「hide Birthday Party 2023」オフィシャルライブレポート、hide生誕60周年記念プロジェクト始動
今年もこの日がやってきた。hideファンにとってはお正月やクリスマスと同じく、1年に一度のスペシャルな記念日であるhide Birthday Party。1998年にhideが空に旅たった後、2000年から毎年開催されている恒例のイベントで、お馴染みの会場CLUB CITTA’にはこの日を待ち侘びていた長年のファンから最近hideを知った若いファンまで、多くの観客が詰めかけた。
今年は先日、25年ぶりにワンマンライヴを開催したhide with Spread Beaverのメンバーが、それぞれの活動スタイルで集結。さらに、hideファミリーと呼べる繋がりの濃いアーティストも参加し、出演アーティストは総勢10組を数える。チケットは早々とSOLD OUTし、会場は約7時間のイベント中、常に熱い熱気に包まれていた。
桃知みなみが客入れ時からDJでフロアを盛り上げたあと、開演時にはhideオフィシャルマネジメント事務所の代表取締役であるhide実弟の松本裕士氏がステージに登壇。バックスクリーンに投影されたHEATHの写真を見上げながら、会場中の全員で先日急逝したX JAPANのHEATHに黙祷を捧げる。「ファミリーが1人hideさんの元に向かいました。悲しいですが、僕らは頑張って生きて、生き抜いて、たくさんの思い出と共に報告に行きましょう。人生を楽しみましょう!」というポジティブな言葉で、パーティはスタートした。
トップバッターは、OBLIVION DUST。K.A.Zはhide with Spread Beaverのギタリストであり、デビュー時のプロデューサーがzilchのRay McVeighと、hideと深い関わりを持つバンドである。彼らが最初に演奏したのは、zilchの「ELECTRIC CUCUMBER」。重くひきづるようなスピード感で、hideが世界進出を目指した多国籍バンドのリード曲を激しくプレイした。このBirthday Partyでは、出演バンドがhideへのリスペクトをこめて、彼の楽曲をカバーするのが通例となっているが、いかにもOBLIVION DUSTらしい選曲である。メンバーはKEN LLOYD(Vocals)、K.A.Z(Guitar&Programming)、RIKIJI(Bass)の3人であるが、ギター、キーボード、ドラムのサポートを加えた6人編成で、疾走感あふれるヘヴィな楽曲を5曲プレイした。
ライブが終わると転換時はステージに幕が降り、客席左右のスクリーンでhideのMVが流れる。2階にはバーがあってこの日限定のスペシャルカクテルが提供されたり、hide最新コラボ企画(和装やクラフトビール、Vプリカ、フィギュア、ぬいぐるみなど)のスペース等、長時間のイベントで観客が疲れないようにいろいろな企画が用意されている。
続く2番手は、hide with Spread BeaverのキーボーディストDIEのソロステージ。昨年に続き、グランドピアノでの弾き語りである。昨年は「眠れる音楽を追求した」というピアノアルバムをフィーチャーしたステージを見せてくれたが、今年は1曲目の「BLOOM」からアグレッシブ。アンビエント系の楽曲にも関わらず、ステージ上手には猫砂を使って作ったというデジタルサウンドエフェクト、下手にはシンセとボコーダーを置き、グランドピアノと3カ所を回って浮遊感のある実験的な音楽を創り出していた。1曲目で観客の度肝を抜く演奏を披露したDIEであるが、「ピンク スパイダー」をボサノバ風にピアノでアレンジしたり、軽快にピアノの弾き語りを聞かせてくれる。ラストは「お月様の歌です。hideちゃんもひーちゃん(HEATHの愛称)も同じ月を見ててほしいなと思います」と語った後、気持ちのこもった「THE SAME MOON」でステージを締めくくった。
そして、いつも元気パワーがいっぱいのSPEED OF LIGHTSの登場である。ヴォーカルのCUTTが参加していたバンドshameがhideに見出されてデビューしたことがきっかけで、2016年に始動したSPEED OF LIGHTSもこのイベントの常連である。「みんなの前でこの曲を歌いたくて、たくさんの思いをこめて、作ってきました。聞いてください」というMCで始まった新曲「Our New World」は、彼ららしい爽やかな中にも熱さを感じる楽曲だ。バックスクリーンに英語の歌詞と日本語訳を投影していて、彼らがこの曲にこめた想いをしっかり伝えたいという気持ちが伝わってくる。ゲームの映像を使って観客に手拍子参加させる「Cosmic Rolling」、SPEED OF LIGHTS風に大胆にアレンジされたX JAPANの「Joker(Alien Chorus ver.)」と曲ごとにアイデア満載で、さまざまな表情を見せてくれるのが楽しい。最後は満点の星空をバックにしたスクリーンのhideが見つめる中、「Birth Everywhere」でしっとりと幕を下ろした。
続いて登場したのは、DJ-INA。hide with Spread Beaveであり、いわずと知れたhideの全ての楽曲の共同プロデューサーである。ド派手なヘアスタイルの印象が強いINAであるが、この日は黒髪でファッションも地味目。「コロナ禍を経て4年ぶりくらいのDJ-INAなんですけど、HEATHのこともあってどんな顔して出てこようかなと……。いつも酔っ払ってDJやってるんだけど……」と語り始める。PATAやHEATHと一緒に作った「CELEBRATION」のトリビュートの話になると、万感の想いがこみ上げて言葉に詰まりそうになってしまう。「考えていて何もやらないより、一歩踏み出してみましょう。ロケットダイブ的な気持ちで、今日もそう思ってここにきました。今日のDJはHEATHに捧げようと思ってます」といって、思い出の曲「CELEBRATION」からDJタイムがスタートした。悲しい想いを振り切るように、フロアを盛り上げるINAに観客も精一杯の歓声で応える。X JAPANの「Rusty Nail」ではイントロで白煙が上がり、音源がライブバージョンなので観客の声が入っていて、臨場感あふれるDJタイムだった。
最後の「ever free」が終わって、INAが「このあと、2階のバーでHEATHの追悼DJをやります」と告知しながら機材を片付けようとしているところに、hideファミリー3人衆がバースデーケーキを持ってサプライズ乱入。INAは、hideの誕生日の1日前の12月12日がバースデーなのだ。ケーキを持つ木村(ZEPPET STORE)、ギターを弾くCUTT、マイクを持って歌うTAKA(defspiral)に、INAは素で驚いて喜んでいた。
転換時間が終わり、次はhide with Spread BeaverのベーシストChirolynのソロステージが始まる。椅子に座ってベースを弾きながら、全身でリズムをとり、ハスキーボイスで歌う独特のスタイル。「会場が大きいからドッカーンっていう曲をやる方がいいんだけど、他がドッカーンなバンドばかりなので、俺はダンディにやります」というMCで笑いをとる。演奏している時は渋くてカッコいいのに、MCになると急に笑いが飛び出すギャップが面白い。自身の好きなリズムアンドブルースとフィラデルフィアサウンドを追求したら、昭和歌謡となってしまったという昨年出したアルバム「Release yourself」から、ラテン風「真夏の夜のティーダ」、アンニュイな「EnNUI」、歌謡風な「暇乞い」と3曲プレイ。ラストは、リズムアンドブルース風にアレンジした「ピンク スパイダー」で、渋い大人のロックの余韻を残して、Chirolynはステージを後にした。
SEにのってメンバーが登場すると、木村(Vo)がまず「ハッピーバースデー!」と空に向かって叫び、「NOTHING」の演奏が始まる。ツインドラムの厚みのある音、うねりのあるトリプルギターと、hideを魅了したZEPPET STOREサウンドが会場を埋め尽くす。モニタートラブルにもめげず、軽快にジャンプをしながら白いストラトを持って木村が歌うのは、彼らの初期の代表曲「FLAKE」。hideが「FLAME」を作る時、この曲からインスピレーションを受けたというエピソードは有名である。「わたくしピンではありましたが、hide with Spread Beaverのライヴに出させていただいて、今年一番嬉しいことでした」というMCに続いて、「FLAME」をカバー。前半は木村のギターとヴォーカルのみで、曲が進むに連れて楽器の音が増えていく。歌に寄り添う演奏が、観客の心に染み込んでいく。ヘヴィな「NANCY」をはさみ、ラストはアップテンポで軽快な「THE GAME」で、彼らは圧巻のステージを終了した。
幕が開けると、ステージ上には楽器のみ。SEと共に3人のメンバーがステージに登場し、おもむろに楽器を準備して演奏が始まった。hide with Spread BeaverのKiyoshi(G)、JOE(Dr)に新鋭Ryota(B)のスリーピースバンドである。昨年このイベントに出演した当時はサポートだったRyotaが、正式メンバーとなって初のhide Birthday Party参加である。百戦錬磨のKiyoshiとJOEと同じテンションで音を放っているRyotaのベースが、逆に2人を刺激しているようでとてもスリリングだ。虚飾を取り払った骨太なロックサウンドは、まさに「ロックの神様」と対峙しているようなステージである。「今もまったく色褪せないhideの曲だったり、あいつ自身の存在だったり、それがみんなの刺激になったり、栄養になったり、俺もそうなんだけどさ。それがみんなの未来に続くと思うからさ、俺たちと一緒にロックンロールしようぜ!」とKiyoshiが空に向かって叫び、演奏が始まったのはhideのカバー「FISH SCRATCH FEVER」。ハードなスピードチューンにあわせて、バックスクリーンに映し出されたhideとKiyoshiのライブ写真が、まるで動き出しそうだった。
暗いステージ上に4つのライトが光り、登場するメンバーのシルエットを映し出している。待ちきれない観客が手拍子を始め、演奏が始まる前から客席のボルテージはマックスだ。hideに前身バンドが見出されてデビューしたことから、hide関連のイベントにはなくてはならない存在になっているdefspiral。メンバーチェンジを乗り越え、30年近く続くバンドの揺るぎない絆が貫禄ともいえる圧倒的な存在感の源だろう。1曲目の「FLASH」に続き、ヘヴィな演奏と迫力あるデスボイスが印象的な「VIVA LA VIDA」のエンディングから、間髪入れずにhideのカバー「DICE」のスリリングなイントロへ。TAKAのシャウトが冴え渡るdefspiralバージョンである。「毎年恒例のhide Birthday Partyのステージに立つことは自分たちにとって、自分と向き合うとても大切な時間になってます」というMCのあと、明るいメッセージをこめたhideの「MISERY」をプレイ。ラストは、ヘヴィな演奏と後半の歌メロパートのコントラストが印象的な「流星」で、長時間のイベントのトリを飾るステージを笑顔で終了した。
そして、TAKAの「あの方を呼びこみたい」という声で、会場中の大きな歓声に迎えられたのはhideの盟友PATA。やはりこの方が登場してくれないと、このパーティは終わらない。大盛り上がりの中、PATA+defspiralの「CELEBRATION」が演奏され、そのまま今日の全ての出演者が登場して「TELL ME」の大セッションへとなだれこむ。マイクを持つ人、楽器を持つ人、ステージ上で遊んでいる人(?)、出演者全員が思い思いに楽しんでいて、スクリーンのhideがそれを目を細めて見つめているように見える。
ライブ終了後には、急逝したHEATHを偲びソロ作品「迷宮のラヴァーズ」や、HEATHがベースで参加しているhideの楽曲「MISCAST」のMVをライブ照明と共に上映、hideとHEATHの2ショット写真がスクリーンに投影され会場中が2人へ想いを馳せた。
毎年恒例のこのイベント。hideを慕うゆかりのあるアーティストと、hideを好きなオーディエンスが集まり、共にhideの誕生日を祝う。集まった人全員の気持ちが1つなので、他には類のないあたたかくて素敵な空間を生み出すのだろう。毎年、出演しているアーティストが新しいことに挑戦したり、自分達の信念を突き通してその音楽を昇華させていたり、方向性はそれぞれだが、誰もが前に向かって進んでいることも、このイベントを感動的なものにしている大きな要因だろう。
2024年12月13日でhideが生誕60周年を迎えることを記念して、2025年にかけて、hide 60th Anniversaryプロジェクトが展開するという。来年もまた、お楽しみが増えそうである!
文:大島暁美