After the Rain、国立代々木競技場 第一体育館ワンマンをレポート 「自分たちの声が届く人たちにとってのヒーローになりたいし……みんなも僕たちのヒーローだよ」

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After the Rain

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After the Rain Winter Live 2023 アイムユアヒーロー
2023.12.3 国立代々木競技場 第一体育館

魔法や必殺技を繰り出さなくても、哀しみに暮れるときには静かに寄り添い、長い雨に震えるときにはそっと傘をさしてくれる心優しき<ふたりぼっち>。その歌声を、存在を求める人々にとって、After the Rainは紛れもなくヒーローだ。

そらるとまふまふによるユニット・After the Rainが、2023年12月2日・3日に国立代々木競技場 第一体育館にて、『After the Rain Winter Live 2023 アイムユアヒーロー』と題した2デイズワンマンライブを開催。2ndフルアルバム『イザナワレトラベラー』以来約5年ぶり、2023年10月に発売した3rdフルアルバム『アイムユアヒーロー』の世界を堪能する没入型本編と、懐かしのナンバーやお馴染みのボカロ曲、まさかの選曲で沸かせた賑やかなアンコール、あわせてAfter the Rainにどっぷり浸かった時間と空間は、多幸感に満ちていた。ここでは、2日目の模様をお伝えする。

映像クリエイター・MONO-Devoidが手がけた壮麗な映像が、ステージ後方全面の巨大LEDスクリーンに映し出されたオープニング。すっかり圧倒されていると、明るくなったステージにそらるとまふまふの姿が。「アイムユアヒーロー」のMVそのまま、そらるはブルーの入ったジャケット、まふまふは濃いピンクの入ったパンツを纏い、歌声をつないで重ねる1曲目は、アルバム『アイムユアヒーロー』の幕開けを飾る「1・2・3 – 2023 ver. -」だ。ふたりが<キミにきめた!>と客席を指さすと、そらるのイメージカラーである青、まふまふのイメージカラーである白のペンライトが歓喜に揺れて、<1・2・3>コールが大きく響く。最後の<キミにきめた!>では、向き合ってお互いを指さすそらるとまふまふ。何度目にしても高まる光景である。

After the Rain

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続く「アイスクリームコンプレックス」は、甘めなウインターソングでいて<この不幸も きっと明日生きるのに必要なもの>というまふまふの人生観が反映されたフレーズにハッとさせられるナンバー。そして、そらるとまふまふが手と手をさり気なく合わせたすれ違いざまの一瞬が物語るのは、ふたりを結びつける揺るぎない信頼感だ。

最初のMCでは、「おまえ昨日のMCひどかったからな?(笑)」とまふまふを“MCザコ”呼ばわりするそらる。すると、「頑張ったのにひどい言われよう(笑)」と嘆くまふまふが、次に歌う「レッドスプライト」を「レッドでホットな曲」と紹介するそらるに「いや雷の曲ですからね? さては言葉の意味とか調べてないな?」と反撃姿勢を見せる。しかし、「文句しか言わねぇな!」と切り返すそらるに、「すいません」と即時撤退するまふまふ。ふたりの歌声はもちろんなのだが、気の置けない仲だからこそのゆるゆるで心地よい言葉のやり取りも、永遠に浴びていられる。

そらる

そらる

まふまふ

まふまふ

かと思うと、赤のライトとレーザー光線が飛び交った「レッドスプライト」では、途端にアグレッシブモードに。愁い色をたたえてお互いに見つめ合って歌う姿も印象的だった「モア」。ネオンサインきらめくサイバーパンクな映像を背にファンキーに突き抜けた「東京クローン」。収録順に放たれていく『アイムユアヒーロー』の楽曲たちの豊かな色彩、それをライブで増幅させるふたりの歌声の絶妙なコントラストと尽きない表現欲に、あらためて驚かされる。合いの手コールやリアクションから、よほどアルバムを聴きこんできたのであろうことがひしひし伝わる観客の熱量もまた凄まじい。

「「東京クローン」、人間が歌える曲じゃない」と訴えるそらるに「喉がちぎれそう、高すぎ」と作曲者であるまふまふが同調すると、「今後は身の程を知った曲を作ったほうがいい」と提案するそらる。しかし、「でも限界に挑みたくないですか?」と制作意欲をあらわにするまふまふ。そういうまふまふと、なんだかんだ必ず付き合って限界を突破するそらる、このふたりだからこそ新しい扉を開いていけるのだ。

