどのようなことでした?
なかなか自分からは発注しないタイプのジャンルの曲だから、これは新鮮だなって思いました。言うなれば、今回のアルバムの中では一番わかりやすいJロックというか。王道だし、それこそアニメのオープニングになりそうなキャッチーさもある曲なんですよね。でも、歌ってみたらこれだけ王道な曲でもluzらしさって消えないんだなっていうことがわかって、そこはちょっと自分で安心しました(笑)。
ーー11曲目の「Scissors」は、今作の中でもずいぶんと大人っぽい空気感を持った曲だなと感じられます。でも、これはこれでluzさんとしては十八番なタイプの曲なのだろうなとも感じました。
僕はRoyal Scandalでも活動していて、そこでは妖艶なイメージの曲とか、セクシーなジャズサウンドをいろいろやってますからね。今回の『AMULET』では敢えてそういう系統の曲は減らして、新しい方向に振ったんですが、その中でも「これまでの経験を踏まえて今のluzがジャズサウンドを歌ったらこうなるよ」という、進化形の自分を伝えたかったのがこの「Scissors」です。
ーー大人っぽさという面では、R&Bの香りが漂う「贈花」も素敵な曲ですね。
僕は女性ボーカリストだと宇多田ヒカルさんをとても尊敬していて、昔から今に至るまでよく聴くんですよ。この曲には、そういうリスペクトを自分なりに込めることができたと思います。とはいえ、普段の“歌ってみた”とか、新曲としてはおそらくこのタイミングじゃなかったら挑戦してなかった系統の曲だったはずです。
ーーここに来ての挑戦をしてみて、何か感じられたことはありました?
自分の声って、思っていた以上に多種多様なんだなって感じました。こういう曲でもluzの歌として成立するんだということは発見でしたね。
ーー妖艶なタイプの曲とは違う、甘さや深さのようなものが十二分に歌で引き出されているように感じます。とてもluzさんに似合っていますね。
ありがとうございます。友人や知人たちに聴かせても、これは今回とても好評をいただいている楽曲のひとつになってます(笑)。
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ーーでは、ここでまた「AMULET」の話題に戻ります。さまざまな楽曲たちを経てたどりつくこの曲は、救いの地となるものであり、音楽的にも歌詞の面でもこれほどストレートなものはないように感じられますが、これはluzさんにとって真っ向勝負が肝要となる歌だったのではありませんか?
確かに、こんなにもストレートな曲ってそうなかったですね。自分自身は凝った比喩表現の方が好きだったりしますけど、アーティストとしてはもちろんひとりの人間としても、時にはまっすぐに言葉を伝えることって大事なことだと思うんですよ。感謝の言葉とかも、思ってるだけじゃ伝わらないことってあるじゃないですか。
ーー言わなくてもわかるだろという考えもあるのでしょうけれどね。それでも、口に出して初めて言霊を持つことになる言葉はあるように思います。
僕はそれをここで歌として伝えたかったんです。最後はあくまでもシンプルに、ということで「AMULET」をアルバムの最後の曲として収録しました。
ーーファッションになぞらえるなら、この曲は着飾ることなくTシャツ1枚でどこまで素敵にみせられるか?ということを問われるような曲であるのかもしれませんね。
そこに関しては、ボーカリストとして13年活動してきて14年目に入ったここまでの過去がなかったら、今回この曲は表現できなかったかもしれないですね。多分、作ってくれた堀江さんとしても「今のluzだからこそ歌える楽曲」として意識していたところがあったんじゃないかと思います。
ーーこれも、先ほどluzさんがおっしゃっていたことになりますが、7月に30歳になられた際には本名を公開されたんですよね。「AMULET」はluzとしての歌であると同時に、帯刀光司としての素顔のようなものも感じられる歌であるように思います。
帯刀光司として歌ったっていうところも確かにありますね。というか、luzと帯刀光司が同一人物であるのは事実ですし。自分の中では「luzはこうあるべきだ」とどこか首を絞めてきた部分もあると思うので、帯刀光司としての自分を公にすることでパーソナル部分が解放されたり、より深くなった部分があるんだろうなって自分では感じてます。そこが「AMULET」の歌には反映されたんでしょうね。
ーー今回のアルバム『AMULET』は、ここから15周年に向かっていくことになるluzさんにとって大きなターニングポイントになったようですね。
間違いないです。自分は音楽活動をしたくてここまでやってきたというよりも、生きてきたら人生が音楽になってたというだけなので、それが14年目に入ってきた今、15周年を迎える前にここでひとつの転機を迎えることができた意味はとても大きいですね。
ーー聴いてくれる人たちにとってのお守りになってくれるのはもちろん、luzさん自身にとってもアルバム『AMULET』の存在はここから先に進んでいくうえでのお守りにもなってくれることでしょう。最後に、これらの楽曲たちを実演していくことになる今度のツアーに向けた展望もおきかせください。
これまでだと前半でアッパーな曲を歌い、中盤でミドルテンポの曲、終盤ではまたアップテンポなロックサウンドをたたみかけて締める、というパターンのライブが多かったかですけど、次のツアーではそれとはまた違った新しいluzとしての見せ方をしていきたいと思ってます。『AMULET』の曲たちをみんなに披露して一緒に楽しめる場がある、というのが今からとても楽しみですね。自分のやりたいことを実現していく人生を、僕はここからもっと充実させていきたいです。
取材・文=杉江由紀
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