「俺ひとりでMCしてるんじゃないんだよ、おまえも相槌くらい打てって。背中にマイクを隠すな!(笑)」とそらるに容赦なくつっこまれ、どこかぎこちない様子でまふまふがタイトルコールしたのは「折り紙と百景」。トークしているときと歌っているときでは別人に思えるほどの切り替わりようで、「万花繚乱」にしても然り、ふたりが描く和の情緒をまとった儚さ、切ない恋慕が痛いほどに刺さる。

After the Rain

After the Rain

モノクロームな演出も虚しさ、やるせなさを際立たせた「ライア」からの、カラフルに<モノクロが彩られて>いった「ハロームジーカ」。バンド陣によるダイナミックな“コンティニュアム”をはさんでの、まふまふがエレキギターを弾きながら歌い、そらるがオーディエンスを煽った「ナイトクローラー」。行き場を失った想いを歌声に託した「レム」。After the Rainのライブは、『アイムユアヒーロー』の曲たちは、あまりにも情緒が忙しい。

このライブのほぼすべての映像演出を手がけたというMONO-Devoidに、「レベルの高い要求に応えてくれました。3人目のメンバーと言ってもいいくらいです」と感謝と賛辞を述べると、そらるが2023年1月に開催したソロライブのためにまふまふが書き下ろした「テレストリアル」へ。残酷な物語を想像してしまう「ウェディングドレス」も、<ちいさな世界の優しい話>にどうしたって涙腺が緩む「目隠し少女と蜃気楼」も、光が当たれば影ができるように、ファンタジックだけれどもただ美しいだけではない。悲喜こもごも、苦しいことも少なくない人生を歩んでいくには、やはりAfter the Rainが必要だ。

まふまふが歪んだギターリフをかき鳴らしながら歌い、そらるがまふまふの肩をポンと優しくタッチ、すぐ隣に立って歌ったのは「10数年前の僕たちへ」だ。<10数年前の僕たち>と<10数年後の僕たち>へのメッセージ。山も谷も越えたきた今のふたりだからこそ歌えるナンバーだ。

そらる

そらる

まふまふ

まふまふ

「緊張してステージ袖でダンゴムシみたいになっている僕に、反対側のステージ袖から走ってきたそらるさんが「大丈夫だよ」って励ましてくれた」と明かすまふまふに、「なんか不安そうだったからさ。今の話で株上がったわ、ラッキー(笑)」と照れ隠しをするそらるが、さらに言葉を続けた。「6、7年前、咳が止まらずに最悪のコンディションでステージに立ってた時期もあるんですけど、みんなの「楽しかった」っていう言葉に救われて。今では、コンビニ感覚でステージに立てるようになりました(笑)。それは、みんなを信頼してるからだよ。本当にありがとう。せめて自分たちの声が届く人たちにとってのヒーローになりたいし……みんなも僕たちのヒーローだよ」と真っ直ぐな目で言ったそらる、頷くまふまふ。本編ラストは、「アイムユアヒーロー」だ。<だからボクは歌うと決めたんだ>と歌うふたりの顔はとても頼もしげで、ヒーローそのものだった。

『アイムユアヒーロー』を表現しきったドラマティックな本編の興奮冷めやらぬ中、アンコールは「世界を変えるひとつのノウハウ」でスタート。ふたりのがなり声も観客のコールも雄々しく響いた「ロキ」。赤と緑のライトに染まりながら、一足早くダークにゴシックにクリスマス気分を盛り上げた「ブラッククリスマス」。After the Rainと命名する前、そらいろまふらー時代に生まれた「第2次カラクリ国家計画」をアレンジし直した「第3次カラクリ国家計画」。この期に及んでまだまだ起爆剤を連投してしまうふたり、もはや罪深い。

After the Rain

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ひとり芝居を始めたまふまふを、生温かく見守ったものの最後は鉄拳制裁!?で強制終了させたそらる。ステージを去るのが名残惜しそうなふたりが最後に届けてくれたのは、「桜花二月夜ト袖シグレ」だ。ふたりの美声で<満たされていく>時間は、この上ない幸せ。これまでも、これからも、After the Rainはリスナーにとっての絶対的なヒーローとして在り続ける。

また、本公演の模様は、After the Rain(そらる×まふまふ)のユニット結成日である2024年1月8日に、2公演からベストパフォーマンスを厳選して全21曲収録したライブ映像として配信される。

視聴チケットは、「Streaming+」と「ZAIKO」にて販売中。「bilibili」でも2024年1月8日正午オープン予定の充電機能で購入できる。アーカイブ配信は、After the Rainの配信ライブとしては最も長く、2024年2月7日(水)23:59まで視聴可能。

文=杉江優花
撮影=小松陽祐[ODD JOB] / 堀卓朗[ELENORE] / 笠原千聖[cielkocka]

